表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
35/52

第17話 猿と虎

 野営地から草原を挟んで反対側。

 つまり、森の前に青い一団、王国軍は陣を構えていた。帝国とは兵の雰囲気が違い、最前列に軽装の兵が居るのは同じだが、そのあとに続くのは何かしらのモンスターを連れた一団である。

 モンスターの種類もバラバラで、王国軍と言うより、魔王軍と戦っていると言われたほうがしっくり来るような様相である。

 特に、ユーナさんに言われた討伐目標の白い虎の周りには、大きなゴリラのような物が居る。ような、と言ったのは、どこかおかしいからである。

 頭がどう見ても恐竜だったり、頭が体の大きさから考えて小さすぎたり、腕がどう見ても本来より大きくなっていたり、他二匹は変な部分が隠れているのか確認できないが、明らかに違和感がある。

 と、言ったように何か(いびつ)な、そんなゴリラ? が五匹居る。しかし、盗賊頭が連れていた恐竜ゴリラ? ゴリラ恐竜? を見た後なので驚きは小さかった。

 その周りには、普通の大きなゴリラが四匹居り、青く輝く玉を先に付けた錫杖みたいな物を持っている。自分としては、こっちに驚いた。


(普通のゴリラも居るんだ……まぁいい、さっさと終わらせよう。もう戦闘状態なのだから、先手必勝で攻撃するのが正しいだろう)


 そう考え『自分が一気に突っ込み攻撃する』と、ユーナさんに言うと止められた。何か決まりごとがあるらしい。

 仕方がないので空中でゴンド……籠を抱えたまま留まる。眼下では、帝国軍の方も隊列を整え草原へと前進している。そして、両陣営の間隔が魔法や弓の射程ギリギリの所だろうか? それ位の距離になった所で、お互いに一騎ずつ騎士を出した。手には大きな旗を持っていて、旗に付いている紋章はお互い自国の物だ。


(何するんだろう? てっきり、いきなり戦闘開始かと思ってたけど。なんだろうあれ?)


 王国の騎士が大声で何かを言えば、それに対して同じくらいの長さの言葉を帝国の騎士も言う。それを何度も交互にくりかえしているのだ。何というのか、定型文の叩きつけ合いに見える。


『ブリュー ソロソロ タタカイ ハジマル』


『ユーナさん、あれは何をしてるんですか?』


『タタカウ マエ センセイ ギシキ タブン』


『多分って……まぁ何でも良いですけど、攻撃できるようになったら言ってください』


 そのまま、空中で待つ事少し。言い合っていた騎士が、お互いの陣地に戻って行く。そして、騎士が完全に両軍に戻り、出る前の位置に戻ると、両方の兵士が、雄叫びを上げ動き出した。


『ブリュー オネガイ』


『戦闘開始ですね、分かりました。さっさと終わらせてしまいましょう、色々話したい事もあるので』


 ユーナさんの許可が出たので、自分は敵に突撃する。やり方はここに来た時と同じく<雷光の大槍>(サンダーランス)を打ち込み、場所を空けそこに墜落するように落ちて、隊列を無理やり崩して、そこを起点に崩壊させるという、最初に戦場に突撃した時と同じ戦法を取ることにする。


(まぁ、それでもまずは様子見だ。何かあってもこの距離だし。対応できるだろう) 


 そして<雷光の大槍>(サンダーランス)を放つ。しかし、魔法は確かに相手の方まで飛んで行ったが、当たる前に霧散した。


(あれ? 何か間違えたかな? 確実に当たるはずなのに、まぁいいか)


 再度<雷光の大槍>(サンダーランス)を放つが、同じように打ち消される。見れば、帝国側の矢や魔法も自分の魔法が消えた辺りで、当たる前に砕け散り霧散している。

 逆に、王国からの矢や魔法は、その見えない境界のような物を何事もなく越え、帝国の兵に確実に損害を与えている。


(これは、明らかにおかしいな。両方ともに何か有るなら、この場所が特殊であるのだろうけど、片方だけって言うなら、何かしているはずだ)


 そう考え帝国側を見ていると、魔法や矢が当たったところに、波紋のようなものが広がっているのが見える。目を凝らせば、王国側全員をすっぽりと囲むように膜があるのも見えてきた。


(なるほど、結界か……でも、それだと姿を隠したりするだけじゃないのかな? いや、あの時は膜に向かってやったことは角で突撃しただけだ。魔法や矢を無効化する力も持っていたのかもしれない。なら、自分の角で突撃すれば、あの時みたいに破ることは出来るんじゃないのか?)


