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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第1章:混沌の大樹海
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第9話 美女と魔虫

 先ほどの状態から一転、突然目の前に現れた美女に自分はうろたえていた。

 どう見ても、自分を討伐しにきていた集団にはそぐわない服装、そして雰囲気を持った人物である。


(これは、交渉できる感じなのか? でもこのタイミングで、わざわざこんな美人さんを自分のような生物の前に出すとか、生贄? それとも、ダイナミックな自殺者?)


 突然の状況の変化に慌てながら自分は観察していた。しかし、傍目から見ると、壊滅させた討伐隊の末路を確認してから、次の獲物を見つけるように振り向いたようにしか見えない事には、気がついてない。


(よし、落ち着こう自分。回りの兵隊さんの人数や、この美人さんの服装から考えても、この人は自分に敵意を持ってないと見える。よし、問題ない)


 状況を確認しつつ、目の前の美女について考えていると、美女はオカリナのような笛を取り出し、二、三言何か言ってから、腰に付けている香炉のような物に火を入れ、腰をつかって上手に香炉を振りながら笛を吹き始めた。

 その動きは音に合わせ、時に激しく、時に静かに、まるで踊るような動きへと変化していく。美女の服装やその全体の雰囲気と合わせて、官能的な何かを感じずにはいられないような物だ。


(なんだろう……イケナイ物を見ている気がするな。いや、今の自分はカブトムシだけどさ……これで曲が、っていうか楽器? がもっと激しいものだったら、もう完全に何かピンク色のお店にしか見えない)


 そう自分が考えているうちにも、美女の笛の音と踊りは続く。


(しかし、良い笛の音だね。それにしても、何で突然笛吹きながらセクシーダンスしだしたんだろうね、この美人さん。見ていて嬉しいから別に問題ないけど、今このタイミングでなぎ倒した兵隊さんと同じような兵隊さんに囲まれている美人の踊り子って、意味が分からない……いや、うん、色々想像はできるんだけど? 前世は男性? で、今世も男性? いや、雄だから。それでもなぁ)


 冷静に考えて、自分、つまりは飼いならしていない猛獣の前に美女を出してどうなる? 普通に考えればただ餌をやっただけに終わってしまう。なら、この美女はなんで自分の前にでてきたのだろうか。

 異常すぎる状態に、考えても答えが出る気がしない。

 それにしても、旅に出る高揚感から忘れていたけど、魔法を教えてもらう前に長老樹様の言っていた事を今思い出した。


『正直な、何をどうしたって、このまま森を出て行ってもおぬしが人間にまともに取り合ってもらえるとは思わんのじゃ。まぁでも、引き止めはせんよ、おぬしが決めた事じゃ。それに、もしかすると、どうにかすると、うまく事を運べれば、非常に低い確率じゃが取り合ってくれる者もおるじゃろしな』


 長老樹様、あなたは正しかったです。出会った瞬間襲われました。


(それにしても、旅人さんには悪いことしたなぁ。らんどるふさんだっけ? まさか剣が粉々になって、持ち主も粉々になるなんて、思いもよらなかった。あと、隊長っぽい炎の騎士を倒しているんだよな……死んでないよね? さっき救護兵? みたいな人達が、ソロソロと自分の横を通って、後ろの倒れている兵隊さん達と一緒に回収していたし、大丈夫だよね? いや、大丈夫だろう。きっと、多分)


 呑気に考えている間にも美女の動きはどんどん激しくなっていく。終わりが近いのだろうか? それはそうとして、炎の騎士の胸鎧の中央部に光る宝石のような物が有ったことを思い出す。


(まだ救護兵みたいな人達が回収してなかったら、あれ食べようかな? いやぁ、これ以上嫌われそうな事するのも駄目だろうな。どうも、自分が光っていると認識できる宝石みたいなのは核珠とか、魔石とかいう物らしいからなぁ)


 ちなみに、核珠は強いモンスター、あの大樹海で言うならば長老樹様や、サンドラ達ドライアドが宿っている木であるコア・セコイアや、フクロウさん、他にも緑のトカゲ等が持っているものだ。魔石は地中に埋まった核珠のような物らしく、基本的には蓄えている魔力は核珠の方が多いそうだ。

 

(どうしようかなぁ? そんな事はないと思うけど、コア・セコイアみたいに、食べたら死ぬ。とか、だったら気分悪いしな。それに、わざわざ止めを刺すなんて、何のために手加減したんだよってなるな。っと、そろそろ終わるのかな?)


