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第11話 お嬢様は学者様?

「アリシェさ……アリシェ、助かりました」


 寝室に戻ってきた俺は、開口一番お礼を言った。また危うく敬称をつけるところだったけど、何とか耐える。


「あの場におりましたので、お召し物を変えましょう。ですが――」


 扉を閉めたことを確認したアリシェさんは、なんというか呆れたというような驚いたというような顔で俺を見つめる。


「お嬢様――いいえ、イイノ様は以前、ごく普通の平民だったと仰っておりましたが、もしかして高名な魔術師でございましたか?」


「はい?」


 アリシェさんは何を言い出してるんだ?


「あ、いえ、魔法がない世界でございましたね……ということは学者様でしょうか」


「アリシェ、違います。ごく普通の平民の大学生――ここで言うと学院生です。ものが燃える仕組みなどは、俺――私の世界ではもっと小さい年齢で学ぶんです」


「学院生の時点でごく普通とは違うと思いますが……もっと小さい年齢であのラクリューム師(変態)の最新の研究成果に並ぶのですか……少し恐ろしい世界でございますね」


「あーなんと言いますか、こちらと違って……私のいた国では半分ほどがその学院生になってるようなものと言いますか――」


 どうも、前世の科学水準や教育水準をどう伝えたものかと悩む。巨人の肩の上にいるのが当たり前になっていると、その状態そのものを説明するのがここまで苦労するんだ……。俺は四苦八苦しながら、大学進学率とかそれ以前の高校で習うことなどを掻い摘んで説明する。


「……教育制度をお聞きしますと、さながら神話に登場するパレット・ル=ブロー(白の国)(この世界における理想郷の意)でございますね。(あまね)く教育を施すことが義務でございますか……こちらでやろうとするといくら費用が掛かるか想像もできません。人を育てることにそこまで熱心だったから、そこまで社会が発展したのでございますね」


「うーん……はい、一側面はそう、です」


 それを言い出すと封建制国家から中央集権国家への転換とか、『国民』意識の刷り込みとか、富国強兵政策とか、いろいろあるんだけど、そもそも国民という概念がないのでわかってもらうのは難しいと思う。


「ここまで違いがあるとなると、おそらくお嬢様が気を付けても、誤魔化すのは難しいかもしれません」


 アリシェさんが深刻そうな顔で唇を噛む。


「……いっそのこと、気づいたことは全て旦那様にお伝えしてしまった方が良いかもしれません」


「え、お……私のことバラすの!?」


「そうではありません。イイノ様ではなく、あくまでお嬢様として思いついたことをお伝えするのです」


 曰く、自分が思いついたこととして『お父様』に喋っておけば問題は起こらないし周りにも疑われない、とのことだった。


「『お父様』に不審がられないですか?」


「……旦那様がお嬢様を不審に思うことはないかと。むしろ聡明なお嬢様に喜ばれると思います」


「……それは、まぁ……」


 なんだろう、その姿が容易に想像できる。


「ではお嬢様。湯の準備はそろそろ整っている頃合いでございます。お召し物をお脱ぎください」


「う……はい、アリシェ」


 湯桶と手拭いを持ってきたアリシェさんに、俺はもう慣れた――慣れちゃダメな気はするが――ように、このひらひらの服を任せる。


「……ん? それほど汚れてはいませんね」


 アリシェさんが後ろの方で首を(かし)げているけど、俺は『お父様』に何を言おうかで頭がいっぱいだった。


「ズルしてるようで気が引けます……」


「お嬢様?」


「い、いえ、なんでもありません」


 別に俺が発見したものでもないものを、自分の発見だって言うのもな……。前世の小説とかであった、現代知識チートってやつは、いざ自分でやろうとするとものすごく心苦しい。


 心に引っかかりはあったものの、その日の夜のスイーツタイムで今日のことを話した際、『お父様』は俺の身体を抱き上げてぐるぐると回りながら、「うちの子天才可愛い!」とはしゃぎまくっていたため、疲れ切った俺は泥のように眠ることになった。



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