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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
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第15話 約束と指令

 馬小屋に入って来たユーナさんの顔には、喜びと驚きが半々、という複雑な表情が浮かんでいた。


(どんな表情だよ……そうか。自分はそう言えば、今の今まで寝てる感じだったな。赤い……なんたらドラゴンと戦った後、二週間も)


 戦闘終了後の反応や、上級三段を使ったのに押し負けていた事を考えれば相当な存在だったことがうかがえる。そんなものと戦って、帰ってきたら二週間も完全停止していれば、どう考えるだろうか。


(そりゃあ、色々悪い想像もするだろうね。心配もさせるだろう。そういえば、アランさんの報酬はどうなったんだろう? ちゃんと、何か情報を貰えたのかな?)


 そう思っていると、ユーナさんが飛びついてきた。慌てて角を大きく開き、前足を使って頭角に触らないように、ユーナさんを受け止める。

 何か言っているけど、何を言っているのか分からない。精霊語ではないからだ。そこで一つ思い出す。


(そういえば、言葉も教えてもらおうとか考えてたなぁ。というか、心配をかけたのは悪いけど、早く落ち着いて退いてくれないかな)


 そう思っていると、自分の考えを理解したのか、一通り騒いで落ち着いたのかユーナさんは退いてくれた。


「ブリュー シンパイ シタ」


 予想通り心配をかけてしまっていたようだ。よく見れば、ユーナさんには薄っすら隈が出来ているようである。


「ごめんなさいユーナさん。取り敢えず、今はどうなっているんですか?」


 とはいえ、状況確認が先である。すると、とんでもない事をユーナさんは言い出した。


「ジョウホウ ナカッタ センソウ シテル」


「情報は無かった? いえ、それよりも戦争って……えー? 何かあったんですか? と言うか、ユーナさんは巻き込まれている感じですか?」


「ソウ センソウ シュツゲキ ワタシ ブリュー イッショ」


 どうやら巻き込まれているようだ。と言うより、この国が戦争状態になっているなら、当然この国に所属しているユーナさんは参戦することになるだろう。そうなると当然自分も巻き込まれる事になる。


「あぁ……そういえば、自分の立場って何になるんですか? 流石に人間扱いじゃないと思いますけど、やっぱり、猛獣使いの猛獣扱いですか?」


「ソウ ワタシ シエキ ブリュー ヒミツヘイキ」


「あー、やっぱりそういう感じですか……まぁでも、仕方ない、と言えば仕方ないんですよね。というか、ヒミツヘイキ? 秘密兵器ですか……」


 そこで考え込む。どうするのが一番良いのか。仮に自分が逃げたとしよう。そうなった場合、多分ユーナさんは色々と面倒くさい感じになってしまうんだろう。何せ国の秘密兵器を勝手に破棄したような物である。場合によっては他国に拾われるような方法でだ。そうなると、ユーナさんは酷い事になりそう……いや、ひどい事になる。


(これは逃げると決めたら、ユーナさんを連れて逃げるしかないか……しかし、秘密兵器か。なんだかちょっと格好良いな)


 等とどうでもよい事を考えていると、ユーナさんは心配そうな様子でおずおずと問いかけてきた。


「イヤ?」


「嫌か? と、聞かれると嫌な感じはしますけど、仕方ないでしょうし。現状、情報を入手するならユーナさん経由で教えて貰うしかありませんしねぇ。そもそも、今更のこのこ他国へ行っても取り合ってもらうのに信用がないでしょうし、どうしようもないでしょう。だから、秘密兵器扱いにしても、猛獣扱いにしても正直どっちでも良いです。あ、でも居住環境はもう少しなんとかして欲しいですね」


