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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
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第21話 帝都と精霊

 あの一悶着あった村を出発してから、特に何かに襲われたり、起こったりと言う事はなかった。

 次の村に到着しても、特に何か依頼されることも無く、突発的な事件も無く、夜が明ければ出発するという事を繰り返した。

 当然と言えば当然だ。結局のところ、モンスターが数多く棲むような所や、何か理由があって徘徊する経路がある場所に、人の居る場所は造れないのだから。

 とは言え、人が多く住める場所は大体モンスターも棲める場所ではあるのだが、数の差とは偉大で、村や街ともなればそこにはモンスター達も警戒して寄ってはこない。もちろん例外はあるのだろうが、そういう事も無かった。

 その先も、道中の村や町で特に何も無く順調に進んでいき、自分達は帝都が見える距離まで来ていた。

 何故初めて帝都を見た自分が、その遠くに見える街を帝都だと分かったかと言うと。明らかに、街の規模がおかしかったからだ。

 まず、かなり距離が離れている上に、自分が空を飛んでいるのにも関わらず、大きいと思える壁が見える。しかも長さもおかしい、飛んでいるのにも関わらず、端がぎりぎり分かるくらいなのである。それほど長く続いているのだ。

 そして厚さもかなり有るようだ。上には通路が有り、鎧を着て武器を持った人間が三人並んで歩いても余裕があるほどで、更に備え付けのバリスタ? でいいのだろうか、大きなボウガンのような物も設置されており、もはや壁というより壁の形をした要塞のようである。

 そんな壁にはこれまた巨大な門が付いており、その中央には大きな帝国の紋章、盾を抱える竜の紋章が付いていた。

 更に、その門を越えたらすぐに街ではなく、ちょっとした草原があり、そこに川、いや堀だろうか? が有り、街を囲んでいるのが見て取れた。

 そして街自体もとても大きい。自分がこの世界で生まれて初めて入った街、ウレジイダルが村に思える程である。

 雑然としている箇所もあるが、おおまかには区画整理されているようになっており、大きな屋敷や、豪華な一軒家が立ち並ぶ区画が有ったり、倉庫のような自分が入って動いても余裕を持って大丈夫だと言えそうな建物が立ち並んでいる区画も有る。

 往来を見れば、大きな通りを沢山の人が歩いており、活気を感じられる。

 そんな街の中央には、これまた立派な城が立っていた。しかも壁の中にある街の中心だと言うのに、その城そのものを囲むように城壁があるようだ。どうにも、全てに置いてとんでもない規模の街である。


(誰が何を思って、こんな馬鹿でかい街にしたんだ……と言うか、どうやって作った? 特にあの壁)


 見れば見る程異常な規模である。見えている通路だけでも、ウレジイダルにある全ての建物を載せる事ができるのではないだろうか?


(流石に言い過ぎかな? しかしどうやって……ああ、魔法があったな)


 そうだとしても、どうやって作るのかは一切検討がつかないのだが、別に作り方を知りたい訳でもないな。と思いなおす。


(それにしても、ユーナさんは前ウレジイダルに着いた時、帝都の次に大きいとか言っていたけど、これに比べたらどこも同じ位じゃないのか? いや、まぁ道中の町や村と比べればウレジイダルは確かに大きかった。大きかったけどそれでも、うーん……比較にならない。この帝都だけが別格すぎるな)


 そう空中で自分が考え込んでいると、ユーナさんが下で手を振っている。そこで帝都までの道中、本当に何も無かったため<念話>(テレパス)を切ってしまっていた事を思い出す。なので<念話>(テレパス)をユーナさんに繋げる。


『はい、なんでしょうか?』


『ブリュー モン トオル オリル オネガイ』


『自分が門を通るのに降りる意味あります? 飛んで壁を越えた方が早くないですか?』


『トブ コエル ムリヤリ ダメ ケッカイ アル ブツカル アブナイ』


『あー……なるほど。と言うより、この規模で結界張っているって凄いですね』


『テイト ルーゴリアス スゴイ ダカラ テイト』


『すごく分かりやすい解説を有難うございます』


 どうやら、壁を越えて帝都に入るのはやめて欲しいそうだ。帝都、その名もルーゴリアスと言うらしいが、に門ではなく壁を越えて入ろうとすると、結界に引っかかるらしい。

 もはやこの壁は何でもありのようだ。それはそうとして、自分が突っ込めば恐らく結界は無事ではすまないだろう。なのでに門へ入ろうとしている隊列の一番後ろに付いて進む。

 アランさんが率いる隊列以外にも、商人風の馬車の一団や武装した集団、装備が個々人で違う所から考えれば、聞いていた冒険者と呼ばれる人々なのだろう。そんな人達が居た。


(しかも、なんていうか人種もばらばらなんだな)


