届かない夢
朝の光は優しく、カーテンの隙間から静かに部屋の中へ差し込んでいた。
古びた天井のファンがゆっくりと回り、かすかな音を立てている。
カイト・レンジはベッドに座り、手にした紙をじっと見つめていた。
指が少し力を込め、紙が少しだけしわくちゃになった。でも、破くことはしなかった。ただ…見つめ続けた。まるで、文字が変わってくれることを願うかのように。
> 「不合格 — ヒーロー認定に必要な資格なし」
またか。
これで四度目。四年間、ずっと努力してきたのに、また失敗。
彼は紙をそっとベッド横の小さな机に置き、壁に寄りかかって静かに頭をもたせかけた。
「…やっぱりな」と、独り言のように呟いた。
怒りはなかった。ただ…空虚だった。もう慣れてしまった落胆だった。
部屋は狭かった。ベッド、机、数冊のノートと古いヒーローガイド本が並ぶ棚。壁には有名なヒーローのポスターが貼ってある。端が少し丸まっている。
カイトはそれを見つめた。
そのヒーローは力強く、堂々としていて、自信に満ちた笑顔を浮かべていた。
自分も、いつかああなれると思っていた。努力すれば、訓練すれば、少しでも力をつければ…最低でもEランクくらいは取れると。
でも、夢は夢のままだった。
カイトは立ち上がり、壁の小さな鏡の前に歩いていった。映った自分の姿は…ごく普通だった。黒髪、少し疲れた目、細めの体格。特別ではない。どこにでもいる青年だった。
顔を洗いながら、また心に浮かんだ名前があった。
**アオイ・ミズキ。**
彼女はすぐ近くに住んでいた。カイトはもう十年も彼女が好きだった。
初めて彼女を見たのは、小学生のとき。おばあさんの手を引いて横断歩道を渡る姿だった。
彼女は美しかった。長い黒髪、優しい瞳、自然な上品さ。でもそれ以上に、彼を惹きつけたのは、その「優しさ」だった。誰にでも笑顔を見せ、勉強も得意で、さりげなくおしゃれ。
でも…彼女はカイトの存在に気づいていなかった。
本当に、気づいていたことなんて一度もなかった。
何度も声をかけようとした。挨拶くらいは…と。でも言葉が出なかった。手が冷たくなって、喉が渇いた。
そして今、彼女には恋人がいる。
カイトの胸が少し痛んだ。**リュウジ・カザマ。**
強くて、格好よくて、自信に満ちた男。国で17番目に強いヒーローの息子で、「本気を出せば山一つ壊せる」と噂されていた。
まるで別世界の存在。
でも、それでも…カイトの想いは消えなかった。
バカみたいだったかもしれない。
でも、どうしても彼女が好きだった。
この4度目の失敗の後でも、気持ちは変わらなかった。
カイトは階段を降り、母に小さな笑顔を見せて朝食を食べ、静かに家を出た。特に予定はなかった。ただ、歩きたかった。
町は今日も穏やかだった。子どもたちの笑い声、鳥のさえずり、パン屋から流れる焼きたての匂い。
でも、カイトの心はそこになかった。
無意識のまま歩き続け、気づけばアオイの家の前に立っていた。
足が止まった。
家は静かだった。カーテンが閉まっていて、音もなかった。
カイトは上の窓を見上げた。彼女は何をしているのだろう。勉強中? それともリュウジと一緒に?
頭を振った。
考えても無意味だった。
彼は背を向けた。
そのとき、カーテンがわずかに動いた。
心臓が少し跳ねた。影が窓の向こうに見えた。…もしかして、彼女が見ていた?
もしかして、気づいた…?
……でも、それ以上は何もなかった。手を振ることも、微笑むこともなかった。ただ静けさだけが戻った。
カイトはもう少し立ち尽くしていたが、やがて静かに歩き出した。
—
その夜も、部屋でまたあの不合格の手紙を見つめた。それを他の三枚と一緒に、引き出しの中にきちんとしまった。
そして、壁を見つめながら、静かに呟いた。
「…それでも、何かになりたい。」
もうヒーローじゃなくてもいい。
ただ、彼女のそばに立てるような人間になりたい。