11話 悪夢はイカの形
私が砂浜に行くと、新しく湧いたイカ悪魔は私を狙うので、人手も集めやすくなった。おっと回避!武具を振り上げる!一体爆散して落ちる。ホームラン!今のはいい当たりだった。敵の攻撃を打ち返しております。
氷の橋を維持するための氷結系と、防御向きの風系、バリア系の[特殊技能]持ちを集めた。
説明はさやちゃんに任せて、私は爆発粘液バッティングセンターを続ける。
爆発粘液を打ち返して撃墜したり、しなかったりするんだが、やっぱむずいなあ。
打ち返した覚えのない敵が爆発したりズタズタになったり頭吹っ飛ばされたりし始めた。
手が空いた人が集合し始めている。弓とか銃系武具や[鎌鼬]、[火炎弾]で撃墜してくれたようだ。
そろそろ作戦開始かな?
○
氷の足場を作ってもらう。この足場を、生成した氷の橋で沖へ押しこむ。両側から氷を生成することで押し合う力が生まれ、足場は猛スピードで進むはず。
夜間は海が暗く見えないため、[索敵]で方向を指示する。先頭は斧野瑞稀ちゃん、前方に[剛翔破]を撃って爆発粘液を迎撃。二番目は獅子神ましろちゃん。大盾で後ろを守る。三番目、四番目は桜井さやちゃんと氷野宮美華ちゃん。後ろを向いて氷を生成して橋を作り、さやちゃんが方向を教える。
私?先生はウロウロして流れ弾の迎撃をします。
作戦開始!
氷を足場と岸側の両方から生成する。互いに干渉して足場が押し出され、なかなかの速度で沖に向かって進んでいる。気分はスピードボート。敵が居なければ。
「おい!めっちゃ撃ってきてるぞ!大丈夫なんだよな!私は後ろ向きだし海しか見えないし、すごい怖いんだが!姉御!怖い!」
「美華、右に3度ずらして。敵の大群の横をすり抜けるよ」
叫びながら海に向けて能力を撃つ美華ちゃん。海面を氷結させるために後ろ向きかつ下向きなので怖いらしい。無視するさやちゃん。
氷の航跡は徐々に太くなり道路のようになる。氷の橋に加えられる攻撃は[鎌鼬]や[風の護]、狙撃で撃ち落とされている。
空にはイカ悪魔の大群がひしめいている。相手からは爆発粘液球がひっきりなしに飛んできている。海面が爆発で揺れ、飛沫が皆を濡らす。
「はっ![剛翔破]!」
風の斬撃が空一面を切り裂き、迎撃された粘液の爆発が夜空を照らす。
とはいえ[特殊技能]は連発できないので、迎撃の切れ間ができる。その間殺到する粘液球は、獅子神ましろの大楯で防ぐ。動けない氷野宮美華と桜井さや、剛翔破をチャージする斧野瑞稀をまとめて守る。
大楯が軋み、爆音が響くが、ましろは踏み止まる。
え?私?爆風でジャンプして回避しました。
「キャー!どかーんって!もう嫌だー!」
「美華うるさい、2度戻して」
「美華、瑞稀、敵の大群の横を通過します!」
敵の潜水空母?から空を飛んで殺到するイカ悪魔だったが、私達を狙って足を止めている。渋滞したイカ悪魔の脇を抜けることで一団は向きを変え、さらに渋滞は加速。空を埋め尽くす敵は団子状態に。
そのど真ん中に、陸の仲間たちが一斉攻撃を叩き込む。
[爆炎球]![火炎弾]![光線]、[閃光砲]!
様々な遠距離熱系特殊技能がイカ団子に直撃。可燃性の粘液もあって大爆発を起こした。
「もう少しで敵母艦の近くに出ます。先生注意してください!」
はいはい。海面に目を凝らす。敵が次々と出てきている場所が近づいてきた。そろそろジャンプで届きそう。にしても食いついて来ないな。
大きく息を吸って
「先生!何を」
足に力と魔力を溜め、飛び込む!