 特に冒険者の中には、明らかに人の平均身長よりも背の低い、その身の丈に合っていない大きな武器を持ったおじいさんや、何かしらの獣に似た頭をした獣人、整った顔をしているが何か雰囲気が人間と違う耳の長い人等、人以外の人種が居た。

 そして、そう言った冒険者から自分は酷く注目を集めた。中には、慌てて武器を自分に向けて構える人も居る。そして、冒険者だけではなく商人のような人々や、門に詰めている兵士からも、警戒や恐怖などの視線を投げかけられている。


(慣れました。ええ、慣れましたとも。伊達に何度も村や街で軽い悲鳴を上げさせているわけじゃないです。……嘘です。もの凄く居心地が悪いです)


 そんな、なんとも言えない視線を四方から浴びながら、自分は隊列に付いて門へと近づく。

 門の中には、これと言って何かある訳でも無く、すぐに通過する事が出来た。そして、出てすぐ、街と壁の間に広がるちょっとした草原に、何やら全身鎧の集団が居た。

 その集団の中から、一目で人を使う立場に居ると分かる装飾の付いた全身鎧を着て、馬に乗っている人が出てきた。そして、先頭を行くアランさんに話しかける。

 会話をしつつも、アランさんは近くに居た兵士に何かを言った。そして、その何か言われた兵士が、自分の近くにいるユーナさんの元まで走って来て、何か言った。


(言葉が分からないからなぁ……)


 早く共有語を覚えないと。と、決意を新たにしていると、ユーナさんが申し訳なさそうな表情で自分の方を向いた。


「ブリュー ゴメン」


 多分、アランさんからの伝言だろう、それを兵士から聞いたユーナさんは、そんな事を自分に言ってきた。また、面倒な事になったのだろうか。


「はぁ、いきなり謝られましても良く分からないのですが?」


「ブリュー シエキ シテル デモ ブリュー アブナイ ココ ノコル ソコ センヨウ タテモノ アル タイキ オネガイ ダメ?」


 そう言いながらユーナさんは、全身鎧の集団の後ろに見える、石で出来ているような、四角い納屋に似た建物を指さした。


(なるほど、そう来たか……いや、そんな気はしていた。ウレジイダルに入る時だって、何か猛獣的な扱いだったもんなぁ。どうせ、帝国だから……皇帝? とか貴族? とか居るのか知らないけれど、そう言う人達が危険だから街には入れるな。とか言ったんだろう。でも、壁の外に置いておいて面倒が起こったらどうする? とかそういう話が有って、妥協して街の中では無くて、壁の中であるあの場所って事か)


 どうするにしたって、そう言った場所に自分が入れられるのは仕方がないだろう。それに、今回は外見からして馬小屋をそのまま使いまわしたような感じでもないので、問題は無い。


「良いですよ。正直、自分が街に入っても仕方ないでしょう。ただ、自分がここに居るとなると、ユーナさんが自分に魔法の情報や共有語を教える時、わざわざここまで来ないといけませんよ?」


「エ? アー アァ……ドウシヨウ?」


「どうしよう? って……知りませんよ。話の流れ的に、自分はその専用の建物でしたっけ? そこから出て、街へ行く訳にもいかないでしょう。なら、さっきも言いましたけど、ユーナさんが自分の所まで来るしかないですよ。それとも、色々教えてくれると言う約束を破る気なんですか?」


