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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第1章:混沌の大樹海
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第5.5話 ドライアドのお使い

 私はドライアドのサンドラ。

 宿っている木は、人間が混沌の大樹海と呼んでいる場所、その中心部近くにある長老樹様の子供の一本であるツインコア・セコイアで、好きな食べ物は深緑の竜ディープグリーンドラゴンの肉。と、言っても中々死んでないから食べれないんだけどね。他の仲間からは、サンちゃんと呼ばれているわ。

 そんな私が、なぜ見たことも無いビートルの上に座っているのかと言うと。話は二日前まで戻る。


---------------------------------------------------------------


 私が、いつものように他の仲間達と楽しくおしゃべりをしている時だった。


『サンドラ、サンドラはおらぬか?』


 そう、長老様が私を探す念話を飛ばしてきた。


「何かしら? 長老樹様に呼ばれてるみたいだから、行ってくるわね。」


「何かしたの? サンちゃん」


「最近は何もしてないはず……なんだけどなぁ」


「まぁ行ってらっしゃいな」


 と、皆に見送られて長老樹様の前まで来た。

 長老樹様はこの森の中で一番古い樹で、どの木よりも大きい。それもそのはずで、世界の始まりの時からここに生えているため……らしい。なぜらしい、なのかと言うと本樹(・ ・)はそうだと言っているけど、肝心のその大昔の事を殆ど覚えていなくて、本当に世界の始まりから生えていたのかどうかは分からないためだ。後、憶えている事も半分くらいは嘘だったりするため、信憑性がないの。

 でも、変な事を覚えていたり、知っていたりしているから、本当はボケたふりをしているだけなんじゃないの? と言う仲間も居る。

 種族としては、セブンコア・セコイアと人間に呼ばれている物で、その名の通り体の中には七色の核珠がある。

 一度、体の中に入らせてもらいその核珠を見た事があった。七つの核珠はそれぞれの光を放っていて、そのどれもが強力な魔力を秘めていて、思わず背筋が震える程の力を感じたわ。

 ともかく、性格は穏やかなんだけど、さっきも言ったように長く生きすぎていてボケてしまっているのか、たまに頓珍漢な事を言い出す。そんな巨木が長老樹様である。


「長老樹様、サンドラが参りました」


 私が長老樹様の前に行けば、なんというのだろうか? 視線がこちらに向けられるような感じがした。


『おお、サンドラ良く来てくれたのう。一つ頼みたいことがあるのだが良いかの?』


「はい長老樹様、私に手伝えることがあるならよろこんでお手伝いします」


『実はな、この森に新たなビートル系の甲殻魔虫が生まれたらしいのじゃ。そやつはかなりの力を持っており、その上それなりの知性をもってはいるんじゃが……ちと暴れん坊のようでな。周りに生えてるコア・セコイアの核珠を食べて殺すわ、ハイエルフの街に殴り込みをかけるわでな。先日なんぞ、闇夜の狩人(ナイトミネルバ)を殺すだけで食べずに捨てる等と、好き勝手にしておる奴なんじゃ。これは一度、説教してやらねばならんと思ってな? そやつをここに連れて来て欲しいのじゃ』


「長老樹様、ちょっとした疑問なんですが、闇夜の狩人(ナイトミネルバ)を殺せる暴れん坊に話は通じるのでしょうか? と言うより、そもそも甲殻魔虫ですよ?」


『多分、通じるじゃろう。最悪、通じなくともお主なら大丈夫じゃろ。ハイエルフの街に殴り込みこそかけたが、ハイエルフを皆殺しにせず、倒れた者を食べる事もせず、そのまま退散したようじゃ。もしかすると……まぁこれは本人(・ ・)に出会ってからじゃな。多分、お主が殺される心配は……あまりないはずじゃ。多分』


「多分二回も言いましたよ? それに、あまりって……」


『精霊が細かい事を気にするでない。まぁなんじゃ、頼んだぞ?』


「はぁ……分かりました。では、行ってきます」


 話は終わり、お願いしたぞ。と言わんばかりの雰囲気を纏う長老樹様に、私は一応の挨拶をして、近くのコア・セコイアにもぐりこんだ。実はこの大樹海のコア・セコイアの根っこは、地下で繋がっている。

 それを利用して、私たちドライアドは混沌の大樹海の色々な所に転移できるし、更には簡単な情報なら核珠に触れれば教えてもらえる。

 そうやって情報を集め、長老樹様の言っていた新種のビートルの居場所を突き止めた。


(ふむふむ、どうやら、日中は土に潜って過ごし、夜にしか行動しないと言うビートル系にしては変な生態をもっているみたいね)


 行動するのは夜らしいので、昼の間に闇夜の狩人(ナイトミネルバ)の死体が置いてある場所に行き、その近くのコア・セコイアに入って待つ。

 夜になると、丁度自分が潜っているコア・セコイアの根元あたりから黒いビートルが這い出してきて闇夜の狩人(ナイトミネルバ)を食べはじめた。


(あれ? 食べないんじゃないの? 長老樹様、遂に本当にボケちゃったのかしら?)


