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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
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第20話 森と迷子(後編)

 砂煙の中から現れた、自爆したはずの黒いゴーレムを警戒しながら、自分は考える。


(いや、大きさはさっきの倍以上になっているし、所々違う。別のゴーレムか)


 まず、右手にはこれを使って砂煙を吹き飛ばしたのであろう、大きくなったゴーレムが持っていても尚巨大と言える、刃の部分だけでその身の丈を越えるほどの大剣を、片手で持っている。

 反対の左手には中央にドラゴン、いや恐竜だろうか? 背中にヒレのあるトカゲが描かれた、全身を隠せるほど大きなタワーシールドを持っていた。

 兜には、額の部分に輝く石が二個同じ所についており、バイザーの奥は青い燐光が灯っている。

 鎧は全身鎧に変わっており、色は黒。更に、装飾が増えていて、豪華になっている。そのため、見た目はもはや歩兵ではなく騎士である。


(ところで、キース君はどこに行ったのだろうか? ……嫌な予感しかしない)

 

 そんな風に観察していると、ゴーレムは剣をこちらに向け、盾を構えて突っ込んできた。それに対して、ユーナさん達は見ているだけではなかったようだ。

 両手を前に突き出し、その先に幾何学的な模様を浮かべた二人の兵士と、ユーナさんが自分の前に出てきて、魔法を放った。どう見てもこれまで二度に渡ってユーナさん達が放っていた魔法よりも、強力な物だった。

 しかし、真っ直ぐゴーレムに飛んで行った魔法は、構えた盾に命中し、何のこともなく弾かれてしまった。しかも、盾には一切の傷も付いておらず、ゴーレム本体は体勢を崩すことなく、真っ直ぐ走ってくる。

 それを見て、二人の兵士とユーナさんは、慌てて自分の後ろに戻った。そして、自分の目の前まで来たゴーレムは、剣を振り上げ、そのまま打ち下ろしてきた。

 当然それを眺めて居るだけにするはずが無い。自分は、角で迎撃する。剣と角が衝突し、甲高い金属音と共にゴーレムの剣が弾かれる。体勢を崩したゴーレムは、反動のまま後ろ宙返りをして大きく飛びのき、距離を取った。

 しかし、すぐにまたこちらに向かって、先ほどと同じ体勢で突進を仕掛けてきた。自分はそれに対し、最初のゴーレムを砕いた時と同じ位に魔力を上げた角で対抗する。

 そのまま何度も打ち合うが、ゴーレムの剣が折れる雰囲気は無い。しかも、ゴーレムはゆっくりとだが、確実に攻撃のスピードを上げている。

 自分は束ねていた五本の角を解いて、一本一本別々に使って捌こうとするが、嵐のような攻撃に付いていけず、そのうち捌ききれ無くなり、前胸部の甲殻に攻撃が当たりはじめる。

 だが<鉄の装甲>(アイアンアーマー)のおかげか、痛みは無く特に傷はつけられていないようだ。


(さて、どうしようか?)


 今のところ自分には目立った傷は無い。なら、このまま打ち合ってスタミナ? 魔力? 切れを狙うという手もある。しかし、相手は生き物じゃないし、スタミナ切れや魔力切れが無かった場合、意味がない。それに、今は<鉄の装甲>(アイアンアーマー)があるから無傷なだけなのかもしれない。自分も恐らく魔力量と言った意味では無限かもしれないが、体力は分からない。それに食事をしなければいつまた暴れてしまうか分からない。つまり、持久戦は不利……と言うか、不味い。

 なら、一気に吹き飛ばせば良いのだろう。もしくは丸ごと粉々に吹き飛ばす魔法や、突進を仕掛けたら終わるのだろう。ただし、それはキース君も一緒に、と注意書きがつく。


(どう考えてもキース君は合体と言うか、搭乗と言うか……何と言うのか多分、そう言う感じになっているんだろうなぁ)


 ゴーレムと、キース君の頭についていた石が、両方頭に有る。と言う事と、何より、キース君本人が居ない。と、言う事はそういう事なのだろう。


(ゴーレムの大きさから考えれば、上半身の胸の部分に入っているんじゃないのか?)


 等と、思っているが確信はない。それに、仮にそうだとすると、石ごと頭を吹き飛ばすのではなく、兜の表面だけを吹きとばさないと駄目である。最悪、あれを砕いても意味がない可能性もあるが。


(うーん……何をするにしても、ゴーレムの体勢を大きく崩さないと難しいな)


 そこで自分は、取り敢えず状況の再確認と、作戦を立てる時間を稼ぐため、強引に全身を使って突っ込むように角を振り上げる。ゴーレムはそれを剣でいなそうとしたが失敗し、盾で受け止めるが、衝撃は殺しきれ無かったようで、吹き飛んで行った。