 まず<鉄の装甲>(アイアンアーマー)を自分とゴンドラ、いや、籠にかける。次に<暴風の加護>(ストームブースト)もかけようかと思ったが、ゴンドラの中にユーナさんが居るのを思い出し、やめておいた。他の<装甲>(アーマー)系魔法もかけると視界が無くなるので今は止めておく。

 準備ができたので、角を合わせて槍の穂先のような形になり突撃する。迎撃のために敵からは魔法や矢、そして大槍が飛んでくる。


(これは、正に対空砲火だな。降りられるのか! ってセリフが出てきそうだ。というか、大槍? 魔法や矢は分かるけど、大槍って何だ)


 それらを回避しようと、自分は上下左右に回避運動をしながら突撃する。だが、当然と言うのか、全てを回避するのは不可能で、数発は当たってしまう。

 しかし、真正面から飛んでくる物は角に当たり砕け散る。甲殻に当たる物は、大槍のように重くなければ一方的に弾き飛ばす事ができた。仮に大槍に当たったとしても少し態勢が崩れる程度で、傷はつかなかった。なので、攻撃されている状態が安全であるかどうかは別にして、自分は安全である。

 だが、そう思って慢心していたのが悪かったのか。飛んできた大槍が運悪く足の先、ゴンドラに引っかけている爪の部分に当たってしまった。傷を負うことは無かったが、バランスを崩し動きが鈍る。敵はそこが弱点だと思ったのだろう。そこに攻撃が殺到し、爪がゴンドラから外れてしまい、取り落としてしまった。


(まずい!)


 それなりの高さから落としてしまうのだ。中に居るユーナさんが無事で済むとは思えない。思わず、自分は落ちて行くカプセルを追いかける。地面スレスレの所で掴み直し、ギリギリで墜落しないように体勢を立て直し、再度敵へ向かって飛ぶ。

 しかし、高度を上げると又爪を狙われ、ゴンドラを落とす事になりかねない。更に、上昇しながら前進した場合、ゴンドラを相手に向けてしまう事になる。中に何も入っていないなら良いのだが、ユーナさんが入っているため、それはダメだ。

 かといって、その場で垂直に上昇すると、無駄な時間を食う上に良い的である。仕方が無いので、そのまま地面スレスレを飛びながら突撃する。

 飛んでくる物は左右に動いて回避し、どうにもならない物は、上空と同じように角で受けて破壊する。

 そして、ようやく膜に突撃できる間合いに来れたので、追加で<爆炎の装甲>(バーニングアーマー)<雷光の装甲>(サンダーアーマー)<暴風の装甲>(ストームアーマー)を発動する。

 自分は助けに来た時同様の物に包まれる。そして、同時に視界が無くなる。しかし、貫くべき膜は目の前にある。外しはしない。そして、自分は膜に突撃した。ガラスが割れるような音がし、何かに刺さった……気はした。

 しかし、自分はどうも膜を破る事に失敗したようだ。なぜなら、その場に飛行した状態で動けなくなったからだ。


(まさか、この膜は攻撃して来た者を捕獲するための物? 自分の存在は既にばれていて、対策も練られていた?)


 そこでふと思い出す。そういえば、王国の紋章は森で会った盗賊頭の持ってた剣にも付いてたよう気がする事を。つまり、あの戦いで自分の力はある程度把握されてしまっていたのかもしれない。しかし、それにしても二週間で対応策を練って、その為の物って作れるのか? という疑問が生まれる。


(いや、作れるからこうなってるのか。しかし、どうしようか? このままここに縛られていてもどうにもならない。角の魔力を、歪みを生むギリギリまで上げたら破れるか?)


