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ピンチに能力が覚醒するのは定番なんですが?

08

 死んだ死んだ。

 これはもう無理ゲーだ。

 考えてもみて欲しい。

 こちらは貧弱な大人ぐらいの力しかない人間が51人、対するのはゴリラや熊の優に倍は巨大な化け物である。

 板垣さんは増産可能だが、象を前に蟻が何匹増えたところでまったくの無意味である。

 勝ち目ゼロですやん……

 お姫様の嘘つき……

 雑魚しか出ないって言ったのに……

 雑魚しか出ないって言ってたのにぃ!


「板垣さん、順次突撃! 逃げる時間を稼げ!」


 これはもう逃げるしかない。

 これだけのデカさだ。

 デカいは遅いとほぼ同義であると信じて、逃げられる可能性にワンチャン賭けるしかないだろう。

 最初の板垣さんが指示通りオーガに突撃した。

 板垣さんをぶつけることで、意識を板垣さんに向けさせれば、逃げられる可能性は上がるはずだ――と思っていた時が俺にもありました。

 オーガに突撃した板垣さんは、ぶつかると同時に蹴り上げられて、逃げ出すために背を向けた俺の進路上に落ちてきましたとさ……

 マジかよ……

 落ちてきた板垣さんは例の名言を口にしたらいつも通り光の粒子となって消えていく。

 1人だと1秒すら時間稼ぎできないの?

 全部で50秒も稼げないじゃないか……

 だが、その時間に賭けるしかない。

 残念ながら、走りながら召喚するなんて器用な真似はできないので、板垣さんを増やすには足を止める必要がある。

 それに加えて、召喚にはどう考えても2秒以上時間がかかるので、板垣さんを増やすと時間を稼ぐどころか時間を浪費することになってしまう。

 これが今稼げる時間稼ぎの限界だ。

 ならば、その50秒を兎にも角にも必死で走るしかないだろう。

 息が切れても走る。

 死にたくなければ走る。

 目覚めろ火事場の馬鹿力!


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」


 無理でした。

 体育以外ではまともな運動をしないインドア派の俺が、50秒も全力疾走するのは無理があるという話だ。

 20秒過ぎた時点でジョギングぐらいの速さになり、30秒が過ぎたら歩くのと大差がない速さになってしまう。

 それでもなんとか距離は多少稼げたし、見えない場所に隠れればいいんじゃないのか?

 いやいや、さっきみたいに臭いで追いかけられるオチがつくに決まっている。

 少しでも距離を稼がないと……

 一歩でも化け物オーガから離れるために重くなってきた足を必死で動かし続ける。

 蹴り飛ばされた板垣さんの雨に当たらないよう時折後ろと上を確認しつつ、へろへろになりながらも足は止めない。


「あ……」


 しかし、体力の限界を迎えているので足は思うように上がらない。

 少しばかり地面から顔を出している木の根に足を取られ、俺は体勢を立て直すことも出来ずに地面を転がってしまった。


「ぜぇ……はぁ……くそっ!」


 立ち上がって再び逃げようとするが、僅かな月明かりを遮って俺の周囲を影が包んだ。


「マジっすか?」


 板垣さんは全滅してしまったようで、オーガが追いついてきたのだ。

 これ以上逃げることも出来ないようで、身体から力が抜けそうになるのを木を背中にして支えることで、なんとか倒れるのを防ぐ。

 体力は限界で、こんな化け物を相手に戦う術もない。

 完全に詰んでしまったな。

 追い詰めたことが嬉しいのか厳いオーガの顔が喜色に歪んだように見える。

 どうする?

 どうする?

 どうすればいい?

 板垣さんを召喚したところで全くの無意味だ。

 宮本武蔵だって消費量が多いだけで能力は板垣さんと大差ない。

 ゴブリンを30匹倒したところで3人目を召喚できるようになってはいないし、出来たとしても高い能力の英傑を召喚できるほどの知識もない。

 あぁ……くそっ!

 なんで俺のアビリティはこんな条件があるんだよ。

 知ってれば知っているほど強くなるなんて、歴史嫌いの俺に対する嫌がらせか?

 どうせなら歴史上の人物じゃなくて、アニメキャラとか漫画のキャラが召喚できる能力にしろよ!

 それなら魔王だって神だって殺せるキャラクターも召喚してやるよ。


「ムサたんなら……」


 ムサたん、歴史上の宮本武蔵ではなく、俺のよく知る宮本武蔵・・・・が召喚できるのであればこんなオーガごとき雑魚と大差ないって言うのに……

 なんで俺のアビリティは歴史上の人物を召喚しか出来ないんだ?

 どうせならムサたんが出てくれよ。

 俺を助けてくれよ……


「宮本武蔵ぃっ!」


 叫ぶのと同時にごっそりと身体の中から何かが抜けていく感じがしたかと思えば、地面に浮かび上がる光り輝く紋様。

 俺の目の前だけ真昼になったかのように強烈な光が溢れる。

 そして、そいつは姿を現した。


次回予告(?)

 オーガに追い詰められた柳野葉太は起死回生を賭けて自身のアビリティを発動した。

 絶体絶命の状況で彼が使った英霊召喚は思いもかけない結果を導き出す。

 いったい現れるのは誰なのか?

 まるで浮世絵が飛び出したかのようなその姿にきっとあなたは驚きを隠せないだろう。

 次回「自分でもビックリするフェイントもあるんですが?」

 刮目して待て!

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