 自分は、吹き飛ばした方向に注意を向けながら、ユーナさんに<念話>(テレパス)で話しかける。


『ユーナさん、キース君だけ諦めるって有りですか? 正直、キース君を無事に、と言うのは難しいかもしれません。それこそ、最悪の場合を覚悟してください』


『デキタラ ダメ デモ ムリ シカタナイ』


 悲しそうな表情で、ユーナさんは答えた。ゴーレムは既に体勢を立て直し、自分達に向かって凹んだ盾を構え、またも突進してくる。

 それに対し、今度はこちらも突撃する。大剣と角がぶつかり合い、そのまま再度打ち合いが始まる。

 先ほどよりも激しさを増した剣撃は、前胸部の甲殻に傷がつかないのを見て、前胸殻の中央にある複眼を狙うように振るわれだした。

 流石に<鉄の装甲>(アイアンアーマー)があるといっても、複眼を叩かれて大丈夫とは思えないので、精一杯体も動かしながら、複眼にあたらないように攻撃を捌く。

 しかし、そんなことをすれば当然、先ほどより多くの捌けない攻撃が出てきて、前胸部の甲殻には剣が何度も叩きつけられる。

 そのまま段々と押され始め、傷が付かないとは言え、衝撃は受けてしまうので体勢が崩れていく。

 そして、大きく体勢を崩した瞬間、ゴーレムは勢い良く盾を自分の右側面に叩きつけてきた。重たい金属がぶつかり合うような音が響き、自分の体勢が完全に崩れ、真横を向いてしまう。

 ゴーレムは、今の叩きつけで完全にくの字に折れ曲がってしまった盾を放り投げ、それまで片手で持っていた剣を両手で持ち、上段に構え、一気に振り下ろしてきた。

 空気を切り裂き、ゴーレムの渾身の一撃である斬撃が自分に襲い掛かる。狙いは、完全に真横を向いてしまった自分の前胸と中胸の間、羽の付け根もある関節部分だ。

 それに対し、自分は盾を叩き付けられたのとは反対、自身の左側面に<疾風の一撃>(ゲイルストライク)を当て、その衝撃で無理やりゴーレムの方へ向く。

 そして、ようやく戦場で結界を破った時と同じように、歪みを作らない限界ギリギリの魔力量に調節できた五本の角を束ねて振り上げ、振り下ろされる大剣に真っ向からぶつける。重たい金属が激しくぶつかり合う音がし、角と大剣をぶつけたままの姿勢で止まる。

 数秒の沈黙の後、大剣ににヒビが入り、ガラスが割れるような音をさせながら砕け散る。その瞬間ゴーレムは、大きく仰け反った。


(この機会を逃す手は無い!)


 そう考え自分は、今度こそ確実に額の石を破壊するため<雷光の大槍>(サンダーランス)を、できる限り束ねて細くし、放つ。

 細くなった五本の雷は、もはや傍目からは光線にしか見えない。それが、狙い通り額に輝く二つの石に向かって飛ぶ。

 一瞬、抵抗されたかのように雷は止まったが、その抵抗をすぐに打ち破り、兜の額付近を、石ごとごっそりとえぐり取りながら空へ昇って行った。

 そしてゴーレムは、そのまま仰向けに力なく倒れた。


(今度こそやったか?)


 その問いに答えるように、兜の燐光は消え、黒い鉄のような体は色褪せながら、元の土に変わり、砂になり、風に吹かれるように崩れていった。

 同様に、投げ捨てられた折れ曲がった盾や、砕け散った剣の破片も同じように変化し、崩れた。

 キース君はと言うと、丁度ゴーレムの胴体部分だった場所から、うずくまるような姿勢で出てきた。死んではいなかったが、額から血を流し意識は無いようだ。


(いやぁ、面倒くさかった。結果的には上手くいったけど、本気で襲ってくる相手を殺さずに無力化、なんて面倒くさすぎる。こんな事、もう二度とやりたくない。大体、襲ってきた相手を殺してしまって何が……まぁ今回は仕方ない? 仕方ないのか)


 キース君が、砂の中から完全に出てきたので、危険確認と本来の目的である保護するため、衛生兵と兵士達が駆け寄る。その間にユーナさんは隠れ家に入っていき、タニアちゃんを連れて出てきた。

 タニアちゃんは、キース君を見るなり走りより、抱きついた。そしてキッと兵士を、と言うよりも自分を睨みつけ、キース君を守るように覆い被さりながら、何か言っている。


(多分、雰囲気からして、私が守る! とか、お兄ちゃんには触れさせない! みたいな事を言っているんだろうなぁ。実際、何言っているのかは分からないけど)


 兵士達がタニアちゃんに何かを言うと、タニアちゃんは素直に離れ、衛生兵がキース君を治療し始めた。その間にユーナさんがこちらに来たので、羽を鈴虫モードにして話しかける。


「さて、なんとかなりましたけど、もうこんなのは二度とゴメンですよ」


「ゴメン オツカレサマ フタリ ツレカエル ソレヨリ ココ シラベル イマ」


「あ、今調べるんですか。いや、自分としても気になるところではあるので、調べて欲しいので良いんですが」


「シラベル ココ カクレガ ホンモノ ドウスル?」


「仮に本物でしたら、どうしましょうか? と、言うことですか? 自分は、モンスターを人間にする方法が分かれば、隠れ家自体はどうでもいいです。でも、調べるならちゃんとした人間でなければいけない。と、言うなら別に今すぐで無くても良いですよ。どちらにしても、帝都でしたっけ? 帰らないと何ともならないのですよね?」


「チガウ ケッカイ コワレタ ホカ ミツカル トラレル カノウセイ アル ボウケンシャ クル モンスター クル アラス アル」


「あー……どうする? とは、そう言う事ですか……どうしましょうか? たしかに、ここに家なんて放置したら、荒らされますね」


「イエ モッテ トブ ムリ? テイコク テイト モッテ イク チョウド カエル ソコ ケンキュウ シテル デモ キョリ アル トオイ」


「持てはするかもしれませんが、家が耐えられるかどうか……これ、見た目は綺麗ですけど古い建物でしょう? それを帝都まで……距離は知りませんが遠いとなると……自分は、隠れ家を持ちっぱなしで飛んでも良いんです。でも、持って飛んでいる途中で隠れ家が崩れてしまってそのまま落下。そのまま大破、そして資料紛失、そんな事になったら目も当てられませんよ」