 これは言っておかないといけない。でなければ、自分はただ力を貸すだけで、何も得ることが無いなんて事になってしまう。


「ヤクソク ヤブル ナイ スル シタイ デモ……」


(どう返してくるかな?)と、ユーナさんを眺めていると、周りの兵士や全身鎧の人達から視線を感じる。すると、兵士が一人来てユーナさんに何か言った。


「ブリュー トリアエズ コヤ イク オネガイ」


 そう言ってユーナさんは、自分に向かって手招きをしながら、建物に向かって進み出した。放っておいても仕方ないので、自分は付いていく事にした。

 建物は、近くで見ると結構な大きさだった。と言っても、自分が中で方向転換が出来る程度の横幅と、羽を広げてもぶつからない程度の大きさだ。

 外観は一切飾り気が無く、建物の材料である石そのもので、中には光る魔道具だろうか? それが部屋の隅に置かれ、明かりが灯されている。

 床は何か特殊な事がされている風でも無く、土がそのまま露出しており、中央には藁だろうか? そんなものが敷いてあるだけである。


(厩舎みたいな……いや、納屋みたいな、良く分からないな)


 そして、そんな建物の近くにはもう一軒、こちらは木で作られているのだが、これまた小屋のような、家のような中途半端な物が有った。


「トリアエズ ハイル オネガイ」


 ユーナさんがそう言うので、自分は後ろから入り、建物の入口兼出口に居るユーナさんに話しかける。


「さて、入りましたよ。それで、約束を守るのに何か問題でもあるのでしょうか?」


「ソレガ……」


 ユーナさんの話を聞くと、どうやら色々と面倒な事があるらしい。

 まず、ユーナさんの今現在の身分は書類上騎士隊長だが、色々な式をすっ飛ばしているのでそれらに出席しなければならないらしい。

 次に、元から騎士や貴族の家系で無い人が騎士になった場合、簡単な学校のような物に入学し、そこで貴族や軍のマナーや決まりのような物を学ばないといけないらしい。

 更に、騎士隊長になったユーナさんは、色々な会議や舞踏会のような物にも出なければならないらしい。それらをする場合、とてもじゃないが人化の方法を探しながら、ここに共有語を教えにくる余裕はない。との事だ。


「全部、らしいって本当はしなくても良い事なんじゃないんですか?」


「ソレ ナイ アラン イッテタ アラン モト ボウケンシャ? ワカラナイ ドッチ スル キゾク キシ チガッタ ダカラ ワタシ ドウナル シッテル」


「つまりアランさんは元……平民? とかそう言った身分だったんですか。それで騎士隊長って何か凄いですね」


「スゴイ」


「まぁ、それは置いておいて。つまり、忙しくなるから時間が取れそうもない。と、言う事なんですね?」


「ソウ」


「じゃあ……そうですね。人化の魔法の探索は一旦止めて、共有語だけ教えてくれませんか? それだけなら、余裕のある時間にできるでしょう? それが、自分のできる限界の譲歩ですね」


 そう、自分が言うと、ユーナさんは少し考えてから「ワカッタ ガンバル」と、言った。


「じゃあ、そういう感じでお願いしますね。では、一旦お別れです」


「ワカッタ ココ オク イク ゴメン ブリュー」


「仕方ないですよ」


「ジャア」


 そう言って手を振りながら、ユーナさんは自分の居る建物から出て行った。自分は、ユーナさんがアランさん達の所に戻り、門から街へ続く道を進んで街へ行ったのを建物の中から少し顔を出して見届け、考える。


(さて、どうする? これは本当になにもすることが無いぞ? やれる事と言ったら……魔力操作の練習くらいか?)


 ここから出て、街の周りの草原を走り回ろうかと一瞬考えたが、止めた。ユーナさんにああ言った手前、勝手にでてうろうろするのは駄目だろう。

 それにもし、そんな事をした場合、間違いなくユーナさんがこっちに戻される。たしかに、共有語を教えて貰うだけならそれで良いのだが、情報の事を考えるとまずい。

 間違いなく、ユーナさんはこの国のお偉いさんに睨まれる。そうなると、情報を調べる行動の邪魔になるだろう。

 そして何より、ただ走るだけ、なんて意味が無い。そんな事をするぐらいなら魔力操作の練習をしている方がマシである。

 結局、どれだけ考えてもやる事が思い浮かばなかったため、魔力操作の練習をして時間を潰すことにした。

 そうして、なんとなく上達した気がしたころ、今まで見た兵士と同じ格好をした兵士達が、荷馬車を連れてやってきた。

 その兵士達は、自分が居るこの……納屋の周りに、馬車に乗せて運んできた鉄杭のような物を、少し離れた所に等間隔に刺し始めた。

 そして、全部刺し終わったのだろうか? ほとんどの兵士は荷馬車に乗って帰って行った。残った二人の兵士は、近くに有ったあの小屋だか家だか良く分からない物へと入って行ってしまた。


