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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第1章:混沌の大樹海
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第7話 名前と力

 遠のいていた意識が戻る。


(ここはどこだ? 森? いや低いところに街みたいな物が見えるから山の中か)


 どうやら山の中に居るようで、裾野と思われる所にはいわゆる地方都市……いや、街と村の中間のような閑散としたものが見える。


(それにしても、静かだな……鳥の鳴き声も、風の音も聞こえてこない)


 太陽は高く、真上に存在するようで、さんさんと地面を照らしている。遠くに見える雲はもくもくと大きく、どうやら入道雲のようだ。何故か(スイカとか食べたいな)と、思った。少し歩いていると、前に何か転がっているのを見つけた。

 気になったので近づいてみる。それは仰向けになっているのに、顔が地面の方を向いている人だった。いや、人間の死体だ。首が百八十度回って生きているわけがないからだ。当然そんな物を見たのだからショックは受けた。しかし(うおっ! なんだ、死体か)程度の驚きだった。


(うん? おい、何でこんなに冷静なんだ? と、言うよりこの状況はなんだ? たしか、自分は森の中央に来て、長老樹? だかなんだかよくわからないのと会話して……というか、人間に戻ってる?!)


 死体を見たこと以上に、自身の体の変化に驚いている最中ふと気づいた(あ、死体(コレ)は自分だ)と。その瞬間、視界は一気に変化し、景色も変わる。先ほどまでの山道や周囲の景色は全て消え去り、真っ白な空間に居た。その上、さっきまでの人間の体ではなく、カブトムシの体に戻っていた。


(あー……前世はあんな風に死んだのか。痛かったんだろうか? 即死っぽいしなぁ……まぁいい。しかし、少し前世の事を思い出したってことは、長老樹の言葉を信用するなら、自分の魂のエネルギー? が増えた。と、言う事なのか?)


 疑問に思っても、その答えを出すための情報が足りない。分からない事だらけである。とは言え、思考を放棄するのは不味い。


(それにしても、思い出すならせめて名前とかにして欲しい。なんでわざわざ死に様なんだ。しかし、名前か……何時までもおぬしとか、お前とか、ビートルとか、は嫌だな。何か名前を考えておくか? と言ってもこの見た目で「おっす俺武司!」とか言ってもなぁ……)


 己の名前を考えるが、何にしても前世の感覚を持っているため、名乗るなら日本語名だなぁと思ってしまい、自分に名前を付けるに付けられない。


(一旦名前を考えるのは置いておこう。それよりも、本当に自分は死んじゃったんだな……)


 思い出すのは、で良いのか分からないが、前世の自分と思しき人間の死体である。


(まぁでも、長老樹も言ってたけど、前世に縛られることもなく今世をしっかり生きよう。どうも普通の、というかもう確実だけど、人間より大きい意味不明な力を持ったカブトムシみたいな生き物なんだから、それこそ全てを思い出すまで生きることもできるだろうし)


 そう考えをまとめた所で、また景色が変わった。そこは小高い丘で、目の前には巨木があった。どうやら目が覚めたようだ。今自分がおかれている現実、カブトムシの体で長老樹の前に居る状態だ。


『おぉ、目が覚めたのかの? おはよう』


(おはようございます。昨日はすみませんでした)


『うむ、別に気にしとらんよ。昨日も言ったが仕方がないもんじゃて』


(それでも、迷惑をおかけしました)


『そうかの、まぁ良い。それにしても、昨日の口調はどうしたんじゃ?』


(いえ、寝たら落ち着きましたし、色々お世話になりそうな人……木? にいつまでもあの口調はどうかと思いまして)


『なるほどのぅ。と言う事はふっきれたかの?』


(はい……ふっきれた。とまでは行きませんが、納得する事はできました。そして、昨夜はご迷惑をおかけしました)


『よいよい、ならばこれからどうする? このままこの森で素敵なビートルライフを満喫するかの? それとも、森から出て人々を恐怖のどん底に叩き落す存在になるのかの?』


(そうですね……取り敢えずは、この森で長老樹様に色々教えてもらいたいと思っています。試したいことも色々ありますし、相談したいことも出てくるでしょうから。それが終わったら旅にでたいな、と思っております。)


『様は……まぁ良い。それよりも、ほぅ、旅か。なぜじゃ?』


(その答えにも関係しているのですが、まずこちら質問から答えてくれませんか?)


『いいじゃろう、何が知りたいのじゃ?』


(ズバリ、人間になる(・・・・・)魔法はありますか?)


