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ブリューナクな日々  作者: 大きいは強さ
第1章:混沌の大樹海
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第5話 食性と幼女

 フクロウさんを撃墜してしまった次の日の夜。

 土の中から這い出すと、フクロウさんの死体はまだ落ちていた。ただ、他の捕食者に食べられてしまったのか、胴体は殆ど無くなっていた。


(あれ? 昼の間に綺麗さっぱり無くなると思ってたのに、意外と残ってる。しかし、なんだ昨日も思ったけどグロイな本当にグロイ。そして、美味しそうだな……。おっと……土の中と同じ状態に入りかけたぞ……。これは、もしや空腹が限界を越えていたか?)


 突然沸き起こった衝動から考えて、自分は木を齧ったり樹液を舐めて生きるタイプの虫ではなく、他の生き物を殺して食べるタイプの虫である可能性が浮上した。しかし、それであるならば自分の様々な攻撃能力と高い防御能力も説明が付く。

 ただ、ここ数日の戦闘結果から考えて、魔法が使えるのはきっと自分だけだろう。ほぼ毎晩爆発させていたマーブル君の行動から考えると、他のカブトムシは、自分が知ってるカブトムシと同程度の思考能力、と言うか本能というか、そう言う物しか無いと思われる。ああも毎回威嚇音からの突撃を見せられればそうとしか思えない。

 しかしそうなると、自分と同種のカブトムシは、食性は肉食であり、食べられそうな相手は容赦なく刺し殺し、あのマーブル君がなってしまったように木やら地面やらに叩きつけて砕いてから食べる。と、言うものなのだろう。


(でもなぁ、毎回叩きつけて砕くのもなんだかなぁ)


 そう考えたが、自分には雷と炎と、何だか原理のよく分からないビームがあるのだから別に角だけで戦う必要はないという事を思い出す。


(しかし、今更だけど、これだと妖精さん達が怯えたり、こっちを攻撃してきたのは仕方が無いな。なにせ、自分は妖精さん達より圧倒的に大きくて、速くて、強くて、更には餌として狙う立場にいるはずの動物なんだから)


 おそらく、前世の感覚的には……村に熊が出たってやつだろう。空も飛べるからより厄介か、ということは、あの膜は自分みたいな存在の侵入を防ぐための物だったのかもしれない。そう考えれば、街を守るための膜を破壊して突っ込んでくる害獣に対して、躊躇なんかするわけがない。


(さて、何か色々分かったけど、ごちゃごちゃ考えて居るうちに意識が飛びそうだから食べよう)


 残っているフクロウさんの右の腿肉に近づき、噛みつき、引きちぎって咀嚼した。


「ギュギュギュイギュイギュイ」


(うめぇ! 思わず鳴き声出たよ! と言うか初めて味を感じた! なるほど、今まで味も何も感じないな。と、思ってたけども、肉食だから食べても味がしないようになってたのかもしれないな)


 そのままガツガツと食べていく。食性から考えると、自分はほぼ断食状態だったのであろう。フクロウさんの亡骸の残りを自分はモリモリと食べて行き、骨も残さず平らげてしまった。同時に、初めて木の宝石を食べた時と同じように力が漲って来る感じがした。


(あー美味しかった、すごいなフクロウさん、ご馳走様でした。なんというか、豚肉の味のする鶏肉? なんにせよ美味しかった。しっかし、自分の食性がまさか肉食だったとはなぁ。カミキリムシとカマキリの混じったような口だったからもしや、とは思ってたけど、見た目完全にカブトムシじゃ、カミキリムシ寄りだと思うし、動物なんて食べようとは思わないよなぁ)


 同時に、今回の事で食性に気が付かなければ遅かれ早かれ餓死していたことに気が付き、どこがそうなのか分からないが背筋が寒くなった。


(しかし、この食性なら勿体無いことをした。毎晩爆発させていた彼も、ああなってしまえば肉だろうから食べられただろうに。食べ物はちゃんと食べましょう)


 そう考え反省したりして、今後はどうするかと考え始めようとした瞬間、目の前、角が当たらないぎりぎりの範囲の地点にある地面が、隆起するようにぼこぼこと動き出した。


(お、もしかしてマーブル君、珍しくカブトムシ的な登場するのかな)