夜の海はクソ寒い。空中に出た直後の敵を切り捨て海中に飛び込む。
さっさと私を認識させて釣り出せないと生徒たちへの負担がかかりすぎる。私単独でさっさと引っ張り出して、生徒の危険を減らさないと。
目に魔力を集めて強化、潜水する。イカ悪魔が泳いで上がってくる。腕を振り上げ噛みつこうとイカの嘴を開け突っ込んでくる。速いが私の敵ではない。私、水中戦もできる。なぜならベテランだから。
適当に戦ってると、なんか嫌な予感が。浮上する。
もう少しで水面...すごい吸い込み水流が下から!逃げろ逃げろやばい!咄嗟に武器を真下に投げる。
○
「先生大丈夫かな」
「先に言って欲しかったね、たぶん私達のためなんだろうけど」
「姉御上がって来られるのか?」
「周りに氷の足場つくっておいたら?」
「総員!大きな反応が前方下から浮上してきます!」
轟音。水飛沫と共に現れたのは巨大なイカ。フェリーくらいある。
「うわ、でっか...」
ましろが指差す。
「あそこ見て!」
上部にある漏斗の部分から続々とイカ悪魔が這い出ている。これが潜水空母の秘密か。
「そっちじゃなくって!」
巨大イカの上に禅苑先生がしがみついている。
って漏斗から這い出たイカ悪魔が、巨大イカの上で禅苑先生と取っ組み合いを始めてる。あ、先生の大外刈りで海に落ちた。
「って!美華、足場を点々とでいいからあのデカい奴のとこまで!」
「お、おう!これで魔力空っぽだ!喰らえ!」
敵ごと凍らせて足場を作る。
それに飛び乗って瑞稀とましろで先生を迎えにいった。あの人なんで今まで生きてるんだろう...リスク管理しっかりした方がいいんじゃないか、そう思った桜井さやであった。
○
ぶはぁ、死ぬかと思った。武具を投げつけ、軌道を変えたデカい身体を掴んで、浮上成功。
イカ悪魔に至近距離まで近づかれたが平気。素手で頑張った。決まり手はつっぱり。
斧野ちゃんと獅子神ちゃんが迎えに来てくれた。敵を弾き飛ばしながら巨大イカの上を走る。ありがとう、武具無しだとキツイ。
じゃんぷ!
皆と合流して氷の橋を逆走する。巨大イカもイカ悪魔も後ろから追いかけてくる。海を泳ぐ巨大イカはかなり速い。追いつかれそう。
でも武具がないので今の私は役立たず。ましろちゃんの盾に守って貰いながら走っています。魔力切れの美華ちゃんは斧野ちゃんが背負って走っている。
敵は氷の橋を砕きながらこちらに迫っている。破片が背中に当たってプレッシャーが。イカ足を振り回して、こちらを捕まえんとしている。空の敵は陸からの攻撃で数を減らしている。つまり巨大イカさえなんとかすればよい。
後もう少しで陸だ!
気が緩んだのか足が滑った。氷の橋だからツルツルしてるせいなんです。
敵はほぼ陸に上陸した。全身が砂浜に座礁している。作戦は成功だ!