 角に纏っている魔力を上げる。ジリジリと魔力を上げている間も相手は前進しているが、膜に突き刺さっているため、自分は自動的に後退する。

 飛んでいる間に自分に向けて放たれていた攻撃は、今も続いているようだが、全て角や全身を覆う魔法によって砕かれているようだ。

 そうして、そろそろ角の周りがユラリと歪むか歪まないか、という魔力量になった時。さっきより大きなガラスの割れるような音がした直後、爆発音が王国側から聞こえてきて、角が刺さっている膜が霧散した。同時に、角の魔力を通常時に戻す。下手にこの量を維持すると、何かの拍子に上げ過ぎてしまったりするためだ。そうなればおそらく歪みとやらが生まれてしまって面倒な事になる。

 それはそうとして、現在自分は刺さっている間も前進しようと飛んでいたため、支えがなくなった今、勢いよく前方に向けて発射されるようにして飛び込んだ。

 助けに入った時同様、勢いに任せて地面を抉りながら止まるのを待とうとした。しかし、自分の体を覆う魔法を無視して何かが外側の角をむんずと掴んだ。そして、その場で強制的に停止させられた。


(捕まった!? いや、このまま全身を包む魔法を切らずに続けていれば、掴んでいる相手を倒せるか?)


 そう考えたが、どうも角を掴んでいる何か、どうやら腕のように見える物に、何かしらのダメージが入っているように見えなかったので、瞬時にゴンドラから足を離し<鉄の装甲>(アイアンアーマー)以外を解く。

 土煙が酷く周りが見えないが、掴んでいる者の姿は確認できた。五匹居た変なゴリラの内の一匹、腕が異常に大きいゴリラだ。

 大腕ゴリラはこちらの姿を確認すると、大きく口を開け犬歯を剥き出しにし、雄叫びを上げた。

 自分も威嚇音を出して対抗する。そのまま、角に纏う魔力を上げて一気に切り刻んでも良かったが、六本の足で踏ん張り、自分の角を掴んでいる大腕ゴリラを持ち上げ、逆に角で挟んで振り回して風を起こして土煙を散らす。

 土煙が晴れ、周りの様子が見えるようになった。どうやら自分は、敵のド真ん中。空から見た光景から考えれば恐らく大きな虎の少し前で大腕ゴリラに止められたようだ。


(なるほど、自分はともかくゴンドラが袋叩きにされては敵わない)


 そう考え、角に挟まれもがきながら叫んでいる大腕ゴリラを掴む力を強め、突き刺し纏う魔力を上げる。それほど上げていない所で大腕ゴリラは派手に爆発四散した。当然、持ち上げて爆発させたため自分は血や肉片をまともに浴びる。

 周りの兵士はその光景か臭いか、両方だろうか? 盛大に吐いている者も居た。しかし、そんな事に構っている暇もなく、今度は頭が恐竜のゴリラと、小さすぎる頭のゴリラ、遠くからは確認しきれなかった他二体、一体は手が大きなカニの鋏のようになっており、もう一体は腰から下が蜘蛛のようになっている。

 そんな歪なゴリラ達が、四体同時に襲ってきた。近づいたので分かったのだが、頭が恐竜のゴリラは尻尾もあり、よく見れば足は恐竜とゴリラが両方付いており、四本足である。


(まさにモンスター……でも、これまで見たモンスターは意味が分かる形、何と言うか自然だったのに、これは何かおかしい。無理やりその形にされた感じに見える)


 そんな思考に気を取られていたため、自分は恐竜頭と蜘蛛足が角に掴みかかってきたのに反応できず、捕まってしまった。

 更に、頭の小さい、よく見れば頭がおっさん。いや、大鬼(オーガ)だったか? のゴリラと、手が鋏になっているゴリラに左右から押さえられ羽を動かす事もできなくなった。

 すると、ゴリラ達の背から兵士達、多分使役者なのだろう。それが腕をつたって、背に乗ろうとしてきた。何かするつもりなのだろう、黙ってやられるつもりはないので<爆炎の装甲>(バーニングアーマー)を発動する。

 しかし、ゴリラはもちろん使役者にも効いていないようなので<雷光の装甲>(サンダーアーマー)<暴風の装甲>(ストームアーマー)も発動するが、効いていないようだ。


(魔法でダメなら力ずくで行く)


 更に角の魔力を上げつつ、角を掴んでいる二体のゴリラを、前胸と中胸の間の関節の力だけで持ち上げる。そして、そのまま足の力で無理やり拘束を振り切り、その場で左に半回転する。

 その間に角の魔力に耐え切れず、角を掴んでいた恐竜頭と蜘蛛脚は手が腕ごと爆発する。二匹は腕が爆発したことによってバランスを崩した上、振り回されたため、後ろに軽く飛ばされた。

