26話 決戦昆虫人間 2
衛星写真と軍の探索で判明した小さな山の洞穴。そこから敵は出入りをしているらしく、周辺の敵を掃討後、退路を別の部隊に維持してもらいながら突入する。
「みんな、洞穴が見えてきたよ!」
よし、周りに敵も居ない、突入するか?
[索敵]を発動。確かに洞穴から反応があるが、何かおかしい。一応牽制をしよう。
先手を取れる優位性を捨てても違和感を信じよう。
「美華、凛、雷氷のつぶてで中を攻撃できる?」
「いいぜ、硬氷結、礫!」 「電撃、拡散!」
氷の礫が洞窟の中で弾け、反射していく。雷が氷をつたい拡散する。
地響きが鳴り、山が崩れた。
「総員退避!」
土の中から山とほぼ同程度の大きさの巨大な敵が現れた。山だと思っていた土の塊はどうやら敵ボスの隠れ蓑だったらしい。
見上げるほど大きな芋虫型の巨大な図体に、3mほどの人型の上半身が生えている。
芋虫のお尻から対人戦特化型の昆虫人間が出てくる。液体にまみれて這いずっている、気持ち悪い。
先生を痛めつけた敵の親玉が、大地をのたうちながらこちりに近づいてくる。このサイズ差ではろくに攻撃が通らないだろう。
敵が芋虫の足で地団駄を踏むと、それだけで攻撃になる。衝撃と飛び散る破片をかわす。
敵の鋭い爪が地面を掴み、蹴り上げ前に進む。こちらへ突進している。
山と見まごう巨大な芋虫の下半身。それに比べて、上半身はかなり小さめだ。腕を振り上げて威嚇しているが攻撃能力はほぼ無さそうだ。
増殖機能が異常発達したのだろう。腹部が異常に発達し、芋虫型の十数メートルに達する生産プラントと化していた。次々と昆虫人間が湧いてくる。
周囲では生まれたばかりの昆虫人間が刀状の腕をこちらに向けている。生まれてすぐ刀を構えて、半身でこちらに相対している。
「こいつらの対処は先生に教えてもらった方法で行くよ!」
「といってもいつも通り。チームワークを利用した戦術で戦う。敵は別々に切り掛かってくる。私たちは後衛の氷と雷で牽制し、盾と大剣で押し潰す。弱った敵を片刃剣達でトドメ」
生まれたばかりの個体だからか、皮膚が柔らかく防御力が低い。
肝心なのが、敵が学習する前に相手を倒すこと!
○
雑魚に任せてボス個体は何もしてこない。雑魚達には連携攻撃で戦う。ましろが大楯で敵の攻撃を弾く。
「とりゃあー」
そのまま押し返すと敵達はつんのめって大きな隙を晒す。ナイスましろ!
「ハアッ斬!」
瑞稀の大剣が多数の敵を巻き込み一刀両断。大剣も振りは遅いが、チームワークでカバーする。私の片刃剣も敵へのトドメに使う。
禅苑先生の熟達した片刃剣を学習した敵。私の甘い攻撃は通用しない。大楯で転んだ敵や、大剣で死にかけの敵の首を落とし核を潰す。
似たような武器のレイピアを振るう美華、刀を繰り出す凛は刀身に[特殊技能]を纏わせている。
敵も知識にない攻撃に対応できず、頭か足に食らって動きを止めている。二足歩行の弱点はどちらかの足がとまると動けなくなることだ。昆虫風情が二足歩行とは百年早い。
そんな敵の核を潰す私。さっきからずっとトドメだけ刺している。
粘液濡れの甲殻は滑る。ただ、電撃の通りがいいようで、魔力の消費も少なそうだ。凛と目で会話する。ボスへの余力を残したまま行けそうだったら、例の作戦を実行できそうだ。
○
残すはボス個体のみになった。
まず敵に近づかなくては。身をよじり、大暴れしている巨体。
大きな図体に何度か接近できた。本体の皮膚はゴムのような樹脂のような感触で生半な魔力では刃が通らず、弾き返された。
上半身にも攻撃を加えたが、普通の個体のような弱さですぐ真っ二つに。しかし即再生した。見かけだけのものらしいが。
さて、ここから相手の動きをどう封じるか。
足を攻撃するのが定石だが、皮膚も攻撃が通らず、巨体を支えている爪を折れるはずもない。
爪はアイスピックのように地面を刺していた。よくあんなに大きな体で動き回れる。
爪の形状は、雪山登山の時に使うアイゼンのような形状だ。何本かが固まって生えており、スパイクのように地面を削っていた。
なるほど地面を掴めるはずだ、と考えた時に作戦をひらめいた。
今思いついた作戦は、美華にかなり負担をかける事になる。作戦を無線で通達すると了承してくれた。