 自分の問いに、長老樹はうぅむと唸ってから少しの間無言になる。時折、あれは違ったの……だの、これは……違うのぅ。等とワザとなのか漏れ聞こえる様子を見るに思い出そうとしているようだ。


『ふむ……すまぬな。ワシが知ってる限りでは無いのぅ』


 しかし、どうやら記憶には無かったようで、そんな答えが返ってきた。


(そうですか……。長老樹様、自分はソレを探す旅に出たいのです)


『なるほどのぅ……しかし、そんなものは存在しないかもしれないのじゃぞ? それでも行くのかの?』


 脅すような、それでいて諭すような口調で問いかけてくる長老樹に対して、自分は真っ向から答える。


(はい、魔法なんて不思議な物があるなら、きっと存在そのものを変異させてしまう魔法や道具がきっとあるはずです。自分はそれを見つけて人間になりたいのです)


『それは前世から来る願望か? それとも今世に置いての目標か?』


(半分半分と言った所でしょうか。正直な話、前世に未練が……あるのかもしれません。しかし、自分はもう人間ではない。と、言うことも認めているのです。なので、探して探して、どれだけ探しても見つからなくて諦めた時は、素直にここに帰ってくるつもりです)


 そう言い切れば、長老樹は再び熟考するように唸り、少しの間沈黙する。


『なるほどのぅ……そういう考え方かのぅ……まぁ、動ける生き物に成っていたならば、ワシもそう考えていたかもしれんしのぅ……いいじゃろう、お主にわしの知っているあらゆる事を教えてやろう』


(ありがとうございます!)


『よいよい。そもそも、お主が何を成そうがワシに止める権利はないからの、覚悟……と言うほど大層な物ではないが意気込みのような物を聞いておきたかっただけじゃよ。さて、それでは何が知りたい? 魔法そして基礎的な知識、この森の全て、更にはドライアド達のスリーサイズも全てワシは知っておるぞ?』


(最後以外をお願いします)


『なんじゃ、つまらんやつじゃの』


(では先生、ご指導よろしくお願いします。)


『流しよるのぅ……しかし、ほっほ! 先生かの! 久々にそんな言葉をかけられたのぅ』


 そう言っている長老樹様の声は、少し嬉しそうだった。そうして、長老樹様に色々な事を教えてもらう生活が始まった。まず、最初に教えてもらった事は、魔力の制御と魔法の使い方だった。


『ずっと気になっておったんじゃがな? おぬし、何故ずっと羽に魔法をかけておるのじゃ?』


(あー……これはですね、なんというかこうなっちゃったんで、解き方も何もわからず放っといたんですよ。羽の音が消えて便利でしたし、特に不便がないのでいいかなーと)


 自分の発言に、長老樹様から呆れた様な雰囲気が漂ってくる。


『おぬし……羽が無くなっとるのによく……ああ、そうじゃったな飛行魔法も使えるんじゃったな』


(はぁ、何かすみません)


『よし、ではまずは魔法について説明してやろうかの。簡単に言えば、魔法とは詠唱、もしくはイメージによって放たれるものじゃ。人間はなにやら小難しい決まりがあると思っているみたいじゃが、まぁそれもあながち間違いではないんじゃがの……』


 そう言いながら、目は無いがどこか遠い目をしているような雰囲気を出す。そして、一つ咳ばらいをしてから再度話し始めた。


『まず詠唱して魔法を放つほうじゃが、詠唱することによって魔法陣を空間に作り出すわけじゃな。そして、そこに適量の魔力を注入できれば魔法が発動するわけじゃ。ちなみにじゃな、何度も詠唱をし、同じ魔法を放ち続けた場合、その魔法を己に取り込み……まぁ魂に刻むというのじゃろうかの? そうして確固たる物にした場合、魔法そのものの威力が上がり、更に進めば無詠唱で放てるんじゃ。そこまでくるとイメージで放つのと大差は無いんじゃが、まぁその辺りの違いは後で話すかの。そうそう、同じ魔法でも込める魔力を多くすれば効果は大きくなるのじゃ。とは言え、限度があるがの? ここまでは分かるかの?』


