10話 齧れメンマ、餌木になれ私
感動の再会から帰宅後、惣菜を食べながら、のんびりテレビを見ていた。当然ながら政府の検閲付き番組なので、うっすらプロパガンダっぽい表現が入るのよね。
魔装少女へのポジティブ表現とか、政府と学園が手を取り合って問題解決とか、怪物の表現に注意している雰囲気とか。
皆気にしないので、転生者の視点が原因かも?これはこれで面白いが。
それにしても惣菜が美味しい。寮で揚げ物することの大変さを知っているからか、揚げ物多めに入れてくれてる。私油っこい物大好き!昔ほど量を食べられなくなった事には触れないものとする。は?私はまだ若いが?
にしても、電子の狂犬が旦那とコロッケ揚げてるのか。
後輩ちゃんも、自分の居場所と楽しみを見つけられたようで何よりだ。魔装少女を辞めても人生は続く、本当に良かった。
私を一人残して世界は進む。
それはさておき、もらったタッパーを開けて、メンマを取り出す。大分前に友達から貰った日本酒も開けよう。
メンマを一口齧る。食欲をそそる匂い、うまーい。醤油ベースの中華風調味液。ニンニクと味噌と出汁の旨み、ラー油と胡椒と豆板醤の辛さ。コリコリシャキシャキで歯応えも良いし、噛めば噛むほど口の中で旨みと辛みが深くなる。メンマを頬張り、コリコリ噛む。ずっと噛んでたい。
次に日本酒をぐいっと。日本酒は辛口でキュッときついが、後からお米の風味と甘みが追いかけてくる。美味しい。これ相当高かったんじゃないの?お土産に貰ったんだけど、お返し要るかもなぁ。
あーメンマと日本酒を交互に食べるとそれぞれの味でリセットされて無限に食える。旨しょっぱい辛いメンマ、お酒の引き締める甘さ。メンマもう一つ貰っておいて良かった。飲み友達にお裾分けしたげよう。
メンマ齧る、日本酒飲む、メンマ齧る、日本酒飲む...という至福のループを続けていると箸が止まる。もう、もうメンマ無いんだが!日本酒も一瓶無くなりかけてる。タッパーデカかったよ?いっぱい入ってたよ?そんなぁ...
友達にお裾分け用のメンマを食べちゃうか悩んでいると、部屋のスピーカーからアラートが流れる。
ここは私専用の寮部屋で、ちょっと贔屓されているのか他の部屋よりちょっと広く設計されている。その代わり学園戦略室に直通のスピーカーが付いていて、用があると鳴るのだ。夜中だろうが、晩酌中だろうが。
『第一級危険度の敵が確認されました。禅苑愛佳先生、直ちに第四滑走路に直接出動してください。装備はこちらで運搬します。繰り返します...』
仕事の時間です...
○
日本酒一瓶空けた、ほろ酔いの奴が戦場に出て良いのか?実は、武具を握ると体組織の性能に魔力ブーストがかかるため、肝臓の動きも活性化、酔いはすぐ覚める。そのため武具さえ握れるならいくら飲んでも一応問題は無い。
ただちょっと生徒の教育に悪いので普段お酒は控えているのだ。久方ぶりの休み、やっと呑めると思ってたの。
輸送機パイロットさんが日本酒の匂いで事情に気付いたみたい。悲しそうな目でこちらを見て、親指を立てグッとしてくれた。うん、私、頑張るよ。
今回の敵発生場所は沿岸部のようだ。沿岸は海中から怪物が続々湧いてくるため、あまり奪還が進まない地域だ。
最近奪還した地域に敵が殺到しており、どうやら取り返そうとしているらしい。画像を見てどんな敵か確認しよう。コウモリの羽根が背中から生えた、サルかヒト?頭がイカ?サルコウモリイカ?なにこれ。海から次々飛び立っているようだ。イカ悪魔と呼ぼう。
飛行型の怪物は危険度が一つ上がる。普通の魔装少女は遠距離攻撃が苦手だからだ。一応遠距離向け武具もあるのだが、珍しい適性が無いと使えない。[特殊技能]でなんとかするのが一番だが、人によって何を発現させるかランダムなので結局適性の問題になる。
しかも今回は群体型。取り逃がすと大変なことになるのに、いっぱい居るのでターゲット管理が大変。今作戦では、空中の敵へ対処可能な戦力を、ありったけ突っ込む気だろう。
戦場が見えてきた。[特殊技能]の光で花火みたいになってる。暗い夜空に輝いている。何人か空を飛んで直接近距離で戦闘しているみたい。フレンドリーファイアしないよう別の区域で戦っているのか。わたしもそっちかな、パイロットに指示を出す。
ロープを垂らして準備。
「合図したら急旋回して!」
『了解』
「いち、にの、さん!」
ロープの先端が遠心力で振り回される。私も飛び降りてロープの先端を握ると、遠心力と私の体重でロープが引き絞られる。手を離すと当然、私がぶっ飛んだ。当然計算して飛んでる。私が飛ぶ放物線上の敵を切り刻む。最後の一体は掴んで足裏に運び、踏みつける。スノーボードのようにして着地。落下エネルギーはスノーボード君にぶつけて相殺した。私は無傷で着地。
現場に到着したが、なかなか大変そうだ。サルイカコウモリ、いやイカ悪魔はたくさん飛んでいる。強さはそうでも無いが、数と飛んでるのが厄介。
あ、イカの口からなにか吐いた。黒い野球ボール?