(なるほど、監視所? いや、詰所? 何にしたってそう言ったような物だな。実際の所は良く分からないけど、多分正解だろう)


 特に何も無いので、自分は再度魔力操作の練習をし始める。少しすると、兵士でも何でもない普通の中年男性が荷馬車に乗ってやってきた。それに詰所に入っていた二人の兵士が対応し、荷物を受け取っていく。

 中でも一番大きい荷物が自分の前に置かれる。何だろうとみていると、布を取り払われそこには、肉塊が有った。


(あ、餌ってやつですねこれ)


 その予想は当たっていたようで、兵士達は、自分に「これを食えよ」と、言いたげなジェスチャーをする。特に問題は無さそうなので、自分はその肉に齧りつく。


(うん、何も無い。可もなく不可も無く……)


 今まで貰った肉と同じで、特に何の感想も無く食べきる。兵士達は自分が食べきったのを見届け詰所に戻って行った。

 その後も魔力操作の練習をして過ごし、日が暮れて数時間ほど経つと部屋の明かりが勝手に消えたのでそのまま寝た。


 ---------------------------------------------------------------

 次の日、目を覚まし納屋から出ようとする。外は、夜が明けた所のようで、薄暗い。ふと、昨日打ち込んでいた杭が気になったので近づくと、どうやら結界のような物が有るのが見えた。それは、丁度杭の真上辺りから発生している。つまり、この場所を囲んでいるのだろう。


(これは、どっちだ? 自分を隠す為の物? それとも、自分がここから出ないようにするための物? うん、両方の可能性があるな。下手に破って何か言われるのも嫌だし、朝食が来なかったら破って出てみよう)


 そう考え、日が昇るのを納屋の中で待つ。そして日が昇りきり、街の方から鐘の鳴る音が聞こえ少しすると、何かが走ってくる音がして、昨日と同じように中年男性が荷馬車で荷物を運んできた。

 兵士二人は起きていたのか、直ぐにそれに対応し、自分の目の前に肉塊を置いた。そして、自分が食べ終わるのを待って詰所へ戻って行った。

 それから、何度か鐘が鳴り、太陽が真上に来た頃、また荷馬車がやって来た。今度は荷馬車に、二人の兵士が乗っており、詰所の二人の兵士と軽く会話した後、昨日から居た兵士が、荷物が無くなって空になった荷馬車に乗り、乗ってきた二人と交代した。多分、当番制なのだろう。

 その後は昨日や朝と同じで、交代した二人が自分の前に肉塊を置き、食べるのを確認してから詰所に戻って行った。

 その後、又何度か鐘が鳴り、日が沈み始め、夕焼け空になった頃、又荷馬車がやってきた。それに詰所から出てきた兵士が対応し、自分の前に肉塊を置き、兵士は食べるのを確認する。そして、詰所へ戻っていく。

 どうやら、自分は一日三食食べさせてもらえるらしい。そして結局、ユーナさんは来なかった。


(まぁ初日だしね、仕方ない。今日は言っていた事が全部本当なら、叙任式? 何かそう言う、パーティ的な事でもしているんだろう。三日かそれくらいは様子を見よう)


 そして、その日も明かりは勝手に消えたので、寝た。


 ---------------------------------------------------------------


 そんな事を四日繰り返した。その間、一度もユーナさんは来なかった。


(さて、流石にこれは駄目だろう。でも、探しに行くにしてもなぁ……下手に探しに出て、入れ違いになったら面倒だしなぁ。何より、結界を破らないと出られないからな)


 あーでもない、こーでもないと悩んでいる内に、結局その日も夜になってしまった。

 明かりも消え(よし、明日だ。明日の夜になっても来なかったら探しに行こう)と、心に決めて寝ようとした。すると正面、自分の入っている納屋の入り口から見える方向から二つの人影が見える。

 一人は白髪交じりの黒髪で白黒のマーブル模様のワンピースを着た少女。もう一人は中肉中背、正しく平凡と言うのがふさわしい雰囲気を持った人物であった。

 その謎の二人は、真っ直ぐ自分の納屋に向かって歩いてきた。そして、自分の前に来て立ち止まった。

 近くに来たから分かったのだが、少女の方はサンドラやリネルに似た雰囲気を持っていた。だから多分、彼女は精霊なのだろう。


(なら、この平々凡々な人物は、何者なのだろうか?)