 ぼんやりと考えながら、しかし、臨戦態勢に移行しつつマーブル君の登場を待ったが、彼が出てくるには土の範囲が少しばかり小さい。だいたい、妖精さん位の大きさなら丁度良い感じであろう範囲が動いている。

 そして、待つこと数秒、期待していた白い三本の角ではなく、ニョキッという擬音がふさわしい感じで、小さな緑色の腕が二本生え、その間に緑の髪の毛に緑の瞳をした人の頭が生えた。

 何だ? と見つめていると、相手に見つめ返され目と目が合った。といっても、こちらは複眼なので、目と目が合うなんてそんなレベルではないのだが。

 そのまま、少しの間見つめ合っていると意を決したのか、その頭の持ち主は頭の横に生えている腕を使って地面から這い出してきた。イメージ的に言えば墓場から這い出して来るゾンビであろうか?

 だが、出てきたのはゾンビとは似ても似つかない存在であった。最初に出ていた顔からすでに分かっていた事だが、緑色の美少女だった。

 いや、自分より小さいという事を差し引いても少女よりも幼い、まさしく幼女と呼ばれるような年頃に見える。

 髪の毛は新緑を思わせる緑色で、腰まで届くほど長く。瞳はエメラルドグリーンでまるで光っているようだ。身長は低く、肌の色は白に限りなく近い緑色で、傷一つ無く月明かりで淡く光っているようで、顔立ちは幼いが、整っており十分に美しいと言える。身に纏う服は、大きな葉っぱを貫頭衣のようにしているかと思ったが、よく見ればどうやらワンピースのような物のようだだ。

 つまり、緑色の小人の美幼女が地面から生えて出てきたのである。


(緑の小人か、小人までいるなんて、本当にファンタジーだな。しかし、なんで自分の前にわざわざ出てきたんだ? どう考えてもこの森のカブトムシとは、食う、食われるの関係だろう。いやまて、これはフクロウさんの体には毒があって、それを食べた結果の幻覚なのかもしれない)


 と、考え前足で恐る恐る緑の小幼女を触ってみた。

 触ろうと前足を伸ばすと、小幼女はビクッと震えたが意を決したのか、此方をキッと睨みながら動かないで居てくれた。触った感じは、自分が甲殻で覆われているため感触は分からなかったが、存在していると言う事と、見た目通り肉は柔らかい、と言うことが分かった。

 やはり、この森においてカブトムシと、この緑の小幼女は食う、食われるの関係ではないのかと思う。


(取り敢えず、幻覚ではなかった。だけど、そうなるとやっぱり分からない。自殺でもしにきたのか? しかし、自分から捕食者の前に出てきて食べられて死のうなんて、ダイナミックな自殺だなぁ。まぁ自分は食べないけどさ、だってどうみても小人で幼女だもの。フクロウさんを食べたから慣れたのかもしらないけど、もう自分は、マーブル君やフクロウさんが破裂したり潰れたりしても何も感じずに食べることはできる。けど、流石に感情を持っているであろう人型の生物を、生きたまま食べるのはまだ嫌だ)


 と思いながら、前足の爪で緑の幼女を突いていると爪を掴まれた。そして、そのままグイグイと引っ張られた。思いのほか力が強いようだ。


(なんだこれ、怒ってるのか? それにしても恐怖心とかはないのか? 食われるかも知れないのに。いや、食べないけどさ)


 なおも引っ張り続ける緑の小幼女だが、疲れたのか手を離し息を荒げている。少し待つと、何処から出したのか、長い枝を……といっても緑の小幼女から見て長い枝だが、を取り出し、それで地面に何かを書き始めた。


(アルファベットみたいだけど、何か違うな。無駄なパーツを付けられたアルファベット?なんだかよく分からないな)


 そうして、全部書き終えたのか、緑の小幼女はやりきった顔でこちらを見ている。

 しかし、自分にはコレを読むことはできないので、どうしようかと思っていると困った顔でうろたえ出した。


(何か重要な事なのかな? でも読めないしなぁ、どうしろって言うんだよ)


「~~~~~!?~~~~……。~~~~!~~~!」


 ダンダンと、地団太をふみながら叫んでいる緑の小幼女は可愛らしかった。だが、言っている言葉は一切理解できない、言葉だということは分かる。だが、何を言っているのかさっぱりなのだ。


(書いた文字からして英語っぽい発音の言葉なのか、と思ってたけど全然違うじゃないか。フランス語っぽい発音のドイツ語? のような、それで居て日本語のように聞こえる発音も混じっている……。ともすれば、歌みたいに聞こえる。何だろうな、本当に)


 眺めていると、叫ぶのにも疲れたのか、トボトボと歩いていく。


(あれ? 帰っちゃうのかな?)


