ジョードプルにて―逆襲の鈴
<ジョードプルにて―逆襲の鈴>
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鈴音eyes
一昨日は最悪のホテル、昨日は寝台列車でシャワーを浴びていなかった。
ミネラルウォーターで顔を拭いただけだった。
久々のシャワーは気持ちがいい。
何か、悪い物が流れていく気がする。
シャワー付きの部屋で本当によかったと思う。
私はシャワーを浴びながら考えていた。
インドに来てからずっと動揺してばかりだ。
それなのに、弦太さんが慌てているところを見たことない。
ホテルの予約がダメになっていた時なんて、昨日の私と同じ状況になったのだ。
私の半分くらいは慌ててもいいと思う。
なのに「ぼくもトラブルだらけだよ。」と言う弦太さんに焦りはみじんもなかった。
その後、私と同室ということで少し焦っていたが、それも私の為であって彼自身の問題で焦っていたのではない。
さっきだって、私が恥ずかしさを押し殺して下着を干していいか聞いても、あっさり「いいよ」の一言だった。
もう少し動揺してもいいと思う。
そして今も・・・チラッとカーテンの隙間から部屋を覗くとのんびりベッドに寝っ転がってガイドブックをみている。
同世代の女の子がシャワーを浴びているのだ。
がっつり覗かれたりするのは困るけど、『チラチラこちらを見ていて、目が合って慌てる』なんて位の反応はあってもよいと思う。
石鹸で体を洗いながら考える。
残念ながら、胸が大きくてグラマーってことはないけれど・・・
それでもバイト先では「あの子、可愛い」なんてお客さん同士が話しているのが聞こえたりもするのだ。
身なりを整えればそこそこ見られる程度にはなると思う。
残念ながら、列車で遭った時はすでに体も汚れていて、顔もぼろぼろ、髪もボサボサだった。
魅力的に見えないのは、しょうがないのかもしれない。
シャワーから出たら少し攻めてみよう。
シャワーを浴びてさっぱりすると気持ちがバリッと前向きになった。
もともと私はもっとイニシアチブを取っていく性格だ。
ネガティブな淀んだ物はシャワーで洗い流れた。
よし、私の本気を見せてやる。
私の力で弦太さんを少しは慌てさせてみよう。
少し楽しくなってきた私は丁寧に泡を流したのだった。
弦eyes
シャワーの音が止まってしばらくたった。
なかなか鈴さんは出て来ない。
少し長いなとは思ったものの女性が長いのには慣れている。
ほなみ(妹)もそんなものだった。
まぁ、シャワーも終わったみたいだしそろそろお昼かな。
ぼくが寝っ転がってガイドブックを見ているとドアの開く音がする。
「何か載ってますか?」
鈴さんがぼくのすぐ隣に座るとガイドブックを覗き込んできた。
ぼくは顔をあげた。
「!!」...声もでない。
すぐ横に鈴さんの端正な横顔があった。
髪はアップに束ねてうなじが白い。
そのうなじから肩、二の腕、鎖骨、胸元までなめらかな肌が続く。
両肩に細い一本の紐がある以外何もない。
鈴さんは薄い白いキャミソール1枚しか着ていなかった。
ガイドブックを覗く鈴さんがもう少し前屈みになるとキャミソールの中まで見えてしまいそうだ。
本のページをめくろうと、鈴さんが更に近づく。
白い二の腕がぼくの額の前に、脇がぼくの目の前に。
鈴さんのいい香りがぼくに届く。
頭が白くなる...
ああああああああああああああああああああ嗚呼...
緊急脱出!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、
ぼくはベッドの反対側まで転がると
立ち上がって言った。
「屋上の洗濯物を見てきまひゅ!」
慌てて部屋を飛び出したのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サヤeyes
あれは伝説の『幸せパンチ』⁈
この地で見られるとは幸運である。
弦が走っていくのに引っ張られ、我も部屋からも飛び出していく。
「やりすぎたかな?」
鈴の呟きが聴こえたのだった。