 と、思っているうちにビートルの食事が終わったようなので、コア・セコイアの中を通って地中に入り、目の前に出てやった。地中まで行ってしまったのは、勢い余ったとかじゃない……内緒だ。

 目の前に出ると、その攻撃的な角の形や雰囲気に気圧される。目も角も体もギラギラと月光を反射して、とてもじゃないが話を聞くような奴には見えない。


(これ、本当に知性もってるのよね? まぁ、襲ってきても所詮はビートル系、怖くもなんとも無いわ)


 と、自身を奮い立たせながらもどうしようかと考えていると、突然、目の前の新種のビートルが前足をこちらに伸ばしてきた。


(うそ、やる気? やる気なの? いいわよ、かかってらっしゃい! その瞬間、あなたの命運は尽きることになるわ!)


 そんな風に焦りながら睨みつけるが、ビートルは軽く触れてくるだけで、それ以外は何もしてこない。


(あら? 本当に大丈夫なのね)


 なので、伸ばしている前足に付いた棘のような爪を掴む。


(言葉は通じそうにもないし、引っ張っていけば良いでしょ。ほら、こっちに来なさい)


 しかし、幾ら引っ張っても動いてはくれない。余りに引っ張りすぎて、こちらの息が上がってしまった。


(ふぅ……強情ね。そうね……普通のビートル系と違って知性があるって長老樹様が言う位なら、きっと精霊文字位読めるはず。なら、場所を文字で書けば良いのよ)


 そう考え、丁度良い大きさの枝を召喚し、地面にガリガリと書き込んでいく。


(これで伝わったでしょう。さぁ飛んで行きなさい!)


 しかし、目の前のビートルは動かない。


(あれ? もしかして文字書き間違えたかしら? いえ、間違えてないわね。なら、何で動いてくれないの? 知性があるんじゃないの?)


 どうしたものかと、考えている内に、だんだん腹がたってきた。これと言って予定なんてなかったが、面倒くさい事には変わりは無いし、長老樹様のお手伝いを完遂する事が出来ないかもしれない。と、考えてしまったためだ。


「これ、ちゃんと読んでるんでしょ!? 黙ってないでなにかしなさいよ……もうメンドクサイ! 付いてきなさい!」


 思わず地団太を踏んでしまい、直後ビートルに何ムキになっているんだ。と、自己嫌悪しながら歩いていくと、後ろに気配を感じないので振り返った。すると、やはり動かずにビートルはこちらを見ている。


(こいつ……。もう何を言っても動かないんじゃないのかしら? いや、もしかしてそもそも言葉が分からない? ならどうしようも無いじゃない……)


 そう思い、手招きだけしておいた。


(これで来なかったらもう知らないわ。長老樹様だってこの状態は見えてるんでしょうし、分かってくれるでしょ)


 しかし、どうやら手招きは通じたらしく、ビートルは付いてきてくれた。


(あら? 文字や言葉が通じなかったけど、手振りが通じるの? 最初からこうすればよかったのね……でも、これが通じるのならたしかに欠片程度の知性はあるのかしら? まぁ取り敢えず、これで長老樹様のお手伝いは完遂できそうだからよかった)


 そう思いながら、ビートルを連れて中心部を目指して進んでいく。そうして、夜が明るまでひたすらに進んだが、まだまだ先は長かった。と言うより、恐らく徒歩だとここから……かなりかかる。


(いつも、コア・セコイアを使った転移ばっかり使ってるから忘れてたけれど、この森って結構広かったのよね。いや、人間たちが大樹海って呼ぶのも頷けるわ……どうしよう?)


 そんな風に私が考えていると、バサバサと羽ばたく音が聞こえる。何度も聞いた事があるし、この音が聞こえるのは嬉しくもあり、それでいて面倒事でもあるからよく覚えている。そして、今この状態においては最悪である。


(まさか!)