 そもそも、家を持って飛ぶ。と、言う事が前提になっているのがおかしいのだが、それは今更だろうから置いておく。


「ドウシヨウ」


 話をしている間に、キース君が意識を取り戻したようで、タニアちゃんに支えられながらゆっくりと体を起こした。そのまま何かタニアちゃんと話している。

 ユーナさんは、それに気がつきキース君の方へ行く。取り敢えず、自分もユーナさんに付いてキース君の方へ行く。

 自分が近づくと、少し体を震わせながら、タニアちゃんがキース君に抱きつき、キース君もタニアちゃんを守るように抱き抱えながら、こちらを警戒しつつユーナさんと話している。


(すごく警戒されてる……それにしても、仲の良い兄妹だなぁ)


 等と、どうでも良い事を思いながら、タイミングを見計らってユーナさんに話しかける。


「何かこの隠れ家に関して教えてもらえました?」


「キース イウ ココ カクレガ マチガウ ナイ」


「おお! 本当にこれは隠れ家だったんですか。では、人間に変身する魔法は一体どんなものか、聞いてくれませんか?」


「ソレガ……」


 聞けば、モンスターが人間に変身していた。と言う伝説だが、実際は人間がモンスターと合体する。と、言う魔法で、その名も<人魔融合>(ハーモナイズ)らしい。

 効果は、お互いの力をそのまま足し、少し強化した位の力を得る事ができるというもので、合体後の行動の決定権は、魔法を使用した術者の意思で行動できる。と、言うものらしい。ただやはり、制限やデメリットも存在するようだ。

 まず、制限としてモンスターと術者が、深い信頼関係で結ばれていなければいけない。この制限を破り、信頼関係のない対象に使用した場合、良くて重傷、最悪は死亡する。

 デメリットは、合体した状態で負傷した場合、術者もモンスターも同じように負傷する。しかも、どちらか一方だけが助かることはなく、同じ負傷を同じ場所に負う事になる。当然、死んでしまった場合、合体した術者もモンスターも死んでしまう。

 と、言った風にそれなりのリスクがあるようだ。因みに、隠れ家に住んでいた魔法使いは、アラクネー、ハーピー、ラミア、と言った三種類のモンスターを連れていたらしい。そして、その三体、術者も含めれば四体で合体し戦っていたそうだ。


(なるほど、一人の人間……それも子供と、その子供が出したゴーレムであの強さなら、三体のモンスターに一人の超人の合体なら、伝説通りの一騎当千の働きができるのも納得だ)


 しかし、結局ここにあった伝説の魔法とやらは人間に変身する魔法ではなく、人間とモンスターを合体させる魔法だった。たしかに、これも一種の人化の魔法なのかもしれないが、違う気がする。

 何より、この魔法を使おうとしても、深い信頼関係で結ばれている人が居ないから、何ともならない。

 更に、術者が合体後の体の自由を得られるということは、自分が人間になろうとして使った場合、融合した相手の体を乗っ取る事になる。


(流石に人化したいと言っても、他者の体を奪い取ってまでしたいわけではないからなぁ。けどまぁ、この魔法は自分の求めていた物とは違う。と、言う事が分かっただけでも良いか。それに、魔法で合体なんて事ができるなら、モンスターを人間に変える魔法もあるかもしれない)


 そうやって、自分達が話をしている間、隠れ家の検分をしていた兵士達がその中から出てきた。

 キース君に聞いていたため今更だが、家の中の物を調べた結果、ここはその魔法使いの隠れ家に間違いなさそう、との事だ。

 そこで、帝国としては家ごと全て重要な物なので、まとめて持って帰りたいとのことだ。しかし、持って帰りたいと言っても、先ほどもユーナさんと話していたが、家を運ぶのは流石に無茶だ。

 とは言え、放置していくのは駄目だ。なので、再度結界を張って一時帰還し、準備を整えてから取りに来ようと考え、ユーナさんがキース君に頼んだのだ。

 しかし、自分が結界を破った時に完全に結界を貼る機能が壊れてしまったらしく、再度結界を張るのは不可能になってしまったらしい。

 仕方が無いので、確実に必要な物だけを集めて欲しい、とユーナさん通訳してもらい頼んだ所、兵士たちは、色々な本やメモ書きのような紙を持ってきた。

 かなりの量だが、纏める入れ物があれば運べる。しかし、そこまで大きな箱は隠れ家には無かった。

 一度、自分が森から出て馬車を持って来る。と、考えたが、自分が離れている間に先ほどまでの戦闘音に引かれて恐竜やゴリラ、虫の群れ等、モンスターがここに来てしまうと、道中でも厳しかったのに、疲弊しきった今の兵士達やキース君では対応する事ができないだろう。

 しかも、仮に馬車を持って来たとしても、全員を乗せてしまうと、少しくらいしか余裕が無いため、全て持っていくことはできない。かといって、人を置いていくと本末転倒である。

 どうしようかと考えていると、キース君がユーナさんに何か言っている。それにユーナさんが答えると、キース君はタニアちゃんに支えられて立ち上がり、隠れ家に入って行った。

 少しすると、地震のような揺れが発生した。周りを見れば、隠れ家の庭と森の境目、丁度結界で区切られていた辺りから外の地面が陥没していく。


(いや、違う)


 実際はその逆で、隠れ家とその庭を含む地面が隆起しているようだ。


(何が起こったんだ?)


