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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第2章:帝国
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第11話 凱旋と待遇

 歓声を上げる人々。

 ここは、ユーナさん曰くウレジイダル、と言う街で帝都らしい、確かに帰って来た兵士達を見ようと大通りに集まっている人の数から考えてもきっとそうなのだろう。

 町並みは、倒した兵士の鎧や殺してしまった旅人さん(らんどるふ)の着ていた鎧の形、そして街の人の服装によく馴染む、欧州風? であった。煉瓦で出来ており、高くとも三階が限界の街並みが広がっている。

 ちなみに、なぜ疑問形なのかと言うと、そもそも欧州とか言うのが何か分かっていないからだ。しかし、この街並みを見たとき頭に浮かんだのは、その言葉なのだから多分そうなのだろう。

 そうそう、聞けば旅人さん(らんどるふ)はユーナさん曰くエイユー、多分英雄だろう。そんな肩書きを持った人物だったらしく、人間の中でも強い方だったらしい。

 とは言え、不可抗力で殺してしまう程度だったので、上の下とかそんな程度なのだろう。それは置いておいて、中世風だと言ったがところどころ違う所があった。まず、上下水道があるのだろう家や商店の壁に配水管のような物がある。

 更に、電灯のような物が道に等間隔で並んでおり、中をよく見れば電球のような物がある。


(あれ? 剣や弓で襲って来たからてっきり夜になれば真っ暗闇で、篝火や蝋燭の明かりが唯一の光。それ以外は星明りや月明かり位しかない。そんな街かと思ってた。というより、そう長老樹様に教えてもらっていたのに……)


 そこでふと思い出す。あの長老樹様が居る場所は、人間が滅多に来ない場所で、基本的に来るのは時間の感覚が極めて緩やかな精霊くらいである事を、


(あの森から出られない長老樹様の情報って、もしかして、古かったりするんじゃないのかな? と、思っていたけど、やっぱり古かったか。それにしても旅人さん(らんどるふ)が英雄かぁ……それほど強いなら食べとけばよか……空中で爆発しましたね。というか、そんな存在であっても爆発してしまう、って事は強い人間だ、と言っても体の耐久力はここに来る時に出会ったドラゴンさんの耐久力には遠く及ばない、ってことか)


 街の大通りをほぼ占領するような形で進んでいく隊列。なんとなく台車に載せられている自分の角を見れば、たまに人が触れそうなほど近寄っていたりする。


(なら、この五本の角って、今凄い危険な状態なんじゃないか? 下手すればユーナさんや、そこらを歩いている兵士さん達が、軽く触れるだけで破裂するなんて事も有り得る。って事じゃ……? やっと? 苦労して? まぁどっちでもいいか。なんにしても、協力してくれそうな人の群れ(・・)を見つけたんだから、殺さないようにしないといけない。よし、今こそあの三週間の中で一番頑張って習得した魔力制御をする時だ)


 混沌の大樹海で過ごした三週間の間には色々な事を学んだ。まず、魔法や基本的な常識や、この世界の簡単な仕組みは、一週間かそこらで覚えることができた。

 理由としては、そもそも長老樹様がそれらに対して、年齢の割りに知っている事が少なく、すぐに覚える事が無くなってしまった。とも言えるが、ちなみに色々な魔法を教えてくれた、と言っても念話(テレパス)部分変異ポイントメタモルフォーゼ、火水雷土風の基本戦闘用魔法を下級から上級まで全て、それと翻訳魔法、である。

 部分変異ポイントメタモルフォーゼは簡単な構造の変異が選択した部分でできる、という名前そのままな魔法で、任意もしくは気絶した場合に解ける。

 試しに(これで人間になれるんじゃないのか?)と、考え全身にこれをかけ、人型になろうとしたのだが、なれなかった。

 なれたのは、人に似たような形に甲殻を歪め、直立するカブトムシだった。しかも、どうも無理に器官の形を変異させてしまったようで、一瞬で全身に不具合を起こし、死にかけた。しかし運良く気絶し、その結果自動で元の姿に戻り一命はとりとめた。 

