77話
「俺は置いて行かれるようなへまはしないからな。二人の気持ちは一生わかることはないぞ」
「どうしますか、アスリーさん。シュウトお兄さんはまったく反省してないようですが……」
「一発殴らせてもらうのなんてどうでしょうか?」
「やめておいた方がいいかもしれないです。シュウトお兄さんの防御力は規格外ですので、もう少しほかのことで仕返ししないと効果はないと思います」
俺に聞こえる距離で話し合うのやめてくれよ。
確かに俺を殴ったところで二人の手の方がダメージを負うのは間違いないだろうな。防護魔法を自分へ付与するまでもない。
「もういいだろ、そんなことよりも飯行こうぜ。俺のSランク冒険者昇格祝いだ。ぱぁっと行くしかないだろ」
俺は王都のおいしい店なんて知らないからここはアスリーに紹介してもらうのが無難だろう。せっかくだしうまいもん食べたいしな。ほんというと、王都どころかこの世界の店のことなんて一つも知らないんだけど……いや、ネイスを連れて行ったあのファミレスみたいな店はかなり行けてたな。
「どうしますか、アスリーさん。もうご飯のことを考えてますよ、やっぱり反省してません」
「やっぱり一発殴りましょうか。私が本気で強化魔法を付与して殴ればシュウトの防御も貫通できるかもしれません」
「でもアスリーさん。シュウトお兄さんはさっきの魔王軍の幹部のモンスターの攻撃を受けても何食わぬ顔をしていましたよ……」
「うぅ、私たちは一体どうすればいいのですか?」
物騒なことを考えるもんだ。何も強化魔法まで使って殴ろうなんて考えなくてもいいのにな。それなら俺だって防護魔法を自分に付与して下準備をさせてもらうことになっちまうぞ。
「もういいだろ。アスリーの場合は腕を治してやった分で余裕で相殺だろ。むしろ、アスリーの冒険者人生を救った恩人なんだぞ俺は。ここまで攻めるのはおかしいだろ」
「そっちについては本当に感謝していますよ」
「だったらいいじゃないか。もう怒るのはやめてくれ」
「シュウトも一回考えてみてください。例えば、命を救って貰った恩人からその直後にとても不愉快なことをされました。笑って許せますか?」
絶対に殴るな。命の恩人だろうが今は関係ない。行った行動の報いを受けさせなければならないな。
つまり、アスリーは現在このたとえ話みたいな状況だってことを言いたいんだな。確かに許せないかもしれない。
「どうですか? シュウトは心が広いから許せるのですか?」
「ノーコメントで。俺は黙秘権を行使する」
「何ですかそれは? ずるいですよ。しっかり答えてください」
ここで素直に答えてしまうの後々の展開で俺が不利になりそうだ。
アスリーは不満げな表情だが、俺も保身があるからな。何でも簡単に答えられるわけじゃない。
「そんなの許せないって認めてるようなもんだよ。ねぇ、シュウトお兄さん」
「俺は一言もそんなことは言ってないぞ。勝手に推測するのはやめろよ」
こざかしいことをしてくるな。
俺の最大の敵はアスリーじゃなく、ネイスだったのか。この状況で黙るのは認めているようなもんだとわかっているが、明言していないことが重要なんだ。知らんが。
「この話題はまた後で話しましょうか、アスリーさん。それよりも私たち今日王都に来たばかりで宿を用意してないんですよ。よかったらアスリーさんの家に泊めてもらえませんか?」
なんでそうなるんだよ。俺は瞬間移動で帰るつもりだったんだけど……。もしかして俺だけ帰れってことか? 女の子の家に男が軽々しく入っていけるもんじゃないもんな。それもアスリーは今日であったばかりだし。
「え? 私の家ですか?」
「はい!! アスリーさんは王都で活動しているので家もお持ちですよね?」
ネイスがアスリーにすり寄っている。まるでおねだりでもしているかのようだな。
「もちろん、ありますよ。私もSランク冒険者に昇格したときにそろそろマイホームを持ちたいなと思って一軒家を買っていますので」
「ああ、よかったです。最悪の場合は野宿することになるんじゃないかと思ってたんですよ」
「探せば空きのある宿くらいいくつもあると思うのだけれど……どうして私の家なのかしら?」
「単純に私が行ってみたいからです。ダメですか?」
でた!! ネイスの必殺上目遣いだ!! あれに俺も何度やられたことか。無念なり。
「ダメではありませんよ。奮発してかなり大きな家を買いましたので部屋はいくつも余ってます。でもシュウトも来るのですか?」
「いや、俺は瞬間移動で元の町に戻ることにする。俺が行っても迷惑だろ。ネイスだけ泊めてやってくれ」
「何言ってるのシュウトお兄さん。ダメだよ、それは許されないから。一緒に泊まるの」
何を言ってるんだは俺のセリフなんだが……そもそもアスリーが許可しないだろ。俺が一緒に行くメリットもないしな。
「一日くらいなら構いませんよ。ネイスちゃんともお話したいですし」
「おい、俺も一緒なんだぞ? 正気か?」
「どうしたのですか? 特に問題はありませんよ」
ちょっと無理してないか? まさかアスリーもネイスの上目遣いにやられてしまったパターンか。恐るべしネイス。




