文系男と理系巨乳の胸談義
「貧乳っていいよねぇ…。私も貧乳になりたかったなぁ…」
女は恋人と二人でゲームをしていた。所謂家デートという奴だ。
男はどちらかというと外でデートする方が好きなのだが、女は家でべたべたとしている方が好きだった。今回は男が女の事を思いやって家でのデートとなったようだ。
二人がやっているのは男が好きなアイドル育成ゲームだ。このゲームはオタクの中ではかなり有名で人気がある。
そして今画面に映っているのは、貧乳ツンデレキャラとして人気を誇るアイドルだった。
女はこのキャラクターを見て貧乳になりたいと言ったのだ。
「あ。でも、貧乳になったらりょーちゃんと付き合えなくなっちゃうからイヤだなぁ」
女は考え直したようにそう言った。その言葉に男は疑問を覚えた。
「なんで貧乳になったら俺と付き合えなくなるんだよ。胸が小さくてもお前なんだから俺はお前のことを好きになるぞ?」
その言葉を聞いて女は巨乳もしくは爆乳と呼べる大きさの胸を持ち上げてアピールしながら答えた。
「だってさ、私が貧乳だったら人格形成に影響を与えると思わない? 今の私は巨乳で虐められっ子だったから私になったんだよ?
もしも、貧乳になってたら今みたいな性格には、まずならないもん。」
「仮定として、今より少し小さくて普通サイズの胸だったとするよ。もしそうだったら突出した大きさの所為で虐められて内向的な性格になるっていうフラグが折れるじゃない?
それがなくても虐められてた可能性はあるけど、少なくとも男性の劣情の目が向けられることはなかったと思うの。痴漢される回数は今よりも激減したはず」
そこで一息ついて、男に視線を投げかける。男は理解しているようで頻りに頷いていた。
「そうしたら、男性恐怖症もなくて外交的な私が出来るわけよね。簡単に言ってしまえば今よりもギャル寄りな私ね。
ところでりょーちゃん。ギャルは好き?」
「好きどころか嫌いな部類に入るなぁ。確かにそれだったら出会ったとしても仲良くなれるかはわからないかもしれない」
「付き合えなくなるっていうのはそういう事。更に言うなら会う可能性すらなくなるかもしれないんだけど…。
りょーちゃん、私達のファーストコンタクト覚えてるよね?」
男は大きく頷きながら、女へ言葉を返した。
「高校の頃だよな。図書室に行ったらお前がいたんだ。顔はともかく胸がデカかったから印象に残ったんだよな…。
その後、その頃の彼女にお前が友達だって聞いて…。いろいろとあったなぁ…」
「顔はともかくってね…。綺麗どころじゃないのは自覚してるけどさ。
まぁ胸がなければ印象にも残らなかっただろうし、元カノにも聞かなかったと思うんだよね。そうしてたらもうただの顔見知り程度で終わってたでしょ?」
「それに胸の関係で性格が変わっててギャルになってたら図書室にも行かなかったかもしれないし、頭が悪くなっててもっと下の学校に行ってたかもしれない。
逆に胸が小さくて精神的に追い詰められて勉強に逃げるかもしれない。そうしてたらもっと上の学校に行ってたかもね」
女はこめかみに指を当てて考えながら喋り続けている。そんな女に首を傾げながら男が質問を返した。
「胸が小さいくらいでそんなに追い詰められるものか? たかが胸なんじゃないのか?
精々男にとっての象徴と同じくらいの感覚なんじゃないかと思っていたんだけど」
「胸はある意味、男の人のとは違うんだよね。だって常に目につく場所にあるでしょ?
隠しようがないし、男の人が巨乳の方が好きだって聞くから小さいのはかなりのコンプレックスになるの。
思春期の娘は体重と同じくらい気にすると思う。たかが胸のことで虐めるんだもん。それくらい胸の大きさって女にとっては大切なの」
あぁなるほどなと納得したような顔で男は言った。
「なら、確かに会えなかったかもしれないな。
つまり今一緒にいることはとんでもない奇跡だって事になるな。互いに歯車が少しでもずれてたらそもそも会うこともなかったんだろ。
70億人の内、2人が出会って恋人になるよりももっと凄い奇跡だ。
…巨乳に育ってくれてありがとうな。ゆか。愛してる」
男の言葉に嬉しそうに頷いて、女は男に抱きついた。
その日はもう2人はゲームをすることはなかったそうだ。