奇跡という言葉も案外安っぽいんですが?
塞翁が馬ってやつ
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なんともあっけないが、豚は滅びた。
まったく予想しなかった結果なだけに実感が湧かない。
ただ、1つ言えるのは、こうもあっさりと勝利することが出来たのに払った犠牲が大きすぎる。
ゆっくりとした足取りでリングが豚にフィアが襲われた場所へと向かう。
ピロシキ教官や御者の人、馬なんかは跡形もなく弾け飛んでしまい原型など欠片も残されていない。
リングはせめて形見の品だけでもと思っているのかもしれないが、フィアも教官たちと同じ有様だろう。
形見に出来るようなものなど何一つ残されていない。
そう思ったが、どうにも様子が違った。
リングもそれに気がついたのだろう。
驚きの表情を浮かべると一目散に駆け出した。
「フィア! フィア!」
リングは駆け寄ると見るも無惨な姿になったフィアを抱きかかえる。
奇跡なのか、偶然なのか。
フィアは下半身こそなくなっていたが、上半身はほとんど無傷で残されていた。
いや、それだけじゃない。
「…………あ……リン……ちゃん……だぁ……」
「フィア!」
息がある。
これはもう奇跡だろう。
腰から下がなくなっているのに、会話できるだけの意識が残されているなんて奇跡以外に考えられない。
だが、その奇跡もそこで終わりだ。
どう考えても致命傷だ。
蜥蜴の尻尾でもないのだから、再生するなんて事はありえない。
失われた下半身から止めどなく血が流れ続けている。
フィアの命はここで終わりだ。
「ごめ……ん……ねぇ…………わた……もう……ダメ……みたぃ」
フィアは、弱々しい声で途切れ途切れに必死で言葉を紡ぐ。
自分のために一緒に冒険者になってくれた幼なじみに感謝の気持ちを伝えようと苦しいだろうに笑みさえ浮かべていた。
「ダメよ。そんなの許さないから! あんたがいなくなったら、私何のために冒険者になんかなるのよ!」
リングは涙を隠そうともせず、フィアを強く抱きしめた。
「ご……めん……リンちゃ…………大好き」
「私も大好きだから! だから……だからぁ! 死なないでよ! フィア!」
「えへへ……リンちゃ……が……大……好き……だってぇ」
フィアは本当に嬉しそうに笑った。
ツンデレなリングは、いつもリンへ素直な気持ちを言葉にするフィアと違って、彼女に自分の気持ちを伝えたりしなかったのだろう。
もしかしたら、初めてその気持ちを言葉にして伝えられたのかもしれない。
なんか、腹の奥底から何かがこみ上げてくる感じがする。
デンさんなんかは、目頭を押さえて俯いている。
悲しすぎる。
なんでこんなに早く、こんな形でお別れをしないといけないのか。
これがゲームなんかだったら、回復アイテムでなんとかなるだろうけど、そんなものありはしない。
いや……俺が知る彼女だったらなんとか出来るかもしれない。
だが、俺が召喚できるのは板垣さんと武蔵の2人だけで、3人目はまだ……………………ん?
あれ?
出来る気がする……
マジか!?
タイミングが神懸かってるぞ!
急げ。
急げ!
俺は必死でその姿をイメージしながらフィアを助けられる可能性にかけてその名を呼んだ。
「華佗!」
地面に板垣さんや武蔵を召喚した時と同じ紋様が広がる。
武蔵のように一旦浮世絵状態を経由することなく、紋様から溢れる光が収まった時、彼女はその姿を現した。
一言で彼女を言い表すのであれば、妖艶な美女だ。
黒いドレスのような服に身を包んでいるが、豊かな双丘はドレスから溢れそうで、ひらひらとした飾りの向こうにチラチラと下着が見えている。
痴女ではない。
普通の女性が、今この場や普通に真っ昼間の街中で彼女を見かければ痴女だと思うかもしれない。
だが、彼女を目にすればその容姿と服装は見事に一体感があり、痴女だと感じさせるようなことはない。
彼女こそアニメ『三国姫』で死者以外ならばあらゆる患者を完治させると言われる保健の先生、華佗である。
「あらあら? ここはどこかしら?」
「後で説明するから頼む! あの子を治療してくれ!」
頬に指を当てコテンと首を傾げる動作一つ取っても色気を感じさせるが、今はそんなこと気にしている場合ではない。
今にも命の灯火が消えてしまいそうなフィアを治療できるのは彼女だけなのだ。
「あらあら? 可愛いのに可哀想ね。誰がこんなことしたの?」
華佗は俺が指し示したフィアの姿を目にするとすぐに彼女の側に寄って同情したような声をかける。
声をかけつつもその手はすでに動き出していた。
なにやら針のようなものをフィアに刺すとそれだけで流れで続けていた血が止まり、幾分かフィアの表情も和らいだように見える。
「ちょっとアンタ! 誰よ! フィアに何するつもり!?」
「はいはい。黙っててねぇ」
妖艶な美女と言う他にない見た目に反して、華佗は基本的に優しいお姉さんみたいなキャラだ。
そんな彼女だが、治療の邪魔をしようとするものだけは辛辣に対処する。
実際、リングは針を打ち込まれて身体がしびれているようだった。
「はい。もう大丈夫よ」
華佗がそう言って立ち上がると驚くべき事に豚の手で消し飛ばされた下半身が再生していた。
しかも、女性の下半身を晒さぬように自身の上着を掛けて隠しておくのも忘れない。
あぁ、クソ! 現実になっても見られないのか……
三国姫はファンタジーな『大陸』を舞台にし、登場人物それぞれが魔法のような氣を使えるという設定の作品だ。
華佗は治療の氣が使えるキャラで、例え四肢を欠損しようとも瞬く間に治療してしまう。
しかし、その過程は一度として描写されたことがなくいったいどんな過程を経て再生するのかは視聴者にとって永遠の謎だったのだ。
現実に彼女が現れたならその過程を見れるかもしれないと思ったが、そう上手くことは進まないらしい。
「あぁ……フィア……フィア」
華佗が針を抜くと痺れが取れたらしいリングがフィアの顔に震えながら手を触れる。
「あれ? リンちゃんなんでいるの……ここって天国じゃないの?」
「フィア! フィア! うああぁぁぁぁっ!!!」
自分が助かったのだとまだ理解していないらしいフィアのそんな言葉にリングは涙でぐちゃぐちゃになった顔でギュッと彼女を抱きしめた。
フィア復活。
なんか、前半と後半に温度差がある気がする……
まぁ、もともと回復役はラストの展開的に必須なのでいつかは出す予定でしたが、豚を倒したおかげで戦闘役を増やす必要がなくなったので早めに登場することになりました。
そのおかげで死亡予定だったフィアがまさかの復活。
3人揃ってフィアデンリングだから、1人欠けたら意味分かんなくなるから助かって良かったのかな?
華佗にするか曲直瀬道三にするか迷ったけど、せっかくだからワールドワイドに行こうと華佗を採用。
エロ本大好きな曲直瀬にしても面白くなったかもしれない……




