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小さくなった夫が可愛すぎて困ります  作者: piyo
第一章

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5.サフィールは目覚めた瞬間飛び起きる

「!!!!」


朝、目が覚めると、目の前に妻の顔がどアップであった。


「うわっ」


あまりの驚きに飛び起きた拍子に、ベッドからストンと転げ落ち、身体に鈍い衝撃が走った。


――そうだ。昨日、身体が逆行して……彼女と一緒に寝ていたのだった。


いつもどおり明け方に目が覚めたため、妻であるノエルはまだすやすやと眠っている。


はっきり言って、こんなに近くで妻の顔を見たのは初めてだった。


まだ二十歳そこそこの彼女は、若い女性特有のみずみずしい肌をしている。

枕に広がる長く艶やかな黒髪は、思わず手を伸ばして触れたくなるほどだ。


しかし、サフィールはすぐに伸ばしかけた手を引っ込めた。


(ここまで放置していたくせに、何を考えているんだ……)


振り返ってみれば、あのとき――

ノエルのことは、間違いなく一目惚れだったのだ。



あるとき、開発部に度々出入りする若い女性の存在に気付いた。


「あれは誰だ?」

「ああ、最近、薬品の材料の仕入れ先として契約した子ですよ」


詳しく聞くと、彼女は開発部の部長の子供の友人であり、材料の仕入れ先の一つとして雇われた男爵家の娘だという。


「なんで貴族の若い娘が、納品の仕事なんてしてるんだ? 力作業もあるだろうに」

「ああ、なんでも、家の借金返済のために副業としてやってるみたいですよ」


ふと不思議に思ったが、どうやら家の事情のため、健気に働いているらしく、なるほどと納得してしまった。


聞くだけでも同情を誘いそうな境遇だが、実際に見る彼女はいつも明るく、部署に顔を出すたびに誰かと談笑し、楽しそうに過ごしていた。


最初は、ただそれだけだった。

けれども。


(あ、今日はエプロンがちがう)


新調したのか、服の汚れ防止に着用してるエプロンの色が、濃い色合いのものに変わっていた。


別の日は、髪型がハーフアップから緩い三つ編みになっていた。


気付けば――

彼女のことをいつも目で追ってる自分がいた。


いつの間にか、彼女と会話をしてみたいとさえ思うようになっていた。

――あの朗らかな笑顔を、自分にも向けてほしいと。


けれども、致命的なまでに社交性のない自分には、どうやって彼女に声をかければいいのか、まったく見当がつかなかった。


自分では普通にしているつもりでも、睨んでいるか、不機嫌そうに見えると評されることが多い。

向こうから声をかけてもらえることなど、まずない。外見を褒められることはあっても、影では「観賞用で十分」と言われていることも知っていた。


つまり、女子ウケは絶望的に悪かったのだ。


他人より秀でているところがあるとすれば、仕事くらいだ。

それでも、研究室の室長という肩書きが、彼女との距離を縮めてくれるわけじゃない。

そんなもの、なんの"足し"にもならないだろう。


納品書類の署名は責任者である自分が行うが、受け渡しは必ず他人を介するため、彼女と目線が交わることすらなかった。

結局、目で追うだけの日々が続いた。


転機が訪れたのは、材料の仕入れ先の変更を部長から聞かされたときだった。

彼女が卸していたものより安価で手に入る業者と業務提携を結ぶことが決まったという。


――彼女は職を一つ失うことになる。そして、それはもう彼女に会えなくなることを意味していた。


このとき……おこがましくも、何とか力になれないか、という衝動に突き動かされた。

まったく面識のない自分が、である。


(動くなら、今だ)


このまま何もしなければ、きっと後悔する――

そんな予感だけが、妙に確信めいていた。


自分があまりに不器用であることは自覚していた。

恋人として関係を始めることなど、まず向いていない。

まして、普通に告白したところで、断られるのは明白だった。


そこで思いついたのが――すべての過程を吹き飛ばすような、結婚の申し出だった。

ただ結婚を申し込んだだけでは、ドン引きされた上で断られるだけだろう。

そこで考えたのが、結婚に際して契約条件をつける方法だ。

そうすれば、向こうも簡単には断れない――あくどいとも言える方法ではあるが。


自分でも最低だと思った。

それでも、ほぼ面識のない自分に、彼女が納得して頷いてくれる方法は、これしかない――そう本気で信じていたのだ。


そして――

驚くほど、目論見はうまくいった。

うまくいきすぎたせいで、自分の気持ちが追いつかず、少し戸惑った。


結婚前、彼女のために部屋をあつらえている最中、ふと我に返った。

八歳も年上の自分が、借金返済を盾にして、彼女を“買った”のだ。


(……相当、気持ち悪いことをしている)


同意は得たとはいえ、彼女の気持ちを置き去りにしていたことに、ようやく気がついた。


その結果――入籍後、あからさまに彼女を避けるようになった。

新婚早々、屋敷にはほとんど寄らず、職場に泊まり込む日々が続いた。

帰るときは、彼女が寝ている時間を毎回狙った。

結婚式も仕事を理由に先延ばしした。

周囲からは「え、本当に結婚したんだよね?」と呆れられる始末だった。


ちゃんと向き合わなければいけないと、ずっと頭でわかってはいた。

けれども、気付けば時間だけが過ぎていき、

ほとんど生活を共にしないまま、一か月も経ってしまっていた。


今回、魔法薬の事故で身体が縮んでしまったことも、本当なら元の姿に戻るまで屋敷には戻らず、黙ったままでいるつもりだった。

けれど――


姿が変わってしまったことで、彼女の関心を引けるのではないか。

同情でもなんでもいい。

気持ち悪い自分に、他の人が向けていたあの笑顔を、彼女も向けてくれるのではないか。

そんな打算が、ふと浮かんだ。

……そんな自分の浅ましさに自分自身で呆れすらしたが、そこは都合よく目を瞑ることにした。


そうと決まれば、元に戻るまで有休を消化すると統括部長に言い放ち、

あとは任せたと部下にすべての仕事を押しつけた。


妻には、仕方なく休暇になった風を装ったが、

実際は無理やり彼女と過ごす時間をもぎ取ったのだ。


こんなこと、働き始めてから初めてのことだった。

そして戻った屋敷で――彼女は想像以上に自分の世話を焼いた。


彼女がこんなにも面倒見がよく、しかも手慣れていることなど、初めて知った。

自尊心をがりがり削られ、恥ずかしい気持ちのほうが大きかったが、

それでも、意外な一面を知ることができて、心が躍った。


まさか、こんな姿になってから、

同じベッドの上で、隣り合って寝ることになるなんて思ってもみなかった。

この姿だからこそ縮めることができた距離だが、

同時に、子供の姿である自分が、酷く恨めしかった。



カーテンの外を覗くと、まだ薄暗いが、景色はほんのり白み始めている。

この時間、普段であれば出勤の支度を始めている頃だ。

けれども、今日は有休消化の一日目。


(らしくないが――)


サフィールは再びベッドをよじ登り、ノエルの横に身体を潜り込ませた。

自分の狡さにほとほと呆れつつも、いそいそと彼女の身体に身を寄せ、二度寝を決め込む。


寝たふりをしていたはずなのに、気付けば、夢の中で彼女の温もりを感じていた。


続きは夜9時頃投稿

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