13話 武具技術整備局の大赤字
4話加筆修正しました
海の幸をお土産にして学園へ帰還。パイロットにおすそ分けする。航空機整備の人にも。同僚には瓶詰めとかをあげよう。一応学園長にもあげよう。
大量にお土産まで貰ったが、実はちょっとした裏がある。
少女たちに守られている一般市民だが、当然何も思わない訳ではない。感謝の念なり、罪悪感なり。
そういうことで、一般市民の中から、仕事終わりの魔装少女を見かけたらもてなす文化が生まれ、もてなした人は賞賛される。
特にお店がもてなしたらイメージアップに加え、商品が縁起物扱いもされる。その店のものを買ったら、間接的に魔装少女をもてなしたことになる。つまりこの世界最大の宣伝になる。それで結構太っ腹だったのだ。後で元を取る計算なわけ。
伊勢海老の味噌と身、美味しかった。熱々プリプリの海老の身とエキスは海のうまみが詰まってて最高だった。
なにより、仲間みんなと一緒に食べたからより美味しかった。
ただただ、誰も欠けない戦場が嬉しかった。
あー帰って来たら急に眠気が。ここ数年、徐々に徹夜が厳しくなっている。何故だ?他の生徒たちは全然元気であることに答えがありそう。ここ数年で私の身に一体何が...
いいや、打ち身の薬飲んで寝よ。
○
おはようございます。
あれ、なんかメールが鬼のように届いている?武具技術整備部局?
私の武具の整備が終わったのかな、でもわざわざメールを送信なんてあったかな...
私、武具を持って帰ってない!
そう、海中に放り投げてから現在行方不明なのである。海なので電波も届かない。発信機が付いてるのに。
あの、私最後の休暇中なんですけど。メールを返すとすぐ帰って来た。
失くした時の状況説明と紛失責任について、それと武具の切り替えの相談で至急来て欲しいらしい。
これ、丸一日コースでは?
○
地下にある武具管理フロアは特殊鋼板の床と壁で覆われて異質な雰囲気である。リズムよく金属が叩かれる音や何かの機械が回転する音、油の匂い。
新人魔装少女は毎日立ち寄って武具を装備、点検するんだが。私ほどベテランになると、他の人がやってくれる。
少女が魔力を扱えるようにする、武具のコア。それはブラックボックス化されている。簡単に解析出来ないようになっていて、私も良く知らない。このコアが重要で貴重。
武具はガンロッカーのように管理されていた。取り違えや紛失を防ぐために、セキュリティーキーで厳格に管理されている。取り扱った人のIDが履歴に残る仕様。数時間に一回、発信機と目視での現在地確認が入る。
言ってしまえば戦略兵器なので管理は厳しい。そんな武具を落とした奴がいるんだって。
「こんにちは、禅苑先生。何か言い訳はあるかな?」
この人は武具技術整備部局のトップ、鈴木さんである。
ムスッとしたサングラスの白髪のお爺ちゃんだが、背筋はピシッと伸び、声は溌溂としている。部下への指示も的確で速い、典型的な職人タイプである。
「こ、この度は貴重な武具をですね、大変申し訳なく」
「ハア、戦いの中での紛失なのだろう?死者もゼロで済んだなら良い。技術者としては悲しいがな。人命に代えられるものではないからな」
「ですよね!仕方ないですよね!命懸けの戦いでしたからね!」
「おい、お前が急に海に飛び込んで、それで失くした事は知ってんだぞ。まわりの人間が驚いていた、と報告書にあった。仕方ないのは分かってるが、作戦外の馬鹿なことして紛失したら、請求はお前持ちなんだからな!黙っててやるこっちの身にもなれ!」
「分かった、わかったよ、以後気をつけるよう。これお土産の瓶詰め!これで許して!」
「お前が不利益を被らないように怒ってやってんだぞ!分かってんのか!賄賂を渡して済ませようとする根性が気に入らん!ちょっとこっち来い!」
ひいん。
火に油を注いでしまった。ただただ平謝りである。よかれと思って渡したお土産が逆効果だった。これ学園長用の豪華なお土産なのに。
「お前も、もういい大人なんだから、後進を信頼してとっとと席を譲ったらどうだ?この前の刀身の歪み、誰かを庇った後突っ込んだだろ。まあ戦闘はお前の判断が一番だが」
うわ、生徒こっち見てる。なんかコソコソ話してるよ?怒られてる所を見られるのは大人として、教師として恥ずかしい。最悪だぁ。
あ、これが本当の反面教師ってやつ。
「お前何か別のこと考えとるな、わしの話を聞いていないな!お前との付き合いも長い!分かるんだからな!!」
「いいか、お前は昔っから武具の扱いが荒い!何個武具を壊したと思っとるんだ!そんなんじゃ戦場で死んじまうぞ!わしより先に死なれちゃ寝覚めが悪い!」
全面的に私が悪いし、向こうも正論しか言わないので辛い。メチャクチャ怒られたが、鈴木さんは仕事が超忙しいので途中で切り上げてくれた。助かった。
なんだかんだ結局、お土産は持って行ったみたいだ。ちゃっかりしてるなぁ。あ、学園長に渡す分のお土産無くなっちゃった。
「鈴木さんめっちゃ怒ってたね、最初から素直に謝りなよ。鈴木さんも結構心配してたんだよ?メール返ってこないし、怪我したって聞いてるし」
近寄ってきたのは私の武具整備担当。元魔装少女で、一緒に戦って来た戦友でもある。
戦友ならもっと早く助けにきて?戦場での絆は?一緒に戦おうって誓ったじゃない!一緒に鈴木さんを宥めてよ!