 と、思っていると、隠れ家からキース君が支えられたまま出てきて得意げな顔で何か言っている。しかし、そこで力尽きたのか、また倒れてしまいタニアちゃんに介抱されている。


「ウイタ ココ マトメテ オス ヒッパル モッテク スキ スル イイ イッテル」


 そう、ユーナさんが通訳してくれた。


(ウイタ? 浮き上がった。と、言う事だろうか?)


 自分は、家が浮いたと言う事が信じられないので、隆起した地面から降りてみる。


(なるほど、確かに浮いている)


 どうやら、この隠れ家は金属のような板の上に建っていたらしく、その板の下は見事に地面から離れ、空間がある。

 と言っても、精々人の腰程度の高さである。試しに角の魔力をできるだけ抑えて、軽く押してみると、土台を少し削ってしまったが、押した方向に動いた。


(これなら、押して行けば大丈夫か?)


 そう考えもう少し押してみれば、さらに角がめり込んでいった。


(だめだ。これじゃあ、最悪、森を出る前に削れ過ぎてバラバラになる)


 それならばと、前脚で押すという方法を考えたが、どうやったって体勢がおかしくなってしまい、まともに歩けない上に疲れそうだ。なにより、時間がかかるだろう。それにそもそも、角であれ前脚であれ、隠れ家が邪魔で前方確認が出来なくなるので、駄目だ。


(うーん、いっそ家に取り付いて……は、壊してしまう可能性があるから、土台を掴んで飛ぶしかないか)


 しかしそうなると、万が一を考えた場合、後ろ脚だけで土台を掴んで引っ張る事になる。だが、それだと後ろ足が最悪もげてしまうかもしれない。そうなった場合、自分の今の姿は成虫であろうから、どうしようもないだろう。


(……ちょっと待て? そう考えたら、かなり危険な事をここまでしている気がするぞ)


 自分は蜘蛛や蟹じゃないのだから、どこかを怪我してしまったり、欠損した場合、死ぬまでそこはそのままという事になる。なぜそんな簡単かつ重要な事に思い至らなかったのか。今後はもう少し慎重に動かねば。等と考えながら、浮いている隠れ家に戻り、倒れたキース君と話していたユーナさんに話しかける。


「ユーナさん、どうしますか?」


「ドウリョク ナイ コワレタ ムカシ ラシイ ダカラ ヒッパル オネガイ イイ?」


(むしろ、動力とか有ったのかこの……なんだ? 浮いてる……敷地? 家? よく分からないけど)


「わかりました。と言っても、引っ張るためのロープ等が有るのかどうか知りませんが」


「ヨウイ ナイ イエ サガス イマ」


 ユーナさんと他三人の兵士が、再度隠れ家を探したところ、ロープは見つかった。しかし、長さが全く足りなかった。冷静になって考えれば、この隠れ家を引っ張っていけるほどの長さのロープを、と言う条件の時点で、事前に用意しない限り、ほぼ不可能な量が必要である。


「ユーナさん、どうしましょう? どうにもならないかもしれません」


「ウーン ホウホウ アル ブリュー イト マカレル イヤ?」


 おずおずと、ユーナさんはそんな事を聞いてきた。


「イト マカレル? 糸に巻かれる? 嫌な予感はしますけど、それしか方法が無いなら仕方ないですね。それで、どうするんですか?」


「ハンガー・スパイダー シエキ イト ブリュー ツケル カクレガ ツケル ヒッパル」


「なるほど、蜘蛛の糸ですか。でも、蜘蛛の糸でこの家を引っ張って耐久力的に問題はないんでしょうか?」


 蜘蛛の糸が強いのは知っているが、家を引っ張っても大丈夫だとは思えなかったので、そう聞くと、ユーナさんは腰に手を当て親指を上にあげ満面の笑みでこう言った。


「ダイジョウブ ハンガー・スパイダー イト ジョウブ スゴイ ツヨイ コア・セコイア ワカギ オオキイ ナイ デモ ツヨイ ソレ ヒキタオス ラシイ」


「らしいって……本当に大丈夫ですか?」


「コア・セコイア タオス ウワサ、デモ ジッサイ ツヨイ キョウド スゴイ スクナイ コレ ヒク ダイジョウブ。 サガス ワタシ シエキ スル」


 そう、自信満々に言い放つユーナさん。しかし、それに対し色々と疑問がある。


「でもユーナさん、使役すると言っても、ハンガー・スパイダーでしたっけ? それを探しに行かないと行けませんよね。ココはどうします? 自分達が居なければ、襲われても対応できないような気がするのですが」


 現在、まともに戦闘可能なのは自分とユーナさんだけだ。キースくんとタニアちゃんは当然として、衛生兵の人は最低限の装備はしているものの、本当に治療しかできないらしい。

 他三人の兵士の内、道中襲われなかった二人にしたって、あと三、四発位しか威力のある魔法を放つ事ができない状態との事だ。

 残りの一人は、それなりに回復しているが、万全とは言えない。つまり、連れて来た人員でまともに戦えそうな者は一人も居ない。そんな状態で、自分とユーナさんがココを離れてしまった後、モンスターが襲ってきた場合、ひとたまりもないだろう。


