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第8話 お父様の一番弟子

「え、エリシェン・ル=リヴレでございます」


 案内された部屋に入ると、俺はその場で膝を屈めて頭を立っている位置より下げた。前世のコーツィみたいな感じだけど、腕はそのまま垂らす感じなのでちょっと違うか。部屋にいた人物――まだ若い、黒いローブを身にまとったいかにも魔女という感じの女性は、少し驚いたように目を丸くした。


「まぁ、まぁ! 本当に起きてるのね!」


「っ、わっ!」


 ――むぎゅ。


 突然、椅子を蹴り飛ばすように彼女が立ち上がると、そのまま俺に抱き着いてきた。あ、大きくて柔らかい……じゃなくて、苦しい! 苦しいって!


「ラクリューム師、いい加減にしてください」


「いいじゃないの、ラブラ嬢。あー、本当にお人形さんみたいに可愛くて、あったかいわ」


「礼儀くらい身につけてください」


「真理の探究の前では礼儀なんて不要よ不要。今はこのぷにぷにさを追究するために、もっともっと堪能するのが正解ね」


「貴女って人は……」


 なんだか俺の上の方でこの女の人とアリシェさんが盛り上がっているが、そろそろ俺の酸素貯蔵量が危ういので放してもらおう……まだそこまで力が入るわけではない腕を懸命に押してもがく。


「……ぷふぁ」


「あらあら。じゃあこっちね」


「ふぇ?」


 彼女は俺の身体を反転させると、今度は後ろから抱き上げてきた。


「ああー、お腹も太もももこんな感じなのねぇ……うーん……あっ、ふーん……なるほどなるほど」


「あ、あの」


「なぁに?」


「そろそろ放していただけますか?」


「うーん、そうねぇ……あと一ヶ所。……はい、そろそろいいかしら」


 俺が見上げながら彼女に問うと、少し待って今度はあっさりと解放された。アリシェさんはこめかみに親指を当てて溜息をついている。


「……この変態――もとい、変人が、お嬢様の教師となる予定のミスレア・クォーリー・ラクリューム師でございます」


「変態も変人も、あんまり変わってなくない、ラブラ嬢?」


「貴女は変態で十分です」


 アリシェさん、元に戻ってませんか? 頬が引きつるのを自覚しつつ、俺は先生になってくれるというラクリュームさんに相対した。


「ラクリューム先生」


「もう、ミスレアお姉ちゃんでいいのよー。なんならママって呼んでくれても――」


「どさくさに紛れて何を言ってるのですか!」


「――ちっ」


 今舌打ちしたよね、この人。


「さっさと面接してください。ほら早く」


「ラブラ嬢の私への扱い雑になってない?」


「雑にしてほしくなければ相応に対応していただきませんと」


 アリシェさんのこめかみに青筋が立ってるのが見えるけど、俺は何も見ていないことにしよう……。


「んんー、まぁ、そうねぇ……面接は要らないわ」


「えっ」


 今何と?


 手を頬に()てながら、ラクリュームさんは首を(かし)げる。何この面接で初手の質問で「もういいよ帰って」みたいなのは。


「がっかりしなくてもいいわ。合格よ合格。だって面白そうなんだもの」


「はぁ」


「うーん、この反応。ラブラ嬢、私のことあんまり教えてないでしょう?」


「教える前に押しかけて来たのは誰ですか」


「……コホン。改めて、魔術学院特任講師、魔術師のミスレアよ。貴女のお父様の一番弟子でもあるわ」


「押しかけてきて弟子を名乗っているだけの変態の間違いでは?」


「聞こえませーん」


 わざとらしく耳をふさぎながら、ラクリュームさんはアリシェさんの小言をひらひらと受け流していた。


「……というわけでエリシェンちゃん。来週から来るからね、弟子を連れて」


 弟子?


 彼女はそう言うと、俺の頭を一撫でして去っていった。


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