先生みたいになりたいのでお尻叩きの罰をお願いします。
「先生ぇ……あの………」
「なあに?わがまま?言い訳?」
「いや違うくて、その……」
結奈は涙を堪えながら、必死に何かを訴える。
彼女の目の前に立つのは、結奈の担任の先生だ。
身長168センチ、モデル体型の岩倉先生の圧は尋常ではない。
「結奈?私に弟子入りするって言ったのはあなたよ。」
「はい………」
「覚悟したんでしょう?」
そう、結奈は2ヶ月ほど前、
「私も、岩倉先生みたいな英語の先生になる!」
と宣言したのだった。
この国には2通りの教師がいる。
大学で自分の興味のある科を専攻し、加えて教職につく「普通教諭」、そして、「選抜教諭」だ。
結奈は「選抜教諭」を目指している。
選抜教諭になるためには、高校生のうちから自分の師を1人決め、夢に向かって勉強や経験を重ねる必要がある。
選抜教諭になるための師は選抜教諭で無ければならず、その意味でも狭き門であるのは言うまでもない。
結奈の場合、たまたま自分の夢が英語教師で、たまたま高校に岩倉先生が在籍していたために運良く「弟子入り」ができるのである。
結奈としてはこのチャンスを逃す訳にはいくまい。
岩倉先生は、そのような結奈の状況を上手く利用していたのだった。
「さて、結奈、先に教材室に行ってなさい。」
「うっ…」
「…返事は?」
「…っ、はい!!」
これから結奈は、おしおきとしてお尻を叩かれる。
過去のおしおきを思い出すと、それだけでお尻が震えるような感覚であった。
4階まで上り、角の部屋の、6畳程の空間へと向かう。
「…さむっ」
12月、雪はグラウンドを覆い尽くし、学校とは思えない静けさの中で、結奈は1人立ち尽くしていた。
この部屋には暖房もなく、壁の隙間にはうっすらと雪まで積もっている。
「はぁぁぁ…」
痛いだろうな、痛いだろうな、と考えると、まだ何もされていないのに涙が出てくる。
思わず手をついた長机は、氷のように冷たい。
手の上に涙が落ちると、気化熱のせいでさらに寒く感じられた。
「あら、お暇なようね?」
結奈は驚きのあまり、長机に腰をぶつけた。
岩倉先生だ。
この時間は勉強して待つべきだった。
これもおしおきの対象だろうか。
何か言おうにも、余計なことを言えばおしおきが増えるだけである。
1秒、1秒、おしおきの時間が迫ってくることには変わりがないのだ。
岩倉先生が結奈に近づいてくる……と思いきや、棚の1番上にあった絵本を数冊手にとった。
岩倉先生は結奈を横目で見ながら、パイプ椅子に座ると、口元だけは優しい表情を見せた。
「さ、ここにいらっしゃい。」
岩倉先生は、自分の太ももをポンとたたく。
先程ようやくおさまった涙が、再び結奈の頬をつたっていく。
覚悟を決めた結奈は、泣きながらではあったが、素直に岩倉先生の指示に従った。
岩倉先生は結奈の頭に手を置くと、ゆっくりと話し始めた。
「いい子ね、結奈。今から適度に痛みを加えてあげるから、精神を集中させて、反省のみにエネルギーを使いなさい。」
「はい……お願い…します。」
結奈は涙ぐんで返事をした。
心の中では、(絶対、適度じゃないもん…)なんて思いつつ、尊敬する師へ逆らおうという気は起きなかった。
岩倉先生はそっとスカートをめくり、左手で結奈の体を押さえながら右手でパンツを下ろした。
ひんやりとした空気と緊張のせいで、結奈の体は強ばってゆく。
_パチン!
「んっ…!」
パチン!パチン!パチン!パチンッ!
同じ部分を連続で叩かれる。
パチン!パチン、パチン!パチンッ!パチン!
