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前途昏昏

 途方に暮れた一夜が過ぎた。


 クレメンスが役に立たない状態だったためかクレメンティーネがアレコレと差配してクレメンスの配下たちは各々の仕事をして夕方には引き上げていったが、自称嫁のクレメンティーネはそのままクレメンスのアパルトメント(邸宅)にそのまま居座っている。


 ある程度溜め込んでいた資金が消失してしまったことでクレメンスは自身の船団を維持することに危機感を覚えていた。というのも輸送用大型ガレオンはその積載量に比例して運行コストが非常に高いのだ。基本的には新大陸やインドで付加価値の高い商品を買い付けて売り捌くことで維持出来る代物なのである。


 ――困った。


 クレメンスを悩ますのは資金繰りだけではなかった。


 ――海図もないんじゃ外海に出られない。


 資金そのものよりもむしろ海図がないことの方がより深刻であったと言えるだろう。海図がなければ航海そのものが成り立たないからだ。


 ――今ここにある海図は地中海のそれくらいなものだ。これじゃガレオンなんて宝の持ち腐れだ。


 実際にAge of Exploration Onlineのゲーム中でも地中海でガレオンの運用をすると色々と不都合が多かった。船体が大きい分だけ船足は遅い。また風向きなどを考えてもキャラベルやジーベックが最良だと言える。


 そこまで考えてクレメンス一人で考えるには情報が不足していることがわかった。クレメンスは自身が把握しているのは結局自分自身とそれに付属する情報程度だと気付いたのだ。


 ――いや、外海に出るとか以前に相場も既知のものが当てになるかわからんな。ここは慎重に対処しないと。


 ソロプレイで商会(クラン)に入っていない彼にとって、唯一信用出来る情報源はノンプレイヤーキャラ(NPC)であるはず(・・)のクレメンティーネなどの自分が雇用している存在だろう。


 いつものようにコントロールパネルから彼女を呼び出そうとして失敗した。


 ――そうか、ステータスがマスクデータ化したのと同じで伝令・呼び出しコマンドも使えないんだな。これは不便だけれど呼びに出向く必要がありそうだ。そうなるとフレンドリストも機能しているか怪しいな。


「おーいクレメンティーネ、どこにいる?」


 アパルトメント(邸宅)に居着いているはずのクレメンティーネを呼び出すのにそこまで苦労はしないと考えていた。このアパルトメント(邸宅)は階段付吹き抜けのエントランスがあるため、三階に居ようが一階に居ようが関係なく多少加減した大声で呼べば気付く。


「あら、旦那様、何か御用かしら?」


 少しして一階の厨房からエプロン姿のクレメンティーネが顔を出してきた。案の定、我が物顔で居座っているようだ。


「食事の用意をしていたなら後でいいのだが・・・・・・」


「一段落ついているので大丈夫ですわよ、すぐに参りますからお部屋でお待ちくださいな」


 そう言いながら階段を上がってくる。彼女の言葉に従って執務室へ踵を返すが、ソファに腰をかける前に彼女は執務室へノックをしてきた。


「入ってくれ」


 ドアを開けて彼女を招き入れソファに促す。


「他の方ではなく、私を態々呼ばれたのはどういったことでしょう?」


 クレメンティーネは興味深そうに目を輝かせながら尋ねつつソファに腰をかける。


「町の様子に変化はなかった?」


「いつもとそれほど変わらないと思いますけれど――そうそうなんでも幽霊船が出たとか」


 ――幽霊船だと? どういうことだ?


 クレメンティーネの言葉にクレメンスの眉がピクッと動く。それを見逃すクレメンティーネではなかった。


「ええ、なんでも一ヶ月ほど前にビスケー湾で幽霊船が出たとか。海賊が航海中の船を襲ったときに一人見せしめに殺害したら泡と消えたとか、不気味になった海賊が他の航海者を皆殺しにしたけれどそれもまた泡と消えたそうですわ」


「それは本当か?」


「ええ、その海賊の一味が気味悪がって足を洗って港の荷運びをしているそうね。その元海賊が酒場で話していたのが広まっていると聞いたわ」


 クレメンティーネの話にクレメンスは絶句する他なかった。その話が本当なら・・・・・・。


「クレメンティーネ、その話をもっと詳しく聞くことは出来るかな?」


「その元海賊の荷運びから直接聞いたらどうかしら? 私が知っているのはそこまでだから」


「わかった、ユルゲンに伝えて連れてきて貰おうか、それと、現在の街の各種相場を調べてきて貰えないかな。こっちはオスヴァルトに任せてくれたら良いから」


 クレメンスは指示を伝えればクレメンティーネがすぐに動くと考えていたが、どうも違うようだ。


「旦那様」


「前から思っていたんだが、その旦那様ってどっちの意味だい?」


 クレメンティーネが何か言おうとするのを遮って話を変えるべく尋ねる。


「さぁ、どっちの意味でしょうね?」


 極上の笑み、それも悪戯心を満載した感じで返事をするクレメンティーネであった。


 ――それって御当主という意味ではなく、夫という意味の方じゃ・・・・・・。

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