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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
37/52

第18話 処理と帰還

 野営地に戻るため、ユーナさんを抱えて飛ぶ。

 ふと空を見れば、日が沈みかけていた。

 戦場を見れば兵士達は味方や敵の死体の処理や、生き残りの処理をしている。時々、こちらに気が付き、手を振ってくる兵士も居た。

 野営地の上空に着くと、中央部分が空いていており、誘導してくれているのだろう、兵士が松明を振っているのでそこに降りた。

 ユーナさんを地面の近くで放し、踏みつぶさないよにしてから着陸する。すると、丁度真正面に位置する大きいテントの中から、アランさんが出てきた。

 また自分に切りかかって来るのかと思ったが、自分の方に一瞬だけ視線を向けた後、ユーナさんに話しかけ、部下を伴いテントに一緒に入って行った。

 残された自分は何をすることが無いので、そこで待つことにする。どうせすぐにテントから出てくるだろうと判断したからだ。そうやって待っていると、兵士達が近づいてきて話しかけてきた。

 だが、当然と言うべきだが、言葉が分からないので身振りや表情からしか判断できない。そして、判断できると言っても悪感情ではないだろうと言った推測の域を出ない程度である。


(やっぱり、何を言っているか分からないなぁ……。笑いながら怒る人も居るだろうから、もしかするとこの兵士達も怒ってるのかもしれない。駄目だな。せめて、話せなくとも雰囲気で分かる位になりたい。それを含めて、色々ユーナさんに言いたい事や聞きたい事が有るな。早くアランさんとの話終わらないかなぁ)


 考えながら、話しかけてくる兵士の言葉から共有語を学ぼうと努力しようかと思ったが、基礎的な言葉も知らないし、兵士達が何を指して何を言っているのかも分からないので早々に諦めた。

 かと言って何も反応せず聞いているのもダメだろうしな。と、考え何かしら表情で答えようとしたのだが、自分には表情を付けられるのは角を動かすか、脚を動かすか、羽を動かす位しかない。

 前の二つでは攻撃準備にも取られてしまうかもしれないだろう。なので、羽を動かして答えることにした。いまだ話しかけてくる兵士に対して適当なタイミングで相槌のように羽をパカパカしてみる。

 開いた時は一瞬のけ反られたが、自分が何をするわけでもなく、パカパカしているだけと理解したのか、元の場所まで戻って気にせず話を続けている。

 そんなふうにして兵士達の声を聞いていると、白い服を着た人達が怪我人を連れて来た。何だろうと思っていると、そのうちの一人が近づいてきて何か言ってきた。

 もちろん、何を言っているか分からない。その白い服の人は、そのままひとしきり自分に何か言った後、周りに居る兵士にも何か言うと、自分に話しかけていた兵士達が真剣な顔で、治療用テントだろうか? 白地に黄色の帝国の紋章が付いた、一つだけ色の違うテントへ入って行った。

 それを見て、自分は嫌な予感がしたので角の能力を治癒に変える。すると、話しかけて来ていた白い服の人が、おもむろに自分の右側の外側の角を掴んだ。

 そして何が目的なのか、角を引っ張ったりしている。しばらく引っ張ったり、押したり叩いたりしていたが、疲れたのだろう。その場にへたり込んでしまった。


(あぶねぇ……今回は気が付いたから良かったけど、せめてユーナさんに話を通してくれ……)


 気が付いたから良かったものの、角の能力を変えるのがもし少しでも遅れていれば、この白い服の人はここで文字道理爆発四散して赤いシミへと変わっていたのだから。

 ちなみに、その一人が必死に自分の角に何かしている間、他の人達は兵士達が連れて来た怪我人の手や足を持って、自分の角に当てていた。


(それにしても勝手に使うんだな。自分の立場は、使役されているモンスター扱いのはずなんだから、使役者? で良いのか知れないけどそういう人に話を通すのが普通なんじゃ……いや、逆か、使役されているモンスターは使役者以外の命令も聞くのが普通なのかもしれない)


 ふとあの熊頭の乗っていた美味しかった白い大きな虎を思い出す。そしてそれが熊頭はおろか他の兵士達の命令も聞いている所を想像する。


(そんなわけがないだろう。熊頭以外の人間に同時に命令されたらどうするんだよ。そもそもそうじゃなくても、色々と意味が分からなくなる)