 思った通り、どうも曲は終わりかけだったのだろう、一際激しく腰を振ったかと思うと、目の前の美人さんはやりきったような表情で此方を見ていた。


(褐色の肌を汗で濡らして、ピッタリ肌に張り付く露出度の高い服を着た尋常じゃなくスタイルの良い美人さんかぁ……眼福だなぁ。だけど、良いなとは思っても、なんというか、そういう感情じゃないな。コレ何だろう? いや、そういえばドライアド達と一緒に居た時も同じような感じだったな。知っている感情だけど、合致しない、このなんか違う感じ)


 自分の抱いた感情が分からず思い悩む。おそらくは前世でも……と言うより、前世由来の感情であるのだろうが、のどにつっかえたように出てこない。


(まぁ、どうでもいいか。今はそんな事は重要じゃない。あれだけ目の前で踊り狂ってたんだ。流石に攻撃の意志はないだろう。とにかくやっと交渉できそうな人が出てきたんだ。ここで翻訳魔法を……)


 そう考えた瞬間、目の前の美人さんが「スミマセン、ハナシ キイテ?」と、話しかけてきた。


(うん……うん?! 理解できる言葉!? ということは、この人は精霊語を話せるのか? でも、あれ人間だと発音するのは不可能じゃ。とか長老樹様言ってなかったっけ? あれ?)


「アバレル ナイ アタマ フッテ」


 記憶違いか? と悩んでいると、そう美人さんに言われた。取り合えず、そんなつもりはないので、頭角が美人さんに当たらないよう、頭を振ってみる。すると、美人さんは周りの兵隊さんに多分、共有語というやつなのだろう。それに関しては殆ど知識がないので、聞いていても意味は全然分からない。

 ただ、雰囲気としては、私が暴れないようにしたわ! と、言っているのだろう。周りの兵士達が、見る見る安堵したかのように力を抜いて、こちらを見てくるのだから。


「ワタシ ユーナ マクラミン イウ コンゴトモ ヨロシク」


(よろ……念話じゃないんだった。どうしようか? そうだ<部分変異>ポイントメタモルフォーゼで何時かの鈴虫モードになれば!)


 そう考え<部分変異>ポイントメタモルフォーゼを発動する。後ろ羽が出現し、前羽と一緒に光り輝く。それを見たまわりの兵士に、再度緊張が走る。


「こんにちは綺麗なお姉さん、自分の名前はブリューナクと言います。こちらこそ、ヨロシクお願いします」


 なるべく警戒されないように、できるだけ敵意のないように意識して、そう声を鳴らした。(・・・・・・・・・)すると、ザワザワとしていた兵士はおろか、目の前の美人さんまで驚愕の表情で固まってしまった。


「おや? 何かおかしなことをしましたか? 攻撃するつもりは無いのですが」


「ブリュ ブブ ブリュー ブリュエウ……」


 どうも発音がしにくいらしい。何度もブリューナクと言おうとしているのだが、どうにも言えないようだ。


「言いにくいなら、ブリューで良いですよ?」


「ブリュー ヒト コロス ナイ?」


「できれば殺したくないですね。食いではないし、無駄に恨みを買う趣味もありません」


 襲ってくるならまだしも、好き好んで殺す気はない。食わないと死ぬような状態なら食べるかもしれないが、人間が主食だ! ヒャッハー! なんて面白い頭や趣味にはまだなってない。


「コロス ナイ?」


 しないと言ったのにも関わらず、念を押すようにもう一度聞いてくる美人さん。いや、先ほどユーナマクラミンと名乗っていたからユーナさんか。それにしても、そんなに不安なんだろうか?


