ジョードプルにてー城塞からの眺め
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・紗咲耶eyes
~弦、どうしたんじゃ~
我は、弦の元に戻った。
息を吸い込むと気力が満ち戻ってくる。
少し、離れすぎていたらしい。
弦達は武器の展示室にいた。
刀剣等の武具や鎧、銃火器が展示されている。
「サヤ、これだろう?見たかったのは!」
弦が鈴に不自然に感じられない程度にささやく。
そこには、あったのは犬の形をした大砲である。
~おお!これは聖典の通りではないか~
展示のガラスをすり抜け、我は大砲に触れる。
~何だか間抜けな顔をした犬だな。うむ、うむ、聖典でも間抜けな感じだったぞ~
我が大砲を撫でているとガラスの向こうで鈴が弦と話していた。
「これは?変な大砲。」
「海賊のマンガに敵として犬の大砲が出てくるんだ。鈴さん、見たことない?」
「ああ、藤さんが聖地だって言ってたね。なるほど。アニメで見たことないわけじゃないけどそこまで覚えてないなぁ。」
さて、どうしたものか。
我は、弦に写真を撮って欲しいのである。
当然だが、現実のカメラだと我は映らない。
我がイメージし具現化したカメラで撮ってもらう必要がある。
ただし鈴には、我も我が具現化したカメラも見えない。
鈴には弦の行動が怪しい物に見えてしまうだろう。、
だが、折角、インドまで来たのだ。
長鼻コスもしているのだ。
我はあの戦闘シーンを撮りたいのである。
これは、聖地巡礼なのである!!
〜弦よ、我は写真を撮って欲しいのだが・・・無理かのう?〜
我は弦にカメラを差し出して問う。
弦は大砲を見つめる鈴をチラッと見て我にささやく。
「そのカメラ、ぼくのカメラとサイズを合わせられない?」
〜うむ、可能じゃ。これでよいか?〜
弦は我の渡したカメラと弦のカメラを重ねる。
「よし、好きなポーズをとって。」
〜弦、そなたは最高の相棒じゃ。〜
我がポーズをとると、弦が写す。
〜弦、やはり砂漠編の格好の方が良かったであろうか?今からでも変えようか?〜
「いいんじゃない?その格好、似合ってるし。でも、ハンマーくらいはあってもいいかも。」
〜うむ、そうか!ダミーハンマーじゃな。〜
それぐらいならすぐ出せる。
いくつかポーズをきめノリノリで撮影する。
「写真、たくさん取るんだね。」
我が見えない鈴は1つの大砲だけを撮り続けるように見える弦に呆れたように言う。
「その、後悔しないようにね。あとちょっとだけ・・・」
弦はごまかしながらも最後まで我に付き合ってくれたのだった。
展示室を抜けると、城壁の上にでた。
先程まで下からは見上げていた城壁の上には大砲が並び、眼下にはジョードプルの街並みが広がる。
絶景である。
しかも大砲がある。
早速、大砲の上に立ち発射のポーズを取る。
射撃の王にはこれ以上ないシチュエーションだ。
テンションが上がりっぱなしの我に弦が苦笑いしながらも写真を撮ってくれた。
城壁の上に乾いた風が吹き抜ける。
城壁の縁に立ち鈴が風になびく髪を抑えながら言った。
「すごいね、街を一望できる。」
そ弦が言葉を続ける。
「お父さんの写真はここだね。」
「ええ、お父さんは確かにここに立った。」
「そして、写真を撮った。ねぇ、鈴さん。お父さんのカメラマンだったってことはいっぱい写真があったんでしょ?あのアルバムの写真はどうやって、選んだの?」
「え?あれはお父さんが私にくれたアルバム。今まで、何冊かくれたんだよ。このインドが最後にくれた一冊なんだ。」
鈴が遠い日を思い出して言った。
「いっつも思うように撮れなかった、俺は下手だ、とぶつくさ言ってた。」
弦がとつとつと言う。
「お父さんは鈴さんにここの景色を見せたかったのかもね。」
鈴が振り返る。
「なんでそう思うの?」
「うん?ずっと不思議に思ってたんだ。仕事で忘れたカメラが気になるなら、会社の人に頼めばじゃないかって。
今の時代、メールもネットもある。
雑誌社の人が本気で動けば何とでもなるはずだよ。
でも、お父さんは鈴さんに言った。しかも、曖昧な情報を。
ぼくは鈴さんのお父さんに会ったことがない。だから、分からない。
だけど、やっぱり鈴さんにここを見て欲しかったんじゃないかな。それか・・・」
「それか?」
鈴の問いに少し間をおいた。
「鈴さんと一緒に、もう一度ラジャスターンを見たい、と思ったのかもしれない。」
「私と一緒に?」
「うん、一緒に。」
「そっか・・・」
鈴は少し上を向くと目元を抑える。そして
少し迷って言った。
「ねぇ、その・・・手をつないでいい?」
鈴が手を差し出す。
「お父さんの代わり、かな?」
弦が鈴の手を取る。
「違うよ。違うけど、やっぱり違わないかも。でも、違う。お父さんと手を繋ぎたいんじゃない。」
鈴が恥ずかしそうに笑った。
「ここにいるのが弦さんで良かった。」