 周りを見れば、白い服の人に誘導されて軽症者と思える人が左側に列を作っていた。触れた人は白い服の人に誘導され、食事の配給所だろうか? 湯気の立つ鍋が置いてあるほうへ行く。


(それにしても、一歩間違えればこの人たち全部殺していたぞ……いや、流石に最初の一人が爆発すればそこで止めるか。待てよ、もしかして最初に何か言っていたのは「角に触れるぞ? いいか?」みたいな内容だったのか? 何で共有語が通じると思っているんだ……。あ、もしかしてユーナさんを治療した時、アランさんが自分に何か言っていたな。それは間違いなく共有語だろう。で、それを聞いて行動したようにあの時は見えたはずだ。なら、自分に共有語が通じると思っている? ……面倒くさいな)


 この状況の原因になんとなく気が付いた頃、右側は角になにかして勝手にへたり込んでいた一人が、他の兵士や白い服の人と協力して重傷者なのだろう、一人では動けない人を抱え上げ、右端の角と頭角に触らせている。

 ちなみに触れた人達の反応は、何か……おそらくお礼だろうか? を言った後、割り当てられたテントだろう。そこへ戻っていく。

 傷が深かった者は、泣きながらお礼を言った後、失った体力はそのままのようで、元気な兵士に肩を貸してもらい一つだけ色の違うテント、恐らく治療用テントへ連れて行かれる。

 そこで、この白い服の人達が衛生兵なのでは? という事に考え至った。


(そういえば、ユーナさんに光属性の魔法をかけていた人があんな服装だったな。あれ? じゃあ何でわざわざ自分の角を使うんだ? 光属性の魔法が使えるならそれでいいじゃないか)


 ユーナさんにしてもそうだが、本職の人間が居るのだ。自分のような原理不明な能力に頼る必要はないのではないか? そう考えた時に思い出した。魔法に関しては熟練度なるものが有る事を。


(ああ、もしかして熟練度が足りなかったりして治し切れない場合があるのか? あとは親和性だったか? まぁなんにしても無理な事もあるんだろう。なら、仕方ないのかなぁ)


 そうして、自分の角を使われ治療が続けられていく。

 自分からは何をするわけでもない。角の能力を破壊に戻さないように気を付けながら、苦悶の表情を浮かべ、血の滲んだ布や包帯をした青年やオジサンを眺めているだけだ。


(なんで自分こんな事をしているんだろう……)


 と、途中でよく分からない空しさに襲われたが、日が沈み、少しする頃には終わった。

 重傷者と思しき初老の男性が最後だったようだ。次の人は居ないようで、衛生兵達がお互いに「おつかれ様」だろうか? 雰囲気から判断しているだけだが、声を掛け合っている。


(やっと終わったか、と言うより戦闘時以外は角の能力は基本治療にしておこうか。下手に触られて破裂しました、は洒落にならない……)


 それはそれで触れられ続けるし、いっそ誰にも触れてほしくはないんだがな。と気が付き、ならばどうすれば……と思った瞬間閃いた。


(いや、そうだ。今まで何も考えてなかったけど、防御の力? で良いんじゃないのか? そうだ、何をわざわざ治療してあげているんだ? そんな義務も義理も無いじゃないか)


 だが、結局戦闘時には元に戻す。そして今回の戦闘で分かったが、どうも自分を害すことはかなり難しいようだ。それに、益が有った方が自分に協力してくれる人が増えるかもしれない。


(まぁいいか、別に何か減るわけでもないし。それに帝国の秘密兵器だしな自分。さて、ユーナさんはまだかな?)


 と思っていると、衛生兵のうちの一人、最初に角を引っ張ったりしていた人だ。作業の最中も他の人に指示もしていたようだから、衛生兵のリーダーと思われる人物だ。

 その人が、ずっと付けていたマスクと帽子を取り、こちらに話しかけてきた。やはり、何を言っているのかは分からない。そして、ひとしきり何かを自分に話した後、お辞儀をして治療テントに入って行った。

 その間に、他の衛生兵の人達も治療テントに入っていったようだ。既に日は落ちきっており、月明かりと松明の明かりしかない。

 と、思っていたのだが、テントが光を放っていた。蝋燭やその類のようなゆらゆらと揺れるような光ではないところを見ると、街で見た電球の様な物を利用したライトでも使っているのであろう。

