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小さくなった夫が可愛すぎて困ります  作者: piyo
第一章

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13/22

12.ノエル、徐々に夫の違和感に気付く

就寝時間になって夫婦の寝室へ行くと、すでにサフィールが中で待っており、立ったまま告げた。


「今日は午後に出来なかった調べ物をしたい。先に寝ててくれ」


「え!? それって、明日ではダメなのですか?」


夫は休暇を取っているのだ。

夜ふかししてまで急がなくてもいいはずなのに。


「……ああ。少し、急いでいる。

夕方に私が寝ている間に、送っておいた機材も届いたようだし」


夫はこの姿になってから、ノエルの普段の就寝時間よりも早く床に就くようになっている。

調べ物も、昼寝のときと同じように、また寝落ちしてしまうのではないかと思った。


けれど――

彼の表情には、どこか切迫した色が滲んでいた。


「そう、ですか……。

あの、あまり根を詰めないようにしてくださいね。無理をして身体を壊したら、元も子もありませんから」


「わかっている。じゃあ、おやすみ」


「おやすみなさい……」


サフィールは私室へと続く扉の向こうへ姿を消した。

残されたノエルは、しばらくその扉を見つめてから、ゆっくりとベッドへ潜り込む。


(ベッドが、広い……。それに、寒い)


ここ数日、夫の体温で暖をとっていたせいか、

一人で眠る寝床の冷たさが、やけに身に染みる。


きっと仕事の鬼と呼ばれる夫のことだ。

自分が納得するところまで、とことんやり切るのだろう。


――あの小さな身体で、無理をして本当に大丈夫なのだろうか。


(夜ふかしなんかしたら、大きくなれないのに……)


その思考は、完全に“息子を案じる母親”のそれだった。


ソワソワと落ち着かない気持ちで中々寝付けなかったノエルだが、

いつの間にか、目を閉じて眠りについていた。



――重い、暑い。


夜中、寝苦しくて目が覚めた。


寝ぼけ眼を開けると、小さな塊が自分の身体の上にくっついて眠っていた。


(なんだ、旦那様か)


ノエルは半分寝ぼけたまま、そっと彼を横に転がす。

その腕の中には、猫のぬいぐるみがぎゅっと抱えられていた。


――可愛すぎる。


あまりのあざと可愛さに、ノエルの目が覚めた。


おそらく途中で力尽きる前に寝室にやってきたのだろう。

しかし、ノエルの身体を乗り越える前に結局力尽きてしまったらしい。


微笑ましいその姿に、ノエルは思わず口元が緩む。

シーツをそっと上からかけ、小さな身体を抱き寄せ、頭を撫でた。


「おつかれさまです。おやすみなさい」


静かに囁き、再び目を閉じた。



朝、カーテンの隙間から差し込む日の光が顔にあたり、ノエルはパチリと目を覚ました。


「!?」


いつもより高い日差しに、嫌な予感が走った。


(これは、寝過ぎたかも……)


慌てて体を起こし、枕元の時計を見る。

案の定、普段より一時間近く長く眠ってしまっていた。


夫はもう起きて作業の続きをしているかもしれない――と思ったのだが、隣を見ると、まだスヤスヤと寝息を立てる彼の姿があった。


今日、ノエルは薬屋の仕事がある日だ。

このまま夫を寝かせておいてあげたい気持ちもあったが、出かける前に一声かけておきたい。

昨日の焦りを見せていたことも思い出し、親切心から、彼を起こしてあげることにした。


(ごめんなさい、旦那様。もうすっかり朝だし、起こしまーす)


ノエルは掛かっていたシーツを引き剥がし、抱きしめていた猫のぬいぐるみを取り上げ、頭の下の枕をポイッと引き抜いた。

まるで、実家で寝起きの悪い弟を容赦なく起こすときのやり方だ。


「旦那様ー、朝ですよー。そろそろ起きましょうか」


耳元で少し大きめの声で呼びかけるが、眉をしかめるだけで起きる気配はない。

目を閉じたままシーツを手で探り、掴んだかと思いきや、頭からすっぽりと被ってしまった。


(めちゃくちゃ寝起きが悪い……!)