「それに、使役ですか? そんな事が出来るのなら、自分が引っ張るのではなく、途中で襲ってきたカブトムシも使役して、それに糸をつけて引っ張らせればいいじゃないですか」


 そう、別に自分が引っ張る必要はないのだ。この疑問に、ユーナさんは、困ったと言った風な表情で話し始めた。


「ソウ デモ コンカイ シエキ ソクセキ コウカ キレル ハヤイ モリ ヌケル モツ ワカラナイ」


「即席? 使役に即席も何も無いんじゃ? 洗脳みたいな物なんでしょう?」


「センノウ チガウ チカイ デモ チガウ ムリヤリ ジュンビ ナイ ダカラ ハヤイ キレル ダカラ ヒク サセル ムリ」


 つまり、どうあがいても、自分に糸をくくり付け引っ張らないといけない。と、言う事のようだ。


「なるほど、わかりました。なら、自分が引っ張るとして、ハンガー・スパイダーはどうします? さっきも言いましたが、ここを離れるとまずいですよ?」


 すると、ユーナさんは「イイ ナラ オビキダス」と、事も無げに言いながら、腰に付けていた香炉を取り外した。そして、何か乾燥した木の実や葉のような物を、ポシェットから取り出した。

 更に、隠れ家の庭からも何か取って来て、隠れ家の中にあったすり鉢と棒を使い、ゴリゴリと磨り潰し始めた。

 磨り潰し終わると、ユーナさんはそれを香炉に入れ、火を入れた。少しすると、小さな香炉から煙が濛々と噴き出し始めた。

「ケムリ オクル モリ オネガイ」と、言われたので、自分はその煙を<風の一撃>(ウィンドストライク)で、森に向かって吹き飛ばす。

 それを何度か繰り返すと、煙を送っている方向の木の間から、勢い良くハエトリグモのようなモンスターが飛び出してきた。

 しかし「コレ チガウ ハウンドスパイダー タオス」と、ユーナさんに言われたので<閃光の一撃>ライトニングストライクで仕留めた。

 その後も、先ほどのハウンドスパイダーや、道中襲ってきたカブトムシ、ユーナさん達を混乱させた蛾等が、煙を送った方向からやって来たので、同じように仕留めて行く。

 そして、そろそろ周りが死骸で酷い事になって来た頃「キタ」と、ユーナさんが言った。すると、目的のハンガー・スパイダーが、糸を垂らして煙を撒いた方向の木々の間から降りて来た。

 ユーナさんは、香炉の中身を地面に捨て、土をかけ処理した。そして、またポシェットから何かを取り出し香炉に入れ、ハンガー・スパイダーに向き直った。

 ハンガー・スパイダーは、こちらを狙って襲ってくるかと思ったが、周りに転がる死骸に取り付き、前4本の足を使って器用に糸で包みだした。


「ユーナさん、どうしましょう? 何か攻撃して動きを止めますか?」


「イイ デモ モシ ワタシ アブナイ タスケテ オネガイ」


 そう言って、ユーナさんはゆっくりとハンガー・スパイダーに近づいていく。その間に自分は、ユーナさんを魔法の射線上に入れないように移動する。

 その間も、ハンガー・スパイダーは地面に転がっている虫の死骸をせっせと糸で包んでいる。ユーナさんは、ハンガー・スパイダーの足が届く範囲の際まで近づき、香炉に火を入れ笛を吹きながら踊り出した。


(え? まさか、このタイミングで慌て出したのか? それはおかしくないか? 完璧に準備したじゃないか。何が気に入らなかったんだ? いや、それよりも焦っているなら助けないと)


 思わず<閃光の一撃>ライトニングストライクを撃とうとしたが、どうもハンガー・スパイダーの様子がおかしい。虫の死骸を糸で包むという行動を止め、ユーナさんの笛の音と踊りのリズムに合わせて体を動かしている。


(そう言えば、ユーナさんがどうやって蜘蛛を使役するのかは聞いていなかった。もしかして、あの踊りと笛の音、それと香炉の香りで操るのか?)


 そう思っている間にもユーナさんの踊りは激しくなり、同様にハンガー・スパイダーの動きも激しくなる。


(と、言う事は、これまで自分の前で踊ったり、笛を吹いたりしていたのは、慌てていたのではなくて、自分を操ろうとしていた?)


 よくよく思い出してみれば、自分がユーナさんの言っている事に逆らったり、拒否したりした時にユーナさんは踊っていた。


(なるほど、初めて会った時に自分が大人しく踊りを見ていて、その後すんなりと言う事を聞いたから、ユーナさんを含めた人は自分を使役できたと考えたのか)


 やっとユーナさんの謎の踊りの理由が分かったのだが、それならそれでなぜ甲殻魔虫であろう自分は操られていないんだ? と新たな疑問が浮かんできた。

 単純に考えるなら自分は甲殻魔虫ではないのだろう。しかし、そうであるなら自分は何なんだ? ユーナさんが言うように精霊なのだろうか? そんなはずはない。精霊であるサンドラ達からも、精霊という存在に長く接していた長老樹様からも、精霊であるとは言われていない。


「シエキ デキタ」


 ぐるぐると回る思考を、ユーナさんの言葉を聞き打ち切る。どうせ、考えても仕方ない事なのだろう。


(まぁ良く分からないが、洗脳だとか、そういった状態になっているとは思えないし良いか。そんな事より今はハンガー・スパイダーだ)


 ハンガー・スパイダーを見れば、糸で包みかけの死骸を持ったまま立ち止まっている。ユーナさんが、笛を吹きながら手を動かすのにあわせて動く所を見ると、上手くいったようだ。


