一方その頃なんですが? 名もない騎士の追憶編
本日3度目の更新ですのでご注意ください。
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武蔵という女戦士が訓練の指導をするようになったらしい。
その話を聞いた時は、上層部は何を考えているのかと思ったものだ。
だってそうだろう?
我ら騎士の訓練はドリンコ王国の長い歴史の中で培われた経験と先人達の知恵によって内容が決められているのだ。
それを昨日今日来たばかりの余所者に指導されるなどたまったものではない。
しかし、同僚の騎士とは別の人間から話を聞いた――たまたま食堂で隣になった一般兵の会話が聞こえてきた――限りでは、その女戦士はただ者ではないようだった。
クロノスナイツの第五席であるあのスティング様と試合って、一方的に勝利したのだという。
なるほど。
それほどの実力者であるならば、その強さの一端を知るためにも訓練指導という名目で技術を盗めと言うことであろう。
地獄のような訓練だったというが、そんなものは大した訓練もしていない一般兵の戯れ言だ。
その時の私はそう思っていた。
今では、そう判断していた食堂での自分を殴ってやりたいとすら思う。
訓練は地獄だった。
全力疾走のようなペースで走るなど簡単だと思っていたが、実際に走るとキツい。
そもそもランニングで全力疾走などと言われれば、ただ一般兵には辛い速さでのランニングかと思えば、文字通りの全力疾走だ。
100メートルを走る速さで延々と走らされるとは思ってもみなかった。
続いての素振りも、一般兵にはキツいだけだと思えば、騎士の私が全力で剣を振ってもまだ遅いと言われる。
それに続いての試合だ。
全員の前にいるわけがない。
そんなことはありえない。
そう思っていたが、見えるだけでも武蔵という女戦士の姿が10はある。
これは、剣を防ぐために集中する私の視界に映った数なので、実際にはもっといるのだろう。
総数は50か? 100か?
まったくもって信じられない。
しかし、土魔法で形だけを似せた人形を作るのは見たことのある技術だが、あぁもスムーズに動ける分身など見たことがない。
しかも、分身の1人1人が相手によってまったく違う動き、まったく違う手加減をするなど信じられることではない。
もしかしたら、私が――いや、誰にも知られていなかった自身と同じ実力を持った分身を作り出すアビリティでも持っているのだろうか?
そんな風に思うぐらいの力を分身の1人1人が持っていたのだ。
それでもなんとか、必死に食らいつく。
辛うじて一瞬の隙を突くことが出来たのは、前日に食堂で話を聞いていたおかげだろう。
しかし、さらに攻撃の苛烈さが増すのは勘弁願いたい。
この訓練が終わった時点で、半数以上が倒れたのだからこの訓練の過酷さが知れるというものだ。
全力疾走を続けたおかげで酸欠になった者、自分の限界を超えて剣を振り続けたおかげで腕が上がらなくなった者、剣で打たれ気を失った者、打たれすぎて動けなくなった者、理由は様々だが、ここで倒れた者は幸せだった。
なぜ私は、ここで倒れておかなかったのだろうか?
午後の訓練に関しては思い出したくもないので割愛させてもらう。
気になったのは、目を覚ました時に見た光景だ。
練兵場の隅で見覚えのない少年が訓練をしていた。
城の練兵場なのだから一般人は入れない。
しかし、彼の姿は騎士でもなければ兵のものでもない。
いったい彼は何者なのか、そんな私の疑問はすぐに氷解した。
武蔵が近づき、なにやら気安げに話している姿を見て、彼こそがあの武蔵を連れてこの国に来た要人なのだろう。
しかし、なぜ他国の要人が訓練などをしているのだろうか?
彼が戦士であったのならば、日々の鍛錬を欠かさないだけなのだろうと納得できたが、彼の体つきは戦いを経験したことがないどころか、およそ訓練と呼べることすらしてこなかったのは明らかだった。
それがまた何故訓練などをしているのだろうか?
この疑問は後々まで答えが出なかったが、その後に彼がやらされた訓練を見て血の気が引いたのだけは良く覚えている。
基本的には私たちがやった訓練と同じだ。
走らされ、剣を振り、攻撃を防ぎながら隙を伺う。
それらを同時にやらされているのだから、笑えない。
走りながらも剣を振っている。
聞こえてくるのは、剣の技術的な指導だったので、破れかぶれでテキトーにやっているわけではないのは明らかだった。
立ち止まった状態で剣を振るのは出来て当然、走りながらでも完璧に振れ、という言葉を聞き、その手本を見せる武蔵の姿を見て絶望した。
走りながら振った剣でも私など足下にも及ばないのだ。
武蔵の手本を必死で模倣する少年だが、お世辞にも才能があるとは思えなかったな。
そして、全力で走りつつ剣を振る少年の横を、武蔵は遅いとあざ笑うかのように併走し、時折剣で襲いかかる。
私たちが受けたギリギリ防げる攻撃ではない。
少なくともあの少年では防ぎようがない攻撃ばかりだった。
しかも的確に急所ばかりを打ち据えられるのだ。
武蔵は、悶絶する少年を無理矢理立たせ、再度走らせた。
まともな訓練ではない。
いや、武蔵の求めるレベルならば、出来て当然なのかも知れないが、訓練もまともにしたことがない少年に求めるのはあまりにも酷だ。
だが少年は食らいついていた。
いや、あれは諦めて絶望しているのか?
表情が抜け落ちているように見えるのは気のせいだろうか?
バースデー当日の更新はこれでお終い。
残りは、随時余裕がある日に更新していく予定です。
また、他者視点の話はもう1、2話続く予定です。
予定は未定であり決定ではないので、変更になるかも知れないのはご了承ください。
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