 ただ、長老樹様曰く『あんな無茶苦茶な変形をして生きてられるとは……なんじゃ? もう、おぬしなんなんじゃ?』と、聞かれても分からないことを問いかけられた。ただ、まぁ死なずに済んだのは自分の異常性らしいので、その時ばかりは異常である事を喜んだ。と言っても、土から這い出してまだ半年も経っていないのだが。


(半年どころか二ヶ月か? わからないけどたぶんそれ位だろう。その間に死にそうだったのが……恐らく三回。って結構多くないか?)


 次に、基本戦闘用魔法を全て。と、言えば十分強く見えるが、どうやら長老樹様の言う最近のナウでヤングな魔法には合成魔法というのが有るらしい。まぁつまりは基本に対する発展型になるそうだ。

 それは、単純に一足す一が二になるような物ではなく、三や四にも成りうる魔法らしい。つまり。物によっては中位魔法を合成させた合成中位魔法のほうが上位の魔法より強かったりする。と、言う事だそうだ。話が逸れた、そして残り二週間は何をしているのかと言うと、角に纏わせている魔力の制御だった。


深緑の竜ディープグリーンドラゴンを刺し殺した時に、その体に付いた傷が……そうじゃの、完全に角の太さと一致する程の精度じゃの。それ位の制御が出来なければ、この森の外には出せんのぅ。別にできないから諦めてもいいが、その場合出会う物すべて爆殺する等という、話し合いもクソもない危険生物と化すがの』


 と、長老樹様に言われたためである。最初の内は四苦八苦した。調節を間違えて巨大な魔力の刀と呼べるような物を角から発生させてしまい、あわやマリーの宿っているツインコア・セコイアを伐採しかけてしまったり、深緑の竜ディープグリーンドラゴン突き刺したのは良いが、魔力量の調節を間違えてしまい、魔力を流しすぎて破裂させてしまったりしていた。

 そのうち、角に沿って自分で想像した通りの魔力の刃を作れるようになり、最終的に無意識で課題のレベルまで制御できるようになった。

 そして、今回やるのは魔力に持たせている性質を変える、と言ったものである。

 現在、何もせずに無意識レベルの制御ならば破壊の力しかもっていないのだが、これを意識して他の力に変える。つまり、不用意にこの角を触っても死なないようにするのだ。


(まず完全に魔力を止めるのは無理なのは分かってる。散々試した。なら性質を変えよう。破壊の反対だから何だ? 再生? 取り敢えず、癒しとして発揮するようにしておこうか)


 そう考え、角の魔力の流れをイメージする。今は何と言うのだろう、チェーンソーの刃のように魔力が角を回転するように流れている。そんな状態だ。

 それを一旦停止させる。そして、角の中に入れジワリと染み出す軟膏のようなイメージ、染み出す軟膏には癒しの力が入っている、というイメージを強く意識する。


(結構、このイメージで居るのは辛い物がある。というか、これ本当に癒しの力あるのか? 使わないと分からないし、失敗してたら……下手すりゃ触った人が死ぬか。駄目だ。失敗したら大参事だぞ。取り敢えず、落ち着いたらユーナさんと話さなきゃならないな。人間に変身できる方法の在り処、もしくは物か魔法。きっと、それなりの地位に居るであろうユーナさんなら知ってなくとも、そういうことを研究している人に聞けるだろう)


 そう考え、隣を歩きながらにこやかに回りに向かって手を振るユーナさんに話しかけた。


「すみません、ユーナさん自分の角に触れたらもしかしたら死ぬかもしれないので、布をかけといてくれませんか?」


 突然話しかけられ、ユーナさんを含め周りの兵士たちも驚いたように動くが、言葉の意味が分かるユーナさんは、更に驚いたような表情になる。


「ツノ フレル シヌ!? タイヘン ヌノ カケル」


 ユーナさんはそう言った後、周りの兵に何か指示をした。すると、兵士達はどこからか大きな布を持ってきて、自分の五本の角に布をかけた。


「多分、これで触れても大丈夫ですが、できるだけ角には触れないようにしてください。大丈夫なはずなんですけど、もしかすると……いや、下手をしたら本当に死んでしまうので」