「トリアエズ イケル ブリュー イト マク イイ?」


「はい、大丈夫ですよ。さっさと作業を終わらせて帰りましょう」


 自分はそう言いながら、糸をつけるため、浮いている隠れ家に腹の先を向ける体勢で待機する。予定通り、自分に何重にも蜘蛛の糸を括り付け、浮いている隠れ家を牽引するためだ。

 いっその事、自分に隠れ家を吊り下げて飛べば、村まで一直線に行ける上、モンスターを警戒しなくて良いと考え、そう提案しようかと思ったが、糸と隠れ家の強度、その他諸々に信用を置けなかったので、やめておいた。

 ハンガー・スパイダーは、思っていた以上の素早さで、自分と浮遊する隠れ家を糸で繋ぎ始めた。作業はすぐに終わり、自分は傍から見れば浮遊馬車のような感じになった。

 ただし、字面のような可愛らしさは無く。むしろ、糸のせいで隠れ家はおどろおどろしくなり、引っ張っているのも、自分と言う、これまた凶悪な見た目の巨大カブトムシなので、どう考えても何か……そう、例えば悪役の幹部が乗っていそうな感じである。

 そんな事は置いておいて、糸を数度引っ張り、安全確認をする。それなりに強く引っ張っても大丈夫なようなので、問題は無いようだ。

 ちなみに、糸を出したハンガー・スパイダーは、その場で待機の命令をし、魔法で仕留め解体した。なんでも、武器や防具に加工できる部位があるためらしい。なぜ、わざわざ殺すのかと聞いた所「ケッキョク コウ ナル」と言われた。

 なんでも、即席のためそのうち元に戻るのだが、糸を大量に吐かせたため、文字通りハンガー・スパイダーは虫の息らしい。なので、どうせ死ぬのなら、と仕留めて有用な素材を取っておきたいとの事だ。

 出発するため、ユーナさんに声をかけようとすると、羽が開かない事に気がつく。なので<念話>(テレパス)を、ユーナさんにつなげる。


『さて、では村に向かって帰りましょうか。どっちが村の方向ですか?』


 そう聞くと、ユーナさんは少ししてから『アッチ イク ミチ デル デタ ヒダリ イク』と、行き先を指差した。


『じゃあ行きますよ』


 森の中を自分は隠れ家を引きながら歩く。進行方向の隠れ家が引っかかりそうな邪魔な木や、襲い掛かってくるモンスターを、自分の角や魔法で薙ぎ倒して進んでいく。

 幸い、隠れ家に向かっている時に比べ、襲いかかってくるモンスターの数は少なかったので、撃ち漏らしも無く、ほぼ減速する事無く進んでいけた。なので、すぐに道に出ることはできた。出た場所はちょうど、森の中にある開けた場所と、道が重なっているところだった。

 しかし、その場所に到着し『ヒダリ イク オネガイ』とユーナさんが言った瞬間、自分達が出てきた場所とは反対側、つまり真正面の森が大きく揺れ、昼間見たのと同じ種類の恐竜のようなモンスター、メガハウンドリザードがのっそりと現れた。

 どうやら、運悪く待ち伏せして居た場所に出てしまったようだ。恐竜は低く唸りながら、こちらを睨みつけている。そして、頭が森から出たところで大きく口を開け、空気が振動するほどの咆哮を上げながら、大地を踏みしめ一気にこちらに向かって突進してきた。

 自分達が迎撃しようと身構えた瞬間、今度は自分達の真横の森が爆発したように揺れ、そこから巨大なゴリラが雄叫びを上げながら飛び出してきた。


(まさか!? これだけ近くに居たのに自分を含め、誰も気が付かなかったのか!)


 どちらを先に攻撃するべきか? と、迷っている間にゴリラは、自分達には目もくれず、一直線に恐竜に向かって行った。

 昼間、空から見た個体とは違い、体毛は白い物が混じっており、背中に至っては真っ白で、体躯も一回り以上大きい。

 先制攻撃は昼間の再現のように、又もゴリラで、突撃の勢いのまま恐竜に殴りかかった。殴られる方の恐竜は、こちらも昼間の再現のように、拳を避けながらゴリラの懐に入り、その喉元に噛み付こうとした。

 しかし、今回のゴリラはそれを読んでいたのか、もう片方の腕でその攻撃を受ける。だが、噛み付いた恐竜はそれならそれでと考えたのか、そのまま腕を噛み千切ろうと大きく首を振った。

 しかし、どれだけ首を振ろうとも、腕は千切られるどころか、ビクともしなかった。それどころか、最初に殴りかかり、外してしまった拳、つまり、噛まれていない方の手で恐竜の上顎を掴むと、強引にその顎を開こうとする。

 恐竜も必死に抵抗しているのだろう、体を振り、尻尾をくねらせ、後退しようと脚を動かしながら、低く唸ったり短く吼えたりしているのだが、じわじわと顎は開いていく。

 そうして、ある程度開いた所でゴリラは噛まれていた腕を素早く動かし、噛み付かれている状態から脱出した。

 しかし、そこで手を放して距離を取ったり、再度殴りかかったりするのかと思えば、逃げ出そうとする恐竜の頭に両腕で掴みかかった。

 右手で下顎を掴み、左手で上顎をつかみゆっくりと恐竜の顎を無理やりこじ開けていく。

 恐竜もされるがまま、というわけではなく、短い前脚でゴリラを引っかいたりと、抵抗しているのだが、効いてないようだ。

 そして、手の位置が丁度、恐竜の口をこじ開けるような位置になった瞬間、ゴリラが吼え、肩から腕にかけての筋肉が大きく膨れ上がったかと思うと、恐竜の顎は何か折れる様な嫌な音を立て、本来開かないであろう大きさまで開くことになった。