 と思っていると、又こちらに向き直り手招きをしている。


(呼ばれてるのかな? なら付いていくしかないか)


 そう思い、緑の小幼女の方に向かって進んでいくと、緑の小幼女はそれを確認してから自らも歩き出した。


---------------------------------------------------------------


 そうして、どれほど歩いただろう、夜が明けそうになっている。それに、ここまで一切他の生き物に会わなかったが、一体どういうことだろうか。


(緑の小幼女が何かしたのか? 多分そうなのだろう、魔法か何かの力を使っているのかもしれない。そう考えると、この緑の小幼女は結構強いのかもしれない。食う、食われるの関係では無いのか?)


 と、考えていたら、どこからともなく、大きな何かが羽ばたく音が聞こえてきた。視線を全方位に向けると、深緑色のトカゲが羽ばたきながら右上方から降りてきた。


(トカゲって羽生えてたっけ? いや、これはドラゴンとかそういう存在なのか? 妖精さんが居たし、居てもおかしくない……のか? でも自分とか、マーブル君と大きさがあまり変わらない程度って、小さくないか? なんだか、ドラゴンとは呼びたく無いな、深緑色の……いや、普通にトカゲでいいか)


 そうやって眺めていると、傍らに居る緑の小幼女が涙目で震えていた。それは、自分と会った時よりも酷かった。と言う事は、つまりこの深緑色のトカゲはこの森に住むカブトムシよりも圧倒的に強いという事になるのではないのだろうか?


(やばいな、これは自分死んだかな。この緑の小幼女を囮に逃げれないかな? いや、それで逃げたら色々後味が悪すぎるし、何より見逃してくれる気がしないな。たしか、飼育されているトカゲって、餌にでかいゴキブリを食べていたはず。自分も今は所詮でかいゴキブリみたいな物だろう、角付いてるけど)


 無駄な知識が残っている事を確認しつつ、覚悟を決める。全力で抗って、倒せなければ殺されるだけだ。だいたい、野生動物になってしまったんだから、いずれはそんな最後だろうし、それが遅いか早いかだ。何より、今なら緑の小幼女を守って死ぬと言う、何というか、ヒーローチックな行動もとれるから悔いも無いだろう。


(何はともあれ、行くぞトカゲ!)


「ギュイギュイギュイカチカチカチカチ」


 気合を入れ、威嚇音を発しながら(雷出ろ! 火炎飛んで行け! 閃光穿て!)と、放てる魔法を全て目の前の深緑色のトカゲに叩き込む。

 光は真っ直ぐ飛んで行ったが、雷と炎はお互いに、そして光に対しても磁石が反発するような動きをしたため、五本の雷の内二本がずれて地面に当たり、爆発した。

 その結果、大きく土煙が発生し、そのせいで相手が見えなくなってしまった。が、すぐさま前羽を開き飛行体勢に入る。

 そして角を大きく開き、少し浮かぶ程度の高さで、角を少し開き気味にして、恐らく深緑色のトカゲが居るであろう場所に向かって全速力で突撃する。予想通りその場に居てくれたようで、確実に何かに刺さった、という手ごたえを感じたので一気に角を閉じる。

 何かを切り裂いた感覚があるが、飛ぶことを止めることはせず前へ向かって飛ぶことを意識する。引きずっている感覚があるという事はまだ自分は深緑色のトカゲを捕まえているようだ。そして、最後に勢い余ってそのまま何かにぶつかった。


(一時離脱!)