 その際、左側にいた鋏手は、真横からまともに角を叩きつけられたため、上半身と下半身に分離しながら飛んで行った。

 しかし、右側のオーガ頭はバランスを崩しながらも兵士を落とさないように後退していった。

 余裕ができたので、姿勢を正しながら自分は視界の確保のために<鉄の装甲>(アイアンアーマー)以外を解く。

 そして、いまだ立ち上がれていない蜘蛛脚に向かって<雷光の大槍>(サンダーランス)を五本全部叩き込んだ。

 今度は無効化されず魔法は威力を発揮し、蜘蛛脚は閃光の中黒い何かへとなり果てた。それを確認しつつ<雷光の大槍>(サンダーランス)を、立とうとしてもがいている恐竜頭に放とうとした。

 しかし、後退したオーガ頭が右側から殴りかかってくるのが見えたので、恐竜頭に放つのを中止し、オーガ頭に向けて放つ。

 今度も無効化されることはなく、魔法は威力を発揮し、オーガ頭は激しく痙攣した後、全身から湯気を発しながら倒れる。しかし、オーガ頭に構っている間に恐竜頭は立ち上がってしまった。

 だが、立ち上がっただけで少しふらついており、体勢は立て直せて無いようなので、容赦なく恐竜頭にも放った。しかし、今度は先ほど同様無効化されてしまった。

 それに気を良くしたのか、それとも他の何か理由が有るのか分からないが、大きな雄叫びを上げ、大口を開けながら恐竜頭は突っ込んできた。狙いはどうやら角のようだ。噛み砕こうとでも考えているのだろうか。

 カウンターで倒そうかと思ったが、こちらも低空飛行で突撃。何故なら後ろに虎が居るのが見えたからだ。膜に突撃した時と同じく、角を合わせ魔力をギリギリまで上げる。恐竜頭は、それに気が付いていないのか、驚きもせず、寧ろ五本全部一気に噛み砕いてやる、と言わんばかりに大きく口を開ける。自分と恐竜頭が衝突し、恐竜頭は頭だけでなく上半身を爆発四散させて吹き飛んだ。

 そして自分は、そのまま血煙を纏いながら、恐竜頭の後ろに居た虎に向かって、勢いを落とさず突撃する。元々そのつもりで突撃したのである。

 しかし、恐竜頭を貫いた先に、虎の姿は無かった。どこに居るのかと思いながら、確認のため着陸し地面を削りながらターンする。そして九十度ターンした所で、自分が居た方向、ユーナさんの入っているゴンドラの方から、虎が襲い掛かってくるのが見えた。

 どうやら、自分が恐竜頭を吹き飛ばして、視界が悪くなった瞬間を狙って回り込まれていたようだ。

 虎は右前足を振り上げ、側面の複眼を狙って、魔力を纏っているのだろう。ゆらゆらと揺らめく鋭い爪を振り下ろしてきた。

 そのままやられる訳にはいかないので、左に飛び退きそれを回避する。しかし、虎は追撃の手を緩めず、今度は左前足を振り下ろしてきた。

 だが、その時には既に自分は方向転換をしきっていたので、頭角を含めた五本の角で打ち合う。

 大きな金属同士がぶつかる様な音をさせ、自分と虎は角と爪をぶつけたまま止まる。

 一瞬の静寂の後、虎はバックステップで距離を取った。虎が着地した瞬間、氷が割れるような音がし、直後ボロボロと左前足の爪が崩れた。

 だが、そんな事は構わない、と言わんばかりに虎は咆哮を上げた。火山で戦った、あの赤いドラゴンにも負けないほどの力強い咆哮に、自分も威嚇音を返す。

 闘争心に火が付いたと言わんばかりに、ニィと虎が笑ったような表情になったかと思うと、大きく口を開け四肢を踏ん張るような構えを取った。


(何か吐く!)


 直感的にそう感じ、自分は<雷光の大槍>(サンダーランス)を虎に放ちながら左に飛び退く。

 自分が魔法を放つと同時に、虎の口から咆哮と共に、自分の魔法と勝るとも劣らないほどの雷が飛ぶ。

 二つの雷はぶつかり合い、雷球のようにも見える激しい拮抗状態を作り上げたかと思えば、次の瞬間弾け、一瞬視界が真っ白に染まった。


(何も見えない!)