 周りを見ると、食事の配給を受けて食べ終わった兵士達は、続々とテントに戻って行く。そしてあれよあれよと言う間にポツン、と一匹で野営地中央に放置されてしまった。


(ユーナさん早く出てきてー……別にいいけど。いや、よくないな、する事が無いから暇だ。そう考えると、治療を手伝うのは良かった。少なくともやる事があるのは良い事だった。でも、治療用巨大カブトムシとか……思った以上に意味が分からない存在だな)


 本当にやることがないので、誰もいない広場で羽をパカパカさせて待っていると、ようやく話が終わったのだろう。ユーナさんが、テントから出てきた。


「ブリュー オマタセ」


「お待たせって……本当にお待たせですよ。色々言いたい事はありますが、とりあえずこの後はどうするんですか?」


「ネル アサ シュッパツ アラン ツイテイク ゴエイ」


「ゴエイ? 護衛ですか、要りますか? それなりに兵士も居ますし」


「オウコク ザントウ ムラ オソウ」


 どうやら取り逃した敵がいるようだ。となると、アランさんがここから離れるのは単純に帰還の意味以外に、残党狩りの意味もあるようだ。


「あー……そういう事は有るんですね。と言うより、こっち側に来るんですね。素直に王国に帰ればいいのに……ああ、そう言えば盗賊とかも居ましたね……」


「ウン オネガイ ダメ?」


「面倒くさいですし、ユーナさんを抱えて、自分達だけでさっさと帰った方が良くないですか?」


 少し困ったような顔をして、ユーナさんは「カゴ ナイ」と言った。


「ああ、代わりのゴンドラ、いえ籠でしたね。それが……有る訳無いですよねぇ」


 短距離ならいざ知らず、それなりの距離を飛ぶと考えれば、ずっと抱えた状態で飛ぶのはユーナさんは当然として自分も嫌だ。何かの拍子で落としてしまいそうであるからだ。


(いや、そもそも簡単な作りの籠があったとしてもゆっくり飛ぶしかないのか。あの金属の籠じゃないと、そこまでスピードを出せない。仮に、スピード出したら……金属の籠に入っている時ですら死に掛けたのに……普通の籠だった丸ごとバラバラになりそうだな)


「ソウ ワタシ ハコブ ウレシイ アリガトウ デモ アラン タスケル ニンム」


「帰還するまでが救援任務です。とかそんな感じですか?」


「ソウ」


(うーん……面倒くさい。いや待て、このまま帰還する途中で共有語を教えてもらえば良いんじゃないのか? 戦争が終わったのかどうか分からない今、確実に好きに時間を使えるのはこの移動中だけだ)


「まぁいいですよ、その代わり移動中に共有語を教えてくださいよ」


「ワカッタ ヤクソク マモル」


「ならいいです。ああ、言葉だけじゃなくてこのあたりの地理や国の位置関係、モンスターランクの事についても教えてくださいね」


「ワカッタ オシエル ヤクソク」


 そう言いながらユーナさんは欠伸をした。そこで、今日あった事を思い出してみる。

 早朝に出撃指令を受け、恐ろしい速度で戦場に死にかけで突っ込んだ後、目が覚めれば今度は敵本隊の中央に突っ込む。

 そして、突っ込んだ後はユーナさんは自身の身も守らなければならないのに、自分のサポートもこなしつつ戦う。

 それが終わった後も、こんな日が暮れるまでテントでアランさんと今日の報告会だろう事を先ほどまでやる。


(なるほど、良く気絶せずに自分のサポートもしてくれたなぁ……いや元々冒険者だから、体力とかはあるんだろう。だから、その辺りは大丈夫なのか? 見た目若いのにしっかりし……)


 そこではたと気が付く。ユーナさんって何歳なんだ? と。だから、思わず質問してしまった自分は悪くないはずだ。


「そういえば、ユーナさんって何歳なんですか?」


 自分の質問に、ユーナさんは一瞬驚いたような顔をした後、なぜか怪しげな笑みを浮かべる。


「一六」


「一六……そうですか、スミマセン女性にこういう事を聞くのはダメでしたね」


(ついでにごめんなさい、見た目からして、二十六かもっと上かと思ってたよ……)


 そんな事を思っても口、いや羽に出さないのが正しいのだろう。


「イイ キニシナイ」


 このままこの話題を続けてもヤブヘビになる気がしたので、切り上げることにする。


「今日は疲れましたよね、他の事は明日にしましょうか」


「ウン オヤスミ」


 ユーナさんは、小さな欠伸混じりにそう言ってから、大きなテントの横にある、ちょっと豪華な見た目のテントの方へ歩いていく。しかし、一つ絶対にきいておかなければならない事を思い出したので呼び止める。