「ないですね」


 もう一度同じように自分が答えれば、ほっとした様子で、また周りに話しかけるユーナさん。周りの兵隊さんの中には、脱力し地面にへたりこむ人まで居る。そして、話しかけられた兵隊さんの一人が、遠くに見えるテントのような方に向かい、何だか光るものを点滅させた。

 すると、テントの入り口からモッコモコの髭ダルマが出てきた。どれくらい髭ダルマなのかといえば、おそらくは人なのだろう。としか思えないほどだ。


(なんだろうな、獣人系なら毛はある程度伸びたら勝手に抜ける、とか長老樹様は言ってたな。エルフとかは髭が生えにくいって言っていたし、老人と分かるほどの見た目になった者はそうそう人前に出てこないって言っていたし。ということは、これは人間かドワーフか。でもそんなに小さくないから人間かな? ということは、相当なおじいさんなのか? この髭ダルマは)


 と、自分が髭ダルマについて考察していると、多分口なのだろう。顔の中央部の毛が凹んだ部分をユーナさんに近づけ、何か言っている。そして、髭ダルマがユーナさんから離れると、ユーナさんは再度此方に向き直り話しかけてきた。


「アナタ マチ イク ツレテ イク」


「よく分からないのですが? 自分が町に行っても大丈夫なのですか?」


 冷静に考えて、こんなモンスターが町に行って大丈夫なわけがないだろう。別に自分は暴れる気はないが、普通に暮らしている人の迷惑になる気しかしない。


「モンダイ ナイ ワタシ イル」


 と、なぜか、ユーナさんは自信満々と言った様子で答える。モンスターを人の街へ入れるようなわがままを通せるほどの権力を持っている人なのだろうか? だが、服装や先ほどまでの踊りから考えて、恐らくユーナさんはそのまま踊り子とかそう言った物だろう。いやまぁ、精霊語を話せるからその辺りは特別なのかもしれないが。


(考えても仕方ないか)


 考え方を変えれば、長老樹様も懸念していた数少ない取り合ってくれる人なのだ。それに、人間が一番数が多いらしいのだから、一番情報を持っているだろう。それに、モンスターを人間に変える方法も知っているかもしれない。


「そうですか。大丈夫ならいきますよ」


「イウコト キク?」


「聞ける範囲なら聞きますよ? といっても、自分には目的もあるのですが」


「モクテキ?」


「人間になる方法を探す旅をしようとしているんですよ。ちなみに、それを初日に邪魔されて少しイライラしているんですけどね?」


 と言うと、突然ユーナはあわて出した。


「オコル ナイ ユルス ニンゲン」


「いえ、まぁそちらの人を一人殺してしまったのでお互い様ですし。何より、アナタに会えたのでそれでいいですよ」


(これは決まった! 完璧に! あー自分カブトムシだった。忘れてた……。だからなんだよ。って感じになるよね、これ)


 しかし、予想に反してユーナさんの反応は、頬を上気させこちらを食い入るように見つめてきた。


「マッテタ? ワタシ マッテタ? ミツケタ?」


「う……うん? 待ってもいないし、見つけてもいないですけど、綺麗な女性は好きですよ?」


「スキ?『~~~~~~~~!~~~~!』」


 精霊語の後は共通語で、自分には理解できないが、横にいた髭ダルマにすごい勢いで話しかけている。そして、髭ダルマはそのまま来た道を引き返していく。

 そこからは特に何かされるわけでもなく、ユーナさんと話しをしていた。といっても、ユーナさんは精霊語で話すのも、聞くのも下手らしく、片言な上に、たまに言葉が通じてなかったりしたため、殆ど意味のない会話であった。


(このまま、居てもいいけど、どうするんだろう?)