しかしずっこけてる私。触腕を伸ばすイカ。
「「「「先生!」」」」
皆ブレーキをかけるも、氷の地面では踏ん張りが効かず、慣性で皆そのまま陸へ突っ込む。
イカの触腕が私を捉えた。吸盤が背中に引っ付く。私を締め殺そうと足から首までぐるぐる巻きにされて捕まっております。
首だけ手でガード、スペースを確保。首の骨折が魔装少女のありがちな死因。全身を魔力で防御。そして息を吸い込む、叫んだ。
たーすーけーてー
○
「たーすーけーてー」
普通の魔装少女だったら危機的な、一刻を争う絶望的な状況なんだが、あの人がやるとふざけてるように見える。的確な判断で防御しているからなんだろうが。
頸椎へ大きなダメージがいくことを回避している。死んだり半身不随になった人間を見てきたからだろうが。
締めつけて殺そうとしているため、本人の魔力が切れ、魔力防御が弱まった途端に捻り潰される。全身に魔力を巡らす都合上、魔力切れも早い。
しかし、禅苑愛佳の特殊技能は[戦闘継続]。魔力出力がそんなに上がらない代わりに下がることがないパッシブスキルだ。拮抗しているならしばらく大丈夫だろう。
そもそも武具がない時点で魔力強化出来ないのが普通なんだけど。あの人の精密な魔力操作は群を抜いている。
潜水空母こと巨大イカが陸に釣れたら、作戦は第二段階だ。[俯瞰空間]で陣形を確認、指揮する。
作戦本来であれば、目標を中心に扇状に展開後、溜めておいた[特殊技能]で総攻撃。消耗した敵を通常火力で削り切る予定だった。
先生、すごく邪魔です...
「作戦変更!それぞれ各触腕の足止め、あるいは切断をして下さい!禅苑先生に攻撃を当てないように!隙を見て救出します」
「「「了解!」」」
「「「わかった!」」」
「先生!この私がお助けします!」
「うへへ、先生が粘液でドロドロで縛られ」
「一刻も早く救い出そう!」
「皆、先生に恩返しするよ!」
士気が高いのが救いか、学生たちは武具を手に触腕を引きつけている。私は狙撃しながら全体を俯瞰し指揮する。
禅苑先生は触腕に巻き付かれたまま、何度か地面に叩きつけられている。早く助けないとまずいか。あの体勢で衝撃を何度もくらうのは、命に関わる。心配と不安で焦る。
「あべし!ひでぶ!」
「流石愛佳先生、片手を出して受け身を完璧に取っている。見習わねば」
本江が何か言ってる。そうなのか?しばらく大丈夫なのか?
○
湧き出る小型敵も撃ち落としつつ、触腕の四本目を焼き切った。そろそろ先生を助けよう。巨大イカの目を潰す、とっておきの魔力弾を装填した。
合図と同時に救出開始!
「うん!」
「おうよ、待ってて愛佳先生!」
残り1発だけ残しておいた特製魔力弾を、狙撃銃型武具から相手の眼球に撃ち出す。相手の目を貫き、内部で破裂。巨大イカは苦しんでいる。浅瀬は波立ち、飛沫が舞う。
「てやあああ!」
獅子神ましろの[突撃走]で大楯が振り上がり、触腕の根本が跳ね上がる。
「うっ」
先生にも衝撃入ってない?
「じゃんぶ!きりもみ!けり!」
本江が[跳躍蹴撃]で先生を掴む触腕の中央を蹴った。[跳躍蹴撃]は蹴った部分が何故か爆発する。その例に漏れず、触腕は爆発。禅苑先生と千切れたイカ脚が空中に舞う。
「のわああぁぁ」
「先生!きゃっち!」
叫ぶ先生を本江が空中で受け止める。錐揉み回転しながらそのまま砂浜に着地した。
なぜかお姫様抱っこ。赤いマフラーがたなびく。背後で爆発。
「愛佳先生、助けにきたよ...先生?」
どうやら目を回しているらしく、返事がなかった。大きな怪我は無いようだが。本江の回転着地がトドメになったみたい。
やっぱりきりもみ回転やめたら?
その後、よくも優しい禅苑先生を!ゆるさん!といった感じで、巨大イカは生徒たちによって倒された。
強敵だったのだが、更にヒートアップした魔装少女たちの怒りの矛先が敵に向かった。私たちの禅苑先生の敵討ちだ!と言う奴も。
頭に血が昇った少女たちの攻撃は苛烈だった。
夜明けの砂浜に巨大なイカが崩れ落ちていく。魔装少女たちの歓声が上がる。
「うーん、はっ、敵は⁉︎」
つられて禅苑先生も目を覚ましたようだった。