「スミマセン、ユーナさん自分はどこで寝ればいいでしょうか?」


 ユーナさんは振り返り、そういえば、と言った顔をした。


「ドウシヨウ」


「いや、ドウシヨウってこっちの台詞ですよ……。じゃあ、ここ丁度空いてますし、ここに潜って寝てて良いですか?」


「ウーン イイ アラン イウ」


 そう言って、再度大きなテントに入っていくユーナさん。少しすると許可がもらえたのだろう。


「イイ デモ メジルシ ホシイ」


 と言いながら出てきた。なので<念話>(テレパス)に切り替え地面に潜る。そして、角が地面からでたかな? と、自分が感じた所で動きを止める。もちろんここに埋まっていますよ。というアピールのためだ。


『角がちゃんと地表に出ていますか?』


『スコシ ミエル モウ スコシ』


 目印にするならもう少し必要そうなので、少し動いてもう一度ユーナさんに聞く。


『これ位ですか?』


『アト スコシ スコシ』


 更にもう少し動き聞く。


『これ位ですか?』


『イイ ミエル』


『あ、あとこの角に触れないようにしてください。そうですね、注意書きを書いた立て札を、角の近くに立てといてくれますか? できるだけそんな事が無いようにしたいのですが、最悪触れたら死ぬかもしれません』


 寝ている間に無意識に元に戻して、先に起きた兵士たちが触れて、自分が起きたら血まみれなんて嫌すぎる。


『ワカッタ タテル』


『じゃあ、今度こそおやすみなさい』


『オヤスミ』


 そう言って<念話>(テレパス)を切る。少しすると、何かを地面に刺すような音が聞こえ、その後何かを叩くような音が聞こえた。多分、自分が頼んでいた立て札をたててくれているのだろう。そして、音が聞こえなくなってから少しして自分は寝た。


---------------------------------------------------------------


 目が覚めた。角に纏わせている魔力は、治癒のままのようだ。無意識でも状態を維持できるとは、自分の魔力コントロールも上達してきたと感じる。


(後は纏わせている魔力を、限界ギリギリまで上げるスピードの上昇と、それの維持する事ができたら完璧だな)


 そんな事を思いながら地上へ這い出す。丁度、夜明けの時間のようで、周りは朝靄に包まれていた。兵士達もテントから出てきて、朝食を取るために配給所の鍋の方に集まっているようだ。

 中には、自分の姿を見て悲鳴を上げる兵士も居たが、周りの兵士に笑われ、ばつの悪そうな顔をしていた。


(なんと言うか……のどかだなぁ、戦闘は終わったけど、終戦とか、何かしら協定を結んだわけじゃないだろうに。いや、この雰囲気から考えると結んだのか? だからのんびりしているのか? そういえば、昨日のユーナさんの話を聞く限りアランさんは戻るみたいだし……。そういうことなのか? いや、と言うか戦争ってのはそんなに簡単に終わったりするのか?)


 寝起きの頭でグルグルと考えるが答えは出ない。と言うより、おそらくはっきりとした思考の中でも答えは出ないだろう。なにせこの国や周辺の国に関しての知識は欠片もないからだ。


(まぁ、何でもいいか、とりあえずユーナさんを待とう)


 体に付いた土を<風の膜>(ウィンドスキン)で吹き飛ばし、ついでに<水の膜>(ウォータースキン)で全身を洗っていると、丁度ユーナさんがちょっと豪華なテントから出てきた。


「オハヨウ ブリュー」


 大きな欠伸と伸びをしながらユーナさんがこちらに歩いてくる。その姿を見て、朝食のシチューをこぼす兵士や、衛生兵の一部、おそらく女性であろう人から露骨な舌打ちが聞こえてくる。