 自分がそれに頷くと、長老樹様は話を続けた。


『さて、今度はイメージだけで放つ方法じゃ。こちらはのぅ、何と言うのじゃろうか……効率は悪いし、個々人……いや人間系でこの魔法の使い方ができるのは稀じゃが……まぁ良い。個人の適正や才能が関わってくる方法じゃ。有体に言ってしまえば個人の特殊能力に近い物じゃ。そして、込められる魔力の上限が無い。と言う特性があるのぅ。じゃが、その効率が悪い。具体的に言えば、基本的に同威力の物を撃つとして、詠唱を行う物に比べ倍、悪ければ三倍、四倍と比べ物にならないほど魔力を消費する事が有るんじゃ。じゃから、よっぽどの事が無い限り、使えても使わない魔法じゃな。とは言え、ドラゴンをはじめとした強力な特殊な能力を持つ者や、強大な魔力を持つ者はもっぱらこちらの方法で魔法を使うがな』


(うん? 一長一短という事でしょうか?)


『まぁそうじゃな。とは言え、基本的に魔法を使うという存在は人間系と鬼系の者達だけじゃし、基本的に魔法を使ってくる物は後者の方法で撃ってきていると考えても良いじゃろう』


(なるほど。鬼系と言うのが何か気になりますが、後にします。取り敢えず、自分が使っていたのは前者の無詠唱といった奴なのでしょうか? それとも後者の魔法なのでしょうか?)


『それは見なければ分からんのぅ。やってみせてもらってもかまわんかの? あぁ、ちなみにどんな魔法じゃ? 下手に撃ってドライアド達の宿っているツインコア・セコイアに流れ弾が当たれば悪いからの』


(はい、雷のようなものが真っ直ぐ飛んでいく物。大きな炎の塊がとんでいく物。光の塊が飛んでいく物の三種類が自分の今撃てるはずの魔法です)


『ふむ……なるほど。なら、ためしにこれの真ん中を狙って撃ってみてくれんかの?』


 そう長老樹様が言うと、地面からまるで壁のような巨大な根っこの集合体のような物が、地面を割りながら飛び出してきた。前後から眺めてみれば、ちょうど真ん中の辺りを狙えば、仮に貫通したとしても周りには一切被害を出さない位置に存在することが分かった。


『全力でもよいぞ。ただし、一種類ずつしか撃ってはいかんぞ?』


(はい、では行きます。まずは、雷出ろ!)


 そう念じると五本ある角一本一本の先から雷が出て、目の前の根っこに殺到する。結果、根っこは当たった箇所から吹き飛んだ。


『おぉ……なるほどのぅ。次じゃ』


 そう長老樹様が言うと、吹き飛んだ根っこが地面に引っこみ、同じ所からまた新しい根っこの集合体が生えてきた。


(では、次行きます。火炎飛んでいけ!)


 五本の角の中央部に、赤く巨大な魔方陣が展開され、そこから巨大な炎の塊が出現し、目の前の根っこに向かって勢いよく飛んで行った。ぶつかった瞬間、体の奥まで響くような爆発音と共に爆炎が上がり、根っこは一本の燃え盛る炎の柱となった。しばらくして、炎の柱が消えた後には、何も残らなかった。


『ほうほう……なるほどなるほど、次で最後かのぅ?』


(はい、そうです。あ、最後のは少し威力が高いので、強度を上げてもらえないでしょうか?)


『んん!? うむ、分かった』


 今度は、さっきまで出てきていた根っこの集合体が五本出てきて、さらにそれが絡み付き合い、これまでとは全く違う太さの物となった。


(ではいきますね)


『ああ、いつでもよいぞ』


(閃光穿て!)


 詠唱と同時に前羽が光り始め、その輝きはどんどん増していく。そして、前羽を含め背中が全て光で出来ているような状態に錯覚するほど輝いた瞬間、光の奔流としか形容できない物が背中から解き放たれた。それは、前方の根の集合体に直撃し、それでは止まらずはるか上空にあるであろう雲にまで届き、それすらも消滅させた。

 しかし、自分が止まれと意識すれば、少しずつその勢いを弱め、最終的には何事もなかったかのように消えた。だが、それが残した爪痕はすさまじい物であった。まるで光が当たった所は、元から無かったかのように、大きな穴……いや、当たった場所から上はすべて消し飛んでいた。風穴を見れば、その断面は焼け焦げたように炭化していた。


『お、終わったのかのぅ?』


(はい。以上で自分が現在知っている魔法は全てです。ああ、羽を消したり声のような音を出したり、あと飛ぶ速さが上昇する物もあるんですが、それらは本当に詠唱のような物も無くて良くわからないんですが、それもやったほうが良いでしょうか?)


