王は生まれ変わった
目が覚める。
私は敵将に討たれたのではなかったか?
尋常なる決闘ですさまじい剣技の前に敗れ首を切られたと思うたのだが。
寝たままあたりを見渡す。
質素な部屋。
言い方は悪いが何かの建物に無理やり素人が増築したような部屋だ。
戦場内、ではなさそうだ。
悲鳴も、剣の交じり合う音も聞こえない。
その上、私の近くにいるのは子供だ。
本当に、ここは、どこなんだろうか?
立ち上がって確認しようと思うと階段を駆け上がる音が聞こえてくる。
その音から察するにこの部屋に向かっている。
その足運びは素人、とても兵士とは思えない。
バッと、ドアが開かれる。
「皆さん、朝のお祈りの時間ですよ。お祈りしなければ、朝ごはんは抜きですからね。急ぎなさい。」
いきなりドアを開けてきたと思えば見知らぬおばさん。いや、おばあさん。
一見したらしわが少ないがなるほど見事に化粧で消している。
水をかけたくなる私は鬼畜だろうか?
そんなことはいいとして、お祈り?
何を言ってる?そもそも私は無神論者であるし、その上飯をお祈りなしでは渡さんなどとんだ横柄な態度だ。国際法違反である。
「国際法第32条戦争中はいかに敵兵であれど捕虜の食事を抜いてはならず」というものがあるというのに。
それに無理やり行われる改宗は法違反だ。
捕虜は大事に扱え。
たとえ後から殺すにしても。
そう、抗議しようとした。
だが、ベットから立ち上がって大いなる異変に気付く。
あれ?
重心がおかしい。
よろついてしまう。
そして、自身を見る。
手足がちじんでいる。
へ?
これはどうなっているんだ?
いや、状況を整理しよう。
状況はこうだったはずだ。
敵兵に討たれたと、思う。
かなり感覚がリアルだった。
まさか夢でしたなんてことはないだろう。というほどだ。
そして目が覚めた。
体が縮んでいるうえに古傷の一つも見当たらない。
それに私は首を切られたはずだ。
こりゃ、どういうことだ?
いや、心当たりはある。最近、王都の中で若者を中心としてはやっていた転生というやつか?
私も読んでみたがあそこまでのご都合はないだろうと思ったのを覚えている。
だからこそ思う。そんなわけないと。
そうだ、名前を聞いてみりゃわかる。
私の顔は特徴的だったからな。
目が片方片方違っていたのもある。
たとえ、小さくなっていてもわかるはずだ。
そう思い近くの子供に名前を聞く。
「私の名前はなんだ?」
そう聞くと子供は不思議そうな顔をしていった。
「え?アリオスだよね?大丈夫?昨日頭も打ってたしちょっと記憶があいまいなの?」
「あ、いや。大丈夫だ。何も問題ない。」
大ありだぁぁぁぁぁ。
生まれ変わっていた。
まさか真面目にとは・・・・
発狂したいのは抑えて一度偵察しよう。
これが罠とは限らんし。
それに、朝飯も食べたいしお祈りとやらに行くか。
残念なことに私の転生?はご都合がよいわけではなさそうだ。
お祈りの部屋に行ったがそこまでの道のりは非常に寒かった。
寒くて寒くて凍えそうだ。
何でも今日は暦の上でデセンダだそうだ。
デセンダが何かわからなかったがどうやら前世で言う12月だそうだ。
それならここまで冷えるのも納得である。
しかもここはどうやら孤児院。
入れてもらってるだけ文句は言えない。
ただの孤児院ならよかったがここは教会の運営する孤児院。
お祈りが欠かせないというところがいやらしい。
そんな風に思って過ごしていると朝飯も終わった。
中々に味のない悲しい食事だった。
言わせてもらおう。
兵站のほうがましだぞ?
