79話
「そんなに俺のSランク冒険者昇格を祝いたいって言うんだったら特別来てもいいぞ。ったく、しょうがない奴だな。俺の強さの秘密を探ろうったって無駄だぞ」
「すっごいうざいですね。やはり私は一人で帰ってもいいですか? いえ、帰らせて貰います」
突然の冷めきった表情に驚きが隠せないが、どうせ演技だ。俺から引き止めてもらおうとしてるだけだよな? 素直に行きたいって言うのが恥ずかしいだけでツンデレしてるはずだ。
「もう、シュウトお兄さんっ、アスリーさんが帰っちゃうじゃない。ほら、早く謝って」
まんまとアスリーの演技に騙されたネイスが俺に謝るよう促してくる。
「おい、俺が謝るのはおかしいだろ」
「細かいことを気にしてる場合じゃないの。早く謝らないとアスリーさんが本当に帰っちゃうよ」
何言ってんだよ、いやいやまさか本気なわけないだろ……っておい、ほんとに帰ろうとしてるじゃねぇか。
「ちょっと待てよアスリー。早まるなって。ほんとは行きたいんだろ?」
「うるさいですよ。私はシュウトにからかわれてまで参加しようなんて思いません。ネイスちゃんには悪いとは思いますがどうぞ、お二人で楽しんできてください」
目がガチだ。これは嘘をついて誘われ待ちをしてる奴の顔じゃない。本気で帰ろうとしている奴の顔だ。
俺がそんなにうざかったのか? あんまりそういうことを意識して言ったわけじゃないから俺としては微妙に困るんだけど……。
このままアスリーが帰ってしまうのは違う気がする。せっかくの祝いに水を刺されるようなもんだ。
俺が自分で縋りつくのは嫌なのでアスリーを引き止めるように、ネイスに目で合図を送る。
「私のことを見てる場合じゃないよ。困ったらすぐに人に頼ろうとするんだから、ダメだよ。自分でまいた種でしょ。何とかするのはシュウトお兄さんの仕事だよ」
どうやら俺は頼る相手を間違えたようだ。だが、一人しかいないからどうしてもネイスに頼るしか方法がないんだよ。
ちょっと目で合図を送っただけでガチ説教。何だよこれ。それに、ネイスだってクエストに行くときは俺に頼りっぱなしじゃねぇかよ。こういう時くらい頼って何が悪いんだ。
「それではまた……あ、今日の夜は不愉快なのでネイスちゃんだけ迎えに行きますね」
「待ってって。俺が悪かったよ。俺たちは、一緒にダンジョンをクリアした仲間なんだろ。祝勝会も含めて三人でぱあっと行こうぜ」
「アスリーさんごめんなさい。シュウトお兄さんはちょっと馬鹿なだけでそんな悪気はなかったはずなんです。どうか許してあげてください」
馬鹿とは何だとものすごくツッコみたいが、ここでそれをしてしまえば本当の馬鹿とアピールするようなもんだ。こらえろ。
「うーん、ネイスちゃんに頼まれては断れませんね。シュウトの奢りなので私も行くことにしましょうか」
「ありがとうアスリーさん。ほら、シュウトお兄さんもお礼を言って」
「ありがとな」
不本意だが、俺もお礼くらいは言える。何のお礼かいまいちわからないが、言っておくだけでこの場がおさまるというのなら致し方ないのだろう。もちろん納得はしていない。
「これで後はどこに行くかだね。アスリーさん、どこかおすすめってありますか?」
「そうですね。王都で一番高いお店といえば、レイスン亭ですかね。私も実際に行ったことはないのですが、何でも貴族でも簡単にいけるような金額ではないと聞きます。シュウトのおごりですのでせっかくですから行ってみましょう」
貴族でも軽々しくいけない店を俺は三人分払わないといけないのか? はは、一体いくら払わされるんだろうな。もしかすると、ドラゴンの討伐報酬だけじゃ足りないってことも考えられないか? まぁまぁ、そんな分けなぇよな。こっちは命がけのクエストで報酬を手に入れてるんだ。ただ一食食うだけで全部消えるなんて釣り合わないにもほどがある。
「凄いですね。まさかそんな料理が食べられる日が来るんて夢にも思いませんでしたよ。先にお礼を言っておくね、ありがとう。シュウトお兄さん!!」
これは先にお礼を言っておいてどんな状況になっても奢ってもらうって言う巧妙な罠なんじゃないか? そこまで考えてしまう俺はもしかしたら人間不信になってしまっているのかもしれないな。感情の起伏は消えかけているのに謎だな。
「少しランクを下げるのであれば、私もいったことのある場所を紹介できますよ」
「いえ、大丈夫です。昇格祝いで妥協してしまうと後々の活動に影響してきますから。だよね?」
「別に妥協しても俺は一向に構わないんだけど……有り金全部消えるってのは避けたいな」
「シュウトお兄さんも行きたいって言ってるので、アスリーさん案内お願いします」
「もう尻に敷かれているようなものですね。わかりました、ネイスちゃんに従いましょう」
最初からこうするつもりなら俺に意見なんて求める必要なかっただろ。はあ、どうせ俺の金で食うんだし、大量に食ってやるぜ。もう二度と行くことはないかもしれないような高級店だ。存分に楽しんでやるぞ。