 近くで見ても、普通過ぎて何も特徴が無い。男女全ての人間の中間点を取ったらこんな風になる。と言った様子で、均整のとれた顔やスタイルなのに、美しいと思う様な感じではない。性別が分からないのも、そこに由来するのだろう。

 二人は、自分が観察している間も特に何かする訳でも無く、自分の方を見ていた。そうしてにらみ合いが続く。そのうち、少女の方が首を傾げ、平凡なもう一人に話しかける。


「ねぇ、これ死んでるんじゃないの? 反応がないわよ?」


「いやぁ……死んじゃいないとボクは思うんだけど……反応がないねぇ」


 生きてます。と、言おうと思ったが、もう少し様子を見ようと考え、放置することにした。


「いや、これだけ色々したのに反応がないなら死んでるでしょ。あー、何か面白そうなのが来たと思ったら、死んでるとかつまらないわね」


「いや、もしかしたら寝ているだけかもしれないよ? 夜だしね」


「そんなわけないじゃない。これ甲殻魔虫よ? この手のモンスターは、夜中歩き回って狩とか色々するタイプだったはず。結構前に、ここがこんな街になる前に見かけた奴はそうだったわ」


「待って、君の言う結構前って、相当昔だよね? それこそ、ボクが存在する前の話だよね?」


「あんたは何時も細かい所に突っ込むわねぇ……まぁそういう事だから、反応が無いこいつは死んでるの!」


「そうなのかなぁ……?」


(うん、少女の方は精霊か何かそう言う存在だな。それと会話している上に、自分が理解できる言葉を話しているって事は、もう一人もそう言う存在だろう。そろそろ、話しかけるか)


 二人は、自分に何かしているらしいが、特に自分は何も感じていないので、反応できない。二人はそれが不服らしく、帰ろうとする雰囲気を出し始めている。なので、自分は話しかける事にした。


「もしもし、自分死んでいないです。あと、何かし「「しゃ、しゃべったああああああああ」」」


 自分が話かけると、目の前の二人は抱き合いながら叫んで後ろに後退する。と言う、息の合ったアクロバティックな行動を取った。そして、そのまま目を真ん丸にしてこちらを見ている。


「あの……大丈夫ですか?」


 そう自分が再度声をかけると、二人は肩を組んでこちらに背を向け話し合いを始めた。


「ちょっと! 話したわよ? え? なにこれ? 超おもしろい事起きそうなんですけど?!」


「君がそう言う時って大体面倒を起こすよね? 前だって「うるっさいわねぇ。細かい事気にしてたら、精霊とかやってらんないわよ!」もう……分かったよ」


 ただ、背を向けた意味が無いほどの大声で話して居るので台無しである。そして話し終わったのか、こちらに向き直り、少女の方が腰に手を当て胸を張りながら、自分に話しかけてきた。


「んっふっふ。聞きなさい、虫! 私は、光の精霊リューシー。こっちは人の精霊で、ソフィアって言うの。さぁ、名乗ったわよ。あんたは何?」


 そう、目の前の少女は自己紹介し、ついでと言わんばかりに隣にいる人物の紹介もした。


「ご丁寧にありがとうございます。自分はブリューナクと言う、見てくれからも分かると思いますが、甲殻魔虫です」


  お互いに自己紹介を終えると、何故かニコニコしながら自分の周りを回りだす自称光の精霊リューシー。そして一周した所で再度自分の方を向いた。


「何か面白い事できそう!」


 そう、突然満面の笑顔で、とても不安になる一言を発した。


「できそうって……何をさせる気ですか」


「取り敢えず、このチャチな結界から出なさいよ。話はそれからよ」


「あー、出るのはちょっと今は勘弁してくれませんか? 出たら自分の……身元引受人? どう言えば良いのか分からないんですけど。そんな人に迷惑がかかるかもしれないんですよ」


