ジョードプルにてー無自覚の包囲網
<ジョードプルにてー無自覚の包囲網>
「いい眺め!」
鈴さんが薄暗い部屋の窓を空けると、明るい光が室内を照らした。
サラリとした乾いた風が部屋を通り抜ける。
部屋の中は水色に塗られたコンクリートの壁に白いタイル。
ベッドと木製の小さなテーブルと2脚の椅子。
装飾にドアの周りに少しだけインド模様が描かれている。
それだけのシンプルな部屋。
殺風景とも言えるが清潔感もある。
窓の外は旧市街の青い街並みを一望できた。
サヤが、窓に座って何やらニヤニヤ外を眺めている。
さてと・・・ぼくはリュックを開けながら言った。
「昼まで休憩。ちょっと早いけど11時頃、屋上のバーでランチを食べてみる?」
「うん、シャワー、先に入ってくださいね。私の方が時間がかかると思うので。」
「あ、でも先に洗濯してしまおう。」
あれこれ、相談しながらぼくらは荷物を整理していった。
一時間後、先にシャワーを浴び、洗濯を済ましたぼくは落ち着きなく過ごしていた。
追い詰められていると言ってもいい。
〜うぶなやつじゃのう。気になるなら、いっそ覗けばよかろう。〜
サヤがニヤニヤしながらからかう。
今、鈴さんがシャワーを浴びている。
問題はドアの立て付けが悪く、音がまる聞こえなのだ。
鈴さんが気持ち良さそうにシャワー浴びる音が聞こえる。
服を脱ぐ時は、衣擦れの音まではっきりわかった。
そしてそのドアであるが、一応、ドアは内側から椅子で押さえている。
がきれいに閉まらず隙間がある。
シャワー室には2枚のシャワーカーテンがあるのだが、丈が短く膝あたりまで見える。
更には隙間風で揺れると2枚のカーテンの間に隙間が空くのだ。
中は見ていない。見ていないが・・・
ぼくがシャワーを浴びた時、ドアの隙間の角度と隙間風のタイミングが合うと部屋まで見えた。
中から部屋が見えたということは、部屋からも中が見える。ということ。
つい、チラッとシャワー室の方を見てしまう。
ドアの隙間、シャワーカーテンの下に濡れた鈴さんの脚が見える。
風でカーテンがたなびく。
慌ててぼくは視線を窓の方に向ける。、
・・・そちらにもぼくを追い詰める、ある物が揺れていた。
少し前の話し。
鈴さんはシャワーに入る前、洗濯物を干して屋上から降りてきた。
「屋上に恥ずかしくて干せなかった物があるんだけど、部屋に干していい?」
その時、ぼくは特に深いことを考えずに、いいよ、と答えた。
鈴さんは屋上から借りてきたらしい洗濯バサミが20個ほど付いた丸いハンガーを、窓のから見えない程度内側のカーテンレールに掛けた。
そしてタオルを4枚、ハンガーの外側に四角く干した。
ぼくがその様子をぼんやり見ていると鈴さんははチラッとこちらをみると
「あんまり見ないでね。」と言った。
何を?と聞こうと思った時、
鈴さんは掛けたタオルの間に下着を干した。
多分、上と下を3枚ずつ。
たった4枚のタオルでは完全に隠すのには心もとない。
ごめんなさい、と申し訳なさそうに言う。
屋上の物干しはバーから丸見えだから恥ずかしかったそうだ。
そう話しながら、更に白いキャミソールを2枚掛ける。
多分、アウターではなく、インナー。
部屋の中かシャツの下でしか着ない生地の薄さ。
鈴さんはそれだけ干すと満足そうにシャワーに向かったのだった。
・・・そして、今に至る。
ぼくはシャワー室から慌てて窓の外に視線を向けた。
窓の外には青い空が広がり、乾いたさらりとした風が吹き込む。
洗濯物がたなびきタオルの隙間から3セット、6つの何かが見えた。
慌てて視線をそらす。
でも、チラリと見てしまった。
白とピンクと黒だった。
「ああ・・・」
ぼくは、ベッドに寝っ転がるとガイドブックを開き、そこから視線を外さないと決めた。
・・・内容は入ってこなかった。
ぼくはこの時、この包囲を耐えればよいと思っていた。
この後、更なる攻撃を受けることを知らない。