 恐竜はその一撃で絶命したのだろう、断末魔のような鳴き声を上げながら全身を痙攣させ、動かなくなった。

 しかし、ゴリラはそこで止まらず、動かなくなった恐竜の下顎を更に引っ張り、繊維が切れるような音をさせながら引き千切った。

 そして、千切った下顎を手放し、今度は頭を両手で掴み、癇癪を起こした子供がぬいぐるみを振り回すような動きで、上下左右に無茶苦茶に振り回した。

 当然、巨大な恐竜の首の間接はすぐに限界に達し、なんとも嫌な音をさせながら上顎だけの頭部が完全に千切れ、頭の無くなった体が宙を舞う。

 そこでようやく満足したのか、ゴリラは上機嫌にハミングするような声を上げながら千切り取った上顎を頭に乗せ、下顎持って森に帰って行った。


(ゴリラ、超こえぇ……)


 自分やユーナさん達は、戦慄しながらそれを見送った。そして、我に返ったユーナさんは隠れ家から降りて、兵士に指示をしている。

 何をするつもりなのかと見ていると『イマノウチ メガハウンドリザード シタイ ノセル カエル イイ ソザイ アタマ ナイ オシイ デモ イイ ツメ アル ホネ ウロコ カワ ジュウブン』と、言ってきた。なんともちゃっかりしている。


『しかし、なんで頭だけ持ってゴリラは去ってしまったんでしょうね?』


 そう、ふと思った事をユーナさんに問うと『ゴリラ? クレイジーコング? アレ ソウイウ トコロ アル』と、言われた。


(そうか、そういうところがあるのか……そういうところが有るなら仕方ないな)


 兵士達は協力し、首の無くなっている恐竜の死体を隠れ家の庭部分に載せ、村を目指して移動を再開した。その後は、特に何の襲撃も無く順調に森を抜け、草原に出る。そして、早く村に戻るために、低空を飛びながら引こうとした。

 だが、いざ飛行開始! と、前羽を開こうとした時、胴体は全て蜘蛛の糸で巻かれているのを思い出す。これでは羽を開く事はできない。だからと言って羽を開けば糸を切ってしまう。つまり、このままでは飛ぶ事ができないのに今更ながらに気が付く。


(あー……どうしよう。今の自分の歩行速度で、村まで戻ったら確実に色々と遅くなる。走るにしても、自分の脚は速くないからなぁ……そうなると、できるかもしれない事だけど……やりたくないなぁ……。でも、やらないといけないんだろうな)


 六本すべての脚に<部分変異>ポイントメタモルフォーゼをかける。イメージは、かの黒いアレだ。魔法は問題なく発動した。自分の脚は基本的な形状は変わらず、しかし付け根は太く、全体には生理的嫌悪感を抱いてしまうような、細く細かい毛のような物が多く生え、全体的にヌメっとした輝きを持った脚に形が変わる。つまり、ゴキブリの脚である。


(出来たか……出来てしまったか。いや、良いんだ。見てくれはこの際気にしてはいけない。それに、別に全身がそうなったわけじゃないんだ。そこまで致命的な変化ではないだろう)


 少し動かしてから、軽く走り出す。特に問題もなさそうなので、徐々に速度を上げていく。

 元々の脚と比べ、段違いの速さである。しかし、いくら速くなったと言っても、気が付かないだけで不具合がある可能性もあるし、牽引する隠れ家や糸が速さに耐えられないと駄目なので、最高速度は出さなかった。なので、それなりの速さで草原を駆け抜ける。

 とは言え、どう見ても付いて回る擬音はカサカサとしか言えない。この図体で走っているのに足音が殆どしないという事実がそれを更に助長しているようだ。

 少し進んでいくと、ユーナさんが指示した方向に明かりが見えてきた。そして、夜が明けるか明けないか位の時間に、村が見える所まで帰ってきた。しかし、どうやら様子がおかしい。入り口の所に警戒態勢の兵士たちが居るのだ。

 取り敢えず、何があったかユーナさん達に聞いてもらおうと、糸で引っ張っている隠れ家に、後ろから押されないようゆっくりと速度を落とし、村の前で停止し、脚を元の形状に戻す。

 すぐさま、ユーナさんが隠れ家から降りてきて、何かを言った。すると、兵士達の間から、アランさんが出てきてユーナさんと話しだした。

 少し話すと、アランさんは兵士達の方へ行き、何かを命令したようだ。すると、兵士達も警戒を解き、村に戻っていった。

 ユーナさんに聞くと、どうやら、森のほうから見たこともない何かが、ありえない速度で何かを引っ張りながら村に向かって直進している。と、見張りが報告したため、警戒していたとの事だ。


(なるほど、たしかに。行きは、馬車を抱えて飛んでいったカブトムシが、帰りは全身に蜘蛛の糸を巻きつけて、これまた蜘蛛の糸まみれの家を引きずりながら、高速で走って帰ってきたら身構えもするだろう)


 誤解も解けたので、自分はどうしたら良いですか? と、ユーナさんに聞こうとした時、少し糸が引っ張られるような感じがし、続いて後ろで何か重い物が落ちるような音がした。