「そうなの? 関係ないわ、ぶち破りなさいよ。って言いたいけど……お願いする立場だしね。なら、どうしようかしらね? 何か面白い事……この中に居てもできる……」


 そう言って考え込みだすリューシー。それに対して、人の精霊と説明されたソフィアが話しかける。


「だったら、あれとかどう? ボク達も良く使う<離魂影>(ゲンガー)とか」


 それを聞きリューシーはそれだ! と言わんばかりにソフィアを指さした後、自分の方へ向き直った。


「良く聞きなさい。とても良い魔法を教えてあげるわ。その名も<離魂影>(ゲンガー)という魔法よ。効果はそうね、黒くてもやっとした自分の分身を遠くから操って、見たり聞いたりできる魔法よ」


「何か知らない魔法ですし、教えて貰えるのなら教えて貰いたいのですが、何でそんな魔法を教えてくれるんですか?」


 目的が分からない。自身の事を精霊だと言うのだから、別に国を混乱させて乗っ取りたいとか、大量殺戮がしたいとか言った類の物じゃない。と言う事は分かるのだが……。


「それはね、さっきも言ったけどこの魔法は術者の分身を作るのよ。ただし、こう……もやっとした姿になるから、ゴーストとかのアンデッドに間違えられるのよね。で、ゴーストって基本人型なのよ。理由は知らないけど。そんな物が、あんたみたいな虫の姿をしてたらどうなると思う?」


「えーと……驚いたり、混乱したりする。でしょうか?」


「すごいパニックになるかもね。と言うか、行き成り街の中にあんたみたいなデカイのが出たら、間違いなくパニックが起こるわね」


「なんでまた、そんな事がしたいんですか?」


「そんな事がしたいからよ!」


 突然大声になるリューシーに、自分は少したじろいだ。そして、そのままリューシーはまくしたてる。


「最近は、もう何をやろうにもあのクソ爺、なんだっけ? なんとか魔導師とか何とか言ってたわね。と、その弟子? とか言う人間が、私がやろうとする事を片っ端から邪魔してきてね! おちおち悪戯も出来ないの。挙句の果てに<探知>(サーチ)だっけ? それを使って、私が一定以上の魔法を使おうとしたら勝手に飛んで来る、訳の分からない鬱陶しい人形まで作ってくるし。

しかも! 仕返ししてやろうと、クソ爺の家に忍び込もうとしたら、私限定の強力な結界が張ってあるしで、もう……あああああっ! 思い出しても腹が立つわ!」


「なるほど、過程が分からないのに判断するのはいけないんでしょうけど、多分自業自得ですね」


「なんでよ!」


 自分の発言が気に入らなかったのか、地団太を踏むリューシー。そして自分を睨みつけながら話始める。


「いい? 自業自得と言えばそうかもしれないけど、私は私がしたいことをしてるの。と言うか私は精霊なの。敬えーとかそう言うのはどうでも良いんだけど、邪魔だけはされたくないの! わかる?」


(ああ、これもう面倒くさい奴だ……)そう、自分は色々と諦めて話を進める事にした。


「分かりました。で、それでどうして自分に……<離魂影>(ゲンガー)でしたっけ? そんな魔法を教えようとしたんですか?」


「だから言ったじゃない。面白い事がしたいだけだって。あんたの<離魂影>(ゲンガー)なら色んな人がびっくりすると思うのよ。私はそれが見たいの」


 どうやら、このリューシーという光の精霊は、本当に人を驚かせる悪戯がしたいだけのようだ。それに<離魂影>(ゲンガー)と言う魔法も気にはなる。

 最初の説明を聞く限り、魔法で動くラジコンみたいな物なのかもしれない。なら、それを使えばここに居ながらユーナさんを探して、そこへ行けるかもしれない。


「なるほど、じゃあ<離魂影>(ゲンガー)を教えてください」


「いいわよ。ただし、教えたらちゃんと私の言う通りに<離魂影>(ゲンガー)を動かすのよ? ずっとってわけじゃないわ。一回だけでいいの」


「一回で良いんですか? さっきまで話を聞くと、リューシーさんでしたっけ? あなたが悪戯をしたくても出来ないから、自分を使おうと思ってたみたいですけど」


「さんは要らないわ。そして、一回で十分よ。だって、結局はあんたの力を借りてるじゃない。一緒にやるんじゃなくて、あんたの力だけでやって面白い事になっても、面白いけど面白くないのよ。だから、命令するのは一回だけ」


(なんだか良く分からない信条を持っているんだなぁ)


