入り口
世には、多くの未知が存在する。
それは御伽噺でしか伝わっていない神話であったり、世界に満ちる魔力であったりと様々だ。
世界中に点在する“遺跡”も、未知に数えられる一つだろう。
何時、誰が、どういう目的で造ったのか……諸説あるが、未だ誰も確かな解には辿り着いていない。
しかし、遺跡が何の為にあるのかは分からずとも、そこに意味を見出す者は多くいた。
遺跡。
俗称としてダンジョンとも呼ばれる其処には、何処から出て来ているのか魔物が溢れていた。
殆どの構造物が複雑に構築されており、罠の類が山ほど仕掛けられている場所もある。
そんな超一級の危険地帯だが、遺跡に入る者はあとを絶たない。
何故なら、遺跡にはだいたいにして多くの財宝が眠っているからだ。
それでなくても、珍種の魔物や伝説級の生物などが跋扈しており、それらの体組織は高値で取引される。
毛皮、鱗、牙、爪、眼球に内臓まで。
武具防具の素材であったり、特殊な薬品の材料であったりと用途は様々だが、必ず誰かがソレを必要としている。
そんな世の中であるからなのか、世界はその時代に沿って形を最適化していった。
その最たるモノが冒険者。今の世の中で最も多くの意味で語られる人種だ。
彼らは各々が其々の理由で遺跡に挑みかかる。
ある者は富のため、ある者は力の証明のため、ある者は未知を解き明かすため。
他にも様々な目的を持って、人々は遺跡に関わった。
冒険者を纏め上げ、取り締まる為の組織“ギルド”が創設され。
より多くの、より強い冒険者を育成するための機関が設立され。
冒険者を上客と定めた商人が商いを始め。
彼らの行動が己に利すると感じた者たちが集まり、街を作った。
それは次第に膨れ上がり、世界に名を響かせる大都市となった。
アヴェストテレス、グランガラン、ソキエ・ナム。
大陸でも一番の規模を誇り、三大都市とも評されるこの三つの街は、全て遺跡の間近に位置する。遺跡を目当てにした冒険者たちを中心に据えて出来上がった街なのだから、それは当然でもあった。
話は変わるが、一口に遺跡と言ってもその規模や難易度は大小様々あり、三大都市には比較的多様な遺跡が近場にある。それらはS・A・B・C・D・Eとランク別けされていて、Eから順に難易度は上がっていく。
Eランクは初心者ダンジョンともいわれ、その名の通り新米冒険者にも比較的簡単に攻略できる遺跡ばかりだ。
Dランクは新米には少々厳しく、それなりの冒険者であれば苦労するほどでもないという具合の遺跡が多い。
C~Bランクは中堅どころの実力があればどうにかなるが、ここで躓くようだと大成できないとされる、云わば冒険者の分水嶺。
Aランクは一流の冒険者PTでなければただ入る事さえも難しい、世界でも三つしかない遺跡のこと。
そしてSランクは、最早歴史に名を残すほど伝説的なPTでもなければ生きて帰ることもできないような魔境であった。
ちなみに、単独での遺跡攻略は可能といえば可能だが、それが出来るのはどんな一流冒険者でもDランクまでが限界で、それ以上のランクに一人で挑むなどというのは自殺行為となんら変わりない。なので、遺跡に挑むならPTを組むというのは冒険者にとって常識になっている。
三大都市の周辺には、それらE~Aランクの遺跡が点々と存在するが、中でも一際異彩を放つのが大都市一つにつき一つあるAランク遺跡、通称“三大宮”だ。三つの都市は其々、Aランクの遺跡が望める地を中心に発展してきた。故に、Aランクダンジョンを攻略するのがそれらの街にいる冒険者たちにとって一先ずの目標となっている。
その三大宮の一つ、グランガラン近郊にある【リリアの宮殿】の踏破も間近とするPT団体≪暁の風≫。そこのトップPT《ウイングデイブレイク》に所属するアルベルト=アレクセイは、ギルドから借与されているPTルームで今回の遺跡探索で消費・入手された物品の記帳を行っていた。
道具を何処でどれだけ消費して、何をどの程度補充する必要があるかを明記し、拾った道具、魔物から剥いだ素材などを保存用と換金用に仕分けして整理するなど。そういった事務作業は専らアルベルトの仕事となっている。