『ん……いや、それは先ほど言ったイメージによるものじゃろうな。ほとんど特殊能力のようなものじゃから気にせんでよい。それよりも、むぅ……詠唱との複合? と言う訳でも無し……よし、色々と分かったことがあるのじゃがな。一言で言ってしまうとじゃな? お主いかれておるな。それもぶっちぎりで色々とじゃ』


 と、長老樹様は投げやりな口調であんまりな事を言い出す。


(いかれてるって……そんな人、いや虫をつかまえて何を)


 思わず抗議すると、今度はプレッシャーをかけるような声音で質問をしてきた。


『まず、おぬしが最初に放った雷じゃが、これは……今初めて使ったのかの?』


(いえ、最初に使ったのは妖精さん達いやハイエルフの町でハイエルフに向かってですね)


『その時ハイエルフは生きておったか? というか形は残っておったかの?』


(感電して倒れているのは居ましたが、死んではいなかったはずですよ)


『なるほどのぅ、深層意識でコントロールしたのかそれとも……。まぁどちらにしろ、コントロールできなければならないのだから、どっちでもよいかの』


 ぶつぶつと、長老樹様は何か言い、自己完結したようだ。そして、再度自分にプレッシャーをかけながら話かけてきた。


『心して聞け。おぬしの使える魔力と、身体に内包する魔力は常軌を逸しておる! どれ位逸しているかと言うとじゃな……そうじゃな、精霊王がゴミカスに見えるレベルじゃ』


(精霊王? それがどれほど凄いのか分からないのですが)


「それは私が教えてあげるわ」


 そう言って緑の小幼女、いや、ドライアドのサンドラが現れた。


(あ、君は、たしかここまで連れてきてくれた、ドライアドの……)


「サンドラよ、ちゃんと覚えておいてよ。あれ? 自己紹介してなかったっけ? まぁいいわ。今したしね。さて、なんの話だっけ?」


 自分が呆れながら(えぇ?)と思いつつ答えようとすると、サンドラに手で制された。


「冗談よ。さて、精霊王様だったわね。まぁ、なにも面白いことは無いわ。そのまま読んで字のごとく精霊の王よ。と言っても、人間とかみたいに国があったりするわけじゃないし、私たちに命令できるとかじゃないんだけどね。各精霊種の中には下位、中位、高位、精霊王様と……ランク? みたいなものがあるのよ。その中で一番強い魔力と力、そして知力をもったお方が精霊王様よ。あ、ちなみに、私は木の下位精霊よ」


 そこで話を区切ってぶつくさと「なんで下位なのかしらね? まぁ人間が決めた事だしぃ?」等と文句が続く。長くなりそうだったので(あの、それよりも)と言ったところで、又手で制された。


「分かってる。分かってるわ。話を戻して、そうねぇ……精霊王様の凄さを具体的に言うと……全力を出せば、それこそ天変地異を起こせるほどなの。例えば……風の精霊王様なら行き成り大竜巻を起こしてなにもかも根こそぎ吹き飛ばせるわね。水の精霊王様なら、洪水や津波かしら? 土なら大地震や山を噴火させるってところかしらね。あれ? 噴火は火だったかしら? まぁ、そんな感じの、色々できるお方なのよ」


(なるほど、そんな恐ろしい事を起こせる存在が、ゴミカスに見れる程度の力ですか……)


『事の重大さがわかってくれたかの? なら次じゃ。おぬしの詠唱というか念じ方かの? もう、めちゃくちゃじゃな。おそらくなんじゃがな、詠唱はいらん。尋常じゃない量の魔力に任せて、現実を歪めているというのが正しい感じかの? つまりは、ただの力技なんじゃよ。じゃから、分類としてはさっき説明した後者のイメージによる魔法なんじゃろうな。だとしても滅茶苦茶じゃ』


(それほどですか)


『それほどじゃ。正直、あの根の壁は破られないと思っておったんじゃよ? それでじゃ、これほどの威力をだせるのは恐ろしい話なのじゃ。となると、魔力の消費も半端ではないはずなんじゃが……現におぬし今疲れておるじゃろ? 眠気や倦怠感とか、そんな感じであんまり動きたくないはずじゃろ?』


(いえ、そんなことはありません。至って健康です)


 自分がそう反応すると、長老樹様は一瞬表情が硬くなった。木であるはずなのに、顔も無いはずなのに。


『あー……訂正するかの、精霊王なんて無かったレベルじゃのぅ……あの壁を抜いて……多分三重、いや五重でも余裕があるじゃろうしなぁ……比較できんわい』


 なぜか諦めたような様子で、長老樹様はぶちぶちと独り言のような物をこぼす。しかし、すぐに気を取り直したように変に明るい声で話しかけてきた。


『よし、恐らくお主の魔力はほぼ無限じゃ。多分、回復力とか何か、そう言った物が優れているのじゃろ。もしくは容量もいかれておるんじゃろ。もしかするとその両方かもしらんが、まぁどれでも一緒じゃ』


(それは何か……こう、問題があるんですか?)


