11話
いざ殺してやろうかとガキを見ると、俺が手を下さずとも今にも死んでいしまいそうな程に衰弱している。このガキにわざわざ俺のスーパー最強能力を使うのはもったいないんじゃないか? いくら何でもオーバーキルすぎるというか……。
「お兄さん固まっちゃってどうしたんですか? 私のことを助けてくれるって言ったじゃないですか?」
助けると言った覚えはないんだが、殺して空腹を感じなくしてやるという意味だ。
しかし、ガキは目をキラキラさせて俺の方をじっと見てくる。期待のまなざしというやつだ。なんだかんだ、この世界に来てから初めて向けられるものだな。この世界に来て俺を見る視線はすべて恐怖か絶望だった。なんか不思議な気分になる。
「俺は助けるなんて一言も言ってないだろうが、勝手に勘違いするな」
「ううん、言ったよ!! 私がおなかが減らないようにしてくれるって、それって私にご飯を食べさせてくれるってことですよね。好きなだけ食べてもいいんですよね?」
何と図々しいガキだ。少し不安げな表情に変化しているが、まだ期待が目に残っている。なぜ俺がこんなガキに飯を食わせてやらなくちゃ行けないんだ。俺自身まだ飯を食ってないってのに。まあ、俺は腹が減らないから食う必要がないだけなんだが。
「いいや、違うんだよな。俺はお前を殺してやろうって意味で言ったんだ。どうだ? 早く逃げないとここで死ぬことになるぞ」
「え? ……そうだったんですか……それじゃもういいや。私を殺して。できるだけ痛くないようにしてくれるとうれしいな」
急に表情が絶望の色に染まり、片言のように小さい声で俺に殺してくれとお願いしてきた。
なんだこいつ? 死にたいってのかよ? 死ぬのが怖くないのか? 生きたくないのか?
「おいおい、どうしたんだ? 殺してくれなんて正気の沙汰じゃないぞ。ここは死にたくないって泣き叫ぶところだろうが。せっかくの俺の楽しみを奪うんじゃねぇよ」
「私なんてここでご飯にありつけなかったらどうせ死ぬんだよ。それに生きていても何一つ楽しいことなんてなかった。空腹に耐え、食料を盗み、バレれば追い回される。今まで生きてこれたのもきっと奇跡なんだ。もうこれ以上頑張って生きるなんて無理だよ」
なんともかわいそうな人生を送って来たんだな。俺の前世も不幸だ不幸だとは思っていたが、比じゃないな。まあ、今の俺からしてみれば、何も感じないので特に思うこともない。大変だったんだなってくらいだな。
でも自分から殺してくれっていうような奴を殺すなんて真似をしていては俺の株が下がるってもんだ。どうしたもんだろうか? このガキはここで殺さずとも俺がほたっていけばすぐに死んでしまうだろう。俺の前に現れた奴が俺以外の要因で死ぬなんて癪だな。飯にでも連れて行って希望をもったところで殺してやろうか? より強い絶望を感じるだろうしそれがいいな。また、何か言われればそれをかなえてやって殺すことにしよう。
「気が変わった。自分から殺してくださいなんて言う奴を殺してやるのは何か違う気がする。お前の言うことは聞きたくない」
「それじゃ、ここで見殺しにしていくんだね。最後に人と話せただけでもよかったのかな……」
「まあ、最後まで話を聞けよ。しょうがないから、俺がお前を飯に連れて行ってやるよ。俺が俺のためにするんだ、文句は聞かない」
するとガキは信じられないものを見るような視線で俺のことを見てきた。
なんだ何がおかしいんだよ。最初に飯に連れて行けって言ったのはお前だろうが。
「今度は嘘じゃない? 本当に助けてくれるの?」
「ああ、そう言ったじゃないか。二度も言わせるなよ。俺は気が短いんだ、気をつけろよ。あと、兄弟とかはいないだろうな? 俺はお前ひとりの面倒しか見る気はないぞ」
「うん、兄弟もいないよ。でも、スラム街には私よりも小さい子たちがいっぱいいるけど……」
「そりゃ無理だ。俺だって金なんて全然もってない。お前は運がよかったんだ。そう割り切れ。俺に会ってすぐに殺されずに済んでいるだけでもとてつもない幸運なんだぞ。そこのところも理解してくれよな」
スラム街をすべて救うなんてことは俺にはできない。ていうかする気もない。どうせ、この世界はすべて俺が壊しつくしてやるんだからな。でも、壊しつくしてなんの意味があるのだろうか? 前世での鬱憤を晴らすためか? いや、そんなものとうの昔に消えてしまっている感情だ。今の俺は何も感じていない。鬱憤どころか、罪悪感、倫理観すべてにおいてネジが外れてしまっているとしか思えないほどになんでもできてしまう。それも一瞬すら迷うこともなくだ。これは異常なんだろうな。どうせ、何も感じないからわからないんだが。でも誰か俺が暴れまわる姿を見てほしいって気は少しするな。証人って言うか何と言うか。
「ありがとう。殺されても別に構わないけど、助けてくれて。これで一週間くらいは生き延びれると思うよ」
「なんで一週間なんだ? そんな飯を食った途端に俺がお前を殺すとでも思ってるのか?」
「え? 違うよ、ここでおなか一杯ご飯が食べられても一週間後にはまた栄養が足りずに今の状態に戻っちゃうからね」
俺が助けるのが一回きりだと思ってるってことか。まあ、飯を食って幸福感を覚えているところで殺してやってもいいが、それではまだ甘いだろう。もっと、生きていたいと思わせてからじゃないとわざわざ助ける意味がない。
「心配するな。俺が飽きるまではお前の面倒見てやるよ」
「ほんとに? ……ありがとう!!」
初めてこの世界にきていいことをした気がするな。案外お礼を言われるっていうのも悪く無いかもしれないな。