アルベルトの職業は巷で不人気No.1の過疎職[錬金術師]だが、その2mに届こうかという巨躯に細身ながら筋肉質の風体はまるっきり戦士のそれであり、装備も斧槍に軽鎧。とてもではないが錬金術師には見えない。その実力も中の上といった所で、錬金術以外にも多様なスキルを使うのが、特徴といえば特徴か。
PTでのポジションは、対外的には前・中衛での壁役となっている。錬金術師は研究職のため、敵の攻撃を受け止める壁役など本当は無理なのだが、アルベルトに限って言えばそう苦ではない。なにせ、元々は戦士だったところから錬金術師に転職したのだから。他にも多様な職に就いた経験があるが、そのあたりは割愛する。
ともかく、壁役というのはあくまで“対外的”なものであり、PT内ではそれとはまた別の扱いを受けていた。壁としての役目も十分に果たしているのだが、とあるマジックアイテムのお陰でその印象はかなり薄れている。
「おいアル、ポーション買ってきたから“蔵”開けてくれ」
叩きつけるような乱暴さで開け放たれたドアから入室してきた赤毛の少年、シュートがぞんざいな口調でアルベルトに声をかける。アルというのはアルベルトの愛称なのだが、そう呼ぶのとは裏腹にシュートの声音から親しみは感じられない。それ以前にアルベルトは25歳でシュートは17歳と実に8歳も年が離れているのだが、敬意も何もないその言葉遣いを全く気にした風でもないアルベルトは、気の抜けた返事を返しながらシュートの言う“蔵”の鍵を開けた。
「ほらよ」
アルベルトの右手側……シュートにとっては正面の空間に歪みが発生した。そこから見える向こう側は、まるで陽炎のように揺らめいている。その現象に何の疑問を持つ事もなく、シュートは抱えていたポーションの全てを歪みに向って投げ放つ。するとポーションは順次歪みの中へ消えてゆき、全てが入ったところで歪みも消滅した。
これこそがアルベルトの持つマジックアイテム『賢者の蔵』である。
『賢者の蔵』
錬金術で製作できるマジックアイテムで、その名の通り蔵として使用することができる。
見た目は虹色の鍵のようなモノで、異空間に城が丸々納まるほどのスペースを作り出し、そこに物を収納する。
蔵の中は時間が止まっているため収納物は収納した時の状態で保存され、限界まで入れても重さは手の平サイズの鍵一つとなんら変わるところはない。ただし、植物を除いて生物だけは収納できない。
製作者以外には使用できず、製作にはそれなりの才能と時間、そして資金が必要になる。
素材一つをとっても入手が困難なため、便利だが割に合わないとしてほとんど誰も作ろうとしない代物だ。
また、錬金術師の最終目標とされる『賢者の石』と似通った名前だが、それとは全くの無関係である。
「んっとに、色々仕舞っとけるのは便利だけどアンタしか使えないってーのはどうにかなんないかな」
「ならんな。元々は錬金術師が自分の研究成果を隠し持つために作ったものだ。改良自体はできるかもしれんが、歴史書に名前が載ってるクロウリー卿くらいの実力がなけりゃお釈迦にするのがオチだろ」
そして自分にそこまでの力はない。そう言ってアルベルトは帳簿の記入作業に戻った。シュートもただ言ってみただけなのだろう、さして引き摺るような事も無く他のPTメンバーが雑談している机に向う。しかし去り際、嘲るような言葉と共に彼の肩を叩いた。
「ま、よろしく頼むよ“荷物持ち”さん」
「…………」
返事はしなかったが、シュートはクツクツと笑いを噛み殺しながら離れていった。シュートが向った机で雑談をしていたシエラ、リタ、マサムネの三人はその様子を窺いながらも小さく苦笑するのみ。その様子にも気付いていたが、いつもの事なのでアルベルトは特に反応を示さなかった。
別に、アルベルトは怒っているわけではない。わざわざ嫌味を言っていくことに呆れていただけだ。
荷物持ちと揶揄されるのはそれほど気になる事ではなく、アルベルトはその役割を納得してこなしている。『賢者の蔵』を所持しているのだから、PTの荷物や遺跡で手に入れた素材を持つのはむしろ当然と思う。