「おはようございますユーナさん、出発はいつ頃になるでしょうか」


「ジュンビ スグ チョウショク オワル スグ」


「なるほど、自分の朝食はどうしましょう?」


「モッテクル」


 そう言って、ユーナさんは何故か集まってこちらを見ている兵士達の方へ行った。話しかけられた兵士は、鼻の下を伸ばして話を聞いている。当然目線は胸に行っている。

 他の兵士も同じような目線である。更に、先ほどと同じように、衛生兵の人達が集まっているところから露骨な舌打ちが聞こえてくる。

 話が終わったのか、ユーナさんがこちらに向かって不機嫌そうな表情で歩いてくる。話しかけられた兵士と他数人は、朝食を配っている場所の近くのテントに走って行った。


「色々とドンマイですユーナさん」


「ドンマイ?」


「ああ、お疲れ様ですユーナさん。で、どうしたらいいんでしょうか?」


「マツ モッテクル ヘイシ」


 そうユーナさんが言うと、兵士達が走って行ったテントから、大きな肉の塊を持った兵士達がやってくるのが見える。

 器とかではなく、ただ単に大きな布に乗せているようだ。そして、それを自分の前まで持ってきて置き、兵士達はそのまま先ほどの集団に戻っていった。


(さて朝食だ、今更だけど、この肉なんの肉なんだろう? 砦でもらった肉に似てるけど、こんな風に加工されたらもう何の肉かわからないな。馬? いや、何でもいいか)


 そんな事を考えながら食べようとし、はたと動きを止める。


「ユーナさん朝食は食べました? どうせなら一緒に食べませんか?」


「マダ モラッテクル」


 ユーナさんは、そう言って配っている所へ行く。少し待つと、ユーナさんがシチューがなみなみと入ったお皿とパンを持って戻ってきた。


(美人は得、というのはどの世界でも変わらないんだな。いや、同時に損でもあるのか)


 と、実感する。同時に、この世界での美的感覚は自分の前世と同じか、近いという事も分かった。街に凱旋した時も周りの反応は同じようだったので間違いないだろう。

 ユーナさんが自分の近くに座ったので、改めて朝食を食べ始める。食べながらユーナさんと話したのは、モンスターランクについてだ。

 AAランクが最高で、その下にA+、A、A-といったようにランクがあり、最低でFがあるようだ。

 危険なのはD-辺りからであるらしく、それ以下は分かっていればどうにでもなる。もしくは、まったくの無害と言った状態で、怪物(モンスター)と、言うよりは普通の生き物と言う扱いのようだ。

 つまり、この世界においてモンスターとは、人以外の生き物で、人を害する害獣全般という事になるらしい。

 因みに、獣人やハイエルフといったように、見た目が明らかに人間と違う人も、人として扱うようだ。

 定義としては人間種と交わって子供ができ、更に人間社会に溶け込めるだけの理性を持つならそれは人らしい。

 ならば、自分がもし人間と子を作る事ができたら人なのか? とユーナさんに聞いたが、精霊は精霊だと言われた。


「いえ、自分甲殻魔虫なんですけど……」


「ジョウダン ダメ」


なぜか、微笑みながら返された。


(冗談じゃないんだけどな……)


 それはともかく。生まれてきた子が、確認されている人種と違う特徴を持っていた場合、新たな人種となる。

 しかし、生まれてきた子が、理性を持たない場合、それはモンスターとして扱われる、という事らしい。そしてそれは、理性を持たないと断じられた人種もそうである。なので、盗賊等は人でありながら、モンスターとして扱われるそうだ。

 他にも色々詳しく説明してくれているのだが、何を言っているのか分からないところもあったため簡単に言うと、という感じである。

 次に、知りたかったモンスター達のモンスターランクも知れた。それで分かったのだが、やはり強いモンスターほど美味しいようだ。自分が美味しいと感じたモンスターの名前を上げると、全てB以上だった。

 更に、自分が美味しいと感じる肉は魔力毒、つまり高い魔力を含んだ物になるらしい。

 なんでも、ランクが高いモンスターは総じて魔力を多量に使えるから強いそうだ。と言う事は、そのまま内包する魔力も高いということだ。そして今まで美味しいと感じていたモンスター達は総じてランクが高いそうだ。

 つまり、美味しい物を食べたければ、強いと言われているモンスターを倒さないといけないらしい。

 そんな事を話しながら、朝食を食べているうちに、周りの兵士達は既に朝食を食べ終え、アランさんの指揮の元、帰還準備をしていた。

 そろそろ、自分達も準備しないといけないと思ったが、自分はゴンドラ以外なにも持ってきていないことを思い出した。

 ユーナさんも、それに着の身着のまま乗り込んでいたので、ゴンドラが壊れた今、自分達には何の荷物もない。

 そのため、アランさんが帰還準備を終わらせるまで共有語の話をしていた。

 取り敢えず「こんにちは」を、はじめとした挨拶と、敵意を持っている事が分かる単語だけを教えて貰った。

 挨拶を覚えようとするのは、初対面の相手にフレンドリーに接す事ができるように。敵意ある言葉は、相手がこちらと話をする気が有るのか無いのか見極めるためにだ。


(森から出た時の様に、話し合いの余地が有るのか無いのか分からないのは、もうごめんだ)


