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14話 さやの覚悟の迷走の


 武具管理フロアでは、サンドバッグやダミー標的を使った試し切りもできる。武具の調整の後、きちんと完成度を確認できるようになっていた。


 ちなみに私はいちいち試し切りするのがめんどくさいのでサボっている。

 ほら、私の任務って大体討伐とか殲滅で武器整備の頻度が高いから...敵で試し斬りすれば良いし...


 マメな生徒はきちんと試し切りをしている。命に関わることなので、きちんとした方がいい。


 書類書くのを休憩中、試し切りをしている生徒をぼんやり眺めている。

 武具紛失に関する手続きの書類はミスったら武具弁償の対象になる。丁寧に書かないといけないので疲れた。

 生徒だったら事務員さんが書いてくれるんだが、教師なので自分で書けって言われた。くそ、休日だぞ私は。魔装少女だぞ、少女だぞ私は。


 試し切りが終わったようで武具を納めにこっちに歩いてくる人影が。斧野瑞稀ちゃんだった。こっちに気づいた。


「先生!こんにちは、こんな所でお会い出来るなんて、嬉しいです。今日はいい日です」


 おおげさだなぁ。余ってた缶ジュースを渡す。


「こんにちは、斧野さん」


「ああその、そういえば先生に相談があるんですが」


「なに、昨日の今日でなにかあった?」


「桜井さやに一体何をしたんですか?ちょっと様子がおかしくて。その、チームの雰囲気も」


 死を目の前にして、チームがギクシャクするのは良くある話。チームワークや連携はお互いの信頼が必要で、命の危機でそこに疑念が生まれたりする。

 神経をすり減らす戦いで、余裕が無くなって口論が起こることもある。子ども、それも女の子が死の淵に放り込まれているのだから仕方ない。誰が悪い訳でもない。


 その辺のメンタルケアや問題の解決、揉め事の仲裁も教師の仕事なのだ。大人が出来る限りのサポートをしてあげないと。


 桜井ちゃんが私の手出しで悪化したとあっては大問題だ。教師の教えのせいでギクシャクさせてどうするんだ。早めに相談してくれて良かった。

 ん?でもこの間のイカ退治はチームワーク完璧だったよね?ちゃんと腰を据えて聞こう。


「それは大問題ね、詳しく教えてもらえる?」


「はい。先生が助けて下さった柚部凛なんですが、怪我が治りまして。お祝いにラーメンを食べに行ったんですが、その途中でですね。さやは凛の手を繋いで歩いたり、カバン持ってあげたり、車道側を歩いたり、支払いを先に済ませたり。まるで付き合いたてのカップルなんですが。先生が教えたんですか?」


 そんなこと教えてねえ!


「挙げ句帰り際に、サプライズでプレゼントを用意してたりして。花束だったんですが。一体彼女はどうしたんですか?」


 うーん、まあこんな環境だから同性カップルも珍しく無い。女子校だし。

 戦闘で庇った庇われたでくっ付いたり、命の危機で生存本能が爆発したり、そりゃ色々起こる。しかも魔装少女の期間中は、男より女の方が強いわけだし。熊と殴り合って勝てるくらいに。


 ただ、あんまり拗らせると魔装少女引退時にややこしくなる。ほどほどにしてくれると先生は嬉しい。


「チーム内カップルが急にできて浮き足立ってしまい、ましろや美華が挙動不審で。一度イチャつくのは控えるように言ったんですが、さやは『いちゃつく?何のことを言って...』と本当に分かっていないみたいでした」


 桜井ちゃんは常に冷静だった。四つ腕猿の群れを切った時も、初顔合わせの先輩と上手く連携していた。立ち位置の調整はなかなかの域。

 続くイカたちの討伐も、作戦立案とオペレーティングを完璧にこなしていた。客観視が上手い印象だった。


「確かに戦闘面はすごく成長しています。強くなった、というよりも私たちチームメイトが動きやすくなって。今までリーダーの私が指示を出していたんですが、さやが手伝ってくれるようになって」


 あー自分の役割と適性に気がついたから、そっちで頑張る事にしたのか。別に攻撃も鍛錬すれば光る物はあったんだが。


 私もそうだが魔装少女は脳筋が多い。精神が上下すると魔力も影響を受け上下するので、テンション上げて突っ込むと何とかなるケースが多い。成功体験を得てしまうと脳筋戦法が止まらなくなる。

 桜井ちゃんはそういう意味では貴重な魔装少女になる訳だ。


「というか柚部さんは何て言っていたの?」


「身に覚えが無い。突然、お見舞いに来たと思ったら愛を伝えられたと。私たちも居合わせてしまったんですが、それはそれはキザなセリフを」


 うーん、表原・加州ペアがなんか言ったのかな。私は何もしてないし。あの二人が羨ましくて?でもあの二人は親友って感じだしな。

 いや、やっぱりさやちゃんのキャラじゃなくない?


