表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さくなった夫が可愛すぎて困ります  作者: piyo
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/25

24. ノエルは夫の誕生日を祝う

「お誕生日おめでとうございまーす!」


「ふふ、ありがとー」


サフィール様の誕生日会は、ランチには少し早い時間から始まった。

雲ひとつない晴天の空の下、庭いっぱいに笑い声が広がる。


平日の昼間ということもあり、集まったのは屋敷の者たちだけの、こぢんまりとしたパーティーだ。

けれど、使用人たちも皆そろって彼を祝うのだから、気心の知れた家族のような集まりとも言えた。


「サフィール坊ちゃんが大きくなられて、私もとても嬉しゅうございます。まだまだ長生きせねばなりませんなぁ」


アレックスが目を細める。


「そうだね。まだまだここにいてもらわないと困るから、ちゃんと長生きしてね」


サフィール様は屈託なく笑う。


アレックスにとっては、これで二度目の“六歳の誕生日”だ。

その言葉は、もはや孫を通り越してひ孫へ向けるような響きを帯びている。


「はい、私から坊ちゃんへのプレゼントです。一日一つまでですよ?」


マーサが差し出したのは、色とりどりの飴が詰まったガラス瓶。

陽光を受けてきらきらと輝き、思わず手を伸ばしたくなるほど鮮やかだ。


「ありがとう! たくさん食べたいときは、バレないようにしなくっちゃ!」


こう言ってる時点で、一つ以上食べることがバレているのだが、そこはお誕生日ということで、誰も彼を咎める者はいなかった。


それからも次々と、屋敷のみんながサフィール様の元へやってきて、プレゼントやお祝いの言葉を贈る。

やがてテーブルには、目にも美味しそうな料理が次々と運ばれ、全てが出揃ったところで、使用人たちも一度手を止め、歓談モードに入った。


人の波が少し落ち着いたタイミングで、私はサフィール様に声をかける。


「六歳のお誕生日おめでとうございます。私からのプレゼントはこちらです」


大きな包みに入った袋を、彼の前にどんと置いた。

彼はその大きさに目を丸くする。


「わぁ、大きい! 開けてもいい?」


「もちろんです」


胸の中で、小さな期待とドキドキが膨らむ。

袋を開け、中のものを目にした瞬間、サフィール様の目がぱっと見開き、やがて満面の笑みでプレゼントを抱きしめた。


「ははっ! 最高のプレゼントだ! これで猫ちゃんも寂しくないね!」


私も自然と笑みを返す。


そう、私の贈り物は、一年前に旦那様に贈った猫ちゃんのぬいぐるみ――その対になる、クマちゃんのぬいぐるみだった。


以前、サフィール様がふと零した言葉を、私は覚えていた。


「ねこちゃんは、いつも一ぴきで、さびしそう……」


舌足らずな声でしょんぼり言う彼を、どうしても愛おしく感じてしまった。

けれど、教育上いきなりプレゼントを贈るのはよくないと考え、ずっと与えるのを我慢してきたのだ。


「今日は猫ちゃんとクマちゃんに挟まれて寝ることにする」


「あら、じゃあもう私の添い寝は必要ありません?」


「ノエルのいじわる」


晴れ渡った空から降り注ぐ日差しが、パーティ会場を優しく照らす。

賑やかで、それでいて温かみのあるこの場は、言葉にできないほど尊いものに感じられた。


「そろそろ、ケーキの時間ですよ」


皆のお腹が少し満たされた頃、料理人がワゴンを押して、大きなホールケーキを運んできた。

真っ白な生クリームの上には、真っ赤ないちごが敷き詰められ、中央には猫ちゃんの顔を描いたチョコレートのプレートが飾られている。


その大きくて美味しそうなケーキを目にしたサフィール様の目が、キラキラと輝いた。


ただ――ひとつだけ、サフィール様は違和感を覚えたようだった。


「ろうそくの数、めちゃくちゃ多くない?」


運ばれてきたケーキを見て、私もつい「おや?」と思ってしまった。

しかし、それはどうやらマーサの仕業だったらしい。


「ろうそくの数は三十本ですよ、"旦那様"」


してやったりといった様子で言うマーサに目を向けると、彼女はにっこり笑って私にバチンとウインクをした。


(私の言ったこと、気にかけてくれたのね――)