だが、最初からこうではなかった。PTを組んだ当初を思い出し、アルベルトは皆に気付かれないように深く溜息を吐く。
初めてアルベルトと彼らが出会ったのは二年前、アルベルトが冒険者となってから三年の月日が経とうとしていた時だった。最初に声をかけてきたのは、ここにはいないPTリーダーのセラリアという少女だ。彼女は僅か15歳で冒険者資格を取得した、正に天才だった。それだけでも驚いたというのに、さらに驚かせてくれたのは彼女とPTを組んでいるという少年少女たちもが14、5歳で資格を取ったという。それも全員が【先天性特殊発生型異能力:レアスキル】という生まれ持った才能を有している非常識さ。暫くは開いた口が塞がらなかったが、話を聞く限りでは初心者によくある「先達の指導が欲しい」という類の頼みで、特定のPTにつくことをしていなかったアルベルトは快く引き受けたのだ。
そうしてEランクから順に攻略し、今までに得た経験や教訓をセラリアたちへ丁寧に教えていった。彼女たちは乾いたスポンジが水を吸うかのようにそれらを吸収し、元々の才能もあってか瞬く間に成長して一年が経った頃にはもう立派な一流PTの仲間入りを果たしていた。ただ残念だったのは、冒険者心得を軽視する傾向があるのと、プロ意識……冒険者としての自覚が薄いことだろうか。それからはそういった精神教養を中心に指導してきたのだが、思えばこの頃からもうPTからの対応は変わっていた。
PTリーダーである魔導師のセラリア、戦士のシュート、剣士のマサムネ、聖職者のリタ、盗賊のシエラ。
才能に溢れた彼女たちに魅かれた者達がいつしか集まり、一つの派閥を形成しだしたのも、その頃だ。以降、次第にアルベルトと距離が開くようになり、いつの間にか“荷物持ち兼壁役”と詰られる関係に堕ちていた。精神教養についてはそれなりに厳しく言い聞かせてきたつもりだったが、このザマでは効果がなかったということなのだろう。懸念事項は他にもある。
アルベルトが壁役をしているせいか、彼女たちは壁役というのをあまり理解しようとしていない。PTを組んだ場合、往々にして前衛の危険度が高いのは周知の事実であろうが、その中でも壁役というのは一番命の危険があると言っていい。壁役は敵の攻撃を己に引き付け、更にその状態をあまり動かずに維持しなければならない。それは一体だけの時もあれば、複数の敵全てであることもあって一歩間違えば即、死にかねないポジションだ。
それを補うのがPTの連携であり、アルベルトが壁役を張り続けてこれたのも、偏にセラリア達の連携あってこそだった。道具を駆使するなどしてアルベルトが援護したことも多かったが、それも連携ありきである。ただ、それはセラリア達の連携にアルベルトが合わせていたからとも言えるのだが。
アルベルトが抜けた場合、新に入るのは恐らく重戦士あたりになるはずだ。上手く機能させられればいいが、もし壁役を蔑ろにした戦術で戦えばすぐにでも連携は崩れるだろう。そうならないように矯正できればいいのだが、正直な話アルベルトにはもう出来る事はないように思えていた。
「……うし、記帳終了」
別の思考に走りながらも、アルベルトは失敗などせず作業を終了させて椅子の背に凭れかかった。訥々と考えたが、結局は『そろそろ潮時ではないか』という意見に落ち着いてしまう。
さてどうするかと再び考え込んだアルベルトだったが、先ほどのシュート以上に力強く開け放たれたドアが上げる悲鳴に思わずそちらに目をやる。すると、見慣れた金糸の長髪が目に映った。
「みんな、朗報よ! 新しい仲間を連れてきたわ」
ドアを破壊しかけた少女、このPTのリーダーであるセラリアは、室内の注目を集めながら満面の笑顔で言い放つ。その背後では、セラリアより少し背の高い甲冑姿の少女が緊張した面持ちで直立していた。突然のことに動きが止まってしまっている一同を無視して、セラリアは背後の少女を部屋の中央へ引っ張ってくる。
「紹介するわ、つい先日ライセンスを取得した新人のコーネリア=エルヴィーさん。職業はなんと重戦士! し・か・も、強力なレアスキル持ちでもあるのよ。それから―――」
「待て待て、ストップ! ちょぉっと待ってくれ」
