第一話
皆さん初めましての方は初めまして。
私の前作を読んで下さった皆様方は、お久しぶりです。
今回は、オリジナルの小説を連載したいと思います。
ホラーコメディみたいな感じで拙いながらも頑張っていきたいと思います。
他にも、同時進行で上げるかもしれませんが、もしあげた場合はそちらの方もよろしくお願いします。
では、お楽しみあれ……。
これは夢だろうか……?
考えるまでもないな。これは夢だ。俺の記憶を再現した夢。
『……、兄………、死な……で』
頭に直接響いてくるように聞こえるのは義妹の泣きじゃくる声。
目の前に広がるのは死にかけの俺の姿と縋りつく義妹の姿。
そう、これは……あの時の……――
『ッ!? ――ハァ……ハァ……』
ガバッと勢いよく起き上がる少年。その息は絶え絶えで服は汗でぐっしょりと湿っていた。
少年は不機嫌そうに表情を歪め、胡坐をかいて座りなおす。
『夢か……なんで今更あの時の夢を。……とにかく、嫌な夢を見た』
そういって少年は額に浮かんだ汗を服の袖で拭っていく。
季節は春。冬が終わり暖かな日差しが心地よいが、大量に汗をかいている少年にとっては恨めしいもの以外の何物でもなかった。偶に吹く風が唯一の救いと言っても過言ではない。
そして少年が今座っている場所は屋根の上。まごうことなき一軒家の屋根の上である。
『あれからもう五年も経ったのか……』
少年は感慨深そうに一人呟く。
少年の容姿は普通。肩にかかる位の長さの黒い髪に、ややつり目気味の栗色の瞳と日本人らしい容姿。細身ですらっとした体形で、座っていて分かり難いが平均的な身長。身に着けているものもジーンズにT-シャツ、その上にジャケットを羽織っているだけでいたって普通。
ただ一つ……。少年の姿がうっすらと透き通っているという事を除けば少年は普通である。
『俺が死んでから五年。長かったような短かったような……うんうん』
そう、少年は五年前に死んだ。
少年――『永夜渚紗』――は、所謂……幽霊という存在である。
渚紗自身も何故、自分が幽霊になったのかは分かっていない。
渚紗は気付いたら宙に浮いていて、幽霊になっていて、自分の葬式を眺めていた。
それから五年もの間、幽霊として過ごし続けている。
最初はいろいろと戸惑っていたが、数日で幽霊というものに慣れてしまう。寧ろ空を飛べたり、物を通り抜けたりできて便利だと渚紗は気に入ってしまっていた。
ふわふわと宙を浮いたり、家族を見守ったり、幽霊らしい行動をして日々を送っている。
『あ、そういえば。今日は義妹の高校の入学式だったな。見に行かないと……』
思い立ったかのように立ち上がり屋根から飛び降りる渚紗。アスファルトの道路に着地する寸前に、ふわりと浮かび上がりそのまま静かに着地した。
そして慣れた足取りで高校までの道を歩いていく。
鼻歌交じりで懐かしみながら歩く姿は、到底幽霊の類には見えない。
『うわぁ~懐かしいわ。俺もこの通学路をよく通ったもんだ』
渚紗が生まれてから死ぬまで……死んだ後も暮らしている“蓮華町”。
蓮華町の人口はおおよそ30万人ほどで、開発が進み都市化しており街の方は人通りが多くにぎわう。
都市化が進む中で山などの自然物もキチンと残されており、街と自然の一体化が成功した形となっている。
蓮華町は大きく、四つの区画に分けられる。
一つ目は臨海区。文字通り海と砂浜に面している区画で、地元の住人や観光客などで夏はにぎわっている。
二つ目は都市区。大型のビルやショッピングモール、駅などとあらゆるものが充実しており、人と明かりが絶えない区画。
三つ目は居住区。住宅街が密集しており渚紗の家や通っていた高校などはこの区画にある。
最後は山林区。山や森林などと言った自然がそのまま残されている区画だ。
『数十年前までは田舎だったらしいけど……影も形もねえな』
アスファルトで整地された道路を歩きながら渚紗は嘆息した。
そうしてキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、目的の高校へと辿り着いた。
“蓮華高等学校”
生徒数、千人前後。古くからある伝統校だが、改装され校舎は新築のように綺麗で立派。
渚紗が生前通っていた……渚紗の義妹がこれから通うことになる高校。
渚紗は懐かしげに校舎を見上げると、ふと宙へと浮かび上がった。
そして、向かう先は入学式が執り行われるであろう体育館。
(お邪魔しまーすっと!)
