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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

連作短編集『 十六の標本 -愛の物語- 』

【標本No.2】美しい棘

作者: 湯琉里羅
掲載日:2026/03/12


――君はバラの本当の美しさを知っているか?




ドライフラワーは死んだ記憶の抜け殻に過ぎず、造花には魂を宿す隙間すらない。


私は、ただ「本物」の赤が、永遠に脈動し続ける瞬間を求めていた。


だが、切り花は残酷な速度で退色し、その誇り高い花弁を無残な土へと零していく。


それが自然の理だと言うのなら、私はその理を、私自身の生命で書き換えようと思う。


指先に触れる鋭い棘。それは拒絶ではなく、愛を乞うための吸い口なのだ。


白、黄、緑、紫、黒、赤...。


私が各地から集めてきた無限の薔薇たちを、これから染め上げるのだ。


体内に巡るこの血が、尽きるまで。



一つ、また一つと、指の腹を鋭利な棘に押し当てる。


躊躇ためらいは、この聖域には不必要だ。


熱を帯びた朱が、真珠のような滴となって指先から零れ落ちる。


私はそれを、震える手で白いバラの芯へと落とした。


吸い込まれるように、純白の繊維へと私の命が染み渡っていく。


真っ白な画用紙に初めて色が置かれるときのような、残酷なまでの鮮明さ。



「綺麗だ......。」



掠れた声が、静寂に沈む部屋に響く。


黄色いバラには黄金の輝きを奪うほどの深みを、紫のバラには夜を塗り潰すほどの重厚さを。


バラたちは私の傷口を貪り、私の一部を吸い上げることで、かつてないほどに瑞々しく、悍ましいほどの生気を宿していく。


だが、代償はすぐに訪れた。


体温を分け与えるたび、私の視界は薄汚れ、四肢は氷のように冷えていく。


色彩を失っていく私の肉体とは対照的に、部屋を埋め尽くすバラの海は、狂おしいほどの熱狂を湛えて咲き誇っている。



どれほど時間を費やしただろうか。


最後の一輪、深い黒のバラの蕾に、私は残された最後の滴を捧げた。


視界が、ゆっくりと暗転していく。


バラの棘が、もはや私の皮膚を裂く感覚すら判らない。


ただ、花の香りが、私の死臭を覆い隠すように甘く、強く、部屋を支配していた。



これで、いい。



ドライフラワーのように色褪せることも、造花のように嘘をつくこともない。


このバラたちは、私という「生」を食らい尽くした、不変の美そのものなのだ。


私は、満足げな微笑を湛えたまま、バラの海へと沈んでいった。


私の鼓動は止まるが、この部屋の赤は、永遠に乾くことはない。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

直接的な血の描写が苦手なので、少し無理して書きましたが...いい感じに書けてよかったです。自分では見返すことはできなさそうなので、感想・リアクション・アドバイス等、お待ちしています。

気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆つけてくれるとなお嬉しいです。


標本No.3の投稿は、3月15日の朝8:00の予定です。

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