「ヨクワカラナイ」


 はぐらかされたのか、精霊語を理解していないのか、どっちなのかは分からないが、ユーナさんは困ったような笑顔を浮かべる。


「まぁ、こちらの話なので。ところで、情報は本当に無かったのでしょうか?」


「コノアタリ デンショウ デンセツ ナイ ザイゴッシュ オウコク アル」


「つまりザイゴッシュ王国? にはあると?」


「ソウ」


「なるほど、分かりました。ザイゴッシュ王国に行けば情報を得られるんですか。じゃあ、その国に行きましょう」


 そこで閃く。そのまま王国とやらに亡命してしまえばいいのでは? と。


(さっきは却下したけど、別にこの国と仲が悪くなければ、それもありだな。帝国からは睨まれるかもしれないけど、そこはまぁなんとかできるだろう。多分。それに、ザイゴッシュ王国とやらに入った後に何かしら手柄を立てれば、ユーナさんの地位も上がって守りやすくなるだろうし、情報も集められる! 完璧なシナリオだ)


 等と考えていたが、ユーナさんの次の一言でその考えは丸ごと却下となる。


「コノクニ ソコ センソウ」


 まさかの現在の敵国である。


(なるほどなるほど……駄目だ。敵国に自国の秘密兵器と一緒に亡命するとか、どう考えても使い潰される未来しかない。と、言うかそれでも良い方だ。最悪、入国と同時に討伐される)


「あー……なるほど、それで、ですか」


「センソウ イク オウコク タオス シハイ ジョウホウ ハイル テガラ ジョウホウ ハイル」


 なんとも物騒かつ単純な理論を展開するユーナさん。片言である事とあいまってひどく脳筋感が滲み出るような事を言っているように聞こえる。


「そんな簡単な話しでもないでしょう……」


 とにかく戦闘……いや、戦争か? は回避できないようだ。ならば、対応できるように情報が欲しい。もちろん敵になる相手のものだ。


「まぁ、うーん……取り敢えず、その辺りは置いておきます。それよりもユーナさん、英雄と呼ばれてる人は出てくるんでしょうか? ああ、もちろん敵にですよ?」


「オウコク モト エイユー ゴニン イル」


「モト? 元ですか、英雄に元とかあるんですか……」


 英雄、恐らくランドルフだったか? あの旅人のような人間。荒事に慣れたような者で、その称号に元と付くならば、一線を退いたと予想できる。


「元ということは、自分を殺そうとした、英雄のランドルフさんと比べると弱いんですか?」


「ランドルフ オナジ ウエ」


 しかし、予想は裏切られてしまった。オナジ ウエ と言うならば恐らく以上という事だろう。


「上、それは手強い……能力的に上ということでしょうか?」


「ソウ ツヨイ」


 一応確認をすれば、ランドルフより強いようだ。しかし、ランドルフは言っては悪いが簡単に対処できた。なので、同じか少し強い位なら恐らく問題なく対処できるだろう。だが、大きく差があった場合その限りではない。


「なるほど……比べ物にならないほどですか?」


 そう危惧している事を聞くと、少し考え込んだのち険しい顔をしてユーナさんは答えた。


「ヒトリ スゴク ツヨイ モンスターテイマー」


 どうやら、圧倒的に強い者がいるようだ。しかも、ヒトリ.、一人だろう。と、付けているところを見ると元英雄とやらは複数いるようだ。


「モンスターテイマーが強いんですか。一人と言いましたが複数いるんですか?」


「イル ゴウケイ ゴニン」


「五人……その内の一人が強いだけで、他はそれほどでもない感じですか?」


 またしても険しい顔で唸りながら考え込むユーナさん。しかし先ほどよりは、すぐに結論が出たようだ。


「ウーン……ホカ ツヨイ ゲンテイ」


「ゲンテイ? 限定……限定的な強さと言う事でしょうか?」


「ゲンテイ ツヨサ フアンテイ」


 なんともあやふやである。しかし、結局のところ脅威であるのは一人、モンスターテイマーとやらであるようだ。


「う……ん? まぁ、気をつけるのは、一人だけなんですね?」


「ソウ」


「そうですかー……どうしましょう? 無いとは思ってるんですけど、戦争に出ないって選択肢はありますか?」


 あやふやにあやふやが重なっているため気乗りしない。と言うか、人間同士の戦争に参加するために混沌の大樹海から出てきたわけではない。とは言え、現在の自分の置かれている状況というのか、立場というのか、そう言った物から考えた場合、不参加はできないだろう。