「いたっ………………」
そこまで強い力でなくとも、連続で叩かれればピリピリとした痛みを感じる。
たった10回だが、これでも十分に反省できる、と結奈は思っている。
しかし今の10回は、ウォーミングアップのような扱いであると、これまでの16回のおしおきから心得ている。
「…結奈、うつ伏せのまま返事なさい。」
「はい……」
「今から、文法テストで満点を取れなかった罰として、右を50回、左を50回叩きます。目を閉じて、静かに、計100回分反省すること、いいわね。」
「はい……」
言われた通り、結奈は目をぎゅっと閉じた。
体を硬直させたまま、一発目を待っていると、
バチンッ!
「ぁぐっ…!?」
予想もしない痛みが結奈を襲った。
何が起こったのか___結奈は後ろを見ようとするが、この体勢では見られない。
未知の痛みは恐怖を増長させる。
加えて、岩倉先生の言葉が結奈を怖がらせる。
「結奈、静かに、ね?わかるよね!?」
「すいません、すいませんっ……!」
「少しでも声出したらカウントしないからね。」
「……すいませんっ!」
「反省してる?」
「はい!…してます!反省…」
…今の強烈な一撃がカウントされないとは。
自然と涙が出るレベルの痛みだった。
バチンッ!
バチンッ!
バチンッ!!
「ひっ」
バチンッ!
バチンッ!!
「いっ…………」
「結奈っ!」
岩倉先生が大きな声を出した。
「我慢しなさい。これまで6回叩いたけれど、カウントは3回だけよ?このままだと、倍叩かれる羽目になるでしょう?」
「うぇぇ……」
結奈は泣いていた。
顔を見なくとも、木造の床の色が変わっているのを見ればわかることだ。
それでも容赦なく、岩倉先生は結奈のお尻を叩く。
バチン!バチンッ!バチンッ!!
時々結奈がもらす小さな声を聞き逃すことなく、結奈が「静かに」反省した分だけをカウンターで数えていく。
…バチンッ!バチン!バチン!
「はい、右50回叩きましたよ。」
泣くのに体力を奪われた結奈は、返事をする気力も失せていた。
今日のおしおきは特別に痛かった。
絶対に、絶対に、いつもとは何かが違っていた。
「…先生。」
「どうしたの、結奈。」
「やばいです、今日、ほんとに…………もう……死んじゃう……」
「大丈夫、大丈夫。」
真っ赤な右のお尻をポンポンと叩かれると、さっきまでひいていた痛みがまた蘇ってきた。
ちっとも大丈夫ではない。
「よーく反省したわね。特別に、これでおしまいにしましょう。」なんて言ってもらえないだろうかと期待する。
岩倉先生は結奈の頭を撫でて言った。
「さて、こちらも少し痛くしましょうね。」
岩倉先生は左のお尻に手を置いた。
結奈はもう一度「少し」でない悪夢に晒されるのだった。
バチン!バチンッ!バチン!!
バチン!バチンッ!バチンッッ!!!
声を出すまいと必死に我慢し、なんとか(結奈が数えたのが正しければ)59回で終えた。
「はい、左50回終わり。文法テストの対策をサボったのは、しっかり反省できた?」
「……サボってなんか…いません…!………ちょっと……忘れてた…だけで……」
「そう?」
岩倉先生はニヤリと笑った。
「私は完璧にしてね、って言ったのよ。ちょっと忘れてた、は完璧かしら?」
「………………。」
「サボったから、この結果、そうよね?」
「………はい。」
「よく、反省したようね。」
岩倉先生は、結奈に、長机の上でうつ伏せになるように指示をした。
ある程度の高さのある場所で、お尻を出してうつ伏せ……まるで見せ物のようで、誰にも見られていなくとも恥ずかしさを感じた。
加えて、岩倉先生は「言い訳のペナルティ」として、ザクザクとした雪を結奈のお尻に乗せた。
寒さ、叩かれた痛み、ザクザクの氷が刺さるような違和感、溶けていく氷の不快感は、再び結奈の涙を誘った。
「雪が溶けるまで、じっとしてなさい。」
岩倉先生は、勉強用にと英語の絵本を数冊、結奈に渡した。
結奈を1人残し、教材室を出ようとした岩倉先生は、思い出したようにくるりと振り返って言った。
「絵本で叩かれるの、キツいでしょう?」
結奈は手元にある絵本を視界に入れた途端、痛みや苦しみが繰り返されるような恐怖を感じた。