 今になって冷静に考えれば、あの時は話しながらも相手が武器をチラつかせて包囲している時点で、話し合いの余地もクソもなかったのだろうが。

 そして、単語を幾つか教えて貰ったところで、準備が終わったようだ。アランさんが大声で何か言ってきた、それに対し、ユーナさんは何か言い返した。その後、アランさんを先頭に兵士達は動き出した。


「ブリュー ソラ オネガイ」


「空から偵察ですか? というか、飛ぶならもう戻りますか?」


 別に急がないのであれば、自分がユーナさん一人抱えて戻る事も可能だ。却下したが、地面を歩いて帰るよりはやく移動できるのは間違いないのだから。


「ケイカイ ヒツヨウ オネガイ ダメ?」


 しかし、ユーナさんはアランさんと一緒に行く事を希望しているようだ。


「駄目じゃないですけど……そうですね、この行軍はウレジイダルまで続きますよね?」


「チガウ テイト イク」


「あ、帝都だったんですか。そこまで着くのにどれ位かかりますか?」


 なるほど、それなら自分達だけで飛んで行っても仕方ないなと、納得する。


「ダイタイ イッシュウカン」


「なるほど。じゃあ、当然途中で村や町に寄りますよね? 常に野宿のわけがないですよね?」


「ソウ ムラ ミッツ マチ ヒトツ トマル」


「その立ち寄った村や町の偉い人に会えますか?」


「タブン アエル ワタシ キシ タイチョウ ナッタ」


「おお、そうなんですか。おめでとうございます、でも何時の間に?」


 そう言うと、ユーナさんは目を泳がせながらもぞもぞしている。


「…… キガツイタラ」


「騎士隊長って気がついたらなれる物なんですか?」


「チガウ……」


 ユーナさんは俯いて黙ってしまった。


(このままだと、機嫌が悪くなって話どころじゃなくなりそうだなぁ)


 この話を続けても良い事はないと思い、話題を戻す。


「まぁ話が進みませんし、この話は終わりにしまして。取り敢えず、ユーナさんは偉い人に会えるんですね?」


「アエル タブン デモ ヤクソク ムリ」


「では会えたら、で良いですよ。その土地の何かしらの伝承があったらそれを自分に教えてください」


「ナゼ? アラン ナイ イッタ」


「らしいですね、それは聞きました。でも、自分は正直嘘じゃないのか? と思っています」


「ウソ ナゼ イミ ナイ」


「意味は有りますよ。そうですね、例えば自分がもう森に帰る! と言ったらユーナさんどうします?」


「シカタナイ ミオクル」


 と、ユーナさんは真剣な顔で言った。


(あれー? 秘密兵器じゃなかったっけ? 自分)


「いや……うん、良いんですけどね? 良いんですけど、こう自分を引き止めたりするでしょう?」


「シナイ」


「いや、まぁ……もう! 話が進まないんで引き止める。と、しますよ? そこで、自分が欲しかった情報が今見つかった! 欲しいか? 欲しくばくれてやる! ただし、何かこちらの利益になる事をしたならな! と言う風に、駆け引きができるじゃないですか」


 そこで、ようやくユーナさんは表情を崩す。


「ナルホド ブリュー エライ」


「ユーナさん……よく今まで無事でしたね」


「ジョウダン ヒッカカッタ? デモ ブリュー エライ」


 そう言いながらクスクスとユーナさんは笑う。どうやらからかわれたようだ。


「まぁ何でもいいです、そういうことなのでお願いしますね?」


「ワカッタ ブリュー ケイカイ オネガイ イイ?」


「いいですよ、隊列の上を飛んで近づいてくるモンスターを撃退すればいいんでしょうか?」


「ソウ デモ マンガイチ アル テレパス イイ?」


「当然しますよ、自分は飛んでいると何も話せませんからね」


 丁度、最後尾が野営地から出て行ったところのようである。ユーナさんは「オネガイ」と一言残し、近くに馬を連れて待機していた兵士から馬を渡してもらい、隊列を追って行った。

 それを確認して自分は<念話>(テレパス)をユーナさんに繋いで飛び上がり、帰路へ着いた。


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