「ナイ」


 案の定、できないそうだ。


「ですよね」


 参加が確定として気になるのは、その強い元英雄とやらである。ランドルフよりも圧倒的に強いと言うのが、どの程度なのか分からないのが恐ろしい。


(戦って無傷とは言わずとも、殺されずにすむ程なら良いんだけどなぁ。一番良いのは無傷で勝利だけど、あの火山で戦った赤いドラゴン……そうだ、真紅の竜ディープクリムゾンドラゴンだったか。あれより強かったらビーム撃たないと駄目……いや、戦う場所がどこになるか分からないけど、まさか危険地帯と呼んでるようなところでぶつかるわけないからビーム抜きで倒せってなるのか……真紅の竜ディープクリムゾンドラゴンより強いかもしれない相手と)


 そう考えると、一気に戦いたくなくなってきた。トラウマというほどではないが、好き好んであんな状況になるような相手と戦いたいわけではない。


「うーん……やっぱり出ないってのは……」


「ナイ デキナイ ゴメン」


 少し落ち込んだ様子でユーナさんが言ってくる。


「いえ、はい諦めます。出ますよ」


 おそらく自分が拒否し続ける限りどこまでいっても平行線だろう。どころか、王国が勝って攻め込んできた場合、ユーナさんの立場も悪くなるだろうし、この国の規模が分からないから言い切れないが、最悪の場合飲み込まれて消滅し、ここまでの努力が無に帰す可能性もある。

 それに、ユーナさんについていく限り、この手の荒事を投げられるのは必然であろうし、それ以外で情報その他に支払う方法が思いつかないので、仕方がない部分もある。


(かと言って安売りする気はない)


「出るのは良いんですがね。それでも、良い様に使われてる気がするのが嫌なんですよ」


「ソレハ……」


 ユーナさんが何か言いかけたが、食い気味に話を続ける。


「いえいえ、情報でもなんでも、何もせずに貰うってのは虫が良い話しですよね。それは分かっています。でも、そちらが知りえているか、そもそも存在するか分からない情報だけで戦争、つまりは命を懸けろと言うのは……と、思いませんか?」


「ソウ……ソノ トウリ デモ」


 前脚を出して制す。


「命令を無視して出ない。って言うわけではないんです。そうですね……では、情報とは別に、自分専用の厩舎をお願いします」


「ジョウホウ イイ キュウシャ ワタシ イチゾン ムリ」


「でしたら、できたらでお願いします。最悪、自分専用のスペースがあればいいんです。馬小屋の中も慣れましたが、やっぱり、土に潜りたくなってしまうんですよ」


 結局のところは馬小屋のようになってしまうのだろうが、なんというのだろうか、自分自身の? いや、専用だろうか。そういった個人の領域が欲しいのである。


「ワカッタ ハナス」


「それくらいですね。後、戦争でも何でも、再三言ってますから理解してもらえてると思いますが、危なくなったら逃げますよ自分」


 一瞬ユーナさんは、香へ手を伸ばした。しかし、少し諦めたような顔で「シカタナイ イノチ ヒトツ」と、言った。


「あ、そうそう共有語でしたっけ? それも教えてもらえないでしょうか? 別に精霊語だけでもいいのですが、話せないでも理解できれば、色々と楽でしょう」


「キョウユウゴ オシエル イイ デモ ジカン ナイ タブン」


 不思議そうな表情をしつつも了承してくれた。


「時間が無い? ああ、そう言えば戦争でしたね。じゃあ、一段落してからでいいですよ」


 今まで見てきたアランさんやその他の色々な装備から考えて、相手の国に一気に侵攻できるほどの速度を出せるような物は無いだろう。魔法は有るが、それにしたって大砲等の代わりになるかどうかだ。

