第16話 救援と戦場
音に迫る速さで空を翔る。
早朝に出発し、現在は昼頃だろうか? 既に火山は見えてきている。そろそろ目的地だろうか? しかし、ユーナさんからの反応は無い。なら、まだなのだろう。
火山を右に見て通り過ぎる、すると遠くに黒煙が上がっているのが見える。恐らく、そこが戦場となっているのであろう。
(さて、どうしたものか。まだ降りろとも何とも言われてないしなぁ……あ、そうか、緊急だから戦場に直接降りて、そのまま戦闘に入るのか? そうか、だからこの頑丈そうなゴンドラを用意したのか。形勢不利とかも言ってたなぁ……なら派手な方がいいのか? 取り敢えず、どっちが助けるほうだろうか?)
近づくにつれ、戦場の様子が見えてくる。 西の方、つまり前方にそれなりに深い森が広がっている。
その手前は草原で、開けた場所になっており、そこで、二色の集団が争っていた。
遠くに見える西側、つまり森側には、全体的に青っぽい兵士が隊列を組んでおり、その周りには、様々なモンスターが居て、自分から見て手前の赤い兵士を攻撃している。掲げている旗は青く、盾を抱えたライオンの紋章が描いてある。
対して、手前に見える東側、つまり草原側の方は、全体的に赤っぽい兵士が隊列を組んでおり、戦ってはいるのだが、歯が立たないといったような有様で、逃げるようにジリジリと後退しているようだ。
掲げている旗は赤く、盾を抱えたドラゴンの紋章が描いてある。
(赤が助ける方ならば、かなりギリギリじゃないのか? たしか、緊急の救援要請をしてたのはアランさんだったはず。それに、あの赤い旗の紋章は、抱えてるこのゴンドラの先端に付いている物と同じだ)
ここまで近づいたのだから、そろそろユーナさんから指示が来るかと思っていたが、何もない。
(ユーナさんに確認したい所だけど、さっきから何度<念話>をかけても切れてしまう。寝ているのかな? まぁいいか、多分、青が敵だろう。もしも間違っていたら……そうだな。兵士の近くのモンスター狙った、そう言い訳をしよう。そろそろ魔法の射程圏内だ)
それでもやはり、一応確認はしておきたかったのでユーナさんに<念話>をかけるが、反応はない。
(流石におかしいか。中身の意味でも現状的にも確認したいけど無理だな。なにもしなければ赤がやられそうだし……賭けみたいになるけどやるしかない)
そう考え、帯のような隊列を組んでいる、敵と思われる青い西側の兵士の右端の方に回りこむ。そして、そのまま一直線に敵の一団に突っ込んでいく。
まずは突っ込む際に<雷光の大槍>を放つ。五本の角の先から、各一本ずつの強烈な雷が発射される。放たれた雷は、青い兵士の隊列の端に殺到し、その威力を発揮する。
魔法が直撃した地面は、威力の為に破裂し、そこに居たであろう存在は、一切合切を黒い炭へと変えられてしまった。
直撃を受けなかった周りに居た人間も、酷いものなら軽く炭化、良くても瀕死だろうか、ピクリともせず地に伏せている。もちろん、それは近くに居たモンスター達も例外ではなく、雷が落ちた地点は、死屍累々といった有様であった。
そうして開いた場所に、自分はスピードを落とさず飛び込む。その際、自分とゴンドラに、水属性以外の装甲をかける。
全身の甲殻が金属のような光沢を持ち、暴風雨が荒れ狂う嵐のような物と、炎の竜巻に稲妻が混じった物が合わさったような物に、自分は包まれる。一つ一つが違う属性の魔法なので、お互いに反発しあい、制御しなければ今にも爆裂四散しそうではある。
そんな状態を、自分は無理やり抑えている。しかし、完全には抑えられないようで、全体的に一回りほど大きい範囲になっている。
具体的に言えば、相乗以上に広い視界を持っている自分の視界が無くなる程の状態である。しかし、無視する。なぜなら、既にまっすぐ飛び込むだけなのだからだ。
そんな事を考えながら、訳の分からない自然災害の塊のような姿で飛び込む。着地、と言うよりは墜落に近いような勢いで落ちたせいだろう。まるで掘削機で地面を削っているような、そんな音と振動が、地面と接しているゴンドラから来る。
(あ、これ思ったよりユーナさんが危険かもしれない)
思ったところで、既にやってしまった後である。ある程度地面を削り散らしながら進み、完全に止まったところでゴンドラから足を外す。
そして、自分自身も地面に降りる。そこで<鉄の装甲>以外を解除し、ユーナさんの無事を確認しようとしたのだが、自分が落ちてた衝撃で、周りには土煙が立ち込めており、魔法を解除しても、何も見えない。
仕方が無いので<暴風の渦>を、自分を中心にして発動する。自分を中心に竜巻が発生し、様々な物を巻き込み、天高く巻き上げ吹き飛ばす。
時間にして数秒ではあるが、それを解除すると土煙も晴れ、視界も良くなった。しかし、そこは酷い有様だった。
自分が落下した地点から、今の位置まで、まるで隕石が落ちたかのような焼け焦げた跡があった。その跡の周りには、多分巻き込まれたのだろう、色々な肉が焼肉状態になっていた。
(あ、やばい、これは酷い、思っていたより酷い。いや、こんな感じとは思っていたけど、思っていたのとちょっと違う。何が違うって、全員に怯えられている。しかも、ここ多分、突っ込んだ隊列の反対側の端だ……つまり、青い方を全部轢いた? よし、うん、大丈夫、多分敵、敵……だ?)