 そう思った時にはもう遅く、深緑の竜ディープグリーンドラゴンが少し前に降り立っていた。狙いは私……ではない。


(まずいわ。私はいくらでも逃げようと思えば逃げられるし、それもあいつは分かってるから大丈夫だけど……このビートルが食べられちゃう。そうなったらお手伝いは失敗。ここまできてそれは嫌!)


 嫌だと思っても、私に何かできることは無い。若干涙目になりながら、どうしようかと考えていると、突然自分の後ろ。つまり、ビートルから「ギュイギュイギュイカチカチカチカチ」といった感じの威嚇音が鳴り響いた。更に、急激な魔力の高まりを感じ、思わず振り返った。


(まさか、知性があるっていうのは魔法が使えるってことだったの!? でも、知性があってもビートル系は魔法を使えるほどの魔力は無いはず……もしかして! こいつ核珠持ちなの!?)


 と思った瞬間、五本ある角一本一本の先から<閃光の大槍>(サンダーランス)が飛び出し、角の真ん中には赤く巨大な魔方陣が展開され、見たことも無い大きさの<火炎の大槌>フレイムスレッジハンマーが発射された。更に、それで終わらず前羽からは、詳細不明の光の塊が放たれた。

 それらは全て深緑の竜ディープグリーンドラゴンに向かって飛んで行ったが、一部は魔法同士が干渉してしまい、外れてしまったのだろう、地面に当たり盛大に土煙が舞い深緑の竜ディープグリーンドラゴンの姿を隠す。

 だがビートルは、魔法で攻撃するだけで終わらなかった。前羽を広げ、音も無く浮かび上がった。


(飛行魔法!? あれだけの魔法を撃って、まだ魔力に余裕があるの!?)


 次の瞬間、ビートルは矢のように加速し深緑の竜ディープグリーンドラゴンが居るであろう場所目掛け、土煙の中に突撃して行った。

 何が起こっているのかは分からないけど、重い物が引きずられる音がした後に、コア・セコイアにビートルが間違ってぶつかった時に聞こえる音を十倍にしたような音が聞こえた。そして、何か肉の焼けたような匂いが漂ってきた。


(何?! 本当に何が起こってるの!?)


 私が焦っている内に、土煙の中からあのビートルが出てきた。同時に何か重い物が地面に落ちる音が聞こえる。そして土煙が晴れていくと、そこには頭と羽の半分を焼ききられ胸に大きな火傷を負い、右足が炭化し、火傷を負った胸と首の付け根の間辺りを無残に引き裂かれ、絶命している深緑の竜ディープグリーンドラゴンが、コア・セコイアの根元に転がっていたのである。


(うっそぉ……)


 私が驚いているのをしり目に、深緑の竜ディープグリーンドラゴンをしとめたビートルは、その死骸に近づき、肉を齧りとって食べていた。


(あの三つ、いえ、自身を浮かせた魔法も入れると四つの魔法を同時に使うなんて……。そんなことよりも深緑の竜ディープグリーンドラゴンおいしそうだなぁ……少し分けてくれないかなぁ……食べたいなぁ……)


 と、眺めているとビートルがこちらを向いた。そして、そのまま動かない。


(え、もしかして分けてくれるの?)


 そう思い、ふらふらと深緑の竜ディープグリーンドラゴンの死体に近づき、左足の傷口に手を突っ込み肉をえぐり取る。


(いただきまーす。おいしー! やっぱり深緑の竜ディープグリーンドラゴンの肉は最高ね。それにしても、この新種のビートル言葉も文字も通じないけど、意思疎通は身振り手振りで可能だから問題ないし、凄く強いし、食べ物も分けてくれるし、もしかしたら凄く良い奴なのかもしれないわ!)


 等と、単純な事を考えながら私とビートルは深緑の竜ディープグリーンドラゴンを綺麗に平らげた。


(さて、お腹もいっぱいになったことだし、長老樹様を目指して進むわ! でも、歩くのが面倒ね。そうだ、飛べるならこの子の背中に乗れば良いのよ)


 そう私は考え、飛行魔術を使って背中に乗ろうとした。したのだが、なんと胸の中央部にもどうやら複眼があるようだった。

 少し悩んだが、私はそんなものは気にせず複眼の後ろ、つまり前胸の中央部より少し後ろに座った。


(さぁあっちに行くのよ! 私の僕!)


 ビートルの背に乗り少し調子に乗りながら、私は前を指差した。そして、それに答えるようにビートルは前に進んでいく。長老樹様が居る、この大樹海の中心部を目指して。

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