「ワカッタ」


(しかし、運ばれながら周りの人達の顔を見てると、殆どの人が自分を見て良い感情を持ってない事が分かるなぁ)


 ある程度は予想できた事ではあるが、実際に見せられると少し心に来るものが有る。


(あー、あの強そうな兄ちゃんビビリ過ぎだろう。どこかで会ったのか? あっちの強そうな……冒険者かな? おっさんは……なんで泣きそうな表情なんだ)


 男性は基本的には自分の事を見て恐怖に近い感情を持つようだ。だが、中には実験動物というのか、品定めするような視線を投げかけてくる人もいるようだ。


(やめて! そこのお姉さん! その、なんかゴミを見るような目は! 何もしてないでしょう。おばさん……なんでそんなに殺意を向けてくるんですか)


 女性は嫌悪感が強いのか、さげすんだ眼で見てくる。しかし、中には殺意に近いような怒りにも似た感情を向けてくる人も居る。


(あ、でも隣の男の子の方は凄いキラキラした目でこっち見てる、やっぱ格好良いと思……あーユーナさんだなあの目線は。しかも、胸かよ……見てる物は! エロガキじゃないか、いやまぁ揺れるから見たくはなるんだろうけど。よく見れば結構多いな、そういう目線の男性……あ、隣の彼女っぽい人に叩かれてる人が居る)


 と言ったように、自分の事は見えておらず、横に居るユーナさんの体に注目している男子、及び男性もかなりの数が居るようだ。

 そんなふうに、街の人々を眺めながら運ばれているうちに、広場についた。

 広場は真ん中に時計台が設置しており、その時計台の前に朝礼台のような、簡単な作りの台が置いてあった。自分は、その台の横に台車ごと置かれた。

 それなりに広いのだろう、しかし、自分が大きい上に討伐しに来た兵士や、騎士達が居る上、街の人々も押しかけてきているため、広場はすし詰め状態である。

 だが、流石に自分という邪精霊は怖いのか、自分の周りは街の人はおろか、兵士や騎士もおらず、傍らにユーナさんが居るだけである。


(わざわざ広場まできて何をするんだ?)


 と、思っていると、なんだか偉そうな紳士っぽい人が出てきて髭ダルマと握手した。そのあと、真紅の騎士と握手して最後にユーナさんとも握手した、そして、髭ダルマと一緒に台に上がり、マイクの様な物をもって話し出した。

 話しながらたまに此方を指差してくるが何だろう? 少しイラッとする。話が終わったのか、台の端に移動し大声で ゆーな・まくらみん と言った。


(多分、ユーナさんのフルネームなんだろうな。しかし、どうして名前は判別できるのに他は分からないのだろうか? 不思議だ)


 そう思っていると、どうやらユーナさんは表彰されたようだ。


(何かしたんだろうか? 自分の前で笛を吹いて踊っていただけ、じゃないのか? 何なら、あの真紅の騎士の方が自分と戦っただけ偉いじゃないか。いや、もしかすると何か、踊ることに意味があったのかもしれない。その辺りの知識を、長老樹様教えてもらっ……長老樹様にその辺りの情報を求めるのは、酷だろうな……多分、知らないだろうし。まぁ別に何でもいいか、とりあえずユーナさんが自分の欲しい情報を取ってきてくれるかどうかだ)


 そう考え、ぼんやりと授賞式のような、よくわからないスピーチを聞いていると、突然集まってた人々が歓声を上げた。何か良い事でも言ったのか? すると、今度は真紅の騎士が あらん・れっどまん、と名前を呼ばれ台の上に登った。


(アラン・レッドマンって名前なのか……見た目のせいじゃないよね?)


