22話 先生vs昆虫人間
二人の無双で異変の半分くらいが片付いてしまった。後方から双眼鏡を使わずとも見える無双だった。
空が赤く焼けて煙でオレンジに輝く。一方で風情ある湖は氷雪地獄と化す。氷柱は十字架のように付き合っていた。
この世の終わりみたいな光景が広がる。
二人は魔力が空になるまで暴れ尽くし、敵の数を大きく減らした。たった二人でこれだからすごい。しかも近接戦闘もこなせる。怪我でもされたらコトなので、今回は禁止されていたが。
とはいえ、東と北の守りを薄くしているため、二人の魔力休息の時間で元の防衛ラインに戻らなければならない。力を借りるのもここまでだ。
二人の抜けた穴をなんとかするのが辛いところ。
朗報もある。交代で大軍を殲滅するのに向いた人達が来るらしい。やっぱり学園の戦略室は仕事が的確だ。
西先生から度々連絡が来ているし、後方で支えてくれる人もいて心強い。
彼らに群れは任せて、デカかったり強いボスを叩こう。
私の弱点が魔力の最大出力の低さだ。最強の二人は一振りで魔力を込めた斬撃が100体を殺す。私は出力が低いので100回剣を振らないと100体殺せない。
硬かったりすると困る。一撃で殺せないとその後の回避も考えないといけない。私の剣はなんでもは斬れない。
あと私は別に闘いの才能も無いので、闘いが巧い敵にも苦戦する。
タイマンだと集中力の差で勝てるんだが、群れで来られるとこちらが根負けする。
そんな私の弱点をついたような敵が現れる。
○
ひらけた湿地帯。生徒の救援を聞きつけ辿り着いた場所に奴はいた。
他の個体よりひとまわり小さい2m弱の背丈の昆虫人間。翅はなく、片手がカニの鋏になっている。
口から涎を垂らしながらこちらに向かってくる。かなり速い。鋏と片刃剣が交差する。
鍔迫り合いに勝ったのは向こうだった。こちらを組み伏せようとするも、私はわざと鍔迫り合いに負けたのだ。相手の勢いを利用して地面に叩きつけ固定。
片刃剣で一気に胴体を貫く。体液が溢れ出し動かなくなった。
その場を飛び退くと、同じような個体達が数匹飛びかかってきていた。こちらを殺す気かと思ったが、狙いは違った。
同族の死骸を啜っていた。
あまりの光景に眉を顰める。すると一匹が歩み出てきた。珍しい。普通はまとめて突っ込んでくるのに。
今度は小刻みに動き、こちらに傷を残そうと鋏を振り回す、紙一重で交わしつつ、カウンター気味に切りつける。
相手の甲殻が硬いため、大したダメージにならないが、何事も継続が大事。何度も切りつけると外殻が砕け、中身に渾身の一突きを決める。トドメは刺せなかったがふらついて飛び退いた。
すると他の敵がまた傷ついた同族を喰らい出した。えぇ...
次の敵が歩み出てきて隙がない。なんか百人抜きみたいになってきた。嫌な予感がしてきた。
次から次に敵が来て、長い戦いになっている。雨も降り出してきた。
序盤は危なげなく怪物を屠っていったが、段々敵の動きが良くなっている。考えたくないが、こちらの動きを学習し始めている?
緩急を活かした鋏の連撃に、思わず釣られそうになる。
おわっやっぱりフェイント。
胴体が危うく真っ二つになるところだった。ので、相手のヒビだらけの胴体を真っ二つにしてやった。
身体が伸びきっていたので隙だらけだ。百年早いわ虫ケラめ。
にしても学習する個体か、特異怪物だな。こう言う相手はどこかに親玉がいるんだが。
にしてもだんだん辛くなってきたな。足元もぬかるむ。上手く魔力を回すと足を取られず動けるが、普通の生徒だと長期戦は不利だ。
良かった、私が担当で。
あれ?なんかわたしをメタってない...?
む、甲殻に片刃剣が弾かれ始めた。硬いし、こちらの斬撃をかわし始めている。
まさか共食いで経験値を共有している?一度見せた三連突きを打ってみる。
綺麗に躱された。お返しの4連突きで鋏が迫る。片刃剣が軋む。
私の技盗んで改良するのやめて?
一体ずつ来るが、囲まれている。
多すぎて気配が隠せてない。
本部に通信を入れたいが、電波が悪い。泥と沼、囲まれている状況、技を盗む敵。ことごとく戦い辛い。
これは嵌められたか。
まあいい。敵の企みごとぶち抜く。
私はしつこい女だぞ。
○
「禅苑先生と連絡が取れず、偵察部隊も敵の壁で辿り着けません。彼女なら大丈夫だと思いますが...」
「軍の通信機器や無人偵察機で確認が取れました。囲まれています。なにやら組織的な動きを感じます」
「どうもこれが狙いかもしれませんね。特殊な魔力反応の相手を狙い撃とうということかも知れません。一定の技量を持った生徒を至急送ります。西先生はそのまま連絡役をお願いできますか」
「分かりました。あの人を助けてあげて下さい」
○
100連戦は堪える。その先は数えていない。長時間の任務は慣れているが、今回はプレッシャーがかかり、わたしの疲れが酷い。相手の進化速度が凄まじい。
カニのようだった鋏は一枚の包丁のように鋭くなっていた。しかも強度もしっかりしている。私の片刃剣を真似やがった。
ゴツイ昆虫人間は細身の体、長い手足を手に入れて、手先足先には鋭い刃が付いている。何度か格闘戦の最中に切られた。
私と同じチャンバラと体術を混ぜつつ戦っている。技量で追いつかれつつある。向こうのほうが生物として格上。反応速度も筋力も表皮の硬さも。ただ経験で食らいつく。
相手の鋏、いや刀捌きもキレがいい。のけ反って躱し、蹴りを入れるも受け止められた。
読まれてるう!
反撃に腹に打撃を加えられ、思わず呻き声を上げた。いだいってぇ。
その腕を掴んで固定、切り落とす!腕を失った敵はふらついた。その隙に首を落とし、腱を斬る。
不味いな、多分女王蜂的な存在が居るんだろうが、ここから動けない。また次の怪物が歩み出てきて刀腕をこちらに構えた。
くそ、虫風情が生意気な。前振りなく刀が眼前を通過した。居合斬りって。こんな技量の敵、後ろに通せない。
後の先をとる。
フェイントで相手の行動を誘導。縦振りを弾いてそのまま頭を切る。硬い。
相手の居合いにこちらの剣を合わせた。こちらの剣を弾かせて、その勢いで下に潜り込み頭を掴んで握り込む。ヒビが入ったので斬る!
また歩みでてきた。常に数体に囲まれている。逃げようとすると他の一体が止めてくる。常に一定距離を包囲してくる。持久戦で私を弱らせて喰う気か。マンモスもこんな風に狩られてたのかな...
次の敵が飛びかかってきた。
絶望的な戦いは続く。
○
連戦は止まらず、雨は嵐の様になり、極限の戦いは決着を迎えた。
一言で言うと、ただツイてなかった。
敵の剣戟をただ防御し続けて、反撃の隙を探す。鋭く力強い一撃に思わずたたらを踏んでしまった。
たまたま泥濘と蔓に足が取られた。片刃剣の握りが雨で滑った。殴られていた脇腹が一瞬だけ引き攣った。
よろけた一瞬で詰め寄った敵。
その刀が、私の腹を貫いた。