「先生、それ爆発しますよー」
マジ?咄嗟に切り払う。背後で爆発が起こる。受けなくて良かった。
「ありがとう、本江さん」
「いやぁ実は何発か食らっちゃって、痛かったー」
彼女は本江さん。[跳躍蹴撃]の[特殊技能]持ちで、魔力防御が抜群に上手。しかし代わりに武具が使えないので殴る蹴るで戦う超インファイター魔装少女だ。
遠くからイカ悪魔の一団が飛んでくる。本江さんが飛び出していく。
「ジャンプ!きりもみ!蹴り!」
物理法則を無視した軌道でジャンプして錐揉みしてキックする。なぜか軌道上の敵が墜落し、キックが命中した相手がなぜか大爆発する。爆発に巻き込まれてさらに何体か墜落した。この娘もかなりの実力者で、単騎で一級危険度に駆り出される腕前だ。
「しゅたっ!」
爆風で戻ってきてポーズを決め着地。赤いマフラーがたなびいている。
「きりもみ回転を入れない方が、力の無駄がないんじゃないか?なんでわざわざ勢いを殺すんだ?」
ツッコミを入れた生徒は斉藤さん、[特殊技能]は[俯瞰空間]のスナイパーライフル型武具使い。珍しい技能と珍しい武具の完全超後衛の魔装少女だ。
「あれ、私と合流しにきたの?いつもかなり後ろから撃ってるわよね」
「ええ、[俯瞰空間]で観察したんですが、敵の湧き位置に一定の変化が見られました。おそらく潜水空母のような存在があるのでは無いかと」
「それを私に伝えたかったのね、今回の襲撃はそいつが原因と。で、私に潰してこいと」
「距離があって本江でも届かないんです。私は弾丸の魔力が霧散して、水中への狙撃ができなくて」
「無茶言うわね、さっきまで酒飲んでぐうたらしてた女に」
「はは、簡単でしょ?先生なら。援護は任せてください」
話す片手間にイカ悪魔を撃ち落としていく斉藤さん。その鷲の目から逃げられる怪物はいない。とはいえ数が多くなかなか優位が取れない。敵の攻撃は回避が必要でその間は攻撃できないのもある。
あ、私の方にも攻撃が飛んできた。切った時分かったが、可燃性の粘液を球体にして飛ばしているらしい。このままだと私に当たる、一歩引いて剣を振りかぶる。
片刃剣の腹を粘液にジャストミート、魔力で包みこみ粘液球が割れないように保護、そしてそのまま振り切る!
爆発し損ねた粘液が元の方向に飛んでいく。
イカ悪魔はビックリしたように動きを止め、私が打ち返した粘液で爆散、墜落していった。ホームランだぜ!
「先生はまた器用なことやってますね。いや、逆に脳筋なのかな」
斉藤さんも呆れてた。
○
とりあえず海に行こう。
墜落したが死にぞこなったイカ悪魔を殺しつつ、海に向かって走る。波打ち際で戦う斧野小隊の姿が見えてきた。君たちも休暇の夜に呼び出されたのか。ラーメン屋並んでたもんな。
さやちゃんはいち早くこっちに気づいた。
他のメンバーは気付かず戦っている。美華ちゃんの[硬氷結]と斧野ちゃんの[剛翔波]で叩き落として、獅子神さんとさやちゃんでトドメを刺すフォーメーションか。
「先生!敵の本体がいます!恐らく海中に」
暗いのにそこまで気付くとはやるじゃん。[索敵]の範囲外なのに。そこまで分かるとはこの子優秀なんだな、やっぱり。さてどうしようかな。
私の[特殊技能]は[戦闘継続]。私を認識した相手が逃げられなくなる能力もあるので、なんとか近づければ。海なのが厄介だ。いや、にしても遠すぎるな。飛ばしてもらっても帰って来れないし、ヘリでは高度が高すぎる。能力の範囲外だろう。
「その、先生。本体を陸地に誘き出す作戦を考えたんですが」
さやちゃん、すごいのでは?聞こうか。
「作戦を説明します。[硬氷結]で海に氷の橋を伸ばします。[索敵]で相手の正確な位置を確認しながら最短距離で。敵の攻撃は[剛翔波]で空中迎撃、残りは大楯で防御。先生の効果範囲内に敵大型個体が入ったら、追いかけてくるはずなので氷の橋を逆走します」
「先生に釘付けになっている小型の敵は遠距離攻撃の皆さんで殲滅。風系能力の人は橋の防御を、氷系能力の人には橋作りを手伝って貰います」
皆に手伝って貰いつつ、私たちは五人で突っ込んで帰ってくるだけ。
シンプルかつ大胆な作戦、さやちゃん逞しくなったね。氷の橋を伸ばすのか、なるほど[特殊技能]への考え方が柔軟になっている。あの二人に会わせたことがプラスになったようで何より。
教え子の成長は楽しい。教師になって良かったと思う瞬間の一つだ。
そんな教え子曰く、私の役割はイカ釣りのルアー...
メンマに尺とりすぎたのでバトルは次回です