 真っ赤だものなぁ。等と思いながら眺めていると、アラン……いや、レッドマンの方が呼び方としてはただしいのだろうか? アランが壇上に登った瞬間、女性の黄色い悲鳴が上がる。

 多分、あらんさまーだろうか? そんな感じの事言ってるんだろう。言葉が分からなくても、これは雰囲気で分かる。


(アランで良いのか。呼び方は)


 何にしても、呼ばれた真紅の騎士、アランは格好良い方に分類されるらしい。よく見れば、一人だけどう考えても専用装備のようだ。と来れば、確実に騎士の中でも地位は高い人物なんだろう。

 そんな人が、人気にならないはずがない。実際、戦っている時に自分もなんだこれ、格好良いな。と思ったのだから。その後切りつけられたけど。

 そして、やはりスピーチのような物をし始めた。終わった時には最初壇上に上がる時と同じように、歓声が上がった。

 最後に、アランさんとユーナさんが台から降りる。その後髭ダルマが何かを言い、またも歓声が上がる。そこでこの授賞式? なんだろうか、よく分からない物は終わったらしく、人々はぞろぞろと広場から散って行った。

 その後、自分はまた大通りを運ばれ、街外れの湖の近くにある、お城のような建造物の近くに連れてこられた。


(ここが帝国の首都なら、これが皇城? にしては小さいというか地味と言うか、位置が適当すぎるような……)


 そう思っているうちに、縄を外され、近くにある真正面から入り口が向き合うように建てられた、馬小屋のような木造建築物に入るように指示された。

 中を見れば、かなりの急造というのか、無理やりな改造が施されているようだ。自分のサイズが大きすぎて、スペースが足りなかったのだろう。本来は存在するはずのしきりが取り払われ、殆ど屋根と壁だけの家という感じになっているのである。

 近い物としては木製のガレージであろうか? 地面には申し訳程度に干草が敷き詰められており、それが更に急造感を増している。一緒に除いていたユーナさんは、申し訳なさそうに「ゴメン」と言っていたが、他の人達は当然と言ったふうに、すぐさま踵を返して城に入って行った。


(城に入れろとか、そういうのは大きさの問題で仕方ないから良いけど、動物扱いは……。あー……見た目かやっぱり、この見た目はダメか……まぁ仕方ないか)


 そう考えながら、ふと思い出す。イメージで変えた角の魔力の効果を確かめていないことに。


(どうしようか……何か傷付いた生き物で、しかも死んでもかまわない生き物を貰おうと思っていたのだけども……)


 周りを見渡すと、真正面に馬が繋がれている馬小屋が有る。当然である、ココは馬小屋なのだから。真正面にある建物も又、馬小屋なのだろう。繋がれているのは三頭で、黒い馬と、茶色の馬と、白黒まだらの馬が居り、白黒の馬は息も絶え絶えと言った様子で、何故か死にかけていた。


(死にかけ? なんでまた?)


 良く見れば、全身に鞭で叩いたような跡が沢山あり、眼の光も弱々しい。


(なるほど、滅茶苦茶に叩かれたのか。この馬、言うことでも聞かなかったのか? それとも、ただストレス発散のために叩かれたのか? 普通に考えて、死にそうになるほど叩くって事は、何かあったんだろうけど……まぁ状況が分からないから考えても仕方ない。それよりも、だ。こいつで試すか? 最悪、殺しちゃっても最初から死にそうでしたって言えば良いし、仮に何か言われても知らん。というよりも、これ以上自分の扱いが悪くなるなら、ユーナさん持って《・ ・》逃げよう)


