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異世界転生屋さんはとても尊いお仕事です。  作者: やおまみ
第1章 はじまり
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2.プリムラⅡ

「異世界転生屋さんって何ですか……?お二人に頼めば私を転生させてくれるという事でしょうか?」

「残念なことに、そうではないんだ。アカリさんは今のままでは転生できないし、それをどうこうする力は僕たちにはない。」


 なんとも無情。そして無能。異世界転生屋さんが異世界転生させてくれないだなんて詐欺ではありませんか?え、じゃあ私はこれからどうなるの?というかこの人たちは何をしに来たの?

 何一つ処理できずエラーを吐きまくるポンコツCPUを搭載した17年モノの旧型PCこと私に、王子様は苦笑し、んーとかなんとか言いながら斜め上を見上げ、こちらへ向きなおった。説明をしてくれるようだ。思考時間約3秒、中々のスペックと見た。


「そもそも転生というのは基本的に僕たちが元居た“原世界”の内部で行われるものであって、異世界転生というのは極めてまれなケースなんだ。というのも、原世界から異世界に転生させるのはリスクも高いし、失敗すると世界が崩壊しかねないからね。それでもわざわざ”この世界”に転生してきてほしいと“セカイ”に願われた人だけが、この“狭間”を通って異世界へ転生されるんだ。そのセカイによる判断こそが僕たちの言う“審査”だね。」


 はぇぇ……。

 よく分からないけど、転生される異世界の方にも選ぶ権利があるという事かな?なるほどなるほど。確かにとんでもない悪人がが魔法のある世界になんて生まれちゃったら大変そうだものね。


「異世界転生の見込みがある少数の人間だけがこの狭間に連れてこられて、審査を受ける。そしてそれに受かった人間だけが異世界へと転生される。」

「と、いう事は私は……。」

「そう。アカリさんは異世界転生の見込みがあるものとして死後、この“狭間”に連れてこられて、審査にかかった。しかし残念ながらその審査に落ちたんだ。だから今のままでは異世界に転生されない。でも、一度この“狭間”に来てしまうと元の原世界に転生されることは絶対にないんだ。また別の審査に受かってどこかの世界に転生されるまではずーーっとここにいないといけない。」


 なんと!そんな傍迷惑な!私は異世界転生したかったからまあ良いとして、そんな気もないのに勝手に連れてこられて落ちましたー、なんて冗談じゃ済まないよ……!私はこれからどうしたらいいんだろう……。訳も分からない審査に受かるまでずっと、こんな見知らぬ土地で独りぼっち……?

 急に不安に襲われてきた私を見て、レイジは少し困ったように笑った。


「それは僕たちも同じなんだ。だから僕たちはどこかしらの審査に受かるまでの間、ここで異世界転生屋さんとして無償奉仕をしているんだよ。審査に受かった人とコンタクトを取って、より納得できる転生を提供するのが僕らの主な仕事だね。」


 なるほどなるほど。つまりはこの二人も審査に落ちていて、未だに受かっていない落ちこぼれ仲間ってことか!「僕たちにはどうこうする力はない」って言っていたのは受かってもいないからアドバイスも出来ないっていう事ね。う~ん、安心したような、もっと不安になったような……。

 しかし、()()納得できる転生とは一体……?どこにも転生できなかった私と違って、いくつも選択肢がある人も居るのだろうか。


「それでもし良かったら、アカリさんも僕たちの仲間になってくれないかな、と思って。今日はそれの勧誘に来たんだ。……強制ではないよ。この“狭間”では死ぬことは無いんだし、何かをする義務なんて存在しない。まあ、就活みたいなものかな?審査に受かった人々と関わっていくことで、自分に足りないものが見つかるかもしれないからね。現に、これまでこの異世界転生屋さんでの活動を評価されて希望の転生先に転生出来た人もいる。」


 おっ!さては難しい話だな?

 んん~~、そう言われても仕事内容とか良く分からないしな~。

 でも理に適ってはいるのかも。「内定者座談会」とか良く聞くもの。受かった人にアドバイスを貰える機会っていうのは結構貴重だものね。


「それに“審査”なんて所詮セカイの気まぐれなんだから、僕たちと一緒に頑張ったからって必ず受かるなんて保証はないし、特に何もしなくても受かっちゃう人だっている。」


 はぁ……。それはまた受け入れがたい話だなあ……。

 まあその時々によって求められる人材も変わって来るだろうし、そんなもんなのかな。実際。

 私が経験したことも無い就活に思いを馳せていると、レイジは話し出してからこれまできゅっと握っていた右手を緩め、相好を崩した。ん~、はじける笑顔。


「まあ、どこかに転生できるまでの暇つぶしってことで。本当に気が向いたらで良いんだけど、協力してくれたら僕たちは助かる。」

 そうかそうか……。確かに、目的ややることがキチンとあった方が日々の暮らしは豊かになるだろうからね。学校も仕事も無く、友達も居ないのだからこういう団体に所属してみるのはありかも。


「僕個人としても、君みたいな可愛いお姫様が仲間になってくれたらとっても嬉しいな。なんてね。」

 ヒィッ……!

 そんな、たった今自分のキャラ設定を思い出したとでも言わんばかりの、取ってつけたようなセリフにときめくとでもお思いで?ときめきますが?やめてくださいます?


