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小さくなった夫が可愛すぎて困ります  作者: piyo
第二章

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22/23

21.ノエル、夫と再会する

着替えを終えたら、ひょっこり戻ってきてくれるのではないか――

けれども、そんな淡い期待も虚しく、店には次々と警備隊が駆け付け、事情聴取が始まってしまった。


一刻も早く探しに行きたいのに、「危険だから」と店内での待機を命じられる。


事情聴取では、私はいなくなった夫の特徴を、店員は連れ去った人物について、根ほり葉ほり聞かれていた。


「いなくなった子供というのは、あなたのお子様でしょうか?」

「あ……いいえ……」


警備隊の一人にそう問われ、言葉に詰まる。

五歳の子供は自分の夫だ――と正直に伝えたところで、捜査をややこしくするだけだと思い、口をつぐんだ。


「では、親戚のお子さんですか?」

「ええ……と、家族です」

「あなたのご兄弟のお子さん、ということでしょうか?」

「……」


(どうしよう。正直に答えたほうがいいのかしら……)


と、そのとき扉の開く音がした。

同時に、「警備隊長! お疲れ様です!」という声が上がり、事情聴取をしていた隊員たちが一斉に入ってきた人物へ敬礼する。


その顔を見て、思わず呟きが漏れた。

「ネイサン様……?」


「ノエルさん!?」


私が驚くのと同時に、向こうも目を見開いて私の名を呼ぶ。

サフィールの次兄のネイサンである。

警備隊に入っているとは聞いていたが、まさかこの地域の担当だったとは思ってもみなかった。


「まさか……子供の誘拐事件が起きたと聞いて駆けつけたんだが、

あなたがここにいるってことは……弟が()()連れ去られた、ということか」


「お察しのとおりです……。

私と一緒だったのに、大変申し訳ございません」


「謝る必要はない。あいつのことだ。

どうせ自分からホイホイ付いて行ったんだろう。

まったく……二十九にもなって、警戒心がまるで無いんだからな……」


ネイサン様は心配するというよりも、「はぁ」と疲れたような溜め息をついた。

元々は二十九歳だが、中身はまだ五歳である。

それなのに、夫のことをただ“手のかかる弟”として扱うネイサン様は、ある意味で器が大きいのかもしれない。


「……過去にも誘拐されたと仰っていましたが、

そのときも、夫は自分から付いていったんでしょうか?」


「ああ。確か五歳くらいの頃まではな。

だんだん警戒心が出てきて、素直には付いて行かなくなった。

……その代わり、無理やり連れて行かれるようになったが」


「……同意しなくても、結果的には誘拐されていたんですね……」


警戒心が育ったところで、連れ去られてはいたらしい。


「この辺りの治安は、当時よりは改善したとはいえ、交易の中心街だ。

人の出入りが多い分、どうしても良からぬ考えを持つ輩が湧いてくる」


「……そう、なんですね……」


「大方、我が弟を見かけて、あまりの可愛さに跡をつけて――

『少しだけ借りた』か『人買いに高値で売り付けてやろう』ってところだろうな」


「……」


ところどころに混ざる弟バカな発言からして、

ネイサン様は相当サフィール様のことが好きなのがわかる。


少し遠い目をした私にかまわず、ネイサン様は話を続けた。


「それに、連れ去られた後は決まって、サフィールは自分でどうにかしていた。

……むしろ、相手が怪我をする前に見つけてやらないといけないくらいだ」


(相手が、怪我……?)


「あの、ネイサン様。

相手の方が怪我をする、というのは……一体、どういう――」


そこまで言いかけた瞬間。


「隊長!

先ほど、角のブロックの空き店舗で爆発騒ぎが発生しました!」


息を切らした隊員が、店内に飛び込んでくる。


「被害者は成人男性一名。

爆発の影響で全身を強く打っており、重傷です。

付近に巻き込まれたと思われる子供が一人いましたが、こちらは無傷。

現在、現場の状況確認を行っています!」


「……わかった。私もすぐ現場へ向かう。案内しろ」


(爆発……? 子供……?)


嫌な予感が、確信に変わる。


(でも、あの人が、無傷で。相手が重傷……?

そんな都合のいいこと、あるわけがない――でも)


「もしかして……サフィール様かもしれません!」


気づけば、私はネイサン様の腕を掴んでいた。


「お願いです。

私も、連れて行ってください!」


ネイサン様は、必死に願う私の姿を一瞬見つめ、深く頷いた。


「ああ。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。

そこにいるのは――間違いなく、弟だ」


(やっぱり……ネイサン様も、そう思うのね)


「ただし、現場はまだ危険かもしれない。

不用意に近づかないよう、十分に警戒しておくんだ」


そう言ってから、彼はほんの少しだけ視線を逸らし、


「……というより、警戒するのは“サフィール”かもしれないがな」


と、低く呟いた。


――サフィール様に、警戒?


その言い方が、胸の奥に引っかかる。

けれど、問い返す間もなく、ネイサン様は店内に残る部下に素早く指示を出し、そのまま踵を返した。


私は慌てて、その背中を追いかけていった。



現場となった場所は、アイラさんの店から数ブロック離れた、少し寂れた一角だった。


建物の外壁には黒ずんだ焦げ跡が残り、窓ガラスの破片が辺りに散乱している。

けれど、建物そのものが吹き飛ぶほどの大爆発、というほどではなさそうだった。


――思っていたより、被害は小さい。


その事実に、胸の奥で張り詰めていたものが、ほんの少しだけ緩む。


だが、次の瞬間。


野次馬と警備隊が入り混じって騒然とする人垣の向こう、

ネイサン様が迷いなく進んでいく先に――


警備隊の隊員に挟まれるようにして立つ、

小さな後ろ姿が見えた。


(サフィール様……っ!!)


思わず、声にならない声が喉に詰まり、気付けば身体が動いていた。


人混みを掻き分け、立ち入り禁止のロープを潜り、

警備隊に引き留められる腕を振り払いながら、

彼を後ろから、ぎゅっと抱き締める。


「サフィール様! 無事でよかった……!」


突然現れた私に、警備隊が夫から引き剥がそうとして一歩踏み出すが、ネイサン様が片手を上げてそれを制した。


「……」


「サフィール様?」


返事がないことに不安を覚え、そっと顔を覗き込む。


大きな瞳は、私の顔を捉えているようにも見えたが、

その視線は、どこか噛み合わない。


彼はただ、音もなく。

ただ、静かに。


大粒の涙を、ぽろぽろと零していた。


「っ……!」


堪らず、夫の身体を正面から抱き締め直し、胸の前へ抱え込む。

こぼれ落ちる涙をそのまま押し付けるように、彼の頭に頬を寄せた。

少しでも安心できるようにと、ぬくもりを伝える。


「怖かったですね。

でも……あなたが無事で、本当によかった」


小さく囁く。

何があったのかは、あとでいい。

今はただ、サフィール様の恐怖や悲しみを、少しでも和らげてあげたかった。


無事を確かめるように、何度も何度も、その頭を撫でる。

やがて夫は声を押し殺し、しゃくり上げるように泣き始めた。


「大丈夫ですからね……もう安心ですよ」


落ち着かせるように、背中を一定のリズムで優しく叩く。


――このときばかりは、

私は妻というより、母親のように彼に接さざるを得なかった。



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