『あると言えばあるのぅ。具体的には森から出れぬ。と言うより出せぬ』


(それは困ります)


『そこでじゃ、出ても問題なくなるため。威力の調整……さっき使った放出する形以外の魔力のコントロールを覚えるのはどうじゃ? ついでに、魔法そのものも覚えてみる気はあるかの?』


(はい、その気はあります。そもそも、人間になる方法がもし魔法だったら、またその時に学ばないといけませんし、もし、何かが有って、そういう技術を使える者と事を構える事になって、それに対処できるかどうかと言う点が分かれば行動が大きく変わりますから、寧ろお願いしたいです)


『ほっほっほ良い返事じゃて。と言うより、最初から教える予定ではあったがの。では、まずは簡単な魔法から教えてやろうかの。そもそも魔法はの? …………………………』


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 そうして、三週間たった。どうやら、この世界でも七日で一週間としてカウントするらしい。曜日に似た火、水、風、土、雷、闇、光、の順番で一週間は回るとされているそうだ。

 そして、魔法についてだが、属性は七つ有る。と、されているそうだ。なぜその辺りがあやふやなのかと言うと、念話や翻訳魔法、飛行魔法等、属性がどうのと言ったものから大きく外れた物が複数存在するためだ。


『属性と言う概念が後付けなのかも知れんな。もしくはその逆で、属性が基本的な物で、念話等の魔法が逸しているのか……まぁ、その辺りはまだワシの中でも結論が出ておらんし、ワシも分かっておらん事をお主に説明してもしかたあるまい』


 と、の事だ。それはともかく。その七つの属性の中で、自分は闇と光以外の各属性の魔法が使えた。その内、一番相性が良かったのは火と雷の魔法だった。

 なんでも親和性? と、いう物らしく。魔力を持つ全ての生物が持っている物で、要は属性に対する得手不得手らしい。

 火と雷に親和性が高い自分がそれらの魔法を発動すると、雷ならば角一本一本から同じ魔法が飛び出し、集中すれば、それらを全て別の方向の、好きな方向に撃つ事もできた。更に、それを誘導弾のように操作する事ができる。火ならば、細かな操作は不可能だが、単純に五倍の威力で放つ事ができた。

 逆に、親和性の無いそれ以外の魔法は単発でしかない上、そんなふうには動かせなかったし、威力も上ったりはしなかった。それを長老樹様に言うと『それが普通じゃよ』と、言われてしまった。

 ちなみに、その魔法を覚える方法は、何度も自分に魔法を叩きつけ、それを使えるようになるまで繰り返す。と言う、ただ攻撃されているだけにしか見えない、正気を疑うような方法だった。

 なぜそうなったかと言うと、最初の内は長老樹様や、サンドラを始めとしたドライアド達に普通に教えてもらっていた。物自体は覚えることができたのだが、自分の体の構造上なのか、単に不器用なだけなのか、魔法陣や魔術言語と言った、魔法を発動するのに必要な物がまともに描けなかったのだ。

 更には、自分が魔法の説明を受け基本的な所までは分かったが、少し応用に入った所で理解できなくなってしまったせいもある。

 そこで、長老樹様が『方針転換じゃ。もっと手軽で確実なものにする。少し危険はあるが、やるかの?』と言ったのに飛びついた結果である。


(いや、これはどうなんだ? ちゃんと……こう、詠唱とかそういった物で覚える方法は無いのか?)


 と、思っていたところ、筒抜けだった心の声に長老樹様は答えてくれた。


『普通のやり方じゃ無理なお主には、魔法の覚え方はこれしかないんじゃよ。何度かまともに受けた魔法は、体が覚える。厳密には魂のようなんじゃが……まぁどっちでもいいじゃろ。そして、受けた魔法をイメージして、自分で同じ物を発動させる事により、より強固に魂に定着させるのじゃ』


(本当に、この方法しか無いんですか?)


