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2話 希望の魔装少女

 その戦い方は異様の一言に尽きた。巨体から繰り出される素早い攻撃の数々を躱し、いなし、受け止める。その合間に剣が走り、竜の分厚い皮膚に小さい傷がつく。


 これが尋常でない速度で繰り返されている。それがかれこれ1時間以上休みなく繰り返されていた。6つあった怪物の脚は1本が断ち切られ1本は動かなくなった。


 派手な攻撃をしていないにも関わらず、あれだけ頑丈だった怪物が壊れていく様は、さながら魔法のようだった。


 仲間を囮にして逃げ出してしまった自分からすると、一人で怪物を抑え込みかつ優位に立つあの後ろ姿に恐怖すら覚える。


「さや、さや!」


「あっなに瑞稀ちゃん」


「腕の傷は平気?」


「はい、手当してもらったから」


 黒髪を後ろに二つ結びでまとめた、小柄で頼れるリーダーに心配されてしまった。後方仮設テントにいるとはいえしっかりしなくては。


「先生の戦い方はびっくりするよね、はじめて?」


「はい、お噂は伺っていたのですが」


「もう後は任せて大丈夫だと思う。後詰の私達が油断しちゃダメだけど」


 普通、攻撃力も防御力も高い巨大な敵は、複数人で囲んで隙をつくり、強い特殊技能持ちで一気に攻めるのが唯一の攻略法になる。

 単騎で傷一つ負わず圧倒する彼女はなんななのだ。常識が目の前で崩れ去ったのだから呆然ともする。


「凛ちゃんも大事なくてよかったね、意識も戻ってもう搬送されたって?」

「そうですね、結局帰ったらみんなで精密検査ですが」

「面倒だなぁ」


張り詰めた空気が弛緩していく。私が生まれる前から戦い続けてきた背中は、恐ろしくも頼もしい。


「ところで、遠くから見ていたのですが、先生が最初に繰り出した一撃は一体?あれが先生の特殊技能ですか?」


私達が与えられなかった有効打をあんな簡単に。現在は使っていないみたいだが。


「魔力操作を練習するとできるようになるらしいよ、武具のアシストなしで足裏に魔力を流して...」


「それだけで神業なんですけど」


「たしか運動エネルギーと位置エネルギーを魔力に変換しながら...」


「真似は難しそうですね」


「うん、そうだね」


 そう言って、大小二つの戦う影を見つめる斧野瑞稀。瞳に映っている感情は憧憬...だろうか


「でも禅苑先生は[特殊技能]無しでここまで戦い抜いてきたの。あの一級指定された怪物さえ単騎で...」


「それは本当ですか、瑞稀ちゃん」


 私の特殊技能は[偵察]まだ二文字技能でしかなく、戦闘には寄与しない能力。そんな私でもあんな風に戦えるのだろうか。


 声が震える。諦めていた可能性が胸で疼く。無事帰ったら彼女に詳しく聞かなければならない。


「姉御!そこっ!やったっ!足一本動かなくなった!」


 無視していたがうるさい。

 前方の柵に齧り付きで双眼鏡を覗く彼女。氷野宮 美華、口調は荒いが仲間思いの[氷結]使いだ。


「すげー!姉御!姉御!炎が!危ない!」


 先ほども素早い行動に助けられた。氷の壁がなければ皆消し炭になっていたはず。にしてもうるさい。なんでも昔先生に突っかかって返り討ちにあったらしい。そこからこうなったと聞くが一体どういう経緯でこんな事に?


「うおお!速ええ!強え!姉御!」


 ただうるさい仲間と、じっと先生を見つめ動かない仲間を横目に決意を新たにする。何としても強さの秘密を聞かなければならない


「希望の魔装少女」と呼ばれ、後進の育成すら引き受けながら


 自らを犠牲に戦う彼女に。



ふー疲れた

「あぁ作業おつかれ様です。解体班は西先生の指揮に従ってください。えぇ、私はお先にあがります。報告書は後日、学園と軍のいつもの担当に。再生能力も確認されたためくれぐれも注意してください」


 怪物の処理作業も担当の生徒に投げ、軍の担当者にも色々指示して、もう頭の中は「帰りたい」でいっぱい。

 やってらんねぇぜ!でも明日明後日はかわりに丸二日オフなのでHappy!昼から酒を飲み次の日まで寝る。これが楽しくてねぇ。

 おっと、後方基地のテントの中、毛布を体に巻いた人影が。


「桜井さん、氷野宮さん、斧野さん、夜遅くまでありがとう。よく頑張ったわね」


 そう声をかけると一人は目を伏せ、一人は涙ぐみ、もう一人はじっとこちらを覗く。


「先生、すいません。私たちが不甲斐ないばかりに」

「姉御、すまねぇ」

「禅苑先生、私...」


 なんか責任を感じてるらしい。予備要員として後方にいるのも立派なんだが。怪我しながら頑張ってるの見てわかるし、今回の怪物とは相性が悪い。特殊技能の火力も足りてなかった。


 数で囲んで四文字技能持ちの何人かで、特殊技能ぶっぱなして敵の体力を削るのが定石だから、生きて帰っただけで大戦果だよ!

と褒めてあげると全員泣き出してしまった。

 

 あわわと急いで慰める。あぁもっと泣いちゃった。慰め下手かよ。女の子泣かされるのは大罪です!


 やっぱり緊張の糸が切れたらしい。命の危機だったもんね。これは流石にアフターケアが必要ですね、しばらく生徒のお喋りから悩みを聞き出さねば。


 あの、戦闘後の休憩...まぁ美少女に囲まれてお話しするのもご褒美では?と前向きに考える。


 帰りの輸送機の中でぽつぽつと話す教え子たちを励ましていると、特訓をつける事になった。なんでも自分の無力感とか憧れとかなんとかで強くなりたいらしい。うんうん、そうだね、とうなづいていたら話の流れで...

 あの、休暇...まあ仕方ねぇか!


 特訓が決まったらそれぞれはしゃいだり、目をギュッと瞑ったり、拳を握りしめたり反応があった。それぞれ喜んでるっぽい?


 いじらしい小娘どもがよ、健やかであれ...




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