幽霊としての特性を生かして体育館の壁をすり抜けて中へと入る。
入り口付近の席は保護者の者であった。
その保護者たちの中に渚紗は両親を見つけたので、静かに近づいていく。
母親はおっとりしたような表情で笑っており、父親は娘の晴れ舞台の為か少し緊張したような面持ちであった。
『おひさ~……ってほどでもないか。少なくとも俺は毎日見てる訳だし?』
独り言のようにつぶやく渚紗。当然、両親はそんな渚紗の独り言に気付かない。……いや、気付けない。
渚紗は両親の目の前で手を振ったり、奇妙な踊りを踊ってみたりする。
しかし、やはり渚紗の存在に気付くことはなかった。
そんななか両親は話しを始めた。
「優奈も大きくなりましたねアナタ」
「そうだな。あんなに小さかった優奈も、もう高校生か……」
「高校生……渚紗と同じ高校生になったんですね」
急に自分の名前が出て来た渚紗はびくりと肩を大きく揺らした。
明るかった両親の表情は少し影が差し悲しげである。
「そう……だな……。渚紗が亡くなってからもう五年だな」
「ええ。五年……長いような短いような」
「ああ。出来るならばもう一度我が息子に会いたい。会って思いっきり抱きしめてやりたい」
「“ありがとう”と“ごめんなさい”を渚紗に伝えたいわ」
『……』
渚紗は黙り込んでしまった。
その表情は暗く、悲しげだ。
(俺の方が言いたいよ義父さん義母さん。俺なんかを拾って育ててくれてありがとうって。みんなを残して先に死んでごめんなさいって)
渚紗は居心地の悪さを感じてその場から離れていった。
そしてフラフラと彷徨って辿り着いた先には義妹がいた。
母親似の栗色の綺麗な髪を一つにまとめてポニーテールにしており、垂れ目のパッチリとした優しい瞳。小柄ながらも女性らしく体は発達していてメリハリのあるスタイル。新品の制服に着られている感じがまた可憐さを引き立てていた。
十人いて十人全員が振り返るような可憐な美少女。そんな美少女が渚紗の義妹――『永夜優奈』――である。
優奈は列の前の方で椅子に座って入学式が始まるのを待っていた。
(俺ってあんまり優奈に好かれてなかったよなぁ……)
と優奈の後姿を観察しながら考える渚紗。
(なんていうか距離を感じるんだよな……)
と考えている渚紗だが実際は少し違う。
拾われっ子の渚紗。突然、歳の離れた義兄……それも仏頂面なちょっと怖い雰囲気の義兄が現れて幼かった優奈は苦手としていた。
優奈はどう接してよいか分からなかったため、結果として避ける形となった。
本当は義兄に甘えたいのだが、渚紗のとっつきにくい雰囲気のせいでそれも出来ず。
結局、二人は分かり合えないまま渚紗が死んでしまったのである。
距離を作ったのは優奈ではなく渚紗なのである。
しかし、渚紗はそんな義妹の心情に気付くことも無く勝手に距離を感じていたという訳だ。
(それでも優奈は俺の大事な義妹だからな……嫌われてても関係ないぜ)
そうしてしばらく優奈の姿を見守っていた渚紗だったが、ふと奇妙な感覚にとらわれる。
それは、恐怖。
それは、憎悪。
それは、狂気。
それは、妄執。
それは、渇望。
様々に入り乱れる負の感情を渚紗は感じた。
渚紗は嫌な気配が体育館の中に充満するのを肌で感じている。
刺すような視線。それは渚紗と優奈に向けられていた。
『な、なんだコレ? 嫌な感じしかしない』
渚紗の体は硬直し、冷たい汗が流れ始めた。
周りの人は変わった様子がなく、優奈にも変わった様子は見えなかった。
そして、一瞬のうちに目に見える全ての物が……。
――紅く染まった。
『ッ!?』
それは凄惨な状態である。さっきまで生きていた人々は全て死に絶えていた。体が螺旋曲がり、肉をそぎ落とされ、頭をグチャグチャに潰された姿。
大量の血で辺りは染まっており、内臓や肉片がそこかしこに転がっている。
そんな光景を見た渚紗は堪らず嘔吐しそうになるのを必死に耐えた。
『っ……ぅ……。クソがッ! な、なんなんだよ……これは!!』
声を張り上げて怒鳴り散らす渚紗。しかし、妙な静寂が場を包みこんでしまっており渚紗に返答する者はいない。
そんな妙な静寂は渚紗の心を揺さぶり不安を増していく。
渚紗はひっしに辺りを見回す中、ついにその光景を見てしまった。
自身の両親と義妹の死んでいる姿を。
『――』
思考が停止する。目の前の光景を呑みこもうにも脳が全てを拒絶する。それを受け入れてしまえば壊れてしまう……渚紗の……ココロが。
そして、ふと渚紗の見ていたものが変わった。
そこはいつも通りの体育館で、入学式が始まっているのが待っている生徒たちがいて、両親も義妹も傷一つなくそこにいた。
血の跡なんてなく、内臓や体の一部が転がっていることも無い。普通の……変わらない情景。
まるで、性質の悪い白昼夢を見ていたかのような感覚。
渚紗は平和な周りの光景に一瞬安堵しかけたが、先ほどの惨状を思い出し表情を蒼くする。
(なんで急に、あんな……幻覚紛いのものを。さっきまでの嫌な感じも消えてるし)
思考がグルグルと廻っていく。不可解と恐怖の回廊の中を。
『なんなんだよ一体……意味が分からない』
渚紗の困惑の中、入学式が淡々と開始された。
渚紗一人を置き去りにしたまま……。
あれから二時間弱。入学式は無事に終わりを迎えた。
渚紗がみた白昼夢のような出来事もなく、平和に優奈のHRまで終えた。
優奈が帰っていく姿を見送ると渚紗も帰る為に歩き始めた。
夕日に染められクリーム色の姿を見せるアスファルト。
逢魔が時。
昼から夜への移り変わり。よく妖怪などが姿を現しそうな時間帯などと評される。別名、黄昏時。
薄暗い住宅街を一人歩く渚紗。
妙に静かな住宅街は夕日もあわせて物寂しさを漂わせていた。
そんな中、帰ろうとする渚紗の前に立ちはだかる影。渚紗は出会ってしまった。
――彼女に。
「そこの浮遊霊! いや、……永夜渚紗!!」
『――え?』
「ちょっと面貸しなさい?」
『……え?』
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それでは、また次話にてお会いしましょう。