 そうなると、土地の削り合いみたいな戦争になるはずだ。そして、全てを人の手でやっているのなら永遠に戦い続ける事は不可能だ。

 間違いなく、小休止みたいなものがあるはずだ。そのタイミング教えて貰えるだろうし、それ以前に情報を貰える可能性もある。ゆっくりと覚えていこう。焦っても仕方ない。


「ヒトダンラク ワカッタ チョウショク タベル ブリュー モッテクル」


 話がひと段落した。そう考えたのだろう。そう言って、ユーナさんは馬小屋から出て行った。外を見れば朝日が昇っている、どうやら自分は真夜中ではなく、夜明け頃に起きたようだ。少しすると、兵士達が肉塊を持ってやってきた。多分、ユーナさんが用意してくれたのだろう。


(ふと、思ったけどこういう食べ物、多分餌扱いなんだろうけど。それにかかるお金はどこから出てるんだろう? やっぱり、ユーナさんからだろうか? それとも、自分は秘密兵器だから、維持費として国の何かの部署から出てたりするのだろうか? まぁ、自分が考えてもしかたないんだろうなぁ。それにしても、あんまり美味しくないなこの肉)


 そう考えながら、モッチャモッチャと肉塊を食べていると、ユーナさんが少し焦りながら、兵士に何かを運ばせやってきた。


「ブリュー キンキュウ シュツゲキ」


「キンキュウ? 緊急ですか? なんでまた、何かあったんですか?」


「キシタイチョウ アラン・レッドマン キケン オウエン」


 別に何かあった訳ではないが、なぜか嫌な予感がする。


「アランさんが危ないのですか? でも、あの人も結構強かったのでは?」


「アイテ モンスターテイマー モト エイユウ テイマーズ オウコク サイキョウ」


 嫌な予感は当たった。そして、アランさんより、その気を付けるべき元英雄とやらは強いという事になる。


「あー……戦争に出ろ、と言われて初めてぶつかるのが最強の敵ですか……」


「ダイジョウブ ブリュー マケナイ」


 そう言って、ユーナさんは自信ありげにこちらを見ている。一体その自信はどこからくるのだろう。


「取り敢えず、モンスターテイマーと言ってましたけど、名前の通り何かモンスターを使役してるんでしょうか? その使役されてるモンスターは、この前の……真紅の竜ディープクリムゾンドラゴンと比べて、どっちの方が強いですか?」


 そう自分がユーナさんに聞くと、ユーナさんは考え込むような仕草をしながら答えてくれた。


「モンスターテイマー モンスター ツカウ ジブン タタカウ ツヨイ 真紅の竜ディープクリムゾンドラゴンツヨイ AAランク テイマー ツレテル Aランク」


「テイマーも戦って更に、モンスターも戦うって事でしょうか? そして連れているモンスターはAランクで、AAの方が赤いドラゴンに比べると弱いのでしょうか?」


「ソウ ドラゴン ツヨイ ダイジョウブ テイマー ランドルフ オナジ イッショ タタカウ AA ナイ」


「一緒に襲って来ても、AAの強さは無いって事ですか?」


「ソウ ブリュー オネガイ」


 どうやら話を聞く限り、危惧しているほど強いわけではないようだ。どうであるにしても、少なくとも真紅の竜ディープクリムゾンドラゴンより弱いのならビームは使わずに済む。とは言え、慢心はいけない。


「まぁ、心配させましたし、何だかんだ食べ物も貰ってますし。一宿一飯の礼という言葉を知ってますし、お肉代位は戦いますよ。ただ、少しでもまずいな、と思ったら、ちょっと危ない事をするので気をつけてくださいね?」


 使わずに済む。とは思ったが、火山で学んだこと、危なそうならビームを即発射は忘れてはいけないだろう。どちらにしてもいずれ使う場合が来るかもしれないのだ。そのために撃っておく必要もあるかもしれない。


「ワカッタ ゼンブ マカセル」


「じゃあ今回の……どこで戦ってるんです?」


「カザン チカイ ソウゲン オウコク チカイ モット ニシ」


「なるほど、あそこより少し遠いところですね」


 話し終わったところで、自分は丁度肉を食べ終えた。そこで、ふと気が付く。兵士達が持ってきた籠が、前とは違うという事に。前は、気球とかに付いていそうな、木の骨組みと底板に、植物を編んで作られていた長方形の巨大な籠と言う見た目だった。