午前中、準備の途中でろうそくの色を相談していたとき、つい呟いてしまったのだ。


『旦那様は今日で三十歳か……』


その年齢の数だけ、ろうそくを丁寧に並べてくれていたのだった。


「三十……!? ぼく、一度で消せるかなぁ……」


不安そうなサフィール様に、横からすかさず提案した。


「じゃあ、実際に火をつけるのは六本にしましょう。

そうすれば、一度で消すことができますよ」


私の言葉に、サフィール様は目を輝かせ、手をポンと打った。


「なるほど! それなら大丈夫だね!」


アレックスが六本のろうそくにマッチで火をつけ、「せーの」とみんなに声をかける。


全員で一斉に、

「サフィール様、お誕生日おめでとうございます!」


大きな声で祝福すると、サフィール様も笑顔で応える。

「ありがとう!」


そして、ろうそくに向かって一気に息を吹きかけると、六本のろうそくはすべて消えた。

満足げな笑みを浮かべるサフィール様に、全員から盛大な拍手が巻き起こる。


私も、心の中で大きな拍手を送った。

お祝いの気持ちとともに、思わず心が感動に震える――

(一度で吹き消すことができるなんて、成長なさいましたね!)


もちろん、こんなことを口に出したら怒られるだろうけれど、胸の奥でそっと喜びをかみしめていた。


一人分にカットされたケーキがみんなに振る舞われ、その上品な甘さに舌鼓を打っているとき、サフィール様がくいっとワンピースの袖を引いた。


「ノエル」


お皿を持ってこちらを見上げるサフィール様は、片手で猫ちゃんの顔が描かれたチョコレートプレートを持っていた。


「半分、食べていいよ」


「えっ!? そんな……そこを食べられるのは、お誕生日の人だけの特権ですよ」


誕生日ケーキのメインといえば、主役が食べるチョコプレート。

だから、半分いただくなんて、そんな大それたことはできないと、思わず遠慮してしまう。


けれども、サフィール様は私とは考え方が違ったようだ。


「お誕生日の人が、食べさせたいと思った人に、これを自由に食べさせてあげることができるんだよ。

それで、ぼくはこれを君に食べてもらいたい」


「ええー……」


そんな、「悪いですよ」と口を開いた瞬間、プレートの半分を口に突っ込まれてしまった。

反射的に口を閉じ、プレートは半分に割れる。


恥ずかしい気持ちが半分、解せない気持ちが半分で、モグモグとチョコの甘さを味わう。


「もう半分はぼくが食べるんだ。はい、食べさせて」


半分私がかじってしまったプレートがお皿に戻され、「え、本当に言ってるの?」とサフィール様を見る。

彼はニコニコとしながら、口を薄く開いた。


助けを求めようと周りを見ると、いつの間にかみんなが温かい目でこちらを見ていた。


(ああ、なんだか逃げ場がなくなってる……)


まだ余韻の残るチョコの味を噛みしめながら、渋々半分のプレートを摘まむ。

「……はい、あーんしてください……」と小さく言い、口の前に差し出すと、サフィール様は小さな口でパクリとかじりついた。


もちろん、半分と言えど、私のように一口で食べられるはずもなく、結局は自分の手で残りを持ちながらモグモグしている。

「うん、おいしい!」


「それは、ようございました……」


チョコの美味しさに嬉しそうな姿を見て、私もつい苦笑を漏らす。


(やっぱり、こうやって見ると、まだまだ小さな子供だわ……)


一年前に比べると、彼はぐっと成長した。それは見た目だけでなく、情緒の面でも。

けれど、無邪気に微笑む姿は、以前と何ら変わらない。


(あ、いけない……)


――「以前」というのが、もう旦那様のことを指していないと気付いて、少し胸が痛んだ。

もう、二度と会えない、不器用で、よく眉間にしわを寄せていた夫。


記憶の中の表情は、今のサフィール様に塗り替えられていっている。


割り切っていたはずなのに、自分の中で思い出が消えていくことが、どうにも悲しく……そして酷く寂しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