早口に甲冑少女の紹介をし始めたセラリアの前に黒髪の少年、マサムネが出てきて大仰な仕草で制止する。それによって、ようやく衝撃から抜け出した面々が口々に言葉を返した。
「えっとぉ……セラリアちゃん、新しい仲間だなんて急に言われても困るわぁ」
「そうそう。第一、ウチのPTはもう『理想数』上限の6人は埋まってるじゃない」
おっとり口調で苦言を呈したのはリタ、同調するように頷いたのはシエラだ。また、シエラの言う『理想数』とは、冒険者がPTを編成する際に基準とする数のことで、職業の内訳にもよるが最低でも4人、最大で6人が理想とされている。
これは遺跡の中で一つのPTが最高の連携を行える限界数と言われていて、それ以上でも以下でもPTの運用レベルは落ちるという。現在では冒険者の常識ともされる事柄であり、故に天才PTとも名高い《ウイングデイブレイク》のリーダーたる者が知らないはずはない。
「黙らっしゃい。言われなくても、そんなこと分かってるわよ」
やいのやいのと騒ぐメンバーを、セラリアは静かに一喝して収める。甲冑の少女は事態に付いていけてないのか、緊張に身体を硬直させたまま動かない。静寂が室内に下りたが、それを破るようにシュートが声をあげる。
「つーか、だったらもうちょっと考えて行動してくれよリーダー。誰かクビにでもすんのか?」
「そうよ」
「…………え?」
呆れたような問いかけに、しかし返ってきたのは刃のように鋭い即答だった。間の抜けた声は誰が上げたものか……少なくとも、セラリアが入室した時点から一言も発していないアルベルトは違うだろう。またも呆然としてしまったメンバーを他所に、セラリアは途中だった報告を再開する。
「それで、コーネリアの参入ともう一つ。みんなに嬉しい知らせがあるわ……コレよ」
言って、腰に巻くポシェットタイプの『トレジャーインベントリ』から折り畳まれた布を取り出すと、それを広げて見せた。広げられた布はさほど大きくない長方形で、右端からは紐が飛び出している。よく見てみればそれは、冒険者の中ではわりとポピュラーなナップザックタイプの『トレジャーインベントリ』だった。
この『トレジャーインベントリ』とは、空間拡張の魔法式が埋め込まれた道具袋のことで、冒険者にとっての必需品である。空間拡張によって内部空間が広げられた『トレジャーインベントリ』にはその見た目以上の容積が存在し、これのおかげで普通ではとても回収できないような量の物品を遺跡から多く持ち帰ることが可能になっている。型や容量は様々あり、セラリアが付けているポシェットタイプなどは《ウイングデイブレイク》のメンバーは勿論のこと、どんな冒険者も必ず一つは持っているほどにメジャーな物だ。ポシェットタイプは容量こそ通常の登山リュック程度ではあるが、幾つかあるポケット毎に収納物を別けて入れられるため、戦闘中でも簡単に取り出すことができるのが特徴となっている。そのため、物品回収目的のモノとは別に携行している冒険者は多い。
比例して、ナップザックタイプの『トレジャーインベントリ』は六畳一間ほどの容量とあまり嵩張らない形状から、物品回収のために用いられる事が多く、ポシェットタイプと並んで利用者が多かった。《ウイングデイブレイク》でも使っており、それと比べて違う部分といえば、デカデカと割れたタマゴのシンボルマークが縫い付けられている所ぐらいか。そこまで見て、マサムネは思わず声を上げた。
「おまっ、それって《ハンプティ・ダンプティ》社製の新作『トレジャーインベントリ:グースエッグ』じゃねぇか!? バカ高いうえにまだ殆ど出回ってすらないモンをどっから持ってきたんだよ……?」
《ハンプティ・ダンプティ》
マジックアイテムの開発・研究を行っている公共会社で、普段はイマイチ使い所のない物ばかり作っているのだが、極稀にギルドが擁する研究機関をも凌ぐような発明をすることで有名となっている。この『グースエッグ』も、その極稀な発明品に含まれた。
