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何度でも、あなたに出会うために

毎回、仲間のことだけ忘れる私が、ダンジョンで無双してしまう理由

作者: Wicca
掲載日:2026/04/12

くら……っと、視界が歪んだ。


――まただ。


この感覚、知ってる。


なのに、思い出せない。


思い出そうとすると、指の隙間から水がこぼれるみたいに、全部逃げていく。


「さくらぁ、今日はベースでお願いね」


知らない声が、やけに近い。


反射的に返事をしている自分がいた。


「きてる」


……は?


ちょっと待って。今、誰が喋ったの?


目を開ける。


石壁。湿った空気。鉄の匂い。


そして――黒装束。


腰には短刀が二本。


どう見ても、忍者だ。


「毒付与もってきた?」


「持ってきた」


いやいやいやいや、ちょっと待って。


なんで普通に会話してるの私!?


ていうかここどこ!?


「さぁ、始めるよ~」


軽い声と同時に、視界の端に文字が浮かぶ。


《ダンジョン攻略:開始》


その瞬間、体が勝手に動いた。


――跳んだ。


床を蹴った感触が、やけにリアルだ。


いや、リアルすぎる。


身体が軽い。信じられないくらい軽い。


目の前にモンスター。


きれいな顔した、人型の何か。


考えるより先に、手が動く。


巨大な手裏剣を投げる。


当たる。


避けられる。


追う。


詰める。


斬る。


え、なにこれ。


私、こんな動けたっけ?


「さくら、ナイス」


「いい感じだよー」


振り返ると、二人。


風みたいに動くヒーラーのリオ。


遠距離から正確に射抜く弓手メア。


――知ってる、気がする。


でも、思い出せない。


戦闘は一瞬で終わった。


無傷。


当たり前みたいに、誰も息を乱していない。


「……今の、当たるやつじゃないよね?」


「いつも通りだよ?」


“いつも通り”


その言葉に、胸の奥がざわつく。


宝箱が現れる。


開ける。


中身はコインと干し肉。


「今日もハズレかぁ」


「まぁ周回だしね」


周回。


その言葉が、妙に引っかかった。


――ねぇ。


頭の奥で、誰かの声がする。


――また、忘れてるの?


ぞくり、と背筋が震えた。


「……ねぇ、私たちってさ」


言いかけた瞬間、


頭がズキンと痛む。


思い出そうとすると、拒絶されるみたいに。


「桜?」


リオが覗き込む。


優しい顔。


でも――


なんでだろう。


この人のことを、


“何度も失ってる気がする”


「……なんでもない」


笑ってごまかす。


でも、胸の奥に残る違和感は消えない。


ポータルが開く。


次の階層へ続く光。


「明日もよろしくね、桜」


リオが微笑む。


その言葉に、


なぜか胸が締め付けられた。


――明日。


その“明日”に、私はいるの?


それともまた、全部忘れるの?


私は刀の柄を握る。


そして、心の中で誓った。


次は、絶対に忘れない。


この違和感の正体も、


この世界のことも、


そして――


この人たちのことも。

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