見れば、運よく生き残った動くことのできる青い兵士は、振り返りすらしないでほうほうの体で森へ逃げていく。
赤い兵士は、最初こそ怯えた表情だったが、自分が抱えてきたゴンドラの紋章を見ると安堵し、勝ち鬨を上げ、喜んでいる。
(よかった! 正解だ、赤いのがアランさん、青いのが敵王国だ。これで間違えてたらどうしよう、とか考えたけど、本当によかった)
そう考えながら、自分は再度ゴンドラを抱え、兵士達の近くに移動する。すると、兵士の間から真紅の騎士が現れた。前回自分を襲ってきた時とは違う鎧と武器だが、多分アランさんだろう。
そう思い見ていると、深紅の騎士は兜を外した。すると、金髪に赤色の入ったイケメンさんが出てきた、この顔はアランさんだ。
アランさんは、こちらを少し睨む様にじっとみつめ、何か言った後、カプセルに近寄り扉を開け、中に入った。すると、中で何か騒ぎだした。
(何かあったんだろうか? あ……そうか、そういえば中にユーナさんが居るけど、冗談半分真面目に急いでいるっての半分で最大速度に加速したんだった……。騒いでるって事は、もしかして気絶してたりするのかな? そうだったら悪い事したなぁ。ちょっと驚かせるだけのつもりだったんだけど……やりすぎたかな?)
反省していると、アランさんがユーナさんを抱きかかえて出てきた。そして、少し焦った様子で近くの兵士に何か言った。話しかけられた兵士は、急いで隊列の方に戻り、白い服を着た人を連れて来た。その人が、ユーナさんに近寄り手をかざす、そしてブツブツと何かを言うと、手が光った。
(あっちゃー気絶してたか。でも、何しているんだろう? 気絶なら治療なんて要る……あー、頭でも打ってコブが出来たりしてるのかな?)
どうしたものかと眺めていると、遠巻きに眺めていた兵士達が、ゆっくりこちらに近づいてくる。どうやら一番下っ端のようだ。
何故そう思ったかと言うと、色々と酷かったからだ。鎧は動物の皮と薄い金属で出来ているようだが、さっきの戦闘でボロボロになっている。
味方と判断できる材料は、首に巻かれた赤いスカーフと、辛うじて残っていた肩部分の鎧に付いた帝国の紋章だけだ。一歩間違えれば、盗賊みたいな装備である。
ちなみに、こちらに近づいて来ない兵士達は、みんな赤いラインが肩の部分に入った、金属製の鎧を着ている。
(何の差なんだろう? 正規兵と民兵の差とか? いや、徴兵とかかな? 帝国とか言っていたし。あ、練度? か、何かそういう物の差か? なんでもいいか)
じっと見てみても、鎧や武器が違うだけで、金属製の鎧を着ている方が技量もあって強そうだとか、そういう雰囲気を感じる事は無いし、正直どうでもいいな。と、思ってしまったので考えるのを止めた。
(そういえば、何故か帝国って聞くと、圧政を敷いてたり、力こそ全て! みたいなイメージがある。そう考えたら自分は、悪の帝国の秘密兵器か……凄く響きが格好良いな……でも、そうだとすると、最後は勇者とか英雄とか共和国とかに討伐されちゃいそうだな。まぁそうなる前に逃げるけどさ)
等と、どうでも良い事を考えていると、近くに来ていた兵士が角に触れかけたので、触れないように角を動かそうとした。しかし、結構な数の兵士が近づいてきているので、どう動かしても誰かに当たる。
なので、慌てて纏っている魔力を治療効果に変える。結果、触れた瞬間、その兵士の傷がすべて治る。当然、兵士は驚く、角に触れた瞬間に傷が治ったのだから。
それを見た兵士は周りの兵士にそれを言う。そのため、一気に人が集まってきた。当然だろう、触るだけで傷が治るのだ、誰だって触れたくなる。
(うおおお!? 間違っても舐めるなよ?! 気持ち悪い死最悪死ぬぞ!)
