なんだか選択を誤ったようなんですが?
04
「……………………」
「…………」
「………………」
「…………………………」
「…………宮本……武蔵……だな」
「………………ああ……武蔵だ」
光が収まって現れたのは、宮本武蔵だった。
宮本武蔵を召喚しようとしたんだから当然だ。
だが、この宮本武蔵は、歴史上の人物には見えない。
浮世絵の姿にそのまま肉付けしたような姿は、先ほど召喚した板垣退助とはいろんな意味で一線を画している。
「待て! 見た目はあれだけど強いかも知れないじゃないか!」
「そうだな。見た目はあれだけど」
「おう。見た目はあれだけど、試さないうちに使えないって言うのは間違ってるな」
そんなに見た目のことを突っ込まないでくれ。
「片井、またやるか?」
「え? いや、宮本武蔵は怖いな。刀牙で、甲冑斬ったりしてたしアビリティで防げなかったら怖すぎる」
「じゃあどうする?」
「的斬ればいいんじゃないか?」
「そうだな。お~い、ちょっと的1個空けてくれ」
宮本武蔵の実力をその目に見ようと全員揃ってぞろぞろと的の方へ移動する。
事の成り行きを知らずに的でアビリティを試していた連中も、手を止めて何事かと元から見ていたやつに話を聞き、次いで宮本武蔵の姿を見たらギョッとしている。
「よし、やれ柳野!」
「お前の力を見せてみろ柳野!」
「やるのもがんばるのも宮本武蔵だけどな!」
「がんばれ武蔵!」
「負けるな武蔵!」
「誰に負けるんだ?」
「柳生?」
「吉岡!」
「宍戸?」
「宝蔵院!?」
「有馬だろ」
「なんで佐々木巌流は出ないんだ!?」
「つか、柳野に負けなければいいんじゃないのか?」
「柳野のくびきから解き放たれろ武蔵!」
「暴れ出したらどうするんだよ」
「あ、たしかに」
「お前らいい加減にしろよ……とりあえず、やれ柳野!」
「あ、ああ……やれ、武蔵!」
俺が指示を出すと武蔵はのろのろと的へ向かって歩き出した。
ゆらゆらと身体を揺らしながら歩く姿はこれが達人なのかと期待が持てる。
的の前に立った武蔵は両手に持った刀を振るい的へ斬りかかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………折れたな」
「…………ああ、折れた」
先ほど板垣退助が片井くんに斬りかかった時と同じで、的に斬りかかったはずが的を斬ることも出来ずに持っている刀の方が折れて宙を舞っていた。
「おいどうなってんだ!?」
「使えねぇぞ武蔵!」
「役立たずだぞ武蔵!」
「金返せ!」
「そうだ、金返せ!」
「何の金だよ……」
「期待に対する謝罪と賠償を要求する!」
「賠償!」
「売笑!」
「おい誰だ!? なんかニュアンス違うぞ!?」
「攻撃力皆無か!?」
「板垣退助の再来か!?」
「おい、ちょっと片井! また小突いてみろよ」
「あ、ああ」
喧々囂々となり、ブーイングを浴びせられる武蔵に片井くんが近づいていく。
アビリティを発動した片井くんは先ほど板垣退助にやったのと同じように軽く拳を当てた。
「ぐはぁっ!!」
人間とはこうも簡単に空を飛べるのかと感嘆してしまうほど見事な放物線を描いて、片井くんの拳に小突かれた武蔵は宙を舞った。
慌てて武蔵に駆け寄ると倒れた武蔵は空に向かって震える手を真っ直ぐと伸ばしていた。
「こ……小次郎…………敗れた……り……」
俺でも知ってるあの名言を口にした武蔵は力尽きたのかパタリと地面に手を落とし、光の粒子となって天へと昇っていく。
いや、負けたのお前だ。とか、なんで板垣退助と同じで名言口にしてから消えていくの!? とか言いたいことは色々あるが、最早その姿が消えてしまった武蔵に言うことは出来ない。
そもそも、板垣退助も宮本武蔵も召喚してからまともに意思疎通してないな。
まともに会話できるのか?
「またかよ……」
「武蔵でもダメなのか?」
「他って誰がいる?」
「ん~源義経?」
「あれって個人で強いって言うより指揮官だろ?」
「じゃああれだ。新撰組! 沖田総司!」
「いや、本多平八郎忠勝だ!」
「それなら立花宗茂もよくないか?」
みんな歴史大好きなんだな。
俺はもう新撰組の沖田総司ぐらいしかわかんないよ。
いや、義経なら知ってるな。
あれだろ? 主君を守ろうとして立ったまま死んだんだろ?
「よし、柳野。次は塚原卜伝だ」
誰だよ。
まぁ、俺は歴史上の人物なんてぜんぜんわからないから、アイディアを出してもらえるだけありがたいな。
「ふぅ……つかはらぼくでん――ん?」
「どうした?」
「おい、武蔵の時みたいに光らないぞ?」
「失敗か?」
みんなが指摘する通り、板垣退助や武蔵の時のような紋様が地面に広がることはない。
「柳野、どうしたんだ?」
「いや、今の俺だと2人召喚したらそれ以上召喚できないらしい……」
「え!? それって1日2人までってことか?」
「いや……俺が召喚できるのは、板垣退助と宮本武蔵の2人だけってことだ……」
俺の言葉で周囲を沈黙が支配した。
そりゃそうだよな。
どう考えてもあの2人では戦力になりようがない。
「どうなさいました?」
「あ……お姫様……」
アビリティを使うことで盛り上がっていた俺たちが急に静かになったのを訝しんだのかお姫様が近づいてきた。
どうしよう……
俺の能力が使い物にならなくなっちまったんだが……どう言えばいいんだ?
「そう言えば、書記官から確認しましたが英霊召喚のアビリティを手に入れた方がいらっしゃるようですね。あのアビリティは、召喚する英霊を詳しく知っていればいるほど英霊の力が増します。過去の勇者は、その力で万夫不当の英傑を召喚していたので、此度の勇者にも期待できるのですが、どなたが英霊召喚のアビリティを持っているのでしょうか?」
お姫様の言葉で俺の能力が微妙になってしまった原因がはっきりした。
詳しく知っていればいるほど強くなるなら、ぜんぜん知らなければそれだけ弱くなるって事だ。
マジか……
少しでも知ってることが多いやつを召喚すればよかった……
いや、でも俺じゃあ知ってるのもたかが知れてるし、どっちにしろ意味がなかったのか?
どっちにしろ、俺は選択を誤ったらしい。