 さて、問題は教えて貰った場合、悪戯の片棒を担がねばならないと言う事だ。と言っても、道行く人を驚かせるだけなら、不安定な足場に居る人や、驚かせればそれで死んでしまうような老人等、と言った人は対象から外してしまえば良い。


「じゃあ一回だけですよ?」


「よし、約束よ。破ったら許さないんだから! じゃあ頭出して! あ、少し触るけど暴れないでよ?」


「頭って……何するんですか?」


「何って<離魂影>(ゲンガー)を教えてあげるのよ?」


「いや、ですからそれと頭とどういう関係が「つべこべ言わずに! はい、暴れない」わかりました」


 そう言ってリューシーは、自分の側頭部? 複眼の少し上辺りに手を当てる。すると、頭の中に何かが入り込んでくるような感覚を覚えた。


「よし、終わり! 試しにやってみて」


 驚いた事に、自分は<離魂影>(ゲンガー)を発動させる方法を理解していた。だが、理解していてもまともに発動させる事ができるのとは別だったようで、その夜は、空が白むまで練習を続け、なんとか発動させる方法を覚える事が出来た。

 なぜ、方法を理解していても発動させるのに時間がかかったのかと言うと<離魂影>(ゲンガー)を発動させた瞬間、その影のような分身が持っている視界と、自分の本来の視界で同時に周囲を見ることになる。

 つまり、二種類の視界があるので、すごく気分が悪くなるのだ。なので、それに慣れるのに時間がかかってしまったのである。

 そして結界に関しては、どうやら<離魂影>(ゲンガー)なら一切干渉せずに抜けられるようだ。どうもこの魔法、悪戯に使うだけで考えると高性能すぎるかもしれない。


「よし、こんなもんね。又夜に来るからここに居なさいよ」


「言われなくてもここに居ますよ。居ないといけませんから」


「それじゃぁ、また明日! じゃあね」


 そう言ってリューシーは、来た時と同じように遠くに歩いて行ってそのまま消えた。


「さて、一つ注意があるのですが」


 突然声をかけられたと思ったら、ソフィアはまだ居たようだ。あまりにも存在感が無くて、少し驚いてしまった。


「すみません、リューシーが魔法を教えてくれている間に、どこかへ行ってしまっていたかと思っていました……それで、問題点は?」


「何気に酷いね君。それはそうとして、余り長時間<離魂影>(ゲンガー)は出していちゃ駄目だよ」


「それはまた何故でしょうか?」


「別に術者本人には問題ないんだけどね? 長時間使い続けると……なんていうのかなー自我? を持っちゃう? とはちょっと違うんだけど。まぁ、勝手に動いちゃうようになっちゃうんだよね<離魂影>(ゲンガー)が。ちなみに、そうなった場合でも<離魂影>(ゲンガー)が見ている物は見れるよ」


「へぇ……どの位使い続けるとそうなるんですか?」


「大体……半日かなぁ。まぁ、そんな長時間使い続ける事なんて無いし。そこまで気にはして無かったんだけどね。何より、兆候として少しずつ操作できなくなるってのが有るから、教えてなくても大丈夫だと思ってたんだ。でも、念のためにね」


「なるほど、ちなみに勝手に動き出す理由は分かっているんですか?」


「それがね、全然分かんないんだ。ボク自身、この魔法を最初から使えてね。リューシーに出会って、教えてあげて。そのまま二人で遊んでいたんだよ。そしたら、段々と制御できなくなって、最後は勝手に動き出したんだよね。リューシー曰く、そう言う物なんでしょ。らしいんだけど……って、何の説明にもなってないよね」


「でも、リューシーらしいですね。何はともあれ有難うございます。わざわざ残ってもらって、そんな説明までしてもらって」


 そう、自分が言うと、ソフィアは微笑んだ。


「別にいいさ、協力してもらうんだからね。それじゃあ夜にリューシーと一緒に来るよ。ばいばい」


 そう言ってソフィアは、何もない空間なのに、雑踏に紛れるように消えて行った。それからすぐに荷馬車が来る音が聞こえ、自分の前に肉塊が置かれる。そこで、ハタと気が付く。


(あれ? これ、自分徹夜? しかも二日連続?)


 自分の行動限界を知るためには丁度良い。と、無理やり自分を納得させ、昨日のように魔力操作の練習をして夜を待つ事にした。

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