一応救援というお題目でここまで来たので、この状態を維持する。最初は危惧していた角を舐めようとする者も出てこないようなので、触ってくる兵士たちを観察する。
(なんだろう、何か思い出しそうだ……。ああ、あれだ、子供に群がられるマスコットだ……こんな凶悪な顔したマスコット居てたまるか。って、つっこみが来そうだけど)
自身の姿を思い出し、いわゆるテーマパークにこんな物があったらどうなるかを想像すれば、意外と普通なんじゃないのか? という結論に至った。ただ、マスコットではなく何かしらの催し物だろう。
(と言うか、下らない事だけど思い出したって事は、今少し記憶が戻った? いや、知識としてあるのが出てきたのか?)
状況としては何かを摂取したわけではないが、その可能性がある。ただ、今回に関してはとっくに戻って来ていた記憶を状況と照らし合わせて認識した。と言う感じを受けた。
(まぁどっちでもいいか。それよりも、周りに兵士さんが集まりすぎて、何も見えない……。厳密に言うと真上と遠い所しか見えない)
別に問題はないのだが、ユーナさんがどうなったかが気になる。おそらく、この兵士達の山の向こうで治療を受けているのだろうが、兵士達が邪魔で見えない。
(邪魔だなぁ……でも助けに来たから何か危害を加えるのもあれだしなぁ。言ったらどいてくれるかな?)
共有語を話すことはできないので、自分は「ギューイギューイ」と、威嚇音を鳴らした。すると、兵士達はぎょっとしたような顔で小さな悲鳴を上げ、一気に自分から引いた。
(流石、威嚇音。さて、ユーナさんは大丈夫だったのかな?)
そう思った所で、群がっている兵士達の間から、アランさんがユーナさんを抱えて出てきた。何か自分に向けて話しているけど、やっぱり何を言っているのか分からない。
(やっぱり、共有語をしゃべれなくてもいいから理解したいなぁ……。精霊と話せるのは良いのかもしれないけど、一番多い種族とコミュニケーションを取れる手段が無いのは駄目だ)
色々言った後、アランさんはユーナさんを自分の前に横たえた。地面に横たえられているユーナさんは目を瞑っている。胸が上下している所を見ると、死んでは居ないのだろう。
しかし顔色は悪く、呼吸も荒く、不規則である。見た目には分からないと言う事は、骨でも折れているのだろうか?
(あれ? さっき魔法で治療されてなかったっけ? 取り合えず、角で触れておこうか。自分のせいで、こうなったのかもしれないし。いや、かもじゃなくて確実に自分のせいだ、ふざけすぎた。多分何も言わなかったから立ってたんだろうな。そこで急加速したもんだから勢い良く後ろに倒れて……それってかなり危険じゃない?)