『方法だけなら他にもあるにはある。というか、今までやっておった正攻法じゃな。じゃが、そっちの方法だと……そうじゃな。五年……いや、十年はそれに費やす事になるやもしれんぞ? 才能がなければ、それこそ何十、何百、ひょっとしたら死ぬまでじゃな。そもそも、短期間に覚えると言っていたのに、普通に教えて理解できなかった時点でこれしかないんじゃよ』


(そうですか……)


 実際、魔法を使えるようになっているし、特に怪我をした訳でも無いので、自分としては特に何も問題も無い。それに、簡単に確実に、更に早く習得できる方法があるのに、他の方法を取って変に時間をかけたくもなかったので、納得するした。

 ちなみに魔法には上級、中級、下級と分かれており、その級の中で三つの段に分かれていた。基本的には威力の上下程度の差だが、物によっては少し発動の仕方が変わるようだ。

 他には<念話>(テレパス)と、翻訳魔法を教えて貰った。<念話>(テレパス)に関しては、繋いでいる相手に自分が考えている事を、まるまる全部伝わってしまうのを防ぐ訓練をした。

 最初は(そんな訓練、しなくてもいいじゃないか)と思っていたのだが。


『おぬし、森の外で人と出会って<念話>(テレパス)を使って話しかける時に、タイミング悪く(そろそろ何か食べないと)なんて思ってしまって、それが伝わってしまったら……どうなるかくらい分かるじゃろ?』


 と、言われれば、ぐうの音も出なかった。

 次に、翻訳魔法だけは乱用しないように言われた。これを今の自分が使うと、使われた相手は精霊語を理解できるようになる。

 しかし、それは少し不味いらしい。理由は色々あるが、最たる物は、耐性がなければ破裂して死ぬ等と言う、意味がわからない理由だった。


(かけたら破裂して死ぬって、本当に翻訳魔法なのか? と言うか、そう考えるとあの時長老樹様、出会った瞬間に殺そうとしてきていたのか? 地味に恐ろしい事に気がついた……)


 その事について長老樹様に尋ねると、全力ではぐらかして来た。最初は怒ろうかと思っていたが、かけてもらわなければ意思疎通ができなかったのは事実なので、止めた。

 そんなふうに、魔法やこの世界の基礎的な事を教えて貰いながら過ごした。その際(何か良い名前はないかな?)と、長老樹様を含め、ドライアド達と話合った。

 すると、ドライアドの一人が「ふと思いついたのだけど~♪ ブリューナクって~どうかしら~?♪」と、言い……歌い出し、他に何かしっくりくる名前も無かったので、ブリューナクに決まった。

 ちなみに、由来は? と聞くと「知らないの~♪ 突然降りて来た~の~♪」と歌いながらどこかへ飛んで行かれてしまった。

 そんなこんなで更に三週間たった。そして今日、自分は旅立つ。


「じゃあねブリュー、元気でね」


 と、少し寂し気に言う美幼女サンドラ。


「お土産よろしくぅ!」


 と、自分が何をしに森を出ていくのか分かっていない様子の元気いっぱい娘のティオ。


「辛くなったら帰ってきて良いのよ。ブリュー」


 と、優し気に微笑みながら言う、おっとり系のマリア。


「気をつけていくのよ? 寂しくなったらいつでも帰ってきていいのよ。別に心配はしてないけどね」


 と、そっぽを向きながら言うのは御姉様なマリンダ。


「絶対帰ってこいよ! 絶対だ! そんでまた森を飛び回ろうぜ!」


 と、暴走族気味な事を言う勝気なベリショートカット娘のマリー。


「忘れないわーあなたーのことをー♪」


 と、ニコニコと笑いながら調子の外れた挨拶なんだか、変な歌を歌っているのは、天然娘のマリアンヌ。


「まぁ、教えることは教えたつもりじゃ。なんにせよ、死なない程度にがんばるんじゃぞ。あと、注意したことはできるだけ守るようにの」


 と、長老樹様。


(じゃあみんな元気で、切り倒されないように気をつけて!)


 そうして自分こと、ブリューナクは飛び立った。人間に戻る方法を探すために。長老樹様達が居る樹海の奥から飛び出し、フクロウさんを食べた所を通りすぎ、初めて土から這い出た所を抜け、そして遂に、樹海から出た。


(ここから旅の始まりだ! 天気は快晴! 幸先が……良いなぁ?)


 しかし、樹海から出たところで、完全武装で殺気だっている、どう見ても人間の一団。装備の揃い方や立ててある旗から見て、正規軍と思われる一団に包囲されてしまった。

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