「もう本人に聞いてみたら?衆人環視で告ったんなら、隠し事も無いでしょうし」


「そこまで踏み込んで良いんでしょうか...」


「その辺りの、人間関係のゴタゴタ解決も合わせてチームリーダーのお仕事だからね」


「そうなんですか。あ、さやと凛」


 遠くの方で腕を組み、二人が歩いている。腕組んでるよ、ナチュラルに。間違いなく付き合っているように見受けられる。途中で道を別れて桜井ちゃんだけがこっちに来た。


 遠目から見ても二人の空間が出来つつあった。そりゃ周りは気まずかっただろう。近くまで来た桜井ちゃんが挨拶してくる。


「禅苑先生。この間ぶりです。お怪我は大丈夫ですか?」


「えぇ大丈夫、一晩寝たら治ったわよ。あー、話をしても?」


 今回はリーダーの代わりに私が踏み込んでみよう。生徒の悩み解決も仕事なのだ。


「え?いいですよ?かしこまって、どうしました?」


「あー、あなた、そのー、柚部さんとお付き合いを始めたの?」


「いや、違いますが。彼女は親友ですよ」


 斧野ちゃんと二人で顔を見合わせる。


「じゃあ、さっき腕組んでたのは?」


「彼女は左半身に怪我を負っていたので、いつ転んでも大丈夫なように支えていました」


「さや、もしかして車道側歩いたり、荷物持ったりしたのも?」


「病み上がりで危ないじゃないですか」


「花束は?あれは関係ないでしょう」


「花言葉で決意表明をしていました。ライラック、オミナエシ、カランコエの花束です。花言葉は友情、あなたを守る、約束、です。伝わったか聞いたら頷いていました」


 真顔で不思議そうに答えてくれた桜井ちゃん。戦闘面で客観視できると評価したけど、こいつ私生活では客観視できてない。


 こんなに周りを勘違いさせる奴を見るのは初めてだ。


 なんて言えばいいんだろう。イチャイチャっぽい行動を控えめにさせれば良いんだよな。周りと相手を勘違いさせていることに、自分から気づかせるか。


「そうだ、桜井さん、柚部さんはどんな反応してた?」


「どんな反応...そうだ!凛の反応がおかしかったんですよ!」


 いけ!気づけ!お前ら百合バカップルだと思われてるぞ!


「ドギマギしたり、すぐ顔を赤らめたり。先生、凛の怪我は本当に完治したんですか⁉︎まだ治ってなくて、筋肉が引き攣ってカクカクしたり、発熱してるのでは?今から医務室に聞いてきます!」


 こいつダメかもしれない。


 適当に宥めておく。医務室に迷惑だからやめな。桜井さやの診断結果は、「過保護」です。


 ほどほどで良いんだよ、少なくとも私生活で命の危機はないでしょう?柚部さんを守るだけじゃなくて、彼女に守られたりするのがチームワークだから。あまり力まないようにね。


 ...ということを伝えたら、いまいち納得出来ない様子でうなづいていた。腑に落ちないが、教師の言うことだから渋々聞いたな。本当こいつ自分を客観視できてねえな。


 腕を組み眉間に皺を寄せながら歩き去っていく桜井さや。ま、そのうち正常に戻るだろう。焦りからテンパったのではないかと思う。


 ただし、このまま百合の花が咲く可能性も大いにあるのがこの学園の恐ろしい所。


 そうだ、一応チームリーダーに聞いておかないと、チームの方針はそれぞれ違う。


 アットホームだったり、軍隊式で私語禁止にしていたり、姉妹のように振る舞うようにするところや、恋人のペアで構成されたチームなど千差万別のチーム運営が行われている。


「斧野さんはどうしたいの?チーム内恋愛禁止?」


「いえ、不都合がなければ咎める気はありません」


「あらそうなの」


「えぇ、人が人を好きになるのは止められませんから。それに実は、私にも好きな人がいるんです」


 へー意外。真面目でしっかりしてる斧野さんの好きな人かー、誰なんだろう。久々の恋バナに好奇心が。


「ねぇねぇ、内緒で教えてよ。私の知ってる人?」


「...ええ、先生のよく知ってる人ですよ」


 斧野さんの目は瞳孔が開き、口元は薄く開いて笑っていた。


 捕食寸前の蛇のような笑みに、何故か背筋に冷や汗が流れた。

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