29話
小気味いい音を発した俺のほほだったが、痛がったのはお姉さんだった。
「イッターーーーーい!! 何よこれ? なんでたたいた私の手がこんなに痛いの? おかしいわ、こんなことありえない!!」
一体どうしたって言うんだ? 俺はなんかお姉さんの気に触るようなことしたのか? 何も心当たりがなさ過ぎる。
あまりに理不尽な状況に腹が立つのだが、俺のほほを張った側であるお姉さんが痛がってうずくまっているのを見たらなんだかおかしくて気が晴れてきてしまった。
「大丈夫かよ。それでなんでいきなりぶったたいて来たのか教えてもらってもいいか?」
俺が問いかけると、涙目になっているお姉さんが上目遣いでこちらを見上げてきた。
なんが、これ、やばい。かわいい。いや落ち着け。こいつはいきなり暴力を振るってくるような危険な女なんだ。簡単にそんな感情を抱いたらダメだ。
「なんで私がこんな目に会ってるの? おかしいわよね? あなたの頬は何でできてるのよ」
「普通に肉だと思うが? 何をそんなに痛がっているのか俺からしたら謎なんだが」
「絶対に嘘よ。私がこのビンタで幾度となく人をぶっ飛ばしてきたことか、ぶっ飛ばないならまだしも私のほうがダメージを負うなんておかしいわ」
どういう理屈だよ。それにほかの奴にもこうやってビンタをくらわしてきたのか? なんて女だ。
「二人とも落ち着いてください。お姉さんはなんでシュウトお兄さんにビンタなんてしたんですか?」
「お姉さんか……いいわねその響き……はっ、いや私はただ貴方のような可愛い子をこんな恰好のまま連れ歩いているこの男に大して腹が立っただけよ。だから貴方は気にしないで」
ネイスをこの恰好のまま放置してのは金がなくてしょうがなかったからなんだよな。しかも、金が入ったら一番に服を買いに来ているってのに、詳しいことを何も知らないくせに、ビンタとはやるな。
「シュウトお兄さんはすごく優しくていい人なんですよ。路地裏で餓死寸前だった私にご飯を食べさせてくれたんです。そして、一緒に冒険者になってつい先ほど、クエストを終わらせて私の服を買うためにここまで来たんですよ」
「あら、そうだったのね。悪いわね。どうやら私の早とちりみたいだったようだわ」
「心がこもってないにもほどがあるだろ。もう少し、誠意を込めて謝罪しやがれ。それに俺はお客様だぞ。こんな対応していいのかよ」
「ここは私の店よ。私が誰にどんな対応をしようが私の勝手じゃない。どう? そうは思わない」
なんだこいつの傍若無人っぷりは、俺よりもぶっ飛んでないか? 今すぐ殺してやろうか?
俺にこんな態度を取ったことを地獄で後悔すればいいんだ。
「シュウトお兄さん何しようとしてるの? もしかして仕返し仕様としてるんじゃない? ダメだよ。お姉さんに手をあげたりしたら」
「まさか、俺がそんな奴に見えるか? ネイスの気のせいだって」
なんでバレてるんだ? いやいや、バレたところで関係ないはずだ。以前の俺ならネイスごと殺していたはず。いや、ネイスをここで殺してしますのは違うか。このくそ女、ネイスに免じて今回は殺さずにおいてやろう。
「お姉さん、私たちは服を買いに来たんです。予算2000ゴールドでいい服はありませんか?」
「もちろん。ネイスちゃんにピッタリな服がいっぱいあるわ。足りない分はこいつにつけておくから値段は気にしないでね」
そういうと、くそ女は服を見繕うために少し離れた。
なんだよ、俺につけておくって。もしかして足りない分は俺の借金にでもするつもりか? ここはサービスするところだろうが。やっぱり始末しておくしかないか。
「ごめんなさい。なんだかお姉さんシュウトお兄さんに払わせるみたいなこと言ってるけど予算オーバーだったらちゃんとお金が足りないっていうから。シュウトお兄さんに払わせたりしないよ」
ネイスのせいでもないのに申し訳なさそうに謝って来るのがなんとも愛らしい。
俺はこんな子をぼろ衣のような服のまま放置していたのかと思うと許せないな。ここは俺が借金してでも似合う服を買ってやろうじゃないか。
「これなんてどうかしら? 最近流行りのワンピースよ。絶対にネイスちゃんに似合うと思うわ。あっちに試着室があるから着てみて」
「わ、わかりました。でも、服が汚れちゃいますよ。大丈夫ですか?」
「そんなこと気にしなくていいの。全部こいつが払うんだから」
おい、待てよ。そうなったらネイスが試着した服は全部買う羽目になるじゃないか。一体いくらになるんだよ。
ネイスはお姉さんに誘導され試着室へと入った。
「着替えました。こんな感じですかね?」
カーテンを開けて、ネイスが顔を出す。
まだ、髪はぼさぼさのままなのだが、それが気にならない程に服が似合っている。控えめに言って超かわいい。
「ネイスちゃん最高よ!! こっちもいろいろあるからどんどん着てみて」
「え? はい。わかりました」
こうしてネイスはお姉さんの着せ替え人形となり実に10着程の服をかわるがわる着させられた。
最後に一言。どれも似合っていました。




