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異世界転生屋さんはとても尊いお仕事です。  作者: やおまみ
第1章 はじまり
7/11

7.サルビアⅠ

 ぐおんぐおん、と脳髄が揺れるような衝撃に慌てて目を覚ました。

 咄嗟に頭を枕で覆い、地震か!?空襲か!?と辺りをきょろきょろ見渡すと、窓の外にこの衝撃波の元凶が見えた。


 ―――時計台の鐘……。


 おはようございます。今日も元気に行ってまいりましょう。



 8時45分、少し早いけど新人だしちょうどいい時間だろうと、部屋を出ると同じタイミングでユキが部屋から出てきた。


「おはようございます。」

「ん、おはよう……って何その目?」


 ふっ、ふっ、ふっ!何を隠そう、今日の私はピンクのカラーコンタクトを入れているのである!ピンクの目なんてアニメ的で素敵でしょう?

 昨日、ユキが部屋を出て行ってからしばらくしたころに、一頻り色々試したんだけど、髪や眉毛の色は変えられてもやっぱり目の色だけは変えられなかったのだ。極め付け昨夜、間違えてレイジの部屋を訪問してしまった際に見た、寝間着姿のレイジの目!混乱していたのもあって言及することは無かったけれども、あの時のレイジの目の色はまごう事無き黒だったのだ!これから導き出せる結論。即ち、レイジはカラーコンタクトを入れている。


 この妙に便利なくせして、痒いところに微妙に手の届かないシステムの中で、より理想の姿に近づくためには、カラコンくらいしないとね!にしても、目が痛くなるとかそんなことないだろうに、レイジは毎日律義に着脱しているんだなぁ……。

 と、そんなこんなで、私も真似してカラコンを入れてみたのである!どうだ!このゴスロリ幼女!参ったか!


「ダサい。似合わない。変な事ばかり真似してないで、もっとまともな格好しなさい。」

 手厳しい!!!!!!!




「やあ、お姫様方、今日も華やかだねぇ。」

「げ……。」

「レイジさん、おはようございます。」


 ユキと二人で会議室へ向かっていると、振り返らなくても分かるキラキラとしたオーラと共に、後ろから声を掛けられた。……レイジのこの思い出したように差し込んでくる王子様モードは一体何なのだろうか?気を抜くと己のキャラ設定を忘れちゃうんだろうか。それとも気合入れないと出せない必殺技かなにかなのかな?


「おはよう。あれ?アカリさん、昨日にも増してキュートな瞳をしているね?」

「はい!やっぱり瞳の色にも拘るべきだと思ったので。レイジさんのおかげです。」


 気持ちを切り替えるにはまず見た目から。理想の自分に近づくために、細部にも手を抜かないレイジさんの姿に心を打たれたのだ。黒目でパジャマのレイジさんも勿論物凄く輝いていたけれど、それはやっぱり拘りぬかれた王子様ルックとのギャップによるところも大きかったんだと思う。やっぱりオン・オフの切り替えって大事だね。


「そっか……。」

 レイジさんは気まずそうに目を逸らした。ん?なんか不味い事言ったかな……?


「そんなことよりさっさと入るわよ!」

 気付いたら会議室の前までたどり着いていたようだ。




「アカリにはユキについていって、仕事の見学をしてもらおうと思うが、良いかな?第三部隊に加入するかどうかは、一通り仕事の内容を知ってから決めると良い。」

 会議室には既にタケダさんが居て、私たちに今日の仕事内容をテキパキと指示していった。流石は隊長さん。無駄な話など一切しない。私の目の色が昨日と違っても敢えて指摘しないだけでなく、驚いた様子すら全く見せない紳士だ。いや、全く気が付いていないのかもしれない。


 しかし、この会議室はトップであるタケダさんの性格故か、妙に簡素で殺風景だなぁ。ずっとここに居たら余計に気疲れしちゃいそうだ。窓際にお花がちょっとあるだけで空気が変わると思うんだけどな……。


 ん~~、ユキさんに着いていって仕事の見学、ねぇ……。なんかもう私を仲間に入れた気になってません?気のせい?

 まあ、口頭の説明だけじゃどんなことをしているのかイマイチ分からないものね。それにユキは昨日、異世界に行くとか言ってたし、それについていけるなんてちょっとワクワクしちゃうもんね!