少し慌てながら自分がユーナさんに角で触れると、顔色も良くなり呼吸も落ち着いてきた。どうやら本当に危険な状態だったようだ。アランさんも表情はそこまで変わらないが、ほっとしたような雰囲気をだしていた。
(もしかして、本当に地味に危険だったのかな……いや、これは反省しないといけない)
治療は終わったので、アランさんがそのままユーナさんを抱えるのか、と思って居たのだが、自分の前に置いたまま、野営地のような所へ行ってしまった。
まさかの地面に置いたまま放置である。ついでに、自分に群がっていた兵士達にも何か命令していたようで、兵士達も解散していった。
そして、周辺の自分が轢き殺した敵の装備や、モンスターの必要な部位を回収したり、まだ生きている敵にトドメを刺したりして回り始めた。
そんな兵士達を眺めながらしばらくすると、ユーナさんが目を覚ました。ぼそぼそと、何かを言っていたが、ゴンドラの外に居る事に気が付いたのだろう、突如起き上がり、周りを見回している。
「ココ ドコ?」
ユーナさんは微妙に焦点の合って無い目で自分の方を見つめ、首に手を当ている。
「アランさんと合流して助けたところですよ、任務完了ですね」
自分は、今だキョトンとしながら周りを見回しているユーナさんに、任務の終了を告げる。しかし、ユーナさんは、周りの兵士達が拾ったり、トドメを刺している相手を見ながら難しい顔をしている。
「どうかしましたか?」
「グレゴリー オーバン オオキイ トラ タオシタ?」
「グレゴリー? トラ? 虎ですか、大きいってどれくらいですか?」
「ブリュー オナジ」
「大きいですね……似たようなのは居た気がしましたけど、そこまで大きいのは居ませんでしたね」
「ソウ シレイ マダ オワリ ナイ」
「もしかして、その大きい虎が、ユーナさんが言ってた、Aランクのモンスターですか?」
「ソウ ソレ タオス シレイ」
どうやら今のは前哨戦のような物だったらしい。しかし、それで負けかける帝国とは……。
「つまり、その大きい虎を倒すまでこの任務は継続なんですね?」
「ソウ ブリュー オネガイ ダメ?」
「行く前にも言いましたが、取り敢えずは手伝いますよ。取り敢えずですが、それよりも約束守ってくださいよ?」
「ウン アリガトウ」
「ならいいです」
(しかし、自分と同じ大きさの虎かー……ビームを使う事を覚悟しといた方がいいのか。危なくなったら即発射だな、死にたい訳じゃ無いし)
そこでリネルに言われた事を思い出す。そして、使っても大丈夫な所か角を見れば、揺らぎはあった。どうもここで使った場合は歪みとやらが発生するようだ。
(駄目か。でもなー……使わないとどうにもならない状況ってのが来るかもしれないしな。だからといっても、使って精霊に嫌われるのも嫌だなぁ……。いや、説明すれば分かってくれるはず。一番いいのは使わないで倒せる事だけど)
ここに来る前のユーナさん曰く、火山のドラゴンに比べれば弱いとは言われていたが、油断は禁物である。
(なんだっけ、Aランクだっけな? 前のドラゴンがAAランクって事は一つ下のランクだろうか。やっぱり、AAAランクとかSランクとかXランクとか、もっと上が居るのだろうか? その辺も聞いておきたいな。そうだ、混沌の大樹海の深緑の竜とか、街に行く時に会ったドラゴンとかのランクも知っとけば、対策が立てられるはず。というか、比較対象がドラゴンばかりだな。そういえば、どれも美味しかったな……。もしかして、強い奴は美味しいのか? ドラゴン以外で美味しかったのは……漆黒大梟とか居たな。そのランクも聞いておこう、強いならこの仮説は当たりだ)
そう思い、自分と同じように作業する兵士達を眺めていたユーナさんに聞こうとすると、一人兵士が馬に乗って走りこんでくるのが見えた。
表情は強張っており、何かあった雰囲気を纏っている。眺めて居ると、回収作業に当たっていた兵士の一人がそれを止め、話を聞きだした。
そして、話を聞いている兵士の顔色はどんどん青冷めて行き、野営地の方へ走り去っていった。話した方の兵士は、疲れきった表情でその場に座り込んでしまった。
「何かあったみたいですよ、ユーナさん」
「キキニイク」
そう言ってユーナさんも行ってしまった。なにもする事がないので、しばらく羽をパカパカさせて待っていると、ユーナさんが戻ってきた。
「テキ クル タイグン」
「そうですか、それと戦うんですか?」
どうやら、任務完了ではないと言うのは本当だったようだ。そして、ユーナさんの雰囲気からして本番のようだ。
「ソウ テキ ホンタイ コッチ スクナイ アイテ バイ」
「相手の本隊でこちらの倍の数ですか。なんでそんな所と事を構えてるんですか……ああ、攻めてきたんでしたね、そう言えば」
「テイコク マモル オネガイ? ダメ?」
(なんというか、ユーナさん、雨に濡れた子犬の雰囲気を出しているな。というか、さっきの会話でいいよって言ったはずなんだけど……あれ? 言ってなかったか?)