 と、思っていると治療テントと思しき場所が爆発し、そこから、燃え上がる剣を持った金髪にちょっと赤色が入った、オシャレなガチガチのマッチョなお兄さんが、真っ赤な瞳でこちらを睨みながらやってきた。持っている剣から考えて、炎の騎士の中身だろうか? 目を覚ましたんだろう。


(うわぁ……怒ってる……あの旅人さん友達だったのかなぁ? でも、集団で有無を言わせず殺そうとした相手に、殺された友達の仇を取ろうとするとか、どうなんだろうな)


 襲ってくるなら返り討ちにして良いのかなぁ。等と考えながら、こちらに来るのを眺めてると、ユーナさんが手を広げマッチョさんの前に立った。なにやら口論をしているようだが、どんどん会話はヒートアップしている。

 そこへ、髭ダルマが来た。そして、少しの間口論じみた会話をした後、理解はできたが、納得できない。といった感じで、マッチョさんは治療テントに戻って行った。その後ユーナさんは、髭ダルマと少し話してから又話しかけてきた


「キシ オコッテル ~~?~~~?~~~! トモダチ コロス イヤ」


「そうでしょうね。友達が殺されるのは嫌でしょう」


 むしろ、知り合いを殺されて嫌じゃない奴なんて居るんだろうか?


「アヤマル ホシイ キシ」


「自分を殺しに来て、反撃されて死んだ相手に対して自分が謝るのは、何かこう……違うと思うのですが?」


「アヤマル カワリ スル」


「えー……。と、言われても……」


 森から出てきたところの自分に何か有るわけがない。


「ダイジョウブ ガンバル ワタシ」


 ユーナさんが頑張ったとして、どうするんだ? と、思わないでもなかった。だが、ユーナさんの決意は固いようで、鼻息を荒くしている。しかし、はっと何かを思い出すような表情をすると、コホンとせき込んだ後、落ち着きを取り戻した。


「アシタ イク マチ ネル アソコ」


 そして、ユーナさんがそう言って微笑みながら巨大な車輪のついた台車? の様なものを指差した。物を載せる部分は木を組んだものを金属で補強したようになっており、それなりに頑丈そうである。

 ついている車輪も殆ど金属で出来ているようで、車軸も同様のようだ。かなりの重量を持ったものを運ぶことを想定して作られているとみられる。その台車は、馬に引かせるのだろう。そんな風な金具がついており、外側に当たる部分には紐か何かを通すための金属製の輪が付いていた。


「なるほど、あれに乗せて町まで運んでくれるわけですね?」


「ソウ」


(運んでくれるのか、別に歩いてもいいのに)


 と、思いながら台車に乗った。見た目通り強度は十分あるようで、何の問題もなく自分の重さを支えてくれた。自分が台車に乗って問題がないか確認をしていると、ユーナさんが立ち去る気配がしたので、思わず呼び止めた。


「明日どれくらいの時に出発しますか? その時間、起きておいた方がいいですか?」


 わざわざ台車に載せておいて流石にそんな事はないだろうが、起きていないから置いて行かれた。なんて事は流石に勘弁してほしいから確認したのである。後、どういった経路でどこへ連れていかれるのかも確認しておきたかったのもあった。何せ大樹海がここにあるという事以外、方角を始めとして諸々の位置関係等、この大陸の事は何も知らないのだから、移動中にそれなりに頭の中で地図を描いておかなければ後々面倒になる気がする。まぁ、街に行くのだから、地図を譲ってもらうなりするのが一番確実だろうし手っ取り早いのだが、自分がそう言ったとして。譲ってもらうどころか、見せてもらえるか分からないのだ。念には念を入れておいた方が良い。


「アナタ ネムル マチ イク」


「ああ、はい……起きられなくても、寝ていたらそのまま運んでくれるんですね?」


(なるほど、そのために台車の上で寝ろ。と言うわけか)


 自分の質問に、ユーナさんは笑顔で頷きながら答える。


「アナタ ハコブ マチ」


「わかりました、ではおやすみなさい。」


「オヤスミ」


 そう、ユーナさんは挨拶して戻っていった。


(今聞きたいことは全部聞いたし、特に何かするとかないな。よし、明日に備えて寝よう)


 と、考え、自分は夢の世界に旅立った。


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