 思わず動きを止めてしまう。そんな自分の行動に舌打ちをしたくなった。完全に隙だらけである。自分と違い、恐らく虎は目を閉じているだろう。つまり、先ほどの閃光による視界の消失は無く、今にも襲い掛かってくるのかもしれない。

 そして、予想より早く回復した視界の中、予想通り既に虎はこちらに飛び掛りながら、砕けた爪が残る左前足を角に叩きつけようとしていた。

 自分は、慌てて角で応戦する。そして、砕けた爪が角に触れそうになった瞬間、その攻撃は軌道を変え地面に落ちた。


(はずした? それとも爪が砕けているのを忘れていた?)


 しかし、その自分の考えは間違いだった。左前足を地面に叩き付けた反動で自分の右側に回りこみ、器用に体を捻り、右側面からこちらに飛び掛ってきたのである。


(まずい、どうする? 飛ぶにしても跳躍して回避するにも遅すぎる。甲殻の硬さに賭ける。というのもあるけど、耐えられるかどうか分からない攻撃を受けるのはまずい)


 一瞬の間にそう考え<暴風の装甲>(ストームアーマー)を発動、同時に自分の右斜め前から<暴風の一撃>(ストームシュート)を自分に向けて発動。更に左前足だけを踏ん張り、他は地面から離す。

 虎の爪が自分の側面に命中するかどうか、その瞬間に<暴風の一撃>(ストームシュート)が自分に命中する。その結果、独楽のように自分は左前足を軸に回転した。そして、辛うじて飛び掛ってくる虎に迎え撃つ体勢になれた。

 虎は、それでも怯む様子は見せず、今度は魔力を爪に纏わせるだけではなく、雷系と風系の魔法を全身の強化に使っているのだろう、全身の毛を激しく波打たせ、火花を散らし襲ってきた。

 それに対し、自分も全ての<装甲>(アーマー)を発動して全身を強化して迎え撃った。瞬時に全身を五種類の魔法が覆い、視界が悪くなる。

 その瞬間虎の牙と爪が、自分の角とぶつかり合う。生物がぶつかったというよりは、金属同士が激しくぶつかりこすれ合うような衝撃音の後、何か骨が折れるような音がし、次いで破裂音がする。虎はその破裂音と供に、バックステップで距離を取ったようだ。苦し気な鳴き声が少し遠い場所で聞こえた。

 そこで自分は<鉄の装甲>《アイアンアーマー》以外を解除して視界を確保する。視界が戻った時、虎の姿はボロボロだった。少しだけ残っていた左前足の爪は、手が破裂してしまったようで既に無く、右前足の爪はボロボロになり、牙は犬歯の片方が根元から折れてしまっている。

 そんな満身創痍な状態になったのにも関わらず、虎はまだこちらに向かってくるつもりのようで、喉を唸らせながら自分を睨んでいる。


(一体何を狙っているんだ? このまま続けても自分が勝ちそうなのに)


 そこで思い出す。この虎は使役されてるのだから使役者が居るはずだという事を。先ほど戦ったゴリラもどき達や、盗賊頭みたいなのが居たのだから、虎に居ないなんて事はないはずである。


(そういえば、ユーナさんが英雄が一緒に襲って来たら危ない。みたいな事を言ってたような気がするな。それが一緒に来ないって事は……何かを狙っているのは確実だ。いや、まぁいい、考えても仕方が無いし一緒に来ないならそれでいい。トドメを刺せば企みも無駄になるはずだろう)


 自分は虎を魔法で倒そうかと思ったが、虎の後ろにゴンドラが見えるのと、何度もゴリラに無効化されているので、虎にも無効化されるのでは? と考え、確実に一撃で決めるため、角の魔力をギリギリまで上げる。そして、低空飛行で一気に貫こうと、自分に<暴風の加護>(ストームブースト)をかけようとした。


(ん……ん?!)