「いいですよ。取り敢えず、目標は大きい虎を倒せばいいんですね?」
「ソウ オオキイ トラ タオス アト クマアタマ タオス」
「クマアタマ? 熊頭ですか? 何ですかそれ、モンスターは二匹居るんですか?」
「クマアタマ モンスター チガウ モンスターテイマー」
なぞなぞじみた事を言ってくるユーナさん。熊の頭をしているのなら、モンスターではないのか。
(モンスターではなくて、敵軍に居る熊頭の生き物? 意味が……)
そこで、ふと思い出す。そういえば人間に分類される生物の中にそれに該当する者が居たことを。
「ああ、獣人ってやつですか?」
「ソウ ジュウジン ミタメ ケモノ」
(そんな存在も居るのか、というかケモノって……そうなると獣人ってやつは、立って歩く獣みたいな見た目なのか? 食べたら、いや、多分人間系に分類されるんだろう、食べたら色々問題になりそうだ。それに、人間ならそんなに美味しくないんじゃないのだろうか。さっきも考えて居たけど、美味しいのは強いと言われているモンスターばかりのような気がする。あれ? それならアランさんみたいに、強いとされているであろう人間も美味しいのか?)
ランドルフを食べておけば良かったかな? と、そこまで考えてきたところで、すっと正気に戻る。
(あっぶねぇ! 怖ぇ~……今普通に人を食べるか否かを考えてた……今のが本能に引っ張られている状態か? ちょっとまてよ? って事は今自分は空腹なのか? ちょっとまずいか)
このまま戦闘に突入したとして、いきなり見境が無くなった場合どうなってしまうのかを想像する。間違いなく大参事である。土の中での事を思い出せば、敵も味方も関係なく、食い散らかすような動きをするような気がする。
(どうする? いや、どうしようもないな。考えても仕方がない。状況的にはすぐに戦闘になるだろうし、何かを食べてる時間は無いだろう。それなら、さっさと大きいトラとやらを倒して食べるのが良い)
自分がそんな風に考えて居ると、ユーナさんが訝しげな表情で話しかけてくる。どうも、自分が色々と考えている間も説明をしてくれていたようだ。
「キイテル?」
「あ、すみません。本隊を倒すんですね、分かりました」
結局、自分が戦い勝つしかないので、聞いていても聞いていなくても一緒なのでおざなりに答える。すると、ユーナさんが少し困ったような表情になる。
「ゴメン」
「なんで謝るんです? 自分の意思で来ているのだから仕方ないですよ」
そう答えれば、今度は覚悟を決めたような表情になる。
「アリガトウ」
「いえいえ。さて、じゃあどうしたらいいんです? こう、段取りみたいな物があるんじゃないでしょうか?」
「ブリュー ワタシ ユウゲキ モクテキ タイチョウ クマアタマ タオス」
要約された結果なのか、その程度しかないのか、突っ込んで殺せという簡単かつ無茶な事を言い出した。
「つまり単騎で突撃して、敵の親玉を倒して逃げるって事ですか?」
「ソウ スゴイ キケン」
凄いどころではない。戦力さが倍と言った上で単騎駆けしろと言い出す。遠まわしに死ねと言っているような物である。
「確かに危なそうですね。と言うか、無茶ですね。逃げても良いんでしょうか?」
とは言え、ここに来た時の事を考えれば、恐らくいわゆる一般兵士と言った存在は、自分に対して無力であろう。四つの防御魔法を展開して突撃すれば同じような結果が待っているはずだ。もしかすればそれだけで熊頭とやらも撃破できるかもしれない。
(あ、そういえばこんな事を言うとまたユーナさんが踊りだすんじゃ……)
しかし、見ればユーナさんは微笑みながら首を振る。
「ニゲル シカタナイ ムチャ イウ ワタシ」
どうやら踊る気は一切ないようだ。腰に付けた香炉にも手を伸ばさず。まっすぐ、自分のほうを見つめてくる。
(あれ? こんな時に拒否や否定の言葉を自分が言うと、焦って踊っていたのに……ユーナさん、精神的に成長したんだな)
謎の立ち位置からの、変な感動を覚える。それはともかくとして、確認に移る。