 まずは、角にかかっている布が邪魔なので、角の魔力を破壊に戻した。すると、瞬間布がくぐもった爆発音と共に四散する。

 次に、さきほど運ばれている間に維持していた回復させる力のイメージに変える。上手くいった感覚が有ったが、少し怖かったので、周りの壁に近づけてみる。

 特に何事もなく壁には触れることができ、少し押し付けても、角の当たっている範囲以上に削れて裂ける等という事も無かったので、破壊ではないことを確信する。


(よし、大丈夫そうだ。さて、じゃあ触れますよ~)


 自分が馬小屋から出ないようにしているのであろう、蝶番で開くようにされた柵を踏みつぶして前方の馬へと近づく。そして、そのまま角を一瞬当ててみると、全身に有った傷が一瞬で無くなった。

 弱々しかった目の光も強くなり、絶え絶えと言った様子だった息も、興奮したような元気な鼻息になり、元気が有り余っているような様子だ。そして、回復した白黒まだらの馬はこちらを向いて一度鳴いた。


(おお成功か! 光魔法は教えてもらってなかった、と言うより長老樹様が知らなかったらしいんだよな。これで変わりみたいな物が……使いどころはどこだ? これ自分に使って効果とかあるのか? いや、まぁ協力者であるユーナさんが怪我したときに使って恩を売れるか)


 等と、思っているとその馬が感謝を示そうとしたのか、角を軽く舐めた。そして、盛大に痙攣した後、どうと倒れた。


(え? ……え? なんで倒れたんだ? 角を舐めただけで。まさかとは思うけど、口にすると死ぬ作用とかあるのか? もしくは、実は自分の角には毒がありました。とか? どんな生物だ。いや、今更だけど。と言うか、気絶しているだけだよね?)


 すると、多分馬小屋を任されている人なのであろう、そんな雰囲気の男性がやって来た。その人物は、本当に恐る恐るといった感じでこちらに近づいて来た。

 極力自分に近づかないように、且つ自身を小さく見せるようになのか、縮こまったようにして、自分の前に繋がれている三頭の馬の様子を確認していく。そして、倒れている白黒の馬を見て驚く。

 少しの間、何か考えて居るのか、その場でうんうん唸りだした。考えが纏まったのか、倒れている馬を突いたり揺すったりした。軽く叩いても馬に反応がないので、馬の瞼を指で開き、目を見た。

 そして、ため息をついた。どうやら、本当に死んでしまったようだ。確認を済ませた後、男性は馬小屋から去って行った。


(しかし、この角の状態でも舐めたら死ぬのか。いや、それとも触れる以外は死ぬのか?治癒にしたはずなんだけど……何をどう間違えれば死ぬんだ……)


 そうやって、自分が一人、いや一匹反省会をしていると、ユーナさんが先ほどの男性と一緒に来た。


「ウマ コロシタ?」


 恐る恐るといった様子でユーナさんが自分に近づいてきてそう問いかける。


「いえ、殺すつもりはなかったんですよ? むしろ、助けようかと思ってたんですけどね? 何故か、角を舐めたら死にました」


 自分の答えに、腕を組んで唸る。


「ツノ マリョク アル?」


「はい、魔力を纏っていますね。何かだめでした?」


「マリョク オオイ ドク フツウ ヒト ウマ シヌ」


「あー? うん? 魔力が多い物は毒になって、普通は死んでしまうのですか?」


「ソウ」


 どうやら、どんな効果を持っていようが、自分の角は取り扱い注意のようだ。そして、めでたく角に経口摂取に限定されるが毒を持つことになった。やったね、嬉しくない。


「なるほど、分かりました、今後は気をつけますね」


「キヲツケル オネガイ」


「はい、わかりました」


 ユーナさんは、そのことを男性に伝えているんだろう、男性は「へいっ! へいっ!」と言っているような雰囲気で相槌を打ち、会話が終わると、馬小屋から出て行った。


「ところでユーナさん、馬小屋以外にはできないですか? 流石にこれはどうかと思います」


「ゴメン トリデ アキ ナイ ココ テイト チガウ」


「うん? トリデ……砦? という事は、ここは帝都じゃなかったんですか? じゃあここはなんですか?」


「ココ テイト オナジ オオキサ マチ テイト シロ アル トリデ チイサイ」


「なるほど、ココは帝都並みに栄えてる都市で、城じゃなくて砦だったんですね」


 どうも帝都に来たと思っていたが、違ったらしい。それもそうである。おそらく皇帝? が居るであろう帝都だ。当然、何か重要な施設や何か重要な役職に就いた人も沢山いるだろう。そんな街に、いきなり自分のような存在を連れて行くわけがない。