「いいって気にすんなよな、張り切っていくぜ!」
美華の[特殊技能]で相手の動きを止める。
そのため他四人で注意を引く。あくまで体の統制は上半身が取るのか、上半身に向けて攻撃を繰り返すと注意を簡単に引けた。
美華は氷で爪の間を狙う。爪の周辺が氷で埋まっていく。美華の氷は金属並みに硬度がある。そう簡単に砕けない。
[硬氷結]で爪の間を埋めて、目詰まりを起こす。すると雪詰まりしたアイゼンのように地面をうまく捉えられなくする。
左半身の爪が機能不全に陥った。するとバランスを崩し思惑通り倒れた。地面が大きく揺れる。映画で見た知識が役に立った。
上半身もへし折れ潰れた。すぐ再生したが。あのまま他の虫と同様に死んでくれれば楽だった。
今のうちに五人で一点を攻撃する。しかし再生力と耐久性で小さな傷しかつかない。
巨体からすれば微小な傷だし、時間が経てば元通りになってしまう。
ただ、私達には新技がある。先生の特訓の合間にみんなで練習した技だ。二度と巨大な怪物に後れを取らないように、身につけた技だ。
「さや、頼むよ」
「よろしく!」
「頼むぜ!」
バレーボールのレシーブをする体勢を取る私。これで三人を次々と上空に飛ばしていく。
先生から習った魔力強化と足腰のトレーニングの成果で難なくこなせた。
背中に背負った武具の分も頑張った。重いけど、ここでなるべく高く打ち上げたいので身体へ魔力を行き渡らせ強化。三人を同じ場所へ投げ飛ばす。
上空の三人は手と手を繋いで合流。輪になり自由落下を始める。少しして、各々武器を取るため手を離す。
氷野宮美華は斧野瑞稀と上空で肩を抱く。そして斧野瑞稀の握った大剣に[特殊技能]をかけた。
[硬氷結]でさらに大きい剣を作る。みるみる大きくなる氷大剣の刃。敵に見劣りしないサイズまで魔力を注ぎ込んだ。
片手で巨大剣を握っている瑞稀。
次は美華と入れ替わりで獅子神ましろが肩を組み、もう片方の片手で剣を一緒に握った。
体勢を整えて[突撃走]を発動。急加速して敵に突っ込んでいく。
[突撃走]は地面でなくとも発動する。自身の前方方向へ加速を与える効果だったことが検証で分かった。
先輩達の奮闘を見たさやが、チーム内の[特殊技能]について一から調べ直したため分かったことだった。これも柔軟な[特殊技能]の運用を目指しての一歩。
そして上空から、巨大な氷の剣が急加速して降ってきた。巨大な芋虫へと進む切先は鋭い。
傷目掛けて正確に突き刺さった氷の大剣は深々と突き刺さり、巨大な芋虫が苦痛に体を折り曲げる。
まだ攻撃は終わらない
氷の巨大剣は内側に腕一本ほどの空洞がある。そこを狙って最後まで剣を握っていた斧野瑞稀が全魔力を振り絞った。
[剛翔波]!
氷は内部から弾け飛び、芋虫の体内を掻き回す。内側から破壊する氷の嵐が、敵の再生リソースを削る。
私と凛をましろに打ち上げてもらう。
「最後の仕上げ、まかせたよ!」
敵の上に乗る。ブヨブヨした足場が、傷から流れる体液で汚れている。川のように流れ落ちる液体は、攻撃の効果を示していた。あと一息だ。
氷の大剣が突き立っていたあたりの大きな傷跡、そこに凛は刀を突き立てる。
美華の生み出した氷。魔力で作ったそれにこもった魔力を起点として電撃を通す。
溶けた氷を伝って巨大な全身に電撃が走り、焼けこげていく。私と凛以外の全てを焼き尽くす。敵の上半身は悲鳴のような金切り声を上げ続ける。
凛は片手で刀から電撃を放ち、片手で私の手を握りしめる。
「さや、どこにあるの!」
凛と強く繋いだ片手と意識を同調させた。私も目を瞑り、集中して核を探す。[索敵]の応用だ!私ならできる!
「まって、えっと、うん。魔力が集中しているところは、そこ!凛!」
最後に、敵がもっとも再生させた部位を狙い撃つ。イメージを伝えて魔力を全て凛に渡す。片手から力が抜けていく。想いを乗せて凛に届けた。
敵の全身に攻撃を仕掛けた。相手は最も重要な臓器を再生させるはずだ。そこに賭ける。
私の[索敵]と凛の[雷撃]で決める!
「お願い!」
「まっかせて!全力の!電撃、集中〜!」
山の如き芋虫の内部から、雷の轟音が響き渡る。
巨大な強敵は一度痙攣した後、動かなくなった。