ノエルの弟も、これくらいの抵抗は日常茶飯事だった。

――その記憶が、彼女の心に火をつけた。


頭から被っているシーツをぐるぐる手繰り寄せ、完全に引き剥がしたあと、もう取られて潜り込めないようにベッド下へ放り投げる。


「ううん」と少し寒そうに身体を丸める夫の下に手を入れ、無理やり上半身を起こした。

まだ目を閉じたままノエルのほうに身体を預けようとするので、片方を肩で支え、片方の手で頬をペチペチと叩く。


「旦那様ー、寝ぼけてないで起きてください。もう、すっかり日が昇ってますよー」


おそらく夫は、慌てて「不味い、寝過した…!」と飛び起きるだろうと思っていた。


しかし――


「いやだ……ぼくはまだねるんだ……」


口から漏れたのは、まるで本当の子供のような、幼い主張だった。


「だ、旦那様……?」


寝ぼけてるにしても、あまりに"らしくない"物言いに、ノエルは思わず声を上擦らせながら呼びかける。

すると、サフィールの目がカッと開き、勢いよくベッドの上に飛び起きた。


そのままノエルのほうを、ギギギと音が鳴るかのようにゆっくりと首を振り向かせる。


「……私は、今、何か言ったか?」


子供の声とは思えない、低く凄んだ声に、ノエルはゴクリと唾を飲み込んだ。


「い、いえ、なにも……」


ノエルの問いかけに、サフィールはブンブンと首を横に振り、必死で何も見ていない、聞いていない風を装った。


「そうか。ならいい。

……完全に、寝過ごした」


眉間をほぐしながら、やってしまったといった様子を見せるサフィールに、ノエルはそっと声をかけた。


「遅くまで作業をされてたんですか?」


「いや……君におやすみと言ったあと、一時間ほどは机に向かっていたのだがな。途中でうとうとし始め、逆に効率が落ちると諦めてここへ来た」


深夜に寝室で眠っていたことをノエルは確認していたが、さらに早い段階で力尽きてここまで来ていたらしい。

やはり、小さな子供の体力には限界があるようだ。


「それはお疲れ様でした。

あの、私は今日早番の仕事で、もうこのあとすぐに出なければいけません。旦那様は今日は一日どんなご予定で?」


「ああ、君は今日仕事の日か。

私も一日作業にあてる予定だ。昨日の夜と今朝の寝過ごしてしまった分を取り戻さなければ……」


「無理しないでくださいね。

元の姿のときと違って、あなたの体力は半分くらいしかないんですから。

それと、食事は必ずとるようにしてください。

――大きくなれませんよ?」


「……」


サフィールは眉根を寄せ、溜め息をつきながら「……善処しよう」と告げた。


(これ、絶対食事抜くやつ……)


ノエルは、仕事に行く前に執事のアレックスに、「もし昼を抜くようなら、無理矢理でも食べさせてください」と頼むことに決めた。


その後、すぐさま寝室を出て支度をし、簡単に朝食をとったあと、仕事へ向かう。


だが、その出発直前、後ろ髪を引かれる出来事があった。


ノエルが家を出る前、まだ食堂で朝食の席についていたサフィールに声をかけに行った。


「それでは仕事に行ってきますね。夕方になる前には戻ると思います」


では、とその場を去ろうとしたところ、

なんと彼はピョンと子供用椅子を抜け出し、ノエルにギュッと後ろから抱きついてきたのだ。


「!?!」


突然の出来事に、ノエルの身体は固まり、口があわあわと言い始める。

もちろん、周りにいた使用人たちも、何事かと目を見開き、二人の様子を見ていた。


「だ、旦那様?」


ノエルがようやく声を絞り出すと、サフィールはか細い声で囁いた。


「⋯⋯さびしい」


(な、なにごとーーーー!?)


こんな不意打ちで可愛い仕草をされ、しかも可愛いことを言われてしまったら、ノエルの心臓は朝からキュンキュンしっぱなしで、瀕死寸前である。

だが、仕事はそんな簡単に休めるものではない。

彼も、それを一番よくわかっているはずだ。


抱き締められていた手をそっと取り、ノエルは夫の前に身を屈めて視線を合わせた。


「大丈夫ですよ。旦那様がお昼寝してるときには、戻ってきますから」


安心させるよう、できるだけ優しい声音で告げると、サフィールは瞳を揺らしながら、短く「……うん」と返した。


そして――。


突然、彼ははっとした表情に変わり、頭に手を当てて戸惑いながら呟く。


「す、すまない! 一体、私は何を……」


「ふふ、可愛いらしい」


必死で取り繕おうとする夫の姿に、思わずノエルの頬が緩む。

けれどサフィールはまだ混乱した様子で、顔を俯かせていた。


「いや……

引き留めて申し訳ない。……気をつけて」


手を振って見送る仕草をするサフィールに、ノエルも手を振り返す。


「はい、いってきます」


今度こそノエルは食堂を出て、仕事へ向かった。


「これは本当に不味い――早くなんとかしないと」


ノエルが出て行ったあと、夫が不穏なことを呟いているとなど露も知らずに。


続きは明日朝更新

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