「ソウ ゴメン ウマゴヤ」


「いえいえ、正直イラッとしましたが、そういうことなら我慢しましょう」


「ゴメン」


 そう言いながら、軽く側面の角の付け根を撫でてユーナさんは出て行った。

 ユーナさんが出て行ってから少しして、自分が色々聞きたかったことがあるのを思い出した。しかし、外はもう真っ暗になっている。これでは今日は、もうユーナさんはここまで来ないだろう。

 もしかしたら、ユーナさん以外の人間は来るかもしれないが、来たしても会話はできないだろうから意味がない。


(どうしようか? 今は何もできない。そうなると、何の情報も手に入れられない。なら、寝てしまおう)


 そう考え、寝ようとしたところで、何者かの気配を感じ入り口を見る。すると、そこには知らない誰かが立っていた。

 着ている服はなんと言えば良いのか、透明に見えるが透明ではないワンピースのような物で、ある。肌を含め、全体的に青っぽくなっており、雰囲気はドライアド達に近い。


(ツインテールになったサンドラ? でも色が違う)


 そうやって悩んでいると、その青い美少女は口を開いた。


「あなた、誰? なんでこんなところに居るの?」


 言葉が分かる。と言う事は、彼女は精霊のようだ。


「いきなりなんですか? ですがお答えしましょう。自分は、甲殻魔虫のブリューナクと言います。宜しくお願いします」


「あ、これはご丁寧にどうも。私は水の精霊ナイアードのリネルよ、ヨロシクね?」


 と、ちゃんと挨拶を返してくれたリネルに対して、自分は話しかける。


「それで? なんでこんなところに精霊さんが居るんですか? 普通、精霊さんは人が入らないような所にいる。と、聞いていたんですが」


「そんなことないわよ? そもそも、精霊は魔力と同じ位、どこにでも居るものなの。ただ、いつもは隠れていたり、姿を見えなくしていたりするだけで、そこには居るのよ?」


「なるほど……長老樹様め。まぁいいや。という事は、ここに来たのは偶然ですか?」


「いえ、そうじゃないわ。私はすぐそこの湖を家にしているのだけども……そうよ! 突然魔力の塊みたいなのが湖の辺の……あれなんだっけ? 家? お城? 砦? 良く分かんないわ。まぁそこを目指して来るじゃない。しかも、目指してくると言っても、その魔力の塊みたいな化け物は縛られてるとか、何の冗談? と、思って人間が寝たのを見計らって話しかけにきたのよ」


「あー……それには色々ありまして。まぁ、自分の目的のためには、人間に聞くのが一番手っ取り早いかなぁ、と思っていまして」


「何を聞こうと思ってるの? もしかしたら、私が知ってるかもよ?」


 初対面なのにやたらとグイグイ来る精霊である。しかし、サンドラ達も最初からこんな感じだったような気がするのでこんな物なのだろう。


「簡単に言っちゃうと、人になる方法なんですけどね? 何か知ってませんか?」


 そう問いかけると、目の前の青いサンドラ、リネルは呆れたような表情になる。


「知ってるわけ無いじゃない。なんで、好き好んで自分より弱っちい生き物になろうと思うの?」


「やっぱり、そうですか……いえ、ありがとうございます」


「何? あなたもしかして人間になりたいの? そんな大きな力を持ちながら?」


 心底分からない、という表情でこちらを見てくるリネル。


「はぁ……まぁ、そうなんですよね」


「なんの目的があって?」


 一瞬悩む。しかし、ぼかして言うとして何か良い嘘も思いつかないし、嘘をつきながら会話をしても、なんとなく自分はボロを出してしまう気がする。

 それに、知っていた場合、嘘に気が付かれて気分を害されて、教えて貰えなかったら困る。知らなくとも、これだけ食いついてくるのだから、何かしらの手がかりは知っているかもしれない。

