毎回、仲間のことだけ忘れる私が、ダンジョンで無双してしまう理由
くら……っと、視界が歪んだ。
――まただ。
この感覚、知ってる。
なのに、思い出せない。
思い出そうとすると、指の隙間から水がこぼれるみたいに、全部逃げていく。
「さくらぁ、今日はベースでお願いね」
知らない声が、やけに近い。
反射的に返事をしている自分がいた。
「きてる」
……は?
ちょっと待って。今、誰が喋ったの?
目を開ける。
石壁。湿った空気。鉄の匂い。
そして――黒装束。
腰には短刀が二本。
どう見ても、忍者だ。
「毒付与もってきた?」
「持ってきた」
いやいやいやいや、ちょっと待って。
なんで普通に会話してるの私!?
ていうかここどこ!?
「さぁ、始めるよ~」
軽い声と同時に、視界の端に文字が浮かぶ。
《ダンジョン攻略:開始》
その瞬間、体が勝手に動いた。
――跳んだ。
床を蹴った感触が、やけにリアルだ。
いや、リアルすぎる。
身体が軽い。信じられないくらい軽い。
目の前にモンスター。
きれいな顔した、人型の何か。
考えるより先に、手が動く。
巨大な手裏剣を投げる。
当たる。
避けられる。
追う。
詰める。
斬る。
え、なにこれ。
私、こんな動けたっけ?
「さくら、ナイス」
「いい感じだよー」
振り返ると、二人。
風みたいに動くヒーラーのリオ。
遠距離から正確に射抜く弓手メア。
――知ってる、気がする。
でも、思い出せない。
戦闘は一瞬で終わった。
無傷。
当たり前みたいに、誰も息を乱していない。
「……今の、当たるやつじゃないよね?」
「いつも通りだよ?」
“いつも通り”
その言葉に、胸の奥がざわつく。
宝箱が現れる。
開ける。
中身はコインと干し肉。
「今日もハズレかぁ」
「まぁ周回だしね」
周回。
その言葉が、妙に引っかかった。
――ねぇ。
頭の奥で、誰かの声がする。
――また、忘れてるの?
ぞくり、と背筋が震えた。
「……ねぇ、私たちってさ」
言いかけた瞬間、
頭がズキンと痛む。
思い出そうとすると、拒絶されるみたいに。
「桜?」
リオが覗き込む。
優しい顔。
でも――
なんでだろう。
この人のことを、
“何度も失ってる気がする”
「……なんでもない」
笑ってごまかす。
でも、胸の奥に残る違和感は消えない。
ポータルが開く。
次の階層へ続く光。
「明日もよろしくね、桜」
リオが微笑む。
その言葉に、
なぜか胸が締め付けられた。
――明日。
その“明日”に、私はいるの?
それともまた、全部忘れるの?
私は刀の柄を握る。
そして、心の中で誓った。
次は、絶対に忘れない。
この違和感の正体も、
この世界のことも、
そして――
この人たちのことも。