 その瞬間。全身が動かなくなった。

 <暴風の加護>(ストームブースト)を自分にかけることはできた、目も見える、思考もできる。しかし、足一本動かす事ができない。

 すると、今までどこに居たのか分からないが、熊の頭をした人間のような生き物が出てきた。腕には鉤爪が付いた手甲だろうか? そんな物を付けている。そして、虎と一緒に真正面から何か話しながら近づいてきた。

 多分、自分が動けなくなったのはこの熊頭のせいだろう。そして、動かなくなったから出てきたのだろう。まんまと、敵の作戦にかかってしまったと言う訳だ。しかし、真正面、というより視界に居るなら<雷光の大槍>(サンダーランス)で攻撃できる。

 そう考え<雷光の大槍>(サンダーランス)を放つが、それらは熊頭に到達する前に打ち消される。

 他の魔法も放とうと考えたが、熊頭と虎は走りながらこちらに突撃していた。距離的に、放てるのは一発位しかない。


(まずい、ビームを撃つか? いや、それであっても体が動かなければ!)


 そう考えた瞬間、ユーナさんが入っているゴンドラが爆発した。

 いや、正確には破裂したというのだろうか。まるで、限界まで膨らんだペットボトルが破裂するように、紋章が付いていた場所が裂けていた。

 そして、その裂けた場所から何かが発射された。ソレは鎖の形をしており、先端には鉤のような物が付いている。鎖は一直線にこちらに向かって飛んできており、射線上には虎と熊頭が居た。一人と一匹は自分に気を取られているのか、飛んでくる鎖に気がついていないようだ。

 そして鎖は一人と一匹の胴体に絡みつく。その段階になってようやく気がついたのか、熊頭は焦り出した。その慌て振りは酷いもので、顔が完全に毛で覆われているのに顔色が悪くなっているのが分かるほどだった。

 手甲に付いている鉤爪で叩き切ろうとしているのだろう、何度も鎖に鉤爪を叩きつけているが、切れる気配は無い。

 虎の方も、体をひねり牙や残っている爪で鎖を叩いたり噛んだりしているが、傷が付いている位で、その束縛から脱出することは出来そうも無い。

 自分はそのチャンスを逃す手は無いと考え、まずは<雷光の大槍>(サンダーランス)を放つ。

 コレまでの戦闘から考えるに、ゴリラや兵士、そしてこの熊頭や虎は体に魔法を無効化する何かを纏っていると考えられる。

 そして、それは今までの状況から、一定以上の魔法を受けると消滅するとも予想できる。もしくは、任意で無効にできる属性を設定し、その属性からはダメージを一切受けないという物なのかもしれない。

 自分は今体がまともに動かない。そんな状況で切り札であるビームを撃って、何か危険な物が発生した場合それから逃げる事が出来ない。

 とは言え、自分が動けずあと一発しか撃つ時間がないという、さっきまでの状況ならビームを撃つ方が正しいのかもしれない。しかし、相手も動けない今なら、連続して魔法を叩き込む方が安全である。そう考え、持てる魔法の全てを虎と熊頭に向かって浴びせる。

 雷が轟き、炎が舞い、風の刃が飛び、水の鞭が地面を抉り、鉄の塊が殺到する。何度も何十発と叩きこむ。属性反発で目標がそれているかもしれないが、それに構う事もなく攻撃を続ける。

 全力で叩き込み、ようやく少し体が動くようになったところで<暴風の渦>(トルネード)を使い、連続して放った魔法によって発生した土煙を吹き飛ばす。

 そこには、辛うじて原型を留めている虎の残骸が有った。呼吸をしているふうでもないので、おそらく死んでいるのだろう。


(この分だと、熊頭も一緒に消し飛んでいるのか?)


 そう考えたが、どうやらそう言う訳でもなかった。最初の一撃で吹き飛ばされたのだろう。少し離れたところで鎖に巻かれて立っている。しかし、その表情は虚ろで、どうみても心ここに在らずと言った感じであり、明らかに何かおかしい。

 とは言え、動けないで居る敵を逃す気は無い。自分は更に少し動くようになった体を動かし、ゆっくりと近づき熊頭の体を頭角で突き刺した。突き刺す瞬間、熊頭が正気に戻ったような表情になったが、時既に遅く、熊頭はその表情のまま破裂した。


(やっと終わった……。それにしても、怪我らしい怪我はしてないけど、危なかった……体が動かなくなるとか予想外すぎる。誰だ、そんなに強くないって言ったの……ユーナさんだよ……)