 なので、素直に話すことにした。


「実は自分、転生者……ってわかりますか?」


「知ってるわよ。なんだっけ? たしか、生まれる前の記憶とかを持ってるんだっけ? よくわかんないけど」


「それですね。で、まぁ自分もそうでして、前世の知識を持って生まれたんですよ。それで、最近は断片的な記憶を取り戻しましてね? どうせなら、全部取り戻したいじゃないですか?」


「そうね。中途半端は嫌よね」


「まさしくそうです。そこで、人間に戻れば、全部とりもどせるかな? と、思ってその方法を探すために旅をしようと思ってたんですよ。そしたら、旅に出たところで、丁度人間の群れに会いまして、その中に精霊語を話せる人が居ましてね? その人を通訳に、まずは人の側から色々探そうかなと考えてたわけなんですよ」


 なるほどねぇ、等と言いながら腕を組んで思案気な表情になるリネル。


「転生者ねぇ……だからあんた、色々と変わった考えしてるのね? まぁ、私には関係ないし、本人がしたい事なら別になんだっていいんだけどね」


 しかし、意外とリネルはすんなりと信じてくれたようだ。


「以外ですね。転生者って言うのを疑わないんですか?」


「疑ってるのか? と聞かれたらそりゃ疑うけど、別にそうであろうがなかろうが、さっきも言ったけど私には関係ないしねぇ……そんな事より、もし人間から戻れないけど人間になれる方法だったらどうするの?」


 なぜか楽しそうに聞いてくるリネル。これは、その方法を知っているのだろうか?


「流石に、人間から今の姿に戻れない方法だったらしませんよ。さっきも言いましたけど、別に人間として生きたい。って訳で探してるんじゃ無いですから」


 そう自分が言うと、リネルは納得したようで


「なるほどね。まぁ、魔力の塊が変な甲殻魔虫……あんた、ブリューナクって言ったっけ? って言うのを確認したから、それで良いわ。見つかると良いわね、人間になる方法」


「あれ? 方法に関して何か知ってる事とかは……」


「ないわよ? むしろなんであると思ったのよ」


「あーはい、すみません」


 どうやら、本当に動機が知りたいだけだったようだ。


「そういえば、見つからなかったらどうするの?


「その時はもう混沌の大樹海に帰ろうとは思っていますね」


「へーあんた、あそこで生まれたの? と言うより、魂の大きさってなに?」


「これは、混沌の大樹海の長老樹様と呼ばれている、転生者の木のお爺さんに聞いたんですがね」


 そこまで言うと、リネルが片手を目線の高さまであげ、もう片方の手を額に当てる。


「ちょっとまって? 混沌の森って転生者多すぎじゃないかしら?」


「多い、と言っても自分と長老樹様と自分だけなんですけど」


「二体も居れば十分よ。そうそう、転生者なんて見つかるような物じゃないわよ……」


 と、呆れたような表情で話すリネル。


「そうなんですか……では魂の説明をしますね」


「あ、そこは流すのね……まぁいいわ。説明して」


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 結局、夜明け頃まで色々と話し込んでしまい、人が起き出す前にリネルは湖に帰っていった。自分は徹夜してしまったことに気がつき(今日は何もない日でありますように)と願って寝た。

 しかし、現実は非情であった。ユーナさんがまだ日も昇ってすぐという時に走ってきたんだろう、息をはずませながら、自分を文字通り叩き起こし、こう言った。


「カリ イク」


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