 ぶつかった衝撃に合わせて後ろに下がり、引きずったりぶつかった衝撃で発生した土煙が晴れるのを待つ。


(おお……これは酷い)


 土煙が晴れるとそこには、頭と羽の半分を焼ききられ、右足が炭化し、胸を真正面から五つに引き裂かれ絶命している深緑色のトカゲが、木の根元にもたれかかる様に……いや、状態としては磔にされていた。


(あれ? これもしかして閃光だけでしとめれてた? これは、同サイズの相手なら大体敵にならない感じなのかもしれないな。そう考えると、魔法、強すぎるだろう。どの傷も致命傷じゃないか。食物連鎖で逆転が起こるほどとは……というか、妖精さん達にそんな魔法の集中砲火を受けて無事だった自分の甲殻すげぇ。さて、それはそうとして、丁度美味しそうに焼けてるし、このトカゲ食べてみよう)


 少しトカゲに触れてみれば、バランスを崩したのかそもそも限界だったのか、地響きを立て、重いものが落ちるような音をさせながら、トカゲの亡骸が地面に横たわる。どこに食らいつこうかと考えた結果、良く焼けている胸の部分が良さそうだと思ったのでそこに噛み付く。


(おう……これまた美味しい。フクロウさんもなかなかの美味しさだったけど、これは何だろう。食感は鶏肉? まぁトカゲだからそうなるんだろう。でも味が凄いな、まるで脂ののった鮪みたいな味だ。これは見つけたら確実に倒そう、どうも閃光の魔法だけでいけそうだし。それなら、飛んでても落とせるから完璧だ)


 そう考えながら二口目に行こうとすると、背後からの視線を感じる。振り返ると、指をくわえてこちらを見る緑の小幼女が居た。

 見ていると、そのままの様子でフラフラとこちらに来て、引き裂かれた場所に手を突っ込んだ。そして、中の肉を素手で引きちぎり、血が滴っているのにもかかわらずそのまま食べた。


(え……緑の小幼女って肉食なのか、なんだかショック。もっとこう……花の蜜とか吸ってるイメージだったのにな)


 しかし、ニコニコとしながら肉を食べる緑の小幼女はかわいい。口と手はトカゲの血塗れで、そのため見た目は酷く恐ろしいのだが。

 だが、まぁ誰が何を食べようと関係が無いので、一緒にモリモリと食べてしまい。結局、深緑色のトカゲの亡骸は地面と木に血のあとを残し無くなった。食べている最中、力が漲ってくる感じがしたのだが、前回同様多分腹が減っていただけだろう。


(それにしても、空腹感を感じないのはやっかいだ。もし、限界を越えてしまったら土の中に居た時と同じように暴走するんだろうか?その場合、土の中の状態を考えるに、周りの生き物を無差別に襲い食べる状態になるんだろうか?)


 その場合、この近くに居る幼女を捕食しようとしてしまうだろう。それならまだマシかもしれない。最悪の場合、まだ見たことの無い大型の捕食生物。恐らくこの森の食物連鎖の頂点に居るであろう動物、熊やそのレベルの圧倒的上位捕食者に、我を忘れて突っ込んで行く場合もありうる。


(頭とか……いや、目とかを狙って魔法とかを駆使すれば、意外と倒せるのかもしれないけども、死ぬ確立が高すぎる。なにせ、熊対カブトムシだ。冗談か何かだろう。いっそ食べられに行くと言っても良い)


 そんな風に考えていると、緑の小幼女が飛んだ。ジャンプではなく、浮遊したのである。多分、自分が使っている飛行魔法と同じなのだろう。


(もしかして、この深緑色のトカゲの肉が食べたくてここにおびき寄せただけか?)


 なんて、考えながら小幼女を見ていると、自分の前胸中央部にある、複眼の後ろに着地し、座って前を指差した。


(そこに座られると、斜め後ろの上が見えないから困るんだけどな)


 と、思ったがニコニコ楽しそうに座って居るのを見て(まぁ、少し位ならいいか)と、納得した。


(しかし、始めて日中に行動しているけど全然眠たくも無いな)


 木漏れ日、というのはいささか暗すぎる森を見ながらも自身の生態というよりは体力だろうか? それに疑問を持つ。


(もしかしたら、空腹や眠気を感じない作りの体なのかもしれない。ということは、空腹と同じで限界を越えると突然寝てしまうのだろうか? 仮にそうだとして、食事にしても睡眠にしても足りていないかどうかが分からない生物というのは、生物としてどうなのだろうか?)


 そんな自問自答をしながら森の中を進んでいく、緑の小幼女が指差す方へ向かって。


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