 ちょっとげんなりしながらも。ふと思い出す。鎖が飛んできた方向と、自分が魔法を放った方向を。


(ちょっと待て、不味い! ゴンドラが爆発したってことは、ユーナさん死んでるんじゃないのか!? 仮に生きて居てもさっきの魔法の連打で……)


 ゴンドラの位置的に、目標をそれた魔法が当たっていてもおかしくはない。自分は、思わず<念話>(テレパス)を発動しユーナさんに話しかける。


『ユーナさん大丈夫ですか!?』


 繋がったので生きてはいるだろう。意識もあるだろう。しかし、怪我をして今にも死にそうだと言う場合もあるので、そう問いかける。すると、ゴンドラの残骸の裂け目からユーナさんが出てきて、こちらに走り寄ってきた。


『ブリュー! ワタシ ダイジョウブ ブリュー ダイジョウブ?』


 少し涙目になりながら、ユーナさんが飛びかかってくるので、角に当たらないように前足で止める。


『良かった、無事だったんですね』


『ブリュー ケガ ナイ?』


『大丈夫です、それにしてもユーナさん、どこがそこまで強くないですか。あの1人と1体なら、赤いドラゴンも倒せたんじゃないんですか?』


 そう言うと、ユーナさんはシュンとして雨に濡れた子犬のような雰囲気を出す。


『ゴメン デモ カッタ』


『簡単に言いますけど……そういえばあの鎖はユーナさんの魔法ですか?』


『チガウ カゴ ツエ フル デル』


『なるほど、行く前に話していた助けになる、と言っていた機能ですね』


『ソウ タスカッタ?』


 瞬間、ユーナさんの子犬オーラは消え、ドヤ顔である。自分は、呆れたような、疲れたような、そんな気持ちになった。だけど、同時になんだかホッとした。


『一番危ないところを助けてもらいましたよ、ありがとうございます』


『ヨカッタ』


 そう言って、ユーナさんは笑顔をみせる。周りを見れば、熊頭がやられたためだろうか? 王国の兵士達は何か大声で言いながら森へと逃げていく。同じ言葉を連続して言っているのと、周りの帝国兵の様子からして「撤退!」だろうか?


『どうやら終わったみたいですね』


『オワリ ブリュー モドル』


『それは砦までですか? それともアランさんの所でしょうか?』


『アラン』


『わかりました、少し待って下さいね』


 自分は虎の残骸に近づく、丁度胸の辺りだろうか、光る物がある。まずは肉を食べてみる。思わず声、いや、無意識に羽も鈴虫モードになり、鳴き声を出す。


「美味しい!」


 そのまま一気に貪りはじめる。噛みついた瞬間に、ユーナさんがモッタイナイみたいな事を言っていた気がするが、気にしない。


(美味しい、なんだろう、ハンバーグ? 肉の旨みが染み出してくるような味だ。コンガリと焼けてるからかな? それにしても、骨まで美味しいのは凄いな。いや、空腹だからか? 多分そうだけど。そのあたりが分からないのがなぁ……気がついたら餓死は嫌だ。いや、餓死の前に暴走するんだろうな)


 そんな事を考えながらも、綺麗に全部平らげた。もちろん、光る何かも含めてだ。白いビー玉のような核珠だった。食べようとすると、ユーナさんが悲しそうな顔でこちらを見ていたが、無視して食べた。あーとか言っていたが無視だ。これまで同様、何かが入ってくるような感じがした。


『お腹も膨れましたし、戻りましょうかユーナさん』


『モドル オネガイ』


 そうしてゴンドラ、いや籠だったか? の前に戻ると、グチャグチャになった何か金属製の残骸があった。


(ユーナさんの無事を確認した時に見えてたけど……これは酷い)


 片方の先が破裂して裂けているだけかと思っていたが、鎖に変わってしまったのか、無事だと思っていた反対側の方の半分が消滅しており、もはや銀色の輪になっていた。


『これには……乗れませんね』


『ブリュー ハコブ イイ?』


『別に大丈夫ですよ、疲れたと言っても精神的な物ですから』


『オネガイ』


『はい、じゃあいきますよ』


 ユーナさんに<鉄の装甲>(アイアンアーマー)を念の為かけ、前足で角に触れないように掴む。残骸はどうするか考えたが、こうなってしまってはどうにもならないだろうと、放置した。そして、自分とユーナさんは野営地に戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