あ、別に王だから特別な兵站だったとかいうわけでない。
自慢ではないが、戦時中は身分に関係なく平等という考え方を民に浸透させていたからな。
王が破るわけにはいかない。
それにそこまで不味くはなかった。
だが、言っては悪いがこの飯は段違いに不味い。
恵んでもらっているため文句を言えないのがつらいところではあるが。
まあ、我慢しか道がないのが現実だろう。
さてと悪いところを上げてしまったがいいところもあるにはある。
この孤児院は午前中は主に読み書きを教えてくれる。
まあでも、この体の真なる持ち主はしっかり勉強していたようでこの5歳にしては珍しく読み書きオールマスターしているようだ。
なので、私は午前中の授業は免除だそうだ。
やったぁぁぁぁ。
私がこれほど喜んでいるのにも訳がある。
この孤児院、どうやらかなりいいところの宗教が元なのか図書館までついている。それも蔵書は500冊。
まあ、少なく聞こえるが事情は本を読んでわかった。
この世界では印刷技術がまだ発展していない。
前世ではそれなりで新聞の発行くらいは余裕でできた。
しかしこの世界はそれすらもまだである。
すべて手書き。
写し本でさえかなりの値を張る。
つらいねぇ。
まあ、そんな苦労があることを知ってはいるけど経験したことはないのであまり実感がわかないところである。
そう思いながら本棚の埃を払い目的の本を探す。
そろそろあってもおかしくはないのだがどこにあるのだろう?
五分くらいさまよった。
「あった。」
お目当ての本は確かにあった。
だが取れない。
本棚の上のほうにあって取れない。
せっかく求めた知識をここであきらめるのか?
いや諦めない。
と格闘するも10分・・・・
取れない。
そう思ってやっと周りに目を向けると図書室にはある移動式階段を見つけた。
視野が狭いなんて思われるかもしれないがこれにも訳がある。
埃をたくさんかぶっていたからだ。
だから仕方ないのだ。
まあでも、意地を張っても時間は戻りはしない。
移動式階段を利用すると1分足らずで本をとるのに成功した。
便利っていいな。
さて、お目当ての本も取れた。
これは魔法の本。
どうやらこの世界、おとぎ話のように魔法が実在するそうだ。
いやはや、素晴らしい。
すぐに訓練をしたいところではあるがまずは魔法属性の適正を調べる必要がある。
それには方法がある。そうだ。
手順はこうだ。
水晶に手をかざす。そうして手から水晶に力を送るイメージを持つ そうすると魔力なしでない限り水晶が光る。魔力なしはほぼいないそうだ。そうして、光の色で属性を判断する
と、いったものだ。
水晶なんてあるのか?と思ったが図書室中にあった。
何でもあるなこの図書館。
よし、本の通りにやってみるか。
手をかざす。
イメージを行う。
すると、本の通りに光りだした。
現れた色は二色?
あれ?一色のはずだが・・・
疑問に思い本を読み進める。
するとこんな記述があった。
『魔術を扱うものには稀に二つ以上の属性を行使する者もいる。そういうものは水晶が二色以上に光る。別に異常事態というわけでもない。』
と。
よ、よかった。
危険と思ってた自分としては救われた気分ではある。
そうかそうか、私は二属性持っているのか。
いいこと聞いた。
さて、光った色で属性を調べるか。
そう思いページをめくる。それにしても分厚いな。
えーと黄色と銀色は・・・
あった。
えーと、黄色は雷!
属性に関する記述を見たところかなり応用が利くらしい。
素晴らしいな。
しかし、銀色の魔法属性については全く記述がない。
なぜ?
まあ、迷っても仕方はない。
まずは雷を鍛えるか。
そう思い外を見る。
日は頭の上まで昇っていた。
マズイ、昼飯に間に合わない!
そう思い幼いながらも全力疾走して食堂に急いだ。
ギリギリで文句は言われたが昼飯を食べることはできた。
腹が満たされればそれでいいか。
食事に関してはあきらめの極致に達していた。