いや、怒られる理由を作る私が悪いんだが。
大人になると怒ってくれる人も居なくなる。それでも怒ってくれる鈴木さんに、なんとなく甘えてしまったのかもしれない。
「落ち込んでないで、こっちきて。鈴木さん黙っててくれるって。免責でよかったね。はい、次の武具サイズ調整するよ」
私が宥められてる?
引退後、彼女は頭が良かったので工学系の資格をいくつか取った。そしてわざわざ、この職場に戻ってきたのだ。物好きめ。
あ、元魔装少女は面接通りやすいとか聞いたな。身元洗う必要がないとか、国への忠誠心も問題ないとか。そういうことか?
彼女のいる整備局は、武具のメンテナンス担当。技術局は武具の開発やアップデート、新機能試験などが担当になる。
武具を失くしたので、両方のお世話になります。鈴木さんは両方のトップなのでわざわざ来て、私の仕事をまとめて片付けていた。わざわざ仕事増やしてごめんね。鈴木さんの仕事だから速くて正確、信頼できる。
ちなみに私は初心者用の片刃剣を愛用している。実は片刃剣、魔装少女が最初に触る武具で、これを基本に自分に合う武具を選んでいく。
リーチが足りなければ長刀、威力が欲しければ大両刃剣、突きで戦うなら槍型。本人の魔力密度が薄いと小型化して短刀やナイフ型。役割に特化させるなら大盾もあり。
魔力を固定化させたり、魔力の距離減衰がない、体質の珍しい人は銃型の武具を扱える。近距離まで相手に近づくのは危険なので、皆銃型の武器を使いたがる。
そういう意味で斉藤さんはかなりのラッキーガールだった。縁起がいいので、新人や魔装少女候補から握手とか求められるらしい。少しでもあやかりたいらしい。
死が身近だから、できることはなんでもしておくのがこの世界の文化だ。
武具は命を預ける相棒なので、オーダーメイドである。
珍しいものだと本江さんの手甲や靴とかある。あと狙撃銃とか。
そうでなくても個人の背丈や握り、重心に合わせて調整する。よく見る両刃大剣ですら本人以外にはしっくりこないらしい。
さて、カッコいい武具が好きな私が、何故よくある初心者向け片刃剣を好んでいるのか。大きい刀とか二刀流とか黒い長刀とか、複雑な武具が使えないアホだからではない。片刃剣が気に入ったからだ。
私が気に入ったのは、値段だ。
1.初心者用の数打ちなのでコストが安い
2.どの学園、支部、基地にも絶対ある
3.かつ大体余ってる
4.初心者用と揶揄されるだけあって調整も速い
5.整備も速い
代えが効くので欠けたり折ったり投げたり足場にしたり、失くしたりしても頭を下げれば何とかなる。皆最終的に許してくれた。
武具を壊しまくる私なりに考えた、コスパがいい対策なのである。その考え方を込みで怒られてる気がしないでもない。
武具を気にして死んでは元も子もない。
武具を気にして死んでは元も子もない。
希望の魔装少女が帰ってこない、とあっては大問題である。なので彼女の片刃剣は、特注のアップデートを重ねた刀身を開発していた。しかも採算度外視、一回の出撃の度に刃を変える赤字の整備をしている。刃ごと変えるので整備も早い。特注なので調整も早い。
とにかく頑健かつ、彼女の激務に耐えられるように、戦闘中に折れないように作っている。それでも折れてしまうあたり、彼女の戦場の激しさと戦いぶりの異質さを表している。
安定していて高い戦果。そして[戦闘続行]による囮としての戦場への貢献。その二つがそんな整備を許可させている。武具丸ごと失くされた鈴木が怒るのも納得である。
彼女は自分の武具がそんなにコスパが悪いとは知らず、今日も元気に使い捨てていた。
替えがたくさんあるから、と。完全な勘違いである。
武具を気にして死んでは元も子もない、そのため彼女が真実を教えられる事は絶対にない。