 たちどころに無言になった私を見て、ユキは奇妙な表情になった。どことなくチャウチャウの子供に似ている。さっきから何なんだこの幼女は。お腹でも痛いのか。それとも私の事が気に食わないのか。

 なるほどなるほど、こういう時は早めに原因を突き止めるのが吉だ。引導を渡されるのが怖いからって見て見ぬふりをしていても心労が溜まる一方で何も解決できない。身を以って知っていますとも。


「……あの、ユキさん。私、何かご迷惑でもおかけしましたか?」

「はあ?」

 およそ聞いてはいけないような類の声色だった。三十六計逃げるに如かず。臭い物には蓋。やっぱり勝てない相手に挑むもんじゃないね。過去の己の判断が憎い。


「こら、ユキさん。ごめんねアカリさん。ユキさんはいつもこうなんだ。折角可愛いのにいつも嫌そうな表情をして……」

「それはアンタいつもキザったらしくて不愉快だからよ!そのしょうもないコスプレも、ふざけた物言いも1ミリも似合ってなくて寒気がするわ!」

「コ、コスプレだって……!?それはユキさんだって同じ――」

「私は似合ってるから何の問題も無いのよ!」


 かぼちゃパンツの王子様が私を助けてくれたのかと思いきや、なにやらまた言い争いが始まってしまった。一体なんなんだ。この二人は私を勧誘しに来たんじゃないのか。こんな右も左も分からない人間に一方的に絡んできて、挙句ほったらかしにするなんて!虫かごの中の蝉の気持ちがよく分かる。せめて育てる気のある人に捕まりたい人生だった。


「ちょっと聞いてるの?アンタの事を言ってるのよ、この勘違いピンク!」

 どうやら身内間の言い争いには決着がついたらしく、いつの間にか標的が私に戻っていたようだ。

 か、勘違いピンク……??それって私の事……?


「ちょっと、ユキさん……」

「アンタそのセンス何とかしないと本当に不味いわよ。そんな格好をするくらいなら全裸の方が100倍マシよ!!」

 全裸の方がマシ!?いや、いやいやいや、仮にこの服のセンスが悪いとしても、この服私が選んだわけじゃないし。なんでこんなこと言われなくちゃいけないの?いや、ちょっとは可愛いと思ったけど!理想の格好だなんて思ったりもしたけど!


「ちょっと待ってください。この服は私が選んだ訳ではありません。気付いたらこういう服を着ていて……」

「言い逃れしても無駄よ!この狭間では髪や服装なんかは自分の思い通りに出来るの。つまりアンタのその趣味の悪い髪も、見ていたら目が潰れそうな服も全部アンタが選んでるってことなのよ!」

 なんと!理想の姿になれる……!?そんな特典があったなんて!言われてみればユキやレイジの次元を超越したこの美しい見た目も、理想の姿になっているのだと思えば頷ける。という事は私も今は少女漫画のヒロインみたいな超絶美少女?いやー、照れちゃうな。


 なんてショックから意識を逸らしていると、レイジが私をかばう様にユキの前に出た。

「アカリさん、僕はその髪も服もとっても可愛くて、愛らしいアカリさんにぴったりだと思うよ。」

 ヴァッッ!!!

 可愛くて、愛らしい。ちょっと聞きました?私って可愛くて愛らしいらしいですよ!こんなに美しい王子様が言うのなら間違いない!私って可愛くて、ピンクの似合う女の子!

 めくるめくラブロマンスへの期待に胸を躍らせている私とは裏腹に、ユキは明らかに怒気をはらんだ表情でわなわなと震えている。嫉妬ですか~~?いや~、まいっちゃうな~!こんなに可愛い女の子に嫉妬されて!可愛くてごめんなさい!


「…信じらんない!」

 耐えかねたようにそう叫ぶと、ユキはずんずんとこちらへ近づいてきた。

「似合ってるわけがないじゃない!恥をかくのはこの子なのよ!これを見て正気になりなさい!」

 と言ってユキに見せられた鏡には……


 ピンク色のツインテールを携えた、非常に見慣れたネズミ顔が映っていた。



 顔は変わらんのかい…………。



「ここは原世界の延長線なんだから、顔や体なんかは変えられないのよ。だから分相応な格好をしないとコスプレみたいでみっともないわ。」

 そんな不条理な……!でもユキやレイジの現実離れした顔面はどういう事だろうか?まるでお人形のようなユキには真っ黒でフリフリなドレスが良く似合っているし、レイジも王子様然としたかぼちゃパンツに白タイツ、真っ赤なマントや王冠が良く似合う美青年じゃないか。これも元居た世界から変わってないと言うのか?いやいやいやいや、そんな訳ないでしょう。


 無駄にキラキラした二人に向かって疑いの目を向けていると、ユキが可愛そうな子を見るような目をして、「自分の生まれを憎みなさい!」と言った。失礼な!


「ユキさんの言う事なんか気にしなくていいよ。アカリさんはハムスターのようにキュートで愛らしいから、その髪も服もとっても良く似合ってて可愛いよ。人間、好きな格好をしているときが一番輝くんだからね。」

 ハ、ハムスター……?いや、それって結局ネズミ顔ってことじゃん。そりゃあハムスターは可愛いけど、ハムスターみたいな人間って全く良い印象が無いのだけど……。


 レイジへの信頼度が100下がった。今後は貴方の発言の9割をお世辞として受け取らせていただきます。南無。

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