王は言及される
神父さんに呼ばれたので孤児院長室の前にいる。
さて、入っていいのだろうか?
前世では目上の人の部屋に入るにはいろいろと作法があったからな。
さてどうするのが正解か・・・
そう思い孤児院長室の前をグルグル回っていると入ってこれないのを察したのか誤字院長、もとい神父さんが声をかけてくれた。
「入るうのじゃ。」
いやー声をかけてくれてよかった。
そう思いながら部屋に入る。
孤児院長室は思っていた通り必要最低限の物しかない。
流石、厳しい神父さんである。
まあでも今はそんなことに感心している暇はない。
不味い、恐らく神父さんは魔法がかなりの練度で使える。
そうでもしなければ発動前の魔法の波長に気が付いて止めに来ることなんてできやしない。
それに、足運びもうまい。
剣か斧か槍かはわからないが武術もできる。
いま改めて神父さんの顔を見るが顔の線がいっぱいだ。
さぞ色鮮やかな人生を送ってきたことだろう。
その神父さんは重ぐるしく口を開いた。
「あの商人にものをいう覚悟があっても、この老い先短い老人のいる部屋に入るのには勇気が足りなかったようじゃのぉ。さて、君を呼んだのには二つ理由がある。一つはあそこで何があったか。二つは・・・分かっているよのぉ。」
「はい。」
そう答えると問題ないという顔をした。
だが、この老人がただの老い先短い老人とは思っていない。
その思いは表には出していない。はずである。
無礼は・・・ないことを祈ろう。
「では、さっきあそこであったことを説明してくれるかのぉ?」
来ると思ったがここまで単刀直入に聞くか。
宮廷貴族とは大違いだ。
あいつらはどうでもいいことを長々と話し、その後に誇張して本題をまた長々と話すクソッタレだからな。
まあ、だからこの神父さんは信頼できる。
「分かりました。要約したものでよいですか?
「構わん。」
「では言わせていただきます。あそこであったことは、バスターという商人が息子が亡くなったので跡取りの代わりをこの孤児院の頭のいい子にやらせるという無茶な案をあのシスターが承認して、僕が連れてこられたというものです。しかし、シスターとバスターという方の話はかなりちぐはぐでした。寒いのに最近熱いなどとも言っていたことから暗号会話のようなところも感じました。それがすべてです。」
自分で言ってるがかなり阿保っぽい話だったな。
そもそも、自分の息子が死んだらもっと悲しむのが普通だろ。
おかしいのはそこだ。
あいつのいい方はさも当たり前のようなことだ。
その上での暗号会話だ。
怪しさは満点である。
神父さんは頭の痛そうな顔をしている。
まあそりゃそうだよな。
「あいつらは・・・。まあいい。もう来ないだろうし、来させはせんからのぉ。」
あの商人について何か知っているようだった。
だが、租俺を知ったことで意味はない。
かすかだがこの部屋に再び緊張が走る。
「まあ、奴らはあれでよい。わしが聞きたいことはあのことについてだ。言っておくがごまかしてはくれるんじゃないことを望んでおる。話して、くれるかのぉ?」
その時、場の空気が変わった。
まるでだが、窮地に立たされているみたいだ。神父さんの圧力はそれほどまでに強い。
間違いなくただものではない。
さっきの魔法を見破る点からも察せれるが、今一度魔法の感知能力はまだない身だがそれでもなを伝わってくるこの圧力。
恐ろしい・・・・か。
ここに来て初めて味わった恐怖。
それはあまりにも強大だ。
「神父様もごそんじかと思いますが確かに魔法を使おうとしていました。」
「やはりか・・・。」
数秒間の沈黙に部屋は包まれる。
重ぐるしく、強い沈黙に。
それを破ったのはアリオスだった。
「なぜ、発動段階以前の私の魔法に気が付いたのですか?あそこまできずくにはかなりできる魔法使いとしての練度が必要かと思うのですが?」
そう、それが最も大きな疑問だ。
そもそもこんなちんけな孤児院にあんな魔導士がいていいはずがない。
普通の感性をしていれば冒険者になるか魔法師団に入るかはしている。
しかしこの老人はそんなことしていない。
不思議でたまらなかった。
「そうかそうか、君はあそこまでできる魔導士がなんでこんな飯もまずいちんけな孤児院にいるのかと思っているのじゃろ?」
「ええ。まあでも、ご飯に関しては恵んでいただいている身なので文句は言えませんが。」
「そうかい。わしものぉ、もともとはこんな孤児院に骨を埋めるつもりはなかったしそもそも就職先なんて魔法師団一択だったよ。昔のぉ」
心なしか神父さんは遠い目をしているようだ。
「一つ聞いてくれんか?老人の昔話を?」
「わかりました。」
「では話させていただくとするかの。このしがない老人の過去を。」