 どうやら、隠れ家が地面に落ちてしまったようだ。

 どうしたんだろうか? と考えていると、キース君が少し焦りながら、ユーナさんに何か言っている。聞いている内に、ユーナさんも真剣な表情に変わって行き、こちらに向き直った。


『コノママ イド シタ ジメン ツナガル …… ウゴカス ハヤク アキチ イク』


『ジメン……イド……つまりこのままだと井戸が繋がるって事ですか。高性能ですね、この隠れ家。しかし、なるほど村の出入り口に鎮座されたら邪魔ですね。わかりました。では、このまま引っ張っていきますね、誘導してください』


『ワカッタ』


 そう、ユーナさんは返答した後、キース君に何か言った。すると、キース君は村に向かって走って行った。

 ユーナさんに『何を言ったんですか?』と聞くと、キース君が村長を呼びに行き、村長が来てから改めて場所を移そうという考えとの事だ。とはいえ、このままじっとしていると井戸が繋がってしまうので、取り敢えず、という考えで空き地の方まで引きずって移動する。

 しかし、空き地まで引きずってきた時点で、隠れ家から軋むような嫌な音が聞こえてきた。

 なので、これ以上引きずるのは危険と判断し、最悪動かせなくなっても邪魔にはならないであろう、空き地の端に置くことにした。

 置いて少しすると、隠れ家の土台が地面に音も無くゆっくりと沈んで行き、やがて綺麗に埋まり、地面の色が違い境目のような物があるものの、どういった作用か溶けるようにして曖昧になり、最後には消えてしまい、最初からそこに建っていたかのようになった。

 そこで自分は、必要の無くなった自分の体に巻きついている糸を<炎の膜>(フレイムスキン)を発動し、焼き払いながら前進した。

 もちろん、糸から隠れ家に燃え移る可能性も考え、燃え落ちた糸に向かって<水の一撃>(ウォーターストライク)を使って消火もしておいた。


(次は、隠れ家の方に付いたままの糸だな)


 と、思いながら<念話>(テレパス)<炎の膜>(フレイムスキン)を切り、羽を鈴虫状態にして、ユーナさんの方へ向き直る。


「どうします? これ?」


「ダイジョウブ ハナシ ツイタ ムラビト スル ソンチョウ イウ イマ」


 どうやら、自分が糸を焼いている間に村長が来たようだ。中年の男性が、ユーナさんの前に居た。

 隣にはキース君が居るのだが、なんだか頬が少し腫れている。そして、少し涙目だ。

 話が終わると、村長は隠れ家に向かって声をかけた。すると、今の今まで隠れ家に隠れていたタニアちゃんが、恐る恐る出てきた。

 タニアちゃんが村長の前まで来ると、村長はキース君とタニアちゃんを並べ、怒った顔で何かを言っている。二人は、ポロポロと涙を流しながら立っている。そして、全て言い終わった後、村長も涙目で2人を抱きしめた。

 その後村長は、二人と一緒に、ユーナさんや、隠れ家の庭部分で寝転がっている兵士達に頭を下げ、3人仲良く手を繋いで村の方へと帰って行った。

 少しすると、アランさんが兵士達を連れてきた。

 アランさんが、隠れ家に居る兵士三人と衛生兵に何かを言うと、四人は慌てた様子で村に向かって走って行った。

 連れてこられた兵士達は、転がっているメガハウンドリザードの死骸に近づき、手に持った刃物等の道具を使って解体作業を始めた。

 ユーナさんは、アランさんと話しているのかと思えば、こちらに振り向き「ブリュー ツイテ キテ」と言ってきた。

 どうやら村に行くらしい、なんでも今から出発との事だ。そういえば、自分達は帝都に向かって移動している最中だった。

 村に入ると、自分達が来た西側の出入り口とは反対側、東側の出入り口の方に兵士と騎士が集まっていた。

 しかし、その数が少ない。森を抜けてきた人数のほんの一部、それこそ二、三百人程だろうか? それ位しかいない。


「ユーナさん、やけに人数が少ない気がするのですが、何かあったのですか? 他の人たちはどうしたのですか?」


「ソレハ テイセン シタ ケド……ウソ カモ? ヤクソク ヤブル カモ? ホカ イロイロ アル。ダカラ ヨウジン イル。モシ ナニカ アル ヘイシ タクサン ヒツヨウ。デモ ソウソウ ソレ アル ナイ。 ヒキョウ ダメ レイギ アル」


(なるほど、たしかにそうだ。停戦したと見せかけて……なんて事になったら一大事だ)


「アト ワタシ キシ タイチョウ ナッタ イロイロ スル イケナイ。 ソレ アル イソグ イク テイト イケナイ」


「そういえば、そんな事もありましたね」


 ユーナさんが、というよりアランさんが来たからだろう、兵士と騎士たちが整列し始めている。そして整列しきると、その前にアランさんが立ち何か言った。

 それを合図に、兵士達は馬車に乗り込み、騎士達やアランさんも馬に乗っていく。ユーナさんも渡してもらった馬に乗る。

 アランさんは、全員が馬車や馬に乗ったのを確認した後、号令をかけ、アランさんとユーナさん、騎士、馬車の順番で村を出発した。

 自分はその隊列の上を、森を進んできた時と同じように、ユーナさんに<念話>(テレパス)を繋ぎ、上空から見守る形で付いていった。帝都はまだ遠いそうだ。

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