「冗談ですよ、遊撃隊として行動、目標は敵の親玉の熊の獣人と大きな虎ですね? それを終わらせれば、ここでの行動は終了。それでいいんですね?」
「ソウ オネガイ カゴ モツ ワタシ ノル タスケル」
そう言いながらユーナさんは、自分が運んできたゴンドラを指差す。どうやらユーナさんも一緒に突っ込むようだ。
「ゴンドラは持ちますけど、ユーナさんが乗る意味はあるんですか?」
正直な話をすれば邪魔である。しかし、何かしら話し合いの必要性が出た場合、自分では対応できない事を思い出す。
「ゴンドラ? カゴ? ワタシ ブリュー タスケル」
「ああ、これ籠だったんですか。助ける……まぁ確かに助けてもらう必要がでるかもしれません。それはそれとして、武器とか持ってます?」
ユーナさんを見れば、腰に付けたあの山賊を殴り倒した香炉以外に武器になりそうな物が見当たらない。しかし、ユーナさんは笑顔で腰に付けていた短い杖を自分に見せてきた。行く前に気持ち悪い男に渡されてた物だ。
「コレ」
「それ、武器だったんですか。杖って事は、ユーナさんって魔法とか使えるんですか?」
思い出すのはハイエルフの街での魔法である。しかし、あれは錫杖のような、長い杖を持って使っていた。詳しい事は分からないため、確信はないが、ユーナさんが持っているような短い杖ではそこまで強い魔法が使えるようには見えない。
「スコシ タスケ ナル」
正直、これまで魔法を使って居なかったユーナさんの魔法を当てにしろ。というのは、厳しい気がする。とはいえ、連れて行く理由も会話のため程度なので少し弱い。
「下手についてこられると、気が散って邪魔になるんですが」
「ワタシ イク ブリュー シエキ フリ」
そこで思い出す。一応自分はユーナさんに使役され、この場に来ていると言う状態である事を。
(そうかー……ああ、そういう事にしとかないと、いつ暴走するか分からない扱いで、味方からも攻撃されたりするのかな? するだろうな。そうなると、たしかに面倒くさいな)
青い兵士に押されていた帝国の兵士達の攻撃は、兵士達を近くで見たのもあって一切自分には効かないと思えるのだが、大きな虎と戦っている時にちょっかいをかけられ、気を散らされる可能性があるのは歓迎できる事ではない。
「仕方ないですね、できるだけ自分から離れないようにしてくださいね?」
仕方がないので、連れて行く事にする。しかし、やはり連れて行っても邪魔になる。と言うより面倒になるような気しかしない。
(どうにか思いとどまってもらう方法は……待てよ? 連れて行って、万が一ユーナさんがやられてしまった場合。それでも自分は、帝国側から狙われるのでは?)
と、一瞬思いつき、それを理由に連れて行けない。と、言おうと思ったが、そもそも連れていかなければ狙われるという話をさっきしていた事を思い出し、完全に諦めた。
そんな事をぐるぐると自分が考えているのを知ってか知らずか、ユーナさんは「ワカッタ」と言うと、ゴンドラ、いや、籠に乗り込んだ。それを確認してから、自分は<念話>に切り替え、羽を消す。
『じゃあ行きますよ。また転んだら危険なので、できれば到着までは座る……いえ、できるだけ姿勢を低くして頭を守っていてください』
『ワカッタ ソレジャア オネガイ』
ユーナさんの答えを聞き、自分は籠を抱え上空に向けて飛翔する。それを確認したからだろうか、地上ではアランさんの号令の下、兵士達が陣形を組みなおし始めた。
森の方を見れば、木々の間から、大きなモンスターを連れた青い一団が出てくるのが見えた。その一団の真ん中には、背中に人を乗せた、白い大きな獣も見える。
(あれが言っていた大きな虎だろうか? たしかに大きい。背中に乗ってる人……なるほど、熊頭だ。あの熊頭が人間と同じ大きさだとしたら……大きな虎は、人間なんて文字通り一飲みにしてしまうだろうな。でも、あれを倒せば終わりだ、一気にいこう。赤いドラゴンの時のような失態はもうしない)
自分はそう考え、下でアランさんが率いる兵達が動き出したのと同じタイミングで、敵に向かって飛んだ。
●ルケーノエクセレントエミッションもしくは、マ●ナムトルネードか超級●王電影弾




