15話
「一番人気はやっぱり安定だな、でもわざわざ一緒のにしなくてもよかっただろ」
「私もそれが食べたかっただけだよ。今度来たら二番人気にするんだ。その次は三番人気、全部食べたらまた最初からだね」
「何回も来るかわからないけどな」
俺の言葉にこいつは何とも残念そうな表情を浮かべる。
そんな顔されても今回食い逃げする気満々だからな。次も来れるとは思えない。顔さえ覚えられなければ大丈夫か、それで何度も食い逃げしてやろう。恨むんならこの俺に失礼な態度を取ったあの店員を恨むんだな。俺は意外と根に持つタイプなんだ。
「あんまり悲しそうにするなよ。機会があれば連れてきてやるからさ。でも、本当に機会があればだからな。ここを目当てに来たりはしないぞ」
「ありがとう。それで十分だよ。この町に住んでいれば絶対にまた来ることもあるよね。実質絶対みたいなものだよ」
「言ってなかったっけ? 俺、別にこの町に住んでないぞ。てか、家すらないが。まあ、冒険者? だったか? それになればお金も稼げるし、心配することないだろ」
「嘘だよね!! 私を助けてくれるって言ったのに、そんな状況なの?」
あれ? 俺そんなことも言ってなかったかな。
俺はつい昨日この世界に転生してきたばかりなんだ、家もなければ金もない、そんなの当たり前のことじゃないか。こいつに説明しても意味ないだろうし、特に何をいう必要もないか。
「家ないよ俺。なので今日は野宿しようと思ってるんだが。ダメか?」
「うっ……私はいつも野宿してたようなものだけど、期待してたぶんの落差がきつい」
「まあ、今日を我慢すれば次からは立派な宿に止まれるんだ、気にするな。人生細かいことを気にしていてばかりだとつまらないだろ?」
なんか俺こいつをずっと連れて歩くみたいになってるんだが? あまりにも自然な流れで進んでいたので違和感すら覚えなかったが、俺はこの世界に暴れに来ただけだったはずだ。どうしてこんなガキの面倒を見ようとしているんだ? 理解に苦しむ。
「お待たせしました。こちらハンバーグランチです」
店員さんが料理を運んできてくれた。
まさか異世界でもハンバーグが食べられるとは思わなかったよな。一体何の肉で作っているのやら。似たような動物がこの世界にも生息していればいいのだが……まさか、モンスターの肉だったりしないよな? いやいや、こんな町中の飲食店でモンスターミンチのハンバーグなんて提供してないか。これがもっと、モンスターがあふれかえっている場所のさびれた定食屋的なところなら本気で不安になるところだったな。
「お兄さん、食べていい? 早く食べようよ。私食べるね、いただきます!!」
「そんなに焦るなよ。てか俺に確認した意味あるかそれ?」
目の前のハンバーグにガキは我慢が利かなかったのか俺が食べるよりも先にフォークに手を伸ばした。
ブスリと、ハンバーグを突き刺し、かじりついている。こりゃ、マナーも何もあったもんじゃないな。かくいう俺もナイフとフォークの使い方なんてわからないが。大体日本人は黙って箸って決まってるだろうが。
「やばいよ、お兄さん。こんなおいしいもの食べたの生まれて初めてだよ。きっと私は今日この時のために今までつらい思いをしても我慢して生きてきたんだと思うよ。そうに違いない」
「大げさだな。うわ、うまっ」
こいつにマナーがどうちゃら心の中で言っていた俺だったが、箸がなかったのでまったく同じ食べ方でハンバーグにかじりついた。
ガチで美味いぞこのハンバーグ。今まで食った中でも最高かもしれないな。しょうがない、この店は食い逃げだけで済ませてやろう。まずかったりしたら、すぐに消滅させてやるところだったんだがな。
「また来ようね。ハンバーグをもう一回食べていけど次はちゃんと二番人気にするから。ああ、今から楽しみだね」
「おお、俺も気にいったぜ。しょうがないから、また来てやるとするか」
ハンバーグランチを平らげた俺たちは、のんびりと休憩していた。
あまりの美味さにガッツきすぎてすぐに食べ終わってしまったのが少し失敗だったな。もっと味わって食べるべきだった。
「お兄さん。今日はこれからどうするの? 家ないんでしょ? 私もスラムに戻っても家なんてないからほんとに野宿するの?」
「そういっただろ。でも案外時間がありそうだな。ちょっと冒険者になって稼ぐ暇あるか? それなら、そうしてもいいけどな」
「まだ、お昼だから、全然大丈夫だよ。それじゃ、決まりだね。私は正直役に立たないと思うけど、お兄さんの力には期待してるから。頑張ってよ」
なんだか、もうすっかり仲間みたいになってしまっている。こいつの命なんぞ俺の気分次第で今すぐに消えるかもしれないというのに、なんだろうな。俺も昨日ストレス発散したばかりで丸くなってるんだろうか? まあ、特にムカつきはしないし、別に構わないかな。
「それじゃ、行くか。冒険者ってなんか資格でも取ればいいのか? そこのところ全然わからないんだが」
「違うよ、冒険者って言うのは、冒険者ギルドで冒険者登録をした人のことを指すの。だから、まずは冒険者ギルドに行って登録しなくちゃ始まらないよ」
「へー、なら冒険者ギルドとやらに向かおうか。で? 冒険者ギルドってどこの町にでもあるのか?」
「ここにはあるけど、ほかはちょっとわからないよ。でも大抵の町にはあるって聞いたことあるような気が……でもなんでそんなこと聞くの?」
もちろん、食い逃げするからだろ。この町に瞬間移動して後で見るかって騒ぎになるのも面倒だ。思い切って別の町に逃げてしまった方が手っ取り早い。せっかくだし、会計するところまで言って目の前で消えてやろう。