そもそも『トレジャーインベントリ』とは、言ってしまえば“ただ沢山物が入る袋”でしかない。袋の口から入らない物はどうやっても入れられないし、簡易な重力操作の魔法式である程度軽減されるとはいえ入れたら入れただけ重くなる。それが今までの『トレジャーインベントリ』の限界であった。だが、今回《ハンプティ・ダンプティ》が開発した『グースエッグ』は従来の常識を覆す性能を持っていた。
まず袋の口だが、この付近は成体になった白竜の鬚が素となっている。白竜の鬚はゴムよりも伸縮性に富み、耐久性も段違いにある。このため、口さえ広げれば余程の物でない限りは収納することができるようになった。次に最大容量、これも今まで作り出された『トレジャーインベントリ』の中では過去最大で、貴族の屋敷が丸ごと入るとされている。そしてこれが最も重要なのだが、なんと総重量の大幅軽減に成功したのである。重力操作や空間操作の魔法式を幾度も改良し、その結果、限界まで詰め込んでも10kgに満たない所まで引き下げられたのだという。性能は折り紙付きだが、難点は開発が極めて困難であり稀少素材や高級な材料を多く使うために数が限られることから値段が高騰しまくっていることだろうか。
そんな物を持っていればそれは不審に思っても仕方ないだろう。しかし、セラリアはなんでもない風にあっさりと言葉を返す。
「ん。そこの福引で当たった」
「……そか、そりゃすげぇ」
あまりにもいつも通りの態度でいるセラリアに、流石に言葉がなくなったマサムネは気の抜けた声をかけて引き下がった。が、そこで話は終わらない。こんな物を福引の商品にした豪胆な店は気になるところだが、それよりももっと深刻で重要な問題があった。先ほどのクビ発言である。もっとも、新参入者の職業が重戦士で、かつ偶然とはいえ『グースエッグ』を持ってきたという事実からクビになる人物はメンバーの誰もが予想できているのだが。
「で、率直に言うけど……アルベルト、貴方に外れてもらうわ」
「おう」
「ポジション的にも貴方より優秀な子が入ったし、なにより荷物持ちが必要なく――――え?」
子供に言い聞かせるかのような調子でクビの理由を話そうとしていたセラリアは、あまりにも早い返答に幾許か気付くのが遅れてしまう。確かめるようにしっかりと視線を向けてみれば、既に自分の荷物を片付け身支度の終わったアルベルトが立っていた。セラリアの背後に甲冑姿の人物が見えた時点で先が予想できたため、PTルームの私物を片付け『蔵』の中を整理し、いつでも出られる準備をしていた次第である。
「あ……え? ちょっ、あの―――」
「キミ、たしかエルヴィーといったか?」
「ふぇ!? は、はい! コーネリア=エルヴィーと申します!」
想像だにしなかった行動の早さに焦って続く言葉を接げなくなったセラリアを尻目にアルベルトが声をかけると、今まで置いてきぼりだったのに突然話しかけられたからかコーネリアは盛大に驚き、返す言葉にも無駄な力が篭っていた。そんな様子に苦笑を漏らすと、アルベルトは『蔵』からあるものを取り出してコーネリアに押し付けるように手渡す。
「あの、これは……?」
「PTの命を背負うキミへの選別だ。危機に反応して瞬間的に障壁を展開するもので……まぁ、保険と思って持っててくれりゃぁいいさ」
それだけ言って元メンバーとなったセラリア達に背を向けて退出しようと歩いていく。だが、ふと言い忘れた事があると思い出し、ドアを開いたところで立ち止まると徐に振り返った。
「お前たちが一流の冒険者というのは他でもないこの俺が認めるところだ。たしかに、もうこのPTに俺は必要ないだろう。次はお前たちが先輩として後輩を教え導く番になる。正直、俺がいなくともお前たちならすぐにここまで成長したとは思う。だが同時に、俺にもお前たちに教えることができたものはあったとも思っている。それは俺の誇りになるだろう。だから、月並みな事しか言えんで悪いが……これからも、頑張れよ。PTの荷物は倉庫の方に入れとくからな」
言いたい事は、多分だが全部言えたものの、少し恥ずかしくなったアルベルトは最後に『蔵』に入りっぱなしのPT共用アイテムについての注意だけして、セラリア達が言葉を失くしている間にさっさと退出していった。
纏まりがない……気がします。