「ぼーっとしてないで行くわよ、アカリ!」

「はい!」

 ユキの今日の仕事というのは、先日審査に受かったナカノさんという人と転生先の異世界を見て回り、今後の相談をするというものらしい。なんでもナカノさんはその並外れた優秀さから、3つもの世界からオファーがあるらしいのだ。ナカノさんは、その3つの世界の中から転生先を選んでもいいし、選ばなくてもいい。既に3つもオファーがあるくらいだから、これを断ってもどうせ次がすぐに見つかるらしい。選択肢がたくさんあるって羨ましいな……。

 一つも受からない人も居れば、三つも受かってしまう人もいるなんて……いや、考えるのは止そう。


 にしても、色んな世界を見て回れるなんてちょっと楽しみだなぁ……。


「ここよ。」

 まだ見ぬ異世界に思いを馳せていると、ナカノさんのいる応接室に着いたようだ。

 中に入ると作業着を着た20代半ばくらいの好青年がしゃんとした出で立ちで座っていたソファから立ち上がり、私たちを出迎えた。


「お待たせしました、ナカノさん。こちら新入りのアカリです。今回の転生先訪問に同行させていただきます。」

「……!初めまして、ナカノさん。アカリと申します。今日はよろしくお願いします。」

「ナカノです。よろしくお願いいたします。」

 驚いた。ユキは敬語が使えるんだな……。

 

 異世界ツアーは10時くらいから始めるらしく、それまで少しだけ3人でお話をする事になった。どうやら転生者にこちらと打ち解けてもらい要望を言ってもらいやすくするために、こうやって度々雑談をする機会を設けているらしい。審査に受かっている人と話せる機会は、こちらにとっても貴重だしね。


「こっちには慣れました?」

「う~ん、どうでしょう。今でも少し弟の事とか、気がかりなことが多くて。往生際が悪いですよね。」

 ナカノさんは私より1週間程早くにここに来たらしい。それでやっと気持ちの整理もついてきたころだということで、今日やっと転生先訪問に踏み切ったのだそう。まあ普通そうだよね。「貴方は死んでしまったので、転生先を決めてください」なんて、急に言われてもちょっと待ってほしいってなるよね……。


「アカリさんはこちらに来たばかりなんですよね?不安ではありませんか。」

「えっと、そうですね。それなりに……。ご心配してくださりありがとうございます。」

「アカリはこう見えて結構図太いので、ご心配には及びませんよ?最初から結構ケロッとしていましたし。ねぇ、アカリ。」

「え、いやぁ、その……ちょっと、ユキさん……!」

「ははは、それは凄いですね。是非見習いたいものです。」

「……。」


 ユキの中で、私はもうとっくに図太いキャラで固まっているらしい。それにしても女の子を形容するに当たって、「太」という漢字のつく言葉を使用するのは如何なものか。いや、「図太い」という言葉にそういう意味は無いとは分かっているけれども、言外の意図を勝手に想像してしまう。大丈夫だよね?私は生まれ以ってネズミ顔なのだから、体系と肌だけには物凄く気を遣って生きてきたのだ。


 疑いと恨みを込めてユキを見遣ると、彼女の中では先程のやり取りは完全に終わったことのようで、ナカノさんの方をまっすぐ見据え気遣わし気に口を開いた。


「弟さんのこと、気になります?」

「う~ん、そうですね。やっぱり彼の誕生日の事だったので、気に病んでないか心配ですね。彼ももう就職していますし、そういう面ではあまり心配していませんが。」


 ナカノさんは高校生の頃両親を亡くし、以降6つ下の弟の親代わりとして懸命に働いてきたらしい。そして、その弟の二十歳の誕生日当日に職場で事故に遭ってこちらへ来たのだとか。なんとも遣る瀬無い話だ。美人薄命とは言うけれど、良い人は素直に報われてほしいものだ。


「考えてみれば僕自身、自分の人生には何の悔いも無いんですよ。優しく尊敬できる両親のもとに生まれて、頑張り屋の弟と居心地の良い職場に恵まれて。後悔している点としては、弟を大学に通わせてあげられなかったという事くらいなもので……。」


 ナカノさんは疑う方が馬鹿らしい程に澄んだ、真っ直ぐな目でそう語った。世の中にはたまにこういった本当の聖人があらせられるのだ。私はこういった方に出逢うと、尊敬と、どうにか報われて幸せになってほしいという気持ちでいっぱいになってしまう。何か声を掛けたいけれど、どのような言葉を掛けたらいいのか分からなくていつも微妙な事を言ってしまうのだ。だけど……。


「あの、弟さんもきっと、ナカノさんのような素敵なお兄様がいらっしゃって、幸せだったと……思います……。」

 これは適当な事を言ったのではない、心からの言葉だ。タケダ隊長からナカノさんの事を一通り教えてもらった時からずっと思っていたのだ。弟さんの気持ちは、私には一切分からない。でもきっと……。


「ふふ、そうかな。そうだと良いなぁ。」

 ナカノさんはそう優しく笑って、「ありがとう、アカリさん。」と言ってくれた。良かった。少しは喜んで貰えたようだ。安心した。


 私はこっそり、隣にいる“頼れる先輩”に私の気持ちを打ち明けておくことにした。

「ユキさん……。」

「なに?」

「ナカノさんには幸せになってほしいですね。」

「……そうね。」



 よぉしっ!!ナカノさんに幸せな人生をプレゼントしちゃうぞ!待ってろ異世界!!



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