 しかし、今はもはや籠というよりは、凄くゴツイ金属製の飛行船のゴンドラみたいな物になっている。

 前後にこの国の紋章であろう、盾をかかえたドラゴンの紋章がある。更に、紋章の上には窓だろうか? スリットがあり、透明なガラスのようなものが嵌められている。

 紋章の下には、どう見てもライトにしか見えない物がある。そして、側面には押戸があり、そこから出入りするようになっていた。


「ユーナさん、一応聞いておきますけど、これを自分が運ぶんでしょうか?」


「カゴ ヨワイ ネラワレル アブナイ コレ カタイ ツヨイ ジョウブ アブナイ ナイ タイクウ マモル ブリュー ダイジョウブ」


「はい、まぁ分かってましたよ。それに、その方が都合が良いですね、自分としても」


 タイクウ マモル? 対空? つまり、いざとなれば、これを盾に使え。という事だろうか? ユーナさんが乗っているのにも関わらずだ。


(いや、使っていいなら使うけど、それはどうなんだ)


 まぁいい、盾に使うかどうかは別にして、最悪落としてしまっても大丈夫なはずだ。多分。


「ウン? キンキュウ オネガイ?」


「はいはい、緊急ですね分かりました。取り敢えず行きましょうか<念話>(テレパス)に変えますよ」


「ワカッタ」


 準備を完了させ、出発しようとすると、なんだか気持ちの悪い笑みを浮かべた男がやってきた。


(あ、こいつか、リネルが言ってたのは)


 ユーナさんはその男と会話し、何かを渡され、そのあと兵士にも何か渡され、ゴンドラに乗り込んだ。それを確認してから、自分は飛び上がりゴンドラを自重で潰さないようにのしかかり、そのまま抱える。

 中が空洞であるのもあるのだろうが、見た目より軽く、簡単に持ち上がった。そして、なんだか凄く抱えやすい、爪の引っかかるポイントに、ちゃんと出っ張りがあるせいだろう。

 これならば、多少の衝撃を受けても落とすなんて事は無いだろう。周りを見れば、兵士達が期待しているような、縋るような目でこちらを見ている。


(本当に緊急で、切羽詰ってるんだなぁ……やだなぁ、最悪逃げようと思ってるのに。そんな目で見られたら、頑張ろうと思ってしまうじゃないか)


 そんな事を考えて居ると、ユーナさんから上昇してほしいと言われた。


『ブリュー トンデ ダイジョウブ』


『分かりましたよ、どっちにいくかの指示をくださいね』


『アッチ ニシ ズットイク』


 恐らく、ゴンドラの中で進行方向を指さしているのだろう。


『いや、見えませんよその中からじゃ』


 少しの間の沈黙、少し恥ずかしそうな雰囲気を感じる。


『ゴメン ユックリ マワッテ』


 蒸し返すことはせずに指示に従い、ゆっくりとその場で回転しながら高度を上げていく。そして、半回転ほどした所で『ソウ トマッテ マッスグ オネガイ』と、言われた。


『じゃあ、近くになったら言ってください。そこで降りますから』


『ワカッタ』


『あと、急いでるんですよね? 言いましたよね?』


『イソグ デキレバ キンキュウ』


『言いましたよ』


 更に高度を上げ、地上に影響がでない程の高度でホバリングし、この方向で合っているか、ユーナさんに再度確認する。

 そして『アッテル』と言われた方向を向き、自分に<暴風の加護>(ストームブースト)<暴風の装甲>(ストームアーマー)をかける。更に<暴風の一撃>(ストームシュート)を自分の後方から、自分に向けて追い風のように放つ。

 結果自分は、緑色に輝いた後、竜巻のような物を纏い、後ろから発生した暴風に巻き込まれるように発射される。

 乾いた音と、線のような細い雲を残して、自分は砦のある空から戦場の空へ目掛けて翔けて行った。


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