22. 崇拜者:川瀬匠海は少女の居場所になりたかった
俺、川瀬匠海が詩音ちゃんを連れて小崎町駅に着くと、親父が車で迎えに来てくれていた。
「ごめんなさい、こんな遅くに。ありがとうございます」
「いいよ。匠海が連れ出しちゃったんだろ?」
「ううん。匠海さんが来てくれて嬉しかったです。あ、これ大した物じゃないですけどお土産です」
「ありがとう。じゃあ、帰ろうか。匠海、寝ててもいいけどシートベルトしてくれ」
「んー……」
実家の車に乗った途端、どっと疲れが出た。親父と詩音ちゃんの会話をぼんやり聞きながら、シートベルトを締めて目を閉じた。
翌朝、目が覚めたら実家の自分の部屋だった。
「あれ……詩音ちゃんは?」
服は昨日のままだった。
あくびをしながら一階に降りると、母親と美海と詩音ちゃんがお節の用意をしていた。
「匠海、おはよう。シャワー浴びてきなさいよ」
「うーん?」
「お兄ちゃん、まだ寝ぼけてるでしょ。お正月だよ。お年玉ちょうだい」
「俺、お前にお年玉なんてやったことねえだろ。詩音ちゃんおはよ。明けましておめでとうございます」
美海の後ろで笑っていた詩音ちゃんに声をかけると、パッと笑顔になって頭を下げた。
「明けましておめでとうございます、匠海さん。今年もどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。今年も来年も再来年も、末永くよろしくね」
「プロポーズ?」
「詩音ちゃんをうちの子にするんだ、俺は」
からかうように言った美海の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜて誤魔化した。
何か言われる前に風呂場に逃げる。
中学生の女の子に、俺は何を言ってるんだろう。
熱いお湯を頭から浴びたら、一気に目が覚めた。
でも、それはそれ。
夏休みのときも思ったけど、朝起きて詩音ちゃんがごはんの用意をしてくれてるのは、すごくよかった。
明日は俺もさっさと起きて、一緒に用意しよう。
着替えて、家族と詩音ちゃんと一緒にお節と雑煮を食べる。
うちの雑煮は関東風の醤油ベースに青菜とかまぼこ、鶏肉が入ったものだ。
クルミ餡とか白味噌とか海鮮出汁の雑煮も作ってみたいし食べてみたい。
食べ終えて机を片付けたら、親父がお年玉をくれた。
美海は、
「やったー、ありがとう!」
と素直に受け取っているけど、俺ももらっていいのかな。
「もらえるもんはもらっとけよ。まだ学生なんだし」
なんて親父が言うから、ありがたく受け取った。
詩音ちゃんは両手でポチ袋を持って、固まっている。
「あの、私までもらうのは申し訳ないです……」
「もらえるもんは、もらっときな。子供なんだし。匠海も言ってたけど、詩音ちゃんはうちの子になったと思って、休みの間くらいくつろいでくれていいから」
「……ありがとうございます」
うつむく詩音ちゃんの手を美海が引いた。
「初詣行こうよ」
「うん!」
「夜も行くから、お兄ちゃんもついてきてよ。暇でしょ」
「暇だけどさあ。付き合うけどさあ」
三人で家を出ると、夜が待っていた。
夜に会うのは数ヶ月ぶりだけど、会う度にデカくなってる。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしく」
「よろしく、夜。あのねえ、さっきお兄ちゃんが詩音にプロポーズしてた」
「違うから。誤解を招く言い方をするな!」
「僕も美海にプロポーズしようか?」
「け、結婚できる年齢になってからお願いします……」
美海は俺のことは散々からかうくせに、自分が言われるとすぐに慌てる。
詩音ちゃんは俺の隣で、
「夜は相変わらず、美海しか見てないんだから」
と笑っていた。
近所の神社は混んでいた。
といっても、いつもより少し混んでるかな、くらいだけど。
四人で手を合わせてお参りしてから、社務所でおみくじを引いた。
「お、吉だ。悪いことがあっても、努力と心持ちでどうとでもできるってさ」
「詩音は大吉! でも書いてあることは匠海さんと変わんないな。嫌な事があっても、救いの手が差し伸べられるってさ」
「ふうん。じゃあ、ずっと詩音ちゃんの隣にいるよ」
そう言ったら、詩音ちゃんは照れたような顔で笑った。
美海と夜もおみくじを引いて、盛り上がっている。
二人は学校の友達と合流して、屋台の方へ向かっていった。
「俺らも軽く食おうぜ」
「うん! 何がいいかな」
「焼きそばあるよ」
「焼きそばは匠海さんが作ってくれる方が美味しいからなー」
「じゃあ、俺が作れないものにしよう。たこ焼きとか」
二人でたこ焼きの屋台に向かった。
でもたこ焼き器があれば作れるんだよな。
ホットプレートとセットになってるタイプなら、あってもいいかも。
詩音ちゃんと使えるし。
なんつーか俺は、詩音ちゃんが自分の部屋に来ることを、当たり前だと思いすぎている気がする。
「詩音ちゃん」
「なあに?」
彼女の手を取った。
「たこ焼き器買って、一緒に作ろうよ、たこ焼き」
「たこ焼きって自分で作れるの!?」
「たこ焼き器があればできる。ベビーカステラとかもできるんじゃねえかな」
「やりたい!」
掴んだ手が、きゅっと握り返された。
昨日、電車の中でつい指を絡めてしまったわけだけど、また同じことをしてもいいだろうか。
嫌な顔をされたり、困ったりしないだろうか。
でも迷っているうちに順番が来て、タイミングを逃した。
二人で近くのベンチに座って、たこ焼きを食べた。
スマホを出して、通販サイトでホットプレートとセットになっているたこ焼き器を探した。
「へー、焼き肉とかもできるんだ。あ、パンケーキも焼けるんだね」
「あ、鍋つきのもある。これいいなあ」
「匠海さんの部屋で鍋パができるの? いいねえ。じゃあこれにしようよ。詩音、半分出すよ」
相変わらず詩音ちゃんはお金の話になるとしっかりしている。
お金持ちのお嬢様って感じはしないな。
でも、そうやってしっかりしてるから、詩音ちゃんの家はお金持ちなのかもしれない。
「これくらい買うって」
「だめ、出す。一緒に使おうよ」
「……なんつーか、詩音ちゃんは甘えるの上手になったね」
「そ、そうかな。ごめん、図々しいね」
「まさか。もっとたくさん甘えてくれていいよ」
詩音ちゃんが欲しがったホットプレートを、欲しいものリストに入れておいた。実家から部屋に戻るときに注文しておこう。
食べ終えたたこ焼きの皿を捨てて、詩音ちゃんの方に手を伸ばした。
詩音ちゃんが俺の手に触れる直前、怒鳴り声が俺と彼女の間に割って入ってきた。
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