そこに広がる現実
多くの航海者たちは海に陸地にそして各国の母港において覚醒した。だが、多くの航海者は不幸にも海賊や山賊と言ったNPCに混乱の中で襲われていったのである。
幸運な航海者はたまたま寄港していたことで難を逃れた者たちだったが、彼らも容易ならざる事態に恐慌状態に陥る者が多かった。低レベル航海者は資金に余裕がなく、そして装備もそれほど多くないこともあってその多くが路頭に迷うことになる。
資産に余裕があるものの多くはアパルトメントを保有していることもあり、当面は自宅で閉じこもることが出来たが、それだとて、いつまでも保つものではないことは彼ら自身がよく知っていた。
総じて航海者には等しく受難の時が訪れていたのだ。
「Age of Exploration Online」は大航海時代の世界観を忠実に再現したものであり、自由度が高く、航海者たちは商会に所属したりソロで船団を組んで冒険や交易にいそしんでいたのである。
スタート地点として選べるのは以下の通りだ。
イスパニア:セビリア
ポルトガル:リスボン
フランス:ルアーブル/マルセイユ
イングランド:ロンドン
神聖ローマ帝国:ハンブルク/トリエステ
ヴェネツィア:ヴェネツィア
オスマン=トルコ:イスタンブール
スウェーデン:ストックホルム
中でも人気があったのはイングランドとポルトガルであった。多くの航海者がリスボンに集まり多くの富がここを拠点に欧州各地へ流れていった。
意外なことだが、リスボンと同じく好立地であるはずのセビリアを抱えるイスパニアはそれほど人気が集まらなかった。だが、初期国土が広いイスパニアは国内の各港だけでも十分に利益が出せることから生産系プレイヤーが集まる傾向にあったのだ。特にイスパニアには特産品設定されているマスケット銃が高値で売れることもあり、鍛冶職にとっては鉄板とも言われるほど人気がある。だが、その利点を妨害する存在がすぐ近くに存在していたのだ。
マグレブ地域を根城とするアルジェ海賊の縄張りに近接しているのである。また、カリブ海賊との関係もあり、このこともあって初心者にとってはイスパニアは不人気であるのだが、鍛冶職にとっては自分で生産した大砲をガン積みした船団で討伐しているともありそれほどの脅威ではなかったのだ。いや、逆に言えば、イスパニア政府から発布される討伐クエストに人気があり比較的上級者が集いやすい傾向にあった。
そして、上級者が集まりやすい傾向のもう一つの理由は、中南米の金銀を牛耳っていると言うことである。これによって大きな富を得ることが出来るのだ。ただし、カリブ海賊と対峙することになるが。
リスボンを抱える大人気のポルトガルは、国土が少ないこともあり、アフリカ方面へ出掛けるクエストが多く、その課程で西部アフリカ内陸の探索など、冒険職に人気があった。また、初心者向けのチュートリアルとしてエンリケ航海王子の設立したサグレスを抱えていることもあり、初心者が多く居るのもその理由である。基本的にはポルトガル政府は冒険クエストに力を入れていることもあって冒険者が商売っ気を出さずに冒険に出掛けることが出来るというのが大きな魅力であるようだ。
ただし、インド洋方面における交易による利益は上納金によって吸い取られる。特にゴアで手に入る胡椒の利益は大きい代わりに半分を納めないといけないのだ。こういった事情もあって商人たちには不人気でもあったのだ。
その点イングランドは中級者向けとも言えるものでバランスが取れている。イベント展開でイスパニアと険悪になるというものがデメリットであるが、それも海戦に慣れている航海者にとってはイベントにおける海戦はたいしたものではない。ただ、連戦が続くため、資金力がないと貧乏まっしぐらという罠が仕掛けられている。
また、中南米を抑えているイスパニアやアフリカを抑えているポルトガルと違って、足場が築けている地域がないこともあって北米という新天地を巡ってフランスと競合する関係にある。だが、鍛冶職にとっては自国領土内で資源調達が容易であることもあってイスパニアと同じく生産系プレイヤーにとっては都合が良い。
フランスはオスマン=トルコと関係が良いこともあって東地中海に影響力を発揮しやすい。また、オスマン=トルコと関係が良いことのもう一つのメリットとしてアルジェ海賊の縄張りでも海賊被害が出ないことだ。オスマン=トルコに臣従しているアルジェ海賊と敵対関係にない分、地中海での交易や冒険に大きなアドバンテージがある。
だが、地中海では圧倒的に優位に立てるが、逆に他地域では不利を被る。北米地域ではイングランドと競合することになり、西アフリカではポルトガルと競合するのだ。こういった事情もあってフランスはメリットがイスパニアやポルトガル、イングランドに比べて少ない。そのために不人気である。
他に神聖ローマ帝国やスウェーデン、ヴェネツィア、オスマン=トルコなどがあるが、これらはフランス以上に条件が厳しいこともあって殆どネタと化している。だが、神聖ローマ帝国の場合、航海者は皇帝選挙に関与出来ることもあって、その結果によってはボーナス効果があることから上級者の中で再評価されつつある。そしてオスマン=トルコの場合はカイロ~スエズ、ベイルート~バスラの地上ルートが使えることから大西洋を経由しなくてもインド洋へ出ることが出来るショートカットボーナスがあるのだ。
だが、大転移によってそれらのメリットデメリットはその価値が完全に崩壊してしまったのだ。
彼らが直面したのは海図が喪失しているということだった。ゲーム時代の鉄板の黒字交易ルートや冒険ルートは完全に消失し、文字通り、資産の有無は兎も角としてゼロスタートせざるを得なくなったのだ。
一歩港外に出れば、NPCはカモだとばかりに襲ってくる。それは海軍の艦艇であっても例外ではなかった。また、港の中であっても同様だった。相場を理解していなければ高値で交易品を掴まされ大赤字を出すことになったのだ。
海図を失い、相場を把握出来なくなった航海者は